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『ショート・トリップ』
- 2020/10/23(Fri) -
森絵都 『ショート・トリップ』(集英社文庫)、読了。

48編のショートショート集ということで、
裏表紙には「ユーモアとサービス精神にあふれた」とあったので
期待して手に取ったのですが・・・・・・うーん、いまいち。

冒頭の「ならず者18号」。
「流浪の刑」に処せられた男は、変な歩き方で旅をし、見る者に笑われるという刑なのですが、
歩き方の「変さ加減」の内容が、子どもが作ったコント見たいな設定でした。

「いやー、このレベルの話が続くと辛いな」と思ったのですが
さすがに動作で笑いを取る話が続くわけではありませんでしたが、
しかし、オチきらない話が続き、切れ味がイマイチ。

どうしても、ショートショートというと、星新一や阿刀田高のレベルを想像してしまうので
文字数制限の中に上手く物語を収めきれていないような感覚になりました。

毎日中学生新聞に掲載された作品ということで、想定読者が中学生という点に、
どんな作品世界を提示するべきなのか、著者が迷いを持ってしまったのではないかな
ということも感じました。

物語が3ページあり、4ページ目に長崎訓子さんによるイラストが載っているのですが、
このイラストは素敵なカットばかりで、途中からは、イラストを楽しむために
イラストに添えられている文章を読むというような感じになってしまいました。

それはそれで、この本の良い楽しみ方かも。




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『アーモンド入りチョコレートのワルツ』
- 2020/09/02(Wed) -
森絵都 『アーモンド入りチョコレートのワルツ』(角川文庫)、読了。

短編3つが収録されているのですが、ちょっと最後まで乗り切れない感じのまま終わってしまいました。
だんだんと面白い話になっていったのですが、冒頭の作品でのひっかかりが最後まで尾を引いた感じです。

冒頭の「子供は眠る」。
夏休みの2週間を、毎年、いとこの別荘で過ごす子供たち。
その別荘の持ち主の子供・章くんが、いとこ集団を率いて、
「午前中は勉強だ」「昼から海で泳ごう」「寝る前にクラシック音楽タイム」と
みんなの行動を決めていきます。

来年もこの場に集まりたいから、章くんの機嫌を損ねないように忖度しまくる子供たちの姿が描かれていますが
何もここまで忖度尽くしで描かなくても・・・・・と思ってしまいような窮屈な世界。
一体、彼らには、この場に居ることが楽しいのだろうかと、
根本的な謎が芽生えてしまう感じでした。

なので、最後、なんだか妙に爽やかな展開になっていっても、どうにも腑に落ちず。

その嫌~な余韻を残したまま次の「彼女のアリア」。
使われていない音楽室で偶然出会った少年少女は、
お互いに不眠症の悩みを訴え、急速に打ち解け合っていく・・・・。
でも、少年の不眠症はそのうちに解消され、そのことを少女に言えないまま
少女の不眠の悩みや家庭の悩みを聞き続けることに申し訳なさを感じはじめ・・・・。

いやいや、少女の家庭の悩みの話、もっと早い段階でおかしいって気づけるだろ!
不眠症治っても、頭の中は寝てるのか?というほど鈍感な少年です。

少女の不眠症ではない方の病気の話は、ある種の興味をもって読めたのですが、
それにしても話の展開がちょっとリアリティに欠けるなという印象で、乗り切れず。

で、最後の表題作「アーモンド入りチョコレートのワルツ」。
これは、登場人物のピアノの先生、その先生の家に突然やってきたフランス人、
ピアノを習う主人公の女の子と、その親友で一緒にピアノ教室に通うけどピアノを弾かず
横で歌を歌っているだけの少女。
主にこの4人で話が展開していくのですが、4人ともにキャラが立っていて面白いです。
大人2人の人間関係の変化も、子どもなりの観察力できちんと汲み取っていて
むしろ雑念のない目で見ているので、ストレートな観察が面白いです。

この4人をめぐる周囲の大人との距離感も絶妙な描き方で、
あぁ、他の2作品とは別の本に収録されていたら、もっと世界観にハマれたかもしれないのに・・・・
と少し残念に思いました。




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『ゴールド・フィッシュ』
- 2020/08/06(Thu) -
森絵都 『ゴールド・フィッシュ』(角川文庫)、読了。

手軽に読めそうだなという程度で買ってきたのですが、
『リズム』の2年後を描いた続編という扱いだそうで、
「えっ、『リズム』ってどんな話だったっけ???」と混乱しつつも読み始めてしまいました。

結果から言いますと、『リズム』の内容は全く思い出せなかったのですが、
本作単独で読んでも十分に面白かったです。

主人公は女子中学生。
高校受験を前にして、大好きないとこの真ちゃんが、バンドを解散して音信不通という事態に陥り
ここで受験どころではなくなって地に足つかなくなっちゃうほど慌てちゃうのかと思いきや
真ちゃんのことを思わなくて済むように受験勉強にのめり込むという
なんだか分からない展開をしていきます。

理屈は良く分からないけど、でも、こんな逃げ方もあるのかもねと思えてしまう感覚。
中学3年生という、捉えどころのない年代を、上手く表現しているのかなと思いました。

さゆき、真ちゃん、テツの3人の関係も、誰かが突出して大人びてるとかではなく
それぞれがそれれぞれに少し大人の目を持ち始めて、互いに気配りできるようになっているという
その姿が清々しかったです。




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『漁師の愛人』
- 2020/06/13(Sat) -
森絵都 『漁師の愛人』(文春文庫)、読了。

森絵都さんのイメージって、なんとなくキラキラ青春小説!って感覚があったのですが、
こんな情念の世界も描けるのかと驚いた短編集でした。

女性の目から見た男性という存在を書いたものが多かったですが、
男の自分勝手なところとか、周辺社会を見ているようで見ていないところとか、
辛辣な評価なのですが、ダメなところも含めて女性側が受け入れてあげているような
懐の深さというか諦念というか、そんな女性らしい(苦笑)ところも描かれており、
結局、考え方やレベルが似ている男と女がくっつくんだなぁと思ってしまいました。
サイバラ女史もそう言ってましたしね(笑)。

3.11が各物語の中で人生観の転換のきっかけになっていて
東北に住んでいなくても、あの揺れの日々を経験した者にとっては、
地震の前と後では違う自分になっていたんだろうなと改めて思いました。

私自身も、東京で揺れる日々を過ごして、
直接的ではないにしろ、その後、東京を離れて地方で生活することを考える遠因の一つに
なっていたのかもしれません。

プリンアラモードの話とか、くすっと笑えて好きでしたが、
やっぱり本作では表題作の「漁師の愛人」ですね。
タイトルからしてキョーレツ。
脱サラして故郷で漁師になった中年男と、それにくっついて移住してしまった愛人、
そしてなぜか愛人のもとに親しげにしょっちゅう電話をしてくる本妻。
なぜかこの3人の人間関係は変な安定の仕方をしているのに、
愛人にとって悩みの種は、移住先の田舎の人々の好奇の視線と蔑みの視線。
愛人という存在に対する田舎の拒否反応の描写が強烈です。

それに対して悩みながらも腹を据えてしまう主人公の強さが際立ち、
なぜか最後は前向きな気持ちになれてしまうという面白い作品でした。
Amazonでの評価が思いのほか低かったのが納得いかない・・・・。




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『つきのふね』
- 2019/12/08(Sun) -
森絵都 『つきのふね』(角川文庫)、読了。

大親友だった同級生と口を利かなくなって数十日経つ中学生のさくら。
クラスの女子たちの輪の中にも入れなくなり、
通うようになったのは20代の男性のアパート。
彼は、宇宙船を作って人類を救出するという使命のもとで毎日宇宙船の設計図を描き続ける・・・・。

中学校の女の子たちの人間関係は、一度バランスが崩れると大変ですよね。
特に、仲が良かった子たちの間が崩れると、反対に振り切ってしまいますよね。

しがないスーパーでの万引き事件を起こした彼女たちは、
1人が捕まり、1人が逃げたことで、その信頼関係が崩れます。
こんな極限状態での判断って、冷静にできない分、本心がそのまま出ちゃいますよね。
裏切りの内容は、決して悪意からのものではなく、むしろ信頼(依存かな?)から出てきたものなので
読んでいて嫌な気持ちになりませんでした。
逆に、もっと素直になって謝ればいいのに・・・・と思ってしまいます。
そこが難しいのが青春ですね。
仕事の人間関係なら、ビジネスライクに謝ることって結構できちゃいますからね。

で、行き詰ったさくらが逃げ込んだ先の部屋は、
24歳のいい年の男が引き籠って宇宙船の設計図(自称)を描いているだけの空間で、
たまに美味しいミルクコーヒーを淹れてくれるにしても、基本的に時間が止まったような場です。
そんなところに逃げ込んでホッととしてしまっているさくらの心情を思うと居たたまれなくなります。

一方で、この宇宙船男は、もちろん精神的にアンバランスな状態にあるわけで、
当初、熱心に絵を描いていただけだったのに、さくらの同級生の男の子まで出入りするようになると
彼が熱心に宇宙船の話を聞き出すものだから、絵の中での妄想で収まることができず
次第に自分を傷つけるような心の不安定さをみせることになります。

不安定な人との会話って、小説世界には良く出てきますが、
基本的に私は苦手です。生理的に恐怖を感じてしまうので。
どういう思考回路で次の行動に移るか予測できないという恐怖です。
もし、本作が、男とさくらの2人だけの会話で進んでいったら、私も参ってしまってたでしょうが、
本作は、勝田君という男子が介在することで、私も受け入れることができました。

この勝田君という男子が、根は優しい男の子なのですが、
思考が小学生レベルで、しかも天然くんなので、アンバランスな2人の間で
思わぬ反応の仕方をしたり、変な解決策を思いついたりと、とにかくズレてます。
そのズレっぷりが、却って、中和剤になってよかったのかなと思います。

中学生の少女たちが万引きをしてしまうというのは
この年代の女の子には起こりうることなのかな?(よくわからんけど)と思えましたが、
その万引きにヤクザ者が絡んできて組織的に盗品換金を行ったり、
薬物に手を出したりって、そうそうあることなのでしょうか?
東京って、そんな場所?
ちょっと中学生の社会を極端に描き過ぎてるんじゃないかなと思ってしまいました。
そこまで劇的な設定にしなくても、十分にさくらの苦悩は伝わってきます。
それとも、田舎のおばちゃんの中学生時代と、今の東京の中学生は
全く環境が違っているのかな。

だったら悲しいな。




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『リズム』
- 2016/05/15(Sun) -
森絵都 『リズム』(角川文庫)、読了。

久々に、素直に青春時代を送っている中学生を読んだ気がします。

どうにも、この頃の中学生を扱った作品は、
いじめだったり、犯罪だったり、非行だったり、棄国だったりと
暗い世界の作品が多いので・・・・。

もちろん、スポコンものなどの爽やかな作品はたくさんあるのですが、
そういう熱いものを持たない、普通の中学生の普通の日常を描いた作品って、
印象に残るものが割と少ないように感じます。

本さうは、物語としてはちょっと緩い部分があるかなとは思いましたが、
主人公さゆき、高校受験でピリピリしている姉、
中卒でバンドをしているフリーターのいとこ、いじめられっ子の幼馴染、
この人間関係の構成が上手いです。

あまり熱意が感じられない日々を送っている主人公ですが、
周囲の人間の弱いところや悲しいことには
本人が自覚している以上に共感力があり、
様々な人に無意識の優しい眼差しを向けています。

そのまなざしが、熱意がない分、自覚がない分、
心地よさや安心感を感じさせてくれます。

主人公自身にとっても、つらいことが起きますが、
そんな時に、友人や担任教師がきちんと気づいてあげられる、
そこは現実世界よりも大分甘い世界が広がっていますが、
たまにはこういう小説の展開もいいなと感じさせてくれる甘さでした。


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『架空の球を追う』
- 2016/02/08(Mon) -
森絵都 『架空の球を追う』(文春文庫)、読了。

なんとなしに買ってきた本だったのですが、これは面白かったです!

短編集というよりも、掌編集と呼んだ方がしっくりくるような
そんな短いお話が詰まった作品です。

短編というと、星新一氏のショート・ショートや、阿刀田高氏の奇妙な話に慣れ親しんでいるので、
オチがつくことを期待してしまいがちなのですが、
本作では、日常生活のワンシーンを切り取ったような話が多く、
明確なオチがないがために、その余韻でいろいろ思いをめぐらせることが出来ます。

その切り取った日常というのも、大きな事件が起きるわけでもなく、
日常の一コマに過ぎないのですが、
その切り取り方や見せ方が上手くて、自分自身の生活はどうなのかなと
ついつい自分に引き寄せて話を読み進めたくなります。

一方で、「こんな視点があったのか!」「こういう考え方の人っているんだ!」というような
着眼点の面白さを感じる場面も多く、読んでいて面白かったです。

こういう、読み手に寄り添ってくる小説というのは、
読んでいて心地よいですし、安心感を覚えますね。


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『DIVE!!』
- 2015/08/17(Mon) -
森絵都 『DIVE!!』(角川文庫)、読了。

高飛び込みにかける中高生たちの物語。
スポーツ青春モノの王道を行くような小説ですが、
王道だからこそ安心してのめり込めます。

高飛び込みは、偶然スポーツニュースなどで目にすると、
その美しさに見とれてしまいますが、なにぶん、日常生活では意識することのない競技のため
普段のトレーニングの様子や、選手同士の関係性などよく分かっていませんでした。

こういうスポーツ小説を読むと、競技そのものよりも、
選手の日常生活の様子を知ることができ、スポーツの奥行きを感じられるのが
楽しみの一つになっています。

今回は、中高生が主人公ということで、
思ったよりも聞き分けの良い子供たちが揃っていたので、
大きな波乱はないままに物語は進んでいきましたが、
競技人口が少なく、かつ本人も家族も日常生活内での時間の投資が必要なスポーツでは、
このように従順な子供と、穏やかな家庭環境にある人々しか成功できないのかもしれませんね。

この作品では、そこまで突っ込んでいないというか、
もう少し純真な目で高飛び込みの競技を描いているので、爽やかな世界観が広がっていますが、
競技と人口や競技者の社会階層などの研究をしてみると
社会学的に面白いかも・・・・・なーんて、余計な感想を持ちながらの読書となりました。

大きな波乱もなく、痛めつけられて敗れ去る描写も控えめで、
著者の優しさなのかなと思う反面、もう少し厳しさがあっても良いかなと感じてしまいました。

いずれにしても、日本における高飛び込みという競技を発展させていく難しさを知り、
夏のオリンピックに向けて興味が湧いてきました。


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『いつかパラソルの下で』
- 2015/04/16(Thu) -
森絵都 『いつかパラソルの下で』(角川文庫)、読了。

厳格な父が交通事故で急死。
呆けてしまった母、厳格さに耐えかねて家を出ていた兄と姉、家に残った妹、
一周忌を前に再び顔を合わせる機会が増えて・・・・・。

他人の理解というのは、こうも難しいものかと思い知らせてくれる作品です。
それがたとえ肉親でも。

父のことを何も知らなかったと反省し、父の知人を訪ね、職場を訪ね、郷里を訪ね、
父という人間のことを事後的に調べる兄姉妹。
しかし、それぞれが語る父の姿は、全く違ったものであり、
父の人生の真実が見えてくる・・・・・いや、果たして見えたのでしょうか。

結局、それぞれの登場人物たちが、自分なりの納得をしたというか、
ストーリーを作ってみただけであり、真実に近づけたのかは誰にも分かりません。
というか、「真実」なるものが実在するのかさえも、怪しいものです。

こういう哲学的なテーマを、
ユーモアを交えた会話を通して読んでいくことができ、
楽しみながらも人生の奥深さを知ることができます。

絶妙なバランス感覚の上に描かれている物語であり、
著者の力量を実感できます。

面白い読書となりました。


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『風に舞い上がるビニールシート』
- 2014/12/31(Wed) -
森絵都 『風に舞い上がるビニールシート』(文春文庫)、読了。

直木賞受賞短編集です。

最初の方に収められている作品は、
面白く読みましたが、それほど強い印象を残すものではありませんでした。

しかし、後半に入って、ぐいぐいと攻めてくる感じを受け、
流石の直木賞受賞作だと思うに至りました。

表題作「風に舞い上がるビニールシート」は、何の前知識もなかったので、
女性の日常生活を描いた作品かしら?ぐらいに思っていたのですが、
何の何の、国連難民高等弁務官事務所の仕事が舞台のお話でした。
ソマリア、コソボ、アフガンといった単語が作品の中を飛び回ります。
なのに作品の舞台は平和な東京。
まずはこのギャップが、主人公の置かれたアンバランスな境遇を象徴しています。

東京事務所の現地採用一般職ということでフィールドに出たことがない主人公。
しかし、職場結婚した旦那は毎1年単位で危険地域へと出向き、会えるのは年に数日。
結婚生活は数年で破綻し、そしてついに元旦那は危険地域で銃弾に倒れる・・・・・。

元旦那と知り合う前の過去を何も知らなかった、
元旦那がどんな場所で仕事をしていたのか想像も実感もなかった、
元旦那とはそもそも結婚生活で何かを共有し合えていたのかも自信が持てなくなった、
それは、自分が、元旦那が使命に燃えていたフィールドに出向くことを何度も拒絶したから・・・・。

この絶望感は耐え難いですよね。
なんせ自分の決断により、チャンスを拒絶していたのだから。元旦那の居場所を拒絶していたのだから。

国連という世界中のエリートが集まり時間に追われながら仕事をする厳しい環境、
広報というマスコミにたかられるストレスフルな役割、
そんな状況に置かれながらも、この作品の中に悪意を持った人が出てこないことが救いです。

自分の人生に判断を下し、何かを捨てることの厳しさを知りました。

他の収録作では、「ジェネレーションX」のテンポの良さと、その裏に隠れる人生の哀愁、
「守護神」の仏教文化と現代人の折り合いの付け方など、
いろいろと興味深い側面で日常を見ることができ、
満足度の高い読書となりました。


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