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『図書館革命』
- 2021/12/29(Wed) -
有川浩 『図書館革命』(角川文庫)、読了。

読み終わって、まず最初に思ったのが、「あれ?4巻で完結するんだ!?」ということ。
いっぱいシリーズ作品が出ているように思っていたのですが、
あれば「別冊」だったり、「マンガ」だったりと、派生品なんですね。

で、その完結のさせ方ですが、メディア良化委員会と図書隊、そして未来企画との
対決関係がどうこうという部分ではなく、郁と堂上との恋愛模様の話で終わらせたのが
「あー、そっちにいっちゃうかぁ・・・・まぁ、それが楽だわなぁ・・・・・」という感じで
ガッカリしつつも、仕方ないのかなと思ってしまいました。
だって、言論統制を巡る思想対立に小説として決着をつけるのって、
相当な巻数を投下しないと無理ですよね。
商業主義的な目で見たら、恋愛モノとして決着つけるのが妥当だろうなと思います。

でも、個人的な趣味嗜好からすると、恋愛モノってニーズなしなんですよね(苦笑)。
というわけで、本シリーズも前作当たりから、段々しんどくなっていたのですが、
本作ものっけから恋愛モードMAXで、「図書隊の使命はどこへ行ったんだ~」状態です。

本作の核となる、テロ事件の参考にされたと思われるテロ小説を書いた小説家の
身柄を確保して安全に保護するというテーマは興味深いものだったのですが、
そもそもの原子力発電所に対するテロ行為自体の描写が薄くて、
その後の小説家の身柄確保の話ばかりが描かれるので、
「原発に対するテロが起きた社会において、そのテロ事件の元ネタの小説を書いた人物には
 もっと感情的な批判や拒否反応が起きるんじゃないのかな?特に日本では」
と思ってしまい、本作における社会の反応というか、世論の描き方が薄いように感じました。

小説家の安全確保のために、図書隊の面々が全力を尽くして行動するくだりは、
さすがに手に汗握るハラハラの連続で、面白かったです。

ただ、そこまで命を張って守った小説家が、世界に対して発信したメッセージを受けて、
図書隊が、メディア良化委員会が、未来企画が、
それぞれどういう行動をとったのかという、次の展開を、もっとじっくり描いてほしかったなと思います。

もう描き切れなくなってきたので、郁と堂上の個人的な話で
物語を完結させてしまったかのような印象を受けました。




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『図書館危機』
- 2020/12/20(Sun) -
有川浩 『図書館危機』(角川文庫)、読了。

シリーズ3作目です。

前作を読みながら、手塚や柴崎のバックボーン的な暗い話が出てくると
しんどくなってくるかも・・・・・と予想していたのですが、
あにはからんや、いきなり恋愛モード全開で、別の意味でしんどかったです(苦笑)。

確かに、主人公・郁の思い出の王子様が上司の堂上であることが分かり、
郁にバレたことで堂上も急に意識し始めるという、
まあ、ベタな展開です。

前半の章が、そういう恋愛モード中心で展開していき、
話の軸となるエピソードが小粒だったので、読み応えないなぁ・・・・と思ってしまったのですが、
編集者の折口を主人公にした「ねじれたコトバ」は
ストレートに言葉狩りの様子を描写しており、興味深く読みました。

「床屋」という言葉がメディア良化委員会の違反語に当たるから、雑誌のインタビュー記事で
適切な言葉に自動的に置き換えたら、インタビューされた側が激怒したという展開。
てっきり、本作の中で違反語として「床屋」という用語が設定されたのかと思いきや、
現実社会でも放送禁止用語になっているようですね。
「~屋」という呼称は、日銭稼ぎの蔑称なんだとか。
何がいけないのか、いまだに良く分かりません。
差別って、差別を定義づけするところから始まる場合も多々ありますよね・・・・・。

この話から後半は、一気にテーマが重くなっていきます。
後半は、茨城県立図書館での県展受賞作の展示を巡って
メディア良化委員会や、その取り巻き組織、そして「無抵抗者の会」と名乗る暴力反対派と
図書特殊部隊の戦闘を描きます。

保身第一の図書館長に、上手く取り入った「無抵抗者の会」と、
その危ない関係を利用して横暴を究める検閲側の勢力たち。
図書館戦争という架空の舞台を通して描くことでカリカチュアライズされていますが、
現実社会もこんなもんなんだろうなぁと思います。

茨城県が舞台になっており、行政側の人物の受け身姿勢な感じとか、
県民・市民を名乗る横暴な人たちがたくさん登場しますが、
茨城県民からクレーム来ないかしら?と心配になる描き方でした。
たまたま関東近辺を舞台に選んだというだけ?それとも県民性とか反映されてるのかしら?
ちょっと気になるわー。




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『図書館内乱』
- 2020/10/04(Sun) -
有川浩 『図書館内乱』(角川文庫)、読了。

シリーズ2作目です。

1作目では、ちょっと登場キャラクター達がみんな極端すぎというかベタ過ぎ
若干、世界観と距離を置きながらの読書になりましたが、
2作目となると段々慣れてきました。

むしろ、かなり作り込んだ空想の世界なので、その理屈っぽさが目に付くようになってきました。
思想の対立みたいなところは、現実世界にもあるような対立を
うまく空想世界の中で消化してるなと思い興味深く読んだのですが、
各登場人物の行動が思いの他理屈に雁字搦めにされているところがあり、
窮屈な世界だなぁと思ってしまいました。

江東新館長のバランス論とか、確かに理屈の上ではあり得る考え方でしょうけれど、
その立場でそれを言う?っていう感じもあり、なんだか腑に落ちず。
この、とにかく理屈優先で物語が進んでいくところが、ちょっと疲れてしまった要因かな。

1作目で気になったキャラクター設定については、
むしろ理屈っぽさを緩和するには必要なものだなと納得しました。
キャラクターぐらいベタな設定じゃないと、しんどいかも。

今回も、手塚や柴崎に寄せて読んでいましたが、
手塚も柴崎も、なんだか暗い側面を持っていることが段々と分かってきて、
こちらも次作ではしんどくなってくるかも(苦笑)。

まぁでも、しんどい、しんどいと文句を垂れながらも読んでしまえるのは
著者の力量だなと思います。

作中に登場する『レインツリーの国』は、既に読んでいたので、
その印象のまま読んでいましたが、あとがきを読んだら、
なんと本作執筆時点では『レインツリーの国』という実際の作品は存在していなかったようで、
スピンアウト的にできた作品なんだと分かって驚きました。

こういう展開の広がりが、「ライブ派」と自認する著者の強さなのかもしれませんね。




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『空の中』
- 2020/09/07(Mon) -
有川浩 『空の中』(角川文庫)、読了。

『空飛ぶ広報室』のイメージとごっちゃになっていて、
「自衛隊のお仕事小説もの」で「事故系」という認識で読み始めたら、
思わぬド直球SF展開で驚きました。
でも、その驚き以上に、設定・展開構成・キャラクターの作りこみが巧妙で
一気に世界観に引き寄せられていきました。

国産ジェットの試験機が高高度で爆発分解、
その後、自衛隊の演習機も同じ空域で爆発分解。
原因不明で何の手掛かりもなく時間だけが過ぎていく中で、
その双方の事故の関係者が向かった同空域で、爆発分解の「原因」と接触。
その「3度目の接触」を機に、未知の生物との交流が始まり・・・・・。

いやぁ、この「事故原因」の存在が、予想の斜め上を行く設定で、
「よく、こんなプロット考え付いたなぁ」と驚嘆しました。
まぁ、私はあまりSF作品に馴染みがないので、SF好きの人からすると
こういう設定はありふれているのかもしれませんが。

その巨大なSF設定に向き合うのが航空自衛隊と、国産ジェット開発が至上命題の特殊法人という
この現実感バリバリの組織に属する人間であり、個人のキャラクターと組織の性質との対比も
これまた上手く物語の展開に絡んでいきます。

有川浩の描く自衛隊員は、国防と真摯に向き合い、かつ人間味あふれるユーモアを持ち合わせた人が多い
非常に魅力的な人々ですが、本作でも、主役から脇役まで素晴らしい組織だなと感じました。
お堅い宝田氏も、組織の上に立つ者としての責任感の裏返しだと思いますし。

高校生コンビの瞬と佳恵のコンビも、強力な信頼関係の上に成り立っていて素敵だなと思います。
まぁ、謎の生物に直面したあとの2人の判断は、「なんで、そんなに怖いもの知らずなんだ!?」と
そこだけは腑に落ちず。
最初は、瞬が、謎の生物に思考を操られているとか、そういう設定なのかなと疑っていたぐらい。
家で飼う、とか、手懐ける、とか、そういう展開は
いくら田舎育ちで自然と近距離で生活しているとはいえ、リアリティがないように思いました。

それを差し引いても、反政府組織「セーブ・ザ・セーフ」の組織の理屈や
首謀者の煽動テクニックなど、現実が先鋭化したらこうなるだろうなと納得できる展開で、
この著者は、キャラクターにはラノベ的な人物造詣をあてがっても、
反対に組織の論理はしっかりと描き切る稀有な存在だなあと思います。

その特徴を思うと、やっぱり、有川自衛隊作品は面白さの厚みが他とは違うと思われ、
これからも着目すべき作品群ですね。





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『キケン』
- 2020/05/08(Fri) -
有川浩 『キケン』(新潮文庫)、読了。

大学の理系サークルを舞台にした青春モノのようだったので
気楽に読めるだろうと手に取りました。

機械制御研究部、略して「キケン」だそうですが、
4年生は実質引退済、3年生は幽霊部員のみ、2年生は2人のみというキケンに
新入生として強引に誘われるところから話はスタート。
この2年生、成南のユナ・ボマーと大魔神のコンビがなかなか良い塩梅で面白いです。

リアリティあるかと言われれば疑問符の方に傾いちゃいますが、
大学青春モノの登場人物としてはアリかなと。

むしろ、主人公の新入生2人組の方が、イマイチすっきりと通る軸がないような気がして
キャラクター設定に曖昧さを覚えてしまいました。
ただ、「お店の子」という設定自体は、私自身も「お店の子」なので、共感を覚えました。

個人的には、タイトルからして、もっと理系要素が強い物語なのかなと思ったのですが、
最初の上野部長の登場話ぐらいしか理系的要素はなかったです。
ロボコンの話もありましたが、そんなに踏み込んで描いているようには思えませんでした。
ヤバい上野部長と中心に、理系テクニックを駆使して暴れまわるような
コメディ活劇かと思っていたので、そこは空振りでした。

どっちかというと人間的魅力でサークルをまとめあげていく組織統制論的な視点が
要素としては強く感じました。

そして、一番大事なのは、「バカを一生懸命やる」ということですよね。
大学生の頃にやっておくべき最大のことは、これだと私は思っています。
本作では学園祭の模擬店のエピソードが書かれていましたが、
こういう、学生の本業である勉強とは別に、何か目標を立ててただひたすら知恵を絞って
仲間と協力し合って、1つのことを達成しようとすることって、のちのちの大きな財産になりますよね。
それが、バカなことであるほど、「この仲間とじゃないとバカバカしすぎてできないことだ」
という変な思いが募って、より没頭できるような気がします。

最終章、卒業して10年も経ってから、また学園祭の場に足を運ぶこと、
でも、誰にも会えなかったら寂しいと思って行くのを躊躇うという気持ちは良く分かります。
最後の黒板のシーンは、ちょっとキレイごと過ぎるかなとも思いましたが、
こういう仲間がいるというのは、素直に人生の宝だと思います。




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『シアター!2』
- 2019/05/11(Sat) -
有川浩 『シアター!2』(メディアワークス文庫)、読了。

『シアター!』の続編です。

『シアター!』のあらすじというか設定とエンディングは覚えていたのですが、
具体的にどんな作品構成だったか忘れちゃってました(苦笑)。
債権者の司が鉄血宰相だったイメージはあったのですが、
劇団員の面々が、意外と印象に残ってなかった感じ。

続編では、劇団員1人1人(特に脇役メンバー)が主人公になる連作形式で
(もしかすると前作も連作形式だったのかもしれませんが、忘れた・・・・苦笑)
それぞれがどういう思いで劇団シアターフラッグに関わっているかが分かるので
読んでいて面白かったです。

それぞれの生計がほぼ成り立っていないという時点で
甘い人生だなぁとは思ってしまいますが、
それでも新しい作品を世に生み出すエネルギーは凄いなと思います。

それぞれが悩み苦しみ、それを乗り越えていく姿は清々しく読みました。
そして、やっぱり私にとってキーマンは司です。
演劇界という、そもそも産業として未熟というか
個々のプレイヤーの犠牲の上に成り立っている世界において、
損益管理とか契約管理とかの司の徹底したビジネス管理の手法や思考回路が
ある種、ビジネスマンとして勉強になります。
判断が早いのも、判断がブレないもの、素晴らしいプロデューサーぶりです。

司の言葉は、冷たいですが、芯が通っているので
真正面から言われた劇団員たちも、受け入れざるを得ないというか
最後は納得して腑に落ちているように思います。
こういう言葉力を持っている人物というのは、憧れます。
結構、ノートに書きだしたセリフがありました。

ちょっとスズと千歳の話は、2人とも子供過ぎて、ちょっと引いてしまいました。
ここまで強情を張り合ってどうやってオチを付けるのだろうかとハラハラしたのですが、
最後はうまーく丸めて劇団のエネルギーにもなっていて、さすが有川作品。

第3弾で話は完了したのかな?
早く100円で見つけて読まねば!




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『ストーリー・セラー』
- 2019/04/13(Sat) -
有川浩 『ストーリー・セラー』(幻冬舎文庫)、読了。

小説家である妻が病気になった。
脳を思考で使えば使うほど寿命な縮まるという奇妙な病気。
それは妻に絶筆を迫る病気だった・・・・。

裏表紙のあらすじからは闘病モノのように思えたのですが、
正直、このあらすじは本作の本質を捉えていないような気がしました。

会社員時代に出会った妻は、実は小説家だった。
誰も知らないその副業に、夫となる男だけが気づいた。
小説を読むことが好きな夫と、小説を書くことが好きな妻の物語。
私的には、要約するならこうなります。
病気の話ではなく、小説という存在をめぐる話だと思います。

そもそも話の前半は、二人が出会った頃が中心に書かれ、
後半で病気の話になっていきますが、
私が心を寄せたのは前半部分でした。
本読みさんなら、「そうそうそう!」と共感してしまうポイントが盛りだくさん。
小説読みの男の言動に簡単に自分を重ねることができて、楽しかったです。
まぁ、私は、ここまで特定の作家に入れあげているということはないですが。

後半も、闘病というよりは、病というきっかけを得て、
夫婦の間での「小説書き」「小説読み」というものを見つめ直す作業が行われたというところが
私にとっては大事な部分で、正直、病気の部分については
「そんな病気、あるかよ~(苦笑)」ぐらいの、雑な扱いでした(苦笑)。
まあ、小説というものの特殊性を表現するための舞台装置に過ぎないかな。

書く人と読む人がセットになった夫婦って、本作では理想の夫婦のように描かれてましたが、
現実世界においては、そんなキレイごとにはならないだろうな・・・・と思ってしまったり。
どの作品も満点をつける読者って、居ないんじゃないかなと思ってしまうので、
そこはちょっとリアリティがなかったかな。
まあ、これは作家さんの願望世界なのかもしれませんね。

Side-Aでは、妻の両親がいかんともしがたいダメな人物で、
ここまで極端な設定にする意味ってあったのかな?と思わずにはいられませんでしたが、
夫の優しさや強さを引き出すためには必要だったのかな。

本作は、本読みとしての共感度は高かったですが、
小説の構成としては、ちょっと歪なものを感じてしまいました。

Side-Bは、似たような夫婦関係で、別の物語が走りますが、
こちらは夫が病に倒れるという展開。
Side-Aに比べると、作家視点で描かれているので、本読み共感度は下がりましたが、
これまた素敵な夫で、有川さんの理想の夫像ということなのでしょうかね。




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『三匹のおっさん ふたたび』
- 2019/04/05(Fri) -
有川浩 『三匹のおっさん ふたたび』(新潮文庫)、読了。

シリーズものの2作目です。
前作は、おじさん三匹と孫の組み合わせが心地よかったのですが、
本作は冒頭の作品が周りがあんまり見えてない嫁の貴子が主人公で、
どうにもモタモタするやり取りに、ちょっとイライラしてしまいました。
中盤、息子にアドバイスをもらって、そこから改善されていきましたが、
息子の方が大人じゃん(苦笑)。

前作の時に感じたスカッと感が、あんまり感じられませんでした。
2作目以降も、どうにも主人公たちの独り善がりな感じが苦手でした。
登場してくる中学生や高校生たちはガキっぽいのばっかりだし。

祐希と早苗の若手コンビが溌溂としていたのが救いです。
三匹は、無理せず、深追いせず、周囲に目を配れているので安心して読めます。
彼らチームと、各物語の主人公たちのギャップを強く出し過ぎたのが
私はちょっと苦手でした。




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『図書館戦争』
- 2019/01/10(Thu) -
有川浩 『図書館戦争』(角川文庫)、読了。

有名シリーズにようやく挑戦です。
自分の中では、ライトノベルなのか、小説なのかというところで
ちょっと躊躇していた面もあったのですが、
読んでみたら、やっぱりライトノベル感が強かったです(苦笑)。

まず気になってしまったのは、主人公の笠原郁の傍若無人さ。
女の子らしさがない勝気な女性が主人公というのは良くあると思うのですが、
新人のくせに上官に盾突くどころか背中から飛び蹴りを食らわせたり、
言葉遣いがくだけてたりで、違和感を覚えてしまいました。

特に、この主人公が飛び込んだ世界が、
言論規制に立ち向かう市立図書館を武器を使って守る図書隊防衛員という
言ってみれば軍隊組織のような場だと思うので、
縦社会であろうはずの世界で、こんな傍若無人な行為がまかり通るのだろうかと思い、
主人公に共感ができませんでした。

物語が進むにつれて、主人公も組織の中で揉まれ、自分が傷つく経験もし、
少しは大人の考えも身に付けてはいくものの、
それでもしかし、短絡的な考え方とか、粗雑な言葉遣いとか、手を抜いたのに文句を言うところとか
どうも自分には馴染めないキャラクターでした。

直象上司の堂上も、表面的にはきつく指導しているように見えて
本質的な部分は矯正せずに放置しているので、私的には同類に見えます。
むしろ同期の手塚くんに肩入れしてしながら読んでました。

設定自体は非常に面白いと感じました。
確かに、リアリティに関してはどうかと思うので、ファンタジーなんですが、
現実世界における言論の自由とメディアの自主規制みたいな鬩ぎ合いを
極端に表現すると、こんな感じになるのかなと思いました。
考えるべき点をたくさん投げかけてくる作品だと思います。

ただ、やっぱり残念に思うのが、主人公のキャラクター設定をはじめとする
図書隊の面々の甘さや緩さ。
もっと組織論的にきっちり描けば、社会科学的な面白さが増えただろうになと思います。

まぁ、すでにシリーズの何冊かを買い入れてしまっているので、
読み進めながら、主人公の成長を祈りたいと思います(苦笑)。




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『ラブコメ今昔』
- 2018/08/11(Sat) -
有川浩 『ラブコメ今昔』(角川文庫)、読了。

自衛隊における恋愛関係を描いたシリーズもの第2弾。

自衛隊という職場環境の珍しさに対する興味もありますが、
やっぱり、軸となるのは、自衛隊員の肝の座り方の部分ですよね。
自分の職責というものに対する責任感と誇りが半端ないです。
恋愛という、職責とは直接関係のないフィルターを通すことで
より一層、職責の部分がクローズアップされるという面白さ。

そして、自衛官としての気概みたいなものが端的に表現されていたのが、
自衛隊が撮影協力したTVドラマの現場を描いた「広報官、走る! 」です。
テレビマンが脚色して、お涙頂戴ものに仕上げようとした筋書きに対して、
自衛官や、自衛隊をよく知る原作者がぶった斬るという展開。
テレビって、ほんと低レベルなメディアだよなぁ・・・・・・と苦笑いしながらも、
分かる人は、ちゃんと分かってますよ!と言いたくなる結末。

自衛隊を舞台にした作品って、登場人物たちの国や国民を思う熱さが土台にあり、
そこに鍛錬された組織力や、隊員仲間を思う気持ちがあったりで、
日本人の良さや強さみたいなところが、端的に表れている集団な気がします。
それを読んでいると、気持ち良いんですよね。
清々しいというか。

本作では、そこに恋愛要素がのっかってくるので、
ちょっと、くすぐったいところはありますが
でも、根が真面目な自衛官さんが主人公だから、こちらも真面目に読めちゃいます。

こういう人たちが、国を守ってくれてるんだなという、
どこまでも純粋な安心感が得られる作品だと思います。
登場してくる自衛官さん達が、自分の家族や恋人のことを思う気持ちと
同じ方向に、国民を思う気持ちがあるんじゃないのかなと思える安心感です。


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