fc2ブログ
『山女日記』
- 2022/09/27(Tue) -
湊かなえ 『山女日記』(幻冬舎文庫)、読了。

あのドロドロの湊かなえが山登りの本なんて!と驚き、
買ったもののしばらく積読でした。

8つのお話が入っており、8つの山が登場します。

冒頭の「妙高山」で、デパート勤務の女性が、デパートで行われたアウトドアフェアの余韻で
同期を誘って人生初の山登りをする話が出てきますが、
山登りなんて小学校の遠足以来したことがない私にとっては、
「え、山小屋に泊まって縦走するような山登りを、初心者がいきなり行っちゃうの!?」と
物語の内容そのものよりも、まず、その物語の入り口の展開に驚いてしまいました。

私は、スキューバダイビングが趣味で(ここ数年行けてないですが・・・・)、
はまってた時は年間50日ほど海に居たので、
きっと山が好きという人も同じ感じなんだろうなぁと漠然と思ってました。
遊ぶフィールドが海と山で違うだけでアウトドアとして同じだろうと。

でも、スキューバダイビングはライセンスが必要なスポーツなので、
プールと海でインストラクターの指導を数日ずつ受けて、さらにルールの理解度を図るために
筆記テストもあったうえで、インストラクターがOKを出さないとライセンスがおりません。
そしてライセンス取得後も、基本的にはインストラクターなりガイドなり、
プロのダイバーに海の中を案内してもらうので、常にそばに頼れるプロがいる状態です。

山はライセンスがないので素人でもチャレンジしやすいというのは理解してましたが、
それでも初心者が山に登る際には、ベテランの先輩にくっついていったり、
初心者向けツアーに参加したり、ガイドを頼んだりするものかと思い込んでました。
そうか、いきなり一人で行こうと思えば行けてしまうのか・・・・・と驚き、
そして、リスク管理がそれできちんとできるのかしら?と不安に感じました。
まぁ、自己責任の世界なのかもしれませんが。

「槍ヶ岳」の中に、初めて登山をした中年女性が、自分の体力や技術を過信して
途中で動けなくなってしまう様子が描かれてますが、
動けなくなっても「休憩したら大丈夫です!」と強気に反論する姿を見て、
「うわー、ダイバーでこういう人はなかなかお目にかからないなぁ・・・・」と感じてしまいました。
インストラクターさんは、無理だと思ったら「ダメです」ってはっきり言いますからね。
何度かダメと言われたら我が儘は言わなくなるか、ダイビングを辞めるかしちゃいます。

そういう海と山の違いを思いながら読んでいると、この本のテーマである
「山に登って自分の人生を考える」という行動が、あ、海にはないわ・・・・と思っちゃいました。
山は何日もかけて歩くので、考える時間もたっぷりあるのでしょうが、
海に潜るのはせいぜい1回60分、しかも気を抜いて何かトラブルに見舞われたら
結構な確率で死んじゃうので、集中した60分となり、考え事をしてる暇がありません。
その分、陸に上がってからの休憩時間は体力回復のためゴロゴロしてることが多いです。
ダイビング旅行に行って、夜、浜辺に寝転んで星空を眺めながら人生を考えるという人は
いるかもしれませんが、本当にダイビングにはまっちゃうと夜も潜りますからねぇ(爆)。

同じアウトドアでも、海と山では、全然違うものを求めて大自然の中に浸ってるんだなと
本作を通して理解できました。

個々の物語の感想は、みんな悩んで生きているけど、山に登ってきちんと向き合ったら
どんな答えであれ、自分が納得できる答えが見つかるんだなと思いました。
登場人物たちみんな、どこか軽そうなところもあるけど、でも、真剣に人生を生きてるんだなと
そういう思いに浸れる爽快な作品でした。

まさか、こんな爽やかタイプの湊かなえ作品があったとは!




にほんブログ村 本ブログへ



この記事のURL |  湊かなえ | CM(0) | TB(0) | ▲ top
『リバース』
- 2022/01/15(Sat) -
湊かなえ 『リバース』(講談社文庫)、読了。

頭が良いと世間に認識されている東京の大学で、同じゼミを選択した同期生5人。
主人公は、そんな5人の中で、最も地味で存在感のない男の子。
他の男子は、垢ぬけて快活な雰囲気を漂わす、いわゆる「リア充」男子。
卒業後も細々と続く交流は、学生時代にみんなで行った旅行先で事故により1人が亡くなったからだった。

ある日、この主人公に初めてできた彼女のもとに、
「深瀬和久(=主人公)は人殺しだ」と書かれた手紙が投げ込まれ、
この手紙の犯人探しと、事故の真相究明が同時進行で進んでいきます。

本来は、この謎解きを軸に読んでいくのが正しい読書の姿勢なんだろうと思いますが、
私はむしろ、この地味で卑屈な主人公の心理描写の方が気になってしまい、
あぁ、そういう風に世の中を眺め、評価しているのかー、と、
いわゆる地味グループの人の考え方や行動思考に興味を持ちながら読みました。

こういう地味グループの存在というのは、私自身の中学、高校時代を振り返っても
ぱっと思い出せないような印象の薄さなのですが、最近、「スクールカースト」という言葉が出てくるようになり
その概念を使って、自分の子供時代を振り返ると、「確かにな―!納得!」という感じで、
教室の中のグループ分けは腹落ちします。

ただ、「地味グループって居たよなー」と思いつつも、具体的な顔や名前を思い浮かべることができず
「地味グループ」という抽象的存在で終わってしまっています。
多分それは、教室みんなで共有したような彼らのエピソードがないからかなぁ・・・・と思ってしまいます。
そういう存在感の薄さという点で、深瀬という主人公が、みんなの記憶に残ってないという描写も
なんだか納得できてしまいました。

そして、教室内で、そういう立場にずーっと置かれていた人物が、
どういう目で自分自身を評価し、他人の視線を受け止め、他人が教室内で輝いている姿を分析しているのか
その一つ一つはが、卑屈すぎて読むのがしんどいところもあるのですが、
でも、そういう価値観、世界との関り方もあるのか・・・・・と勉強するような心持ちで読んでました。

特に、終盤に古川が登場してきてからの、深瀬と古川の対話が非常に面白かったです。

湊作品は女性心理の描写に長けていると思いますが、
本作は、むしろ男の子の屈折した心理を描くのに長けている朝井リョウ作品を読んでいるかのようでした。

一方、多くの読者が期待しているであろう謎解き、最後の最後での大どんでん返しに関しては、
事故の真相の方は、私は結構面白く読めましたが、
手紙の犯人の方はイマイチでした。
途中で予想できてしまうという点と、犯人にとって達成したい目的と手段の陰湿さがアンバランスな気がして
要は、いくら怒りの気持ちが湧いてもこんな方法を選択しないだろうに・・・・・という非現実感。

ちょっと最後はちぐはぐな印象も受けましたが、トータルでは面白かったです。




にほんブログ村 本ブログへ

この記事のURL |  湊かなえ | CM(0) | TB(0) | ▲ top
『ユートピア』
- 2021/12/25(Sat) -
湊かなえ 『ユートピア』(集英社文庫)、読了。

とある地方の港町。
大きな水産加工会社の工場があり、
生粋の地元民、水産加工会社の転勤族、地方で芸術を生み出そうとする移住者、
この3つの異なる人種が暮らす街が舞台です。

移住者たちは「芸術村」と称して、郊外に暮らしていましたが、
やがて商店街の中の空き店舗にギャラリーやカフェを出店するようになり、
この商店街で、異なる3つの人種が交差するようになります。
一見、うまく交流が進んでいるように見えますが、それは建前の部分であり、
本音のところでは、それぞれの人生観あるいは人生への諦念により
お互いの生き方に対する非難めいた視線がチラチラ。

隣の芝は青いと言いますか、自分にはない人生の選択肢を持っている他人への妬みと言いますか、
主人公の女性3人は、どこか愚痴っぽい(苦笑)。
でも、それぞれに自分の生き方にプライドがあるから、
決して表立って愚痴を言うわけではなく、あくまで自分の心の中でグチグチ繰り返す。
あー、この感覚、わかるわー(爆)。

私も地方在住ですが、根っからの地元の人と、仕事で引っ越してきて住んでる人と、
その地を選んで移住してきた人と、交じりあっているようで、
決して一つに混ざることはないということを実感する日々です。
表立って対立することはほとんどないのですが、どこかお互いに線を引いている感じが
時々伝わってくることがあり、冷たーい感覚を覚えることもあります。

その感じが、作品の中にうまーく再現されている感じで、
田舎あるあるだなぁと思いながら読んでいました。

過去に起きた殺人事件とかも絡んできますが、
正直、事件の推理の方は、どうでもよくなるぐらい、
今を生きる3人の女の心の中を覗くことが面白くて、ぐいぐい読んでいけました。

なので、物語として何か大きな事件がおきて山あり谷ありの展開が・・・・という感じではなく、
そういうサスペンスを求めている読者の方には、あんまりウケはよくないかも。
「いやミス」としての、「ミス」側の要素は薄かったですが、
「いや」の方は、十分に味わえる作品でした。

最後まで読んでみて、この異なる3つの人種は、何が起きても
やっぱり一つに混ざることはないんだろうなと思ってしまいました(苦笑)。





にほんブログ村 本ブログへ


この記事のURL |  湊かなえ | CM(0) | TB(0) | ▲ top
『境遇』
- 2021/05/21(Fri) -
湊かなえ 『境遇』(双葉文庫)、読了。

親がなく児童養護施設で育った陽子と晴美。
県会議員の妻となり、息子のために描いた絵本がメディアにのって大ヒットした陽子。
新聞記者として、そんな陽子を取材する晴美。
この2人の関係の中に、陽子の息子が誘拐されたという衝撃の事件が飛び込んでくる!

湊作品なので、当然、人間のいやーな部分がどんな風に見えてくるのだろうかと
怖いもの見たさで読み進めていくのですが、
なんだか、いつもの湊作品よりもマイルドというか、ゆるめというか。
うーん、とモヤモヤしてたら、どうやらテレビドラマ用の作品だったようで、
そりゃ地上波放送なら緩めにならざるを得ないわなあ・・・と納得。

個人的に面白かったのは、夫が県会議員ということで
その後援会の会長やら中心スタッフやらがアレコレ介入してくるところ。
でも、あんまりみんな頭の切れが良くないというか、思いつき行動が多いので
ドタバタ感がぬぐえません。

まぁ、最後も、なんだかみんな善人な感じで終わっていったので、
これはこれで、甘めの感じの湊作品としてありなのかな。

児童養護施設という環境について、もっと突っ込んだ作品を読んでみたいなと思いました。




にほんブログ村 本ブログへ

この記事のURL |  湊かなえ | CM(0) | TB(0) | ▲ top
『高校入試』
- 2021/03/25(Thu) -
湊かなえ 『高校入試』(幻冬舎文庫)、読了。

とある県の県内No1の県立高校における入学試験の日に起きた
一連の妨害事件とネットでの情報拡散の様子を描いた作品です。

単に、「進学校の入試」というのではなく、
「県内No1県立高校」という舞台設定がミソで、
歴史があり実績も兼ね備えた学校だと、母校思いのOBがたくさんいて、
一家代々この学校出身という家もあり、さらには地元の人からの複雑な視線もあり・・・・
という、余計な価値観がくっついてくるところが興味深かったです。
なぜなら、私も、自分の出身地においてそういう立ち位置にある高校の出身だから(爆)。

地元では、進学校として一目置かれており、
そこに通う生徒も親もOBも、プライドが非常に高いのですが(苦笑)、
でも東京の大学に進学したら、単に「県庁所在地の県立高校」の出身というだけにすぎず、
「あぁ、47都道府県にそれぞれ存在する学校の一つに過ぎないんだな」と自覚しました。
私自身、別に、全国的な知名度なんてない公立高校だという自己評価だったので
「そりゃ、そんなもんだよなー」と軽く考えていたのですが、
逆に東京に出て感じたのは、地元での高校への異常な評価の高さでした。

本作内でもさらっと触れられていますが、そういう高校を出て地元の大学に進んだり
大学卒業後に地元に戻ってきたりした、高校の周辺で人生を歩んでいる人が
母校愛を募らせすぎているというか、こじらせているような印象です。
確かに、地元に残ればOB会のネットワークなどが仕事に活用できるでしょうし、
公私に渡って濃い人間関係を築けそうなので、母校愛が強まると思いますが、
正直、私は、大学のOB会の方が活用しやすいし、OB会自体の考え方がさばけているので、
大学のOB会ばかりに出入りして、高校はほとんど縁がない状態です。

高校-大学と同じ学校の大先輩に良くしていただいているのですが
大学OB会のイベントには「仕事で活用できる人脈が作れるから出てこい」と良く誘ってくれますが、
高校のOB会の方は「仕事リタイアしてからでええぞ」という評価。
高齢OB主体の集まりで、今の仕事というより高校そのものの話に花を咲かせる場のようです。

私は、自分自身の体感があるので、本作の舞台となった「橘一高」という存在は
非常に興味深く読めました。

一方で、登場人物たちについては不自然さを覚えてしまい、共感できませんでした。
受験生が「一高」を受験することができる自分に酔っていたり、親が過保護だったり、
先生も「一高」で教鞭をとれる自分の能力に自信を持っていたり、OBが面倒な物言いをつけてきたり、
そういう一つ一つのエピソードには納得できたのですが、
1人1人の登場人物のキャラクターが腑に落ちない感じでした。

先生同士が冗談とは質が違う嫌みな会話の応酬をしているのを読むと、
「そんな陰険な職場ってあるのかな?」と思ってしまいましたし、
試験の採点のシーンで、早く作業を終わらせること優先で正確さがおざなりになっているのを見て、
自分が勤める学校のランクは、受験で優秀な生徒を取ることと、大学受験で良い大学に入れさせることで
全てが決まるのに、その入り口のところでこんな適当な心構えでいるのかな?と疑問でした。
実際に自分が通っていた高校の先生の姿を思い出しても、それはないんじゃないかと思ってしまいます。
「一高」レベルの先生で、本作で描かれたような適当な人が1人ならまだしも
組織の中でたくさんいるような状況というのは、あんまり現実味がないように思いました。

そして、入試の日に事件を起こした人物の動機。これも腑に落ちず。
過去に採点ミスで「一高」に入学できず、その後の人生を狂わされたという人物が
その恨みつらみを晴らすために単独犯で実行に及んだ・・・・・というなら
理解しやすかったと思います。
しかし、それぞれ別の動機をもっている人々が、しかも恨みつらみとは別の感情で動いている人が
ネットワーキング化されて事件を起こすというのは、さすがに無理があるのではないかと感じました。
そんな人が「一高」の関係者として同時期に寄せ集まってきているというのもご都合主義だし。

登場人物が多すぎて読みにくい、理解しにくいというところも私の評価が下がってしまった点ですが、
それは、解説で、テレビの連続ドラマ用に用意された脚本を小説に仕立て直したと書かれていたので、
読みにくかった理由は納得。テレビと文章の得意分野の差異ですから、
本作はテレビで見るべきだったんでしょうね。

せっかく、舞台装置はおもしろいものだったのに、
ストーリー構成に無理があったということでしょうかね。




にほんブログ村 本ブログへ

この記事のURL |  湊かなえ | CM(0) | TB(0) | ▲ top
『望郷』
- 2020/12/11(Fri) -
湊かなえ 『望郷』(文春文庫)、読了。

とある島で暮らす人々の姿を描いた連作短編集。
図らずも島の話を続けて読むことになり、『海うそ』ほど濃厚な民俗学的描写はないものの
却って日常生活を描写する優しい言葉の端々に島の歴史や自然環境に由来する制約のような
ものが強く感じられました。

どの話も、日々の暮らしや過去の思い出を振り返る構成で、
特にそこには強い謎解きの意思は働いていないのに、
さらっと描写される数行の言葉で、「意思をもって殺された、抹殺された」という事実が
伝えられ、衝撃度がいや増します。
さずが湊作品、上手いですねー。

とにかく登場人物たちが、偽善ぶることなく、露悪ぶることなく、
素直に本能のままに周囲の人間の行動を受け止め、観察し、そこに悪意を感じ取る。
自然な悪意の存在が恐ろしいです。

そして、湊作品には欠かせない「いじめ問題」の要素。
芸能人が自分のいじめ体験を語る行為について、
「耐えろ、負けないで」と語り掛けるのは、被害者のままで居ろということか、という強烈な反論。

さらに、「母の壁問題」も。
なぜ母親は娘をこうも縛り付けようとするのでしょうか。
支配の対象なのか、不満の捌け口なのか、自分が不自由だったから同じ目に遭わせたいのか、
毒母がリアリティを持って迫ってくるから湊作品は怖いです。
私の母は全く毒母ではないので、実体験がないにもかかわらず、「こんな人居そう・・・・」と
思わせる著者の力は凄いです。

どの作品も、数行の真相でガラッと物語の景色が反転するような威力のある転換点があるのですが、
それが違和感なく受け入れられるというか、狙いすぎだよ~と思ってしまうような不自然な作り込みが
感じられないので、強烈な話が続く割にはすんなり読めました。

どれも面白く、一気読みでした。




にほんブログ村 本ブログへ

この記事のURL |  湊かなえ | CM(0) | TB(0) | ▲ top
『サファイア』
- 2020/10/03(Sat) -
湊かなえ 『サファイア』(ハルキ文庫)、読了。

宝石の名前が付いた短編が7つ。
宝石が登場する作品もあれば、比喩的な意味で使われている作品もあり。
私自身は、宝石に全く興味がないので、そのテーマの宝石に秘められた意味が
イマイチ読み取れていない可能性も大ですが(苦笑)、
でも、それぞれの作品には湊節が効いてて面白かったです。

冒頭の「真珠」は、一人称の男が中年女性にインタビューしている体裁なのですが、
主人公は女の方。なぜか、とある歯磨き粉のブランドに固執して話を展開するのですが
タガが外れた人間の思考回路って怖いなと思わせる作品でした。

ああ、こういう狂気系の作品が並ぶのかな?とちょっと覚悟したのですが、
次の「ダイヤモンド」は、設定が前科者の登場する話でしたが
彼と周囲の人との交流は心温まるエピソードになっていて、
「どんでん返しがどこで来るのかしら」「いつ毒が吐かれるのかしら」と終盤ソワソワしてしまいましたが
そのまま穏やかにエンディングを迎えて、「あぁ、こういう湊作品もあるのね」という感じでした。

「ムーンストーン」も、いじめの嫌らしい描写は出てきますが、
本筋の話の部分は美しい人間の話になっており、これも「どこで裏切りがあるのかしら」と
ソワソワしながら読んでる自分は、ホント嫌な人間ですね(爆)。

「猫目石」では、心の在り様が一線を越えちゃってるお隣さんが登場してきて、
「おお、湊作品だ!」という印象でしたが、その変な隣人以上に
主人公一家の娘、母、父、それぞれが家族に秘密を抱えており、
困ったちゃん以上に、一般の家族の方が怖いわーという作品でした。

「サファイア」と「ガーネット」は続きものの作品でしたが、
宝石にまつわる悪徳商法をネタにしており、登場人物たちの心の動きよりも
この悪徳商法の手口の方に興味を持ってしまいました(苦笑)。




にほんブログ村 本ブログへ

この記事のURL |  湊かなえ | CM(0) | TB(0) | ▲ top
『ポイズンドーター・ホーリーマザー』
- 2020/01/22(Wed) -
湊かなえ 『ポイズンドーター・ホーリーマザー』(光文社文庫)、読了。

湊かなえ作品では、「毒親」が登場する印象が多いのですが、
本作はタイトルからすると「毒娘」的な???
別の切り口で日本社会の歪みを斬ってるのかしら?と思ったら、
やっぱり毒親がたくさん登場してきて、あぁ、湊ワールドだわあと納得。

で、毒娘は?と思い、中盤では、
「これは、毒親が、自分のやっていることは正しいことだと思い込んでいるから
 自己評価が『ポイズンドーター・ホーリーマザー』なんだな」と自分自身では納得していました。

ところが、最後に収録された表題作で真相がわかりました。
それまでの短編は娘の目線で語られており、娘から見て毒親を描いているので
一方的な親批判となっています。
ところが表題作では、娘と親の双方の視点から描いているので、
最初は毒親の話かと思っていたのに、もしかすると思い込みの激しい娘による
感情的な親批判なのかもしれないと思えるようになっています。
本当は、清く美しいお母さんなのに・・・・という。

いやぁ、怖いですね。
この表題作が最後に来ることで、それまでの作品も全て、真相は別のところにあるのではないかと
疑えてしまうような構成になっています。
そして、その疑いは、作品だけでなく、自分の親子関係にも向けることができ・・・・・・おぉ怖い。

湊作品を読むと、いつも最後は、「うちのお母さんは真っ当な人でホント良かった」と思います。
普通のお母さんという意味ではなく、ホーリーマザーですよ。
穏やかな人だし、みんなの言うことを聞こうとするし、でも芯は持ってて、でも押し付けず。
近所の人からは「静かな人」と思われているようですが、娘の私からすると
「ちゃんと自分のことを見てくれている頼りがいのある人」です。
でも母娘でベタベタすることをお互いに好まないので、さっぱりした関係です。

こんなお母さん、世の中にはなかなか居ないんだなぁと
いろんな小説や家族が出てくるエッセイやルポルタージュを読むたびに思います。
人間の社会というのは恐ろしいですね。
ホッとできる家庭の中に、恐ろしい人が居るというのですから。
うちはボーっとできる家庭で良かったです。




にほんブログ村 本ブログへ

この記事のURL |  湊かなえ | CM(0) | TB(0) | ▲ top
『豆の上で眠る』
- 2019/11/20(Wed) -
湊かなえ 『豆の上で眠る』(新潮文庫)、読了。

「変なタイトルだなぁ・・・」と思って買ってきましたが、
そのタイトルの由来は作中で語られており、
童話の『えんどう豆の上にねむったお姫さま』がモチーフになっています。

「布団の上から下にある豆を感じることなんてできるのか?」という
お姫様の能力に対する疑問もさることながら、
「そもそも布団の下の豆を感じられたら何で本物のお姫様だと言えるのか?」という
根本的な疑問を覚える作品ですが、その童話の世界におけるモヤモヤとしたものを
現実世界に持ち込んだらこうなりましたという小説作品になってるように感じました。
この構造は、うまいなと感じました。

仲良し姉妹が小学校低学年の夏休み、遊んでいた神社から、それぞれバラバラに家に帰ったら
妹だけが家に到着し、姉は戻っていなかった。
誘拐だ、神隠しだと大騒動になりますが、手掛かりが何もないまま迎えた失踪から丸2年目の日に
記憶喪失の少女が保護され、姉として家に戻ってきますが、妹は姉を姉として見ることができず
疑惑の目で見続けることになります。

この上段のあらすじは、裏表紙でも書かれていることなので、
妹から見た姉への疑いの眼差しが、小説の中心を占めるのかと思っていたら、
ボリューム的には、姉が失踪した期間における妹、母、祖母を中心とした
姉探しの話の方が多くて、特に情緒不安定になりがちな母と、冷静な祖母、
そんな2人を幼いのに客観的に眺めて「違和感を覚えてもなるべく母の言うとおりにやろう」と
母親の犯人探しに協力する妹。

この3人の心の動きが良く描けていて、興味深く読みました。
娘が突如居なくなるという事件は、現実世界でこの秋にも起きており未だ解決していませんが、
その母親の心情たるやいかがなものなのか。
娘がいないという喪失感、自分に非があったのではないかと責める心、
なぜ妹は姉と一緒に行動しなかったのかと妹を叱責したくなる心、
近隣の人から憐みの目と好機の目で見られる不快感、
様々な感情が心の中に沸き立ってくる様子がしっかり描かれており、
その母親が犯人探しに躍起になる精神バランスの崩れた状態に陥っていくのは
仕方がないことだと思えました。

一方で、この父親の存在感のなさといったら。
姉が家に帰ってこないという当日の夜遅い時間でさえ、のんきな発言をしており
唯一、この家族の中で共感できない人でした。

肝心の姉が戻って来てからのやりとりは、
それまでの、犯人探しをしていた母親の執念や妄想じみた推理のすさまじさに比べると
あっけないくらい簡単に姉を姉として受け入れており、
姉だと本心で認識しているのか、疑問を持っているけど姉だと思い込もうとしているのか
その心の在り様が良くわかりませんでした。

妹は、何かにつけて姉にかまをかけて、本物の姉なのか確認しようとしますが、
どれも中途半端な結末になってしまい、どっちつかずです。
まぁ、これは子供がやることですから仕方ないのですが、
話に進展がないので、読んでいて結構モヤモヤしました。

で、最終盤で一気に姉の口から真相が語られるのですが、
うーん、この真相では腑に落ちない感がすごく残るなぁというのが私の感想です。

ネタバレするので詳しくは書けませんが、
その環境に置かれることを、姉が素直に受け入れたということが信じがたいです。
妹目線で語られる失踪前の姉の描写からしても、あまりそのようなキャラクターには見えませんでした。
そして、その環境には、姉だけでなく、他の人間も巻きこまれていますが、
その人もまた、その環境を受け入れているのが、輪をかけて疑問でした。

ちょっと話を作り込みすぎてしまったのではないかなと感じる展開でした。
まぁ、だからといって、「2年間変質者の男の自宅に首輪をされて監禁されてました」というような
現実世界で起きた事件のような真相を書かれても「そんなリアリティのない展開なんて!」と
思ってしまったかもしれませんが。

人間がつくる社会って、1人の人間が失踪して、何食わぬ顔で2年後に戻ってきても
「はいそうですか、それは良かったですね」と平然とは受け入れられないような
コミュニティメンバーのアイデンティティに対する厳格さと排他性を持っているように思います。
その点が、なんだかうやむやなままで終わってしまっています。
失踪期間中の家族の心の動きが丁寧に描かれていただけに、終盤の失速が残念でした。






にほんブログ村 本ブログへ


この記事のURL |  湊かなえ | CM(0) | TB(0) | ▲ top
『花の鎖』
- 2019/01/22(Tue) -
湊かなえ 『花の鎖』(文春文庫)、読了。

ドロドロの人間関係が読みたくて本作を手に取ったのですが、
登山愛好家や花を描く画家さんとかが登場してきて、
なんとも爽やかな展開に「これ、湊かなえ作品!?」と驚いてしまいました。

「花」「雪」「月」で3つの章が交互に展開し、
それぞれ若い女性が主人公です。
全く別の生活が展開されているようで、
「有名な画家」とか「登山」とか、共通するキーワードがたくさん登場してきます。
この3人がどうやって繋がっていくのかな・・・・Kって誰なのかな・・・・と
推理しながら読んでいくのが王道な読み方かと思うのですが、
正直、なかなか話が進んでいかないのでイライラしてしまいました。

どうにも、主人公3人の女性の行動が消極的というか、
何もせずに、自分の頭のなかだけで考えて諦めてしまったり逃げを打ってしまったりするところがあり
あんまり共感できませんでした。

そして、湊かなえ作品に期待してしまう「悪意ギラギラ」って感じの人物も居なくて(爆)、
結構、みんな良い人なんですよね。
もちろん、この「K問題」の発端となった人物の行動は自分勝手ではありますが、
でも、相手の行為も勤め人としては自分勝手だなと思いますし。
みんな、常識的な範囲で悪い部分を持っているという感じで、
突き抜けて極悪人という人が出てこないので、なんだか拍子抜け。

肝心の「K問題」、そして3人の主人公の関係性は、
オーソドックスなものでした。
読む人によっては、タイトルで分かっちゃってる人も多いかも。
私は、そこまで考えて本を開かないので、途中まで気づきませんでしたが(苦笑)。

というわけで、このジャンルの物語は、
正直言って、湊かなえさんには求めてないなぁ・・・・という酷な感想となってしまいました。
別の作家さん、例えば恩田陸さんとかが書いたら、また違ったものになっていそう。
というか、読者側の本への期待の角度が違うので、素直に読めそうな気がします。
私の中で、湊かなえ作品というものに強烈な色を付けてしまっているので
上手く読めなかったのかもしれません。




にほんブログ村 本ブログへ

この記事のURL |  湊かなえ | CM(0) | TB(0) | ▲ top
| メイン | 次ページ