『夏から夏へ』
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- 2021/01/25(Mon) -
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佐藤多佳子 『夏から夏へ』(集英社文庫)、読了。
佐藤多佳子さんの著作は、それほどたくさん読んでいないので、 まだイメージが固まっていません。 ただ、『一瞬の風になれ』のドラマ化で内村さんが出演し、しかもその後原作者とフジテレビが 揉め揉めしたという事件もあり、「陸上ものを書く人」という印象はあります。 で、そんな中で本作ですが、小説だと思って買ってきたら、日本代表の100mリレーチームを取材した スポーツ・ノンフィクションものでした。 スポーツ・ノンフィクションだと、いわゆるジャーナリスト達が書くルポルタージュと、 小説家達が書くエッセイとを今まで何作品か読んできましたが、 前者は比較的第三者的視点で客観的に書かれていて、 後者は著者の思い入れたっぷりに情緒的に書かれている傾向にあると思っています。 そんな中で、本作は、著者自身の立ち位置から自分の感情を軸に描くパートと リレー走者4人を取材し客観的に書いたパートと交互に構成されているため 最初は、少し読みづらさを感じてしまいました。 しかし、著者自身が、陸上競技に昔から関心をもって競技場にファンとして足を運んでおり、 また、陸上ものの小説を書くにあたっての取材も精力的に行っており、 さらには、自分はミーハーさも持ち合わせたただの陸上ファンであり、陸上関係者とは違う立ち位置にいるという 一線をきちんと引いているその謙虚な姿勢が伝わってきて、 読み進めるにつれて、ぐいぐい引き込まれていきました。 取材した結果、陸上のトップアスリートの感覚を一般人には分かることができないということが分かった というようなことも述べられており、その知ったかぶりしない素直な姿勢にも共感を覚えました。 2007年に大阪で開催された世界陸上での100mリレーを中心にして、 そのレースに向けてコンディションを整えていく様子が緻密に取材されており、 またレース後にレースを振り返っての4者4様の受け止め方も分かって興味深かったです。 世界陸上の予選レースで日本新記録を出した4人が、宿舎へ戻るのが遅くなってご飯を食べられず みんなで牛丼屋に食べに行ったシーンを読んで、 仲が良いなとか、和やかだなという感想よりも先に、 「トップアスリートの食事の管理ってこんなレベルなの!?」と驚きました。 だって翌日決勝戦ですよ? もっと繊細な世界だと思ってました。 2007年当時、自分が勤める会社がM&Aの真っただ中にいるという状況で、 さらに休みの日はダイビング三昧と、慌ただしい日々を送っていたので、 世界陸上で世の中が盛り上がっていたという記憶が一切ありませんでした(苦笑)。 本作を読んで、生放送で見ることができなくても スポーツニュースとかで、世間が盛り上がっている空気の中でレースの映像を見たかったなと思いました。 読了後、YouTubeで検索して視聴しましたが、やっぱり当時にみたかったなと思うような 臨場感が欠けたような感じでした。 ![]() |
『サマータイム』
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- 2014/10/31(Fri) -
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佐藤多佳子 『サマータイム』(新潮文庫)、読了。
デビュー作だそうですが、 乗り切れないままに読み終わってしまいました。 一番の原因は、子供の目線でつづった文章が子供らしくないと感じてしまったこと。 交通事故で父親と左手を失った男の子のモノの考え方が 老成していることには違和感を覚えませんでした。 でも、美人な姉とまだまだ子供っぽい弟の小学生の兄弟の方は、 なんだか人物描写がちぐはぐな印象を受けました。 態度や行動は2人とも子供っぽいのに、 頭の中でめぐらせている言葉が変に大人なんです。 単語にしても、言葉遣いにしても、思考回路にしても。 描かれている風景は美しかったのですが、 人物たちの存在の違和感が最後まで拭えませんでした。
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『黄色い目の魚』
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- 2009/04/20(Mon) -
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佐藤多佳子 『黄色い目の魚』(新潮文庫)、読了。
裏表紙の「あらすじ」から、 いわゆる高校生の恋愛ものかと思って読んだら、 これがかなりエッジの利いた2人の少年少女の成長譚でした。 面白い! 人間関係が構築できずにイラストレーターの叔父のところに入り浸る女の子、 人物画の落書きが得意だけれども人の嫌なところばかりを描いてしまう男の子。 どちらも人間観察力が突出していて それを上手く、というか適当に処理することができないがために 孤立してしまっているという感受性豊かな2人。 彼らが出会い、成長していく様子をじっくりと描写した作品。 難を言えば、彼らの小学生時代の章があり、次に高校生活に飛びますが、 その間に少しだけ人間関係を作れるように、それぞれが既に成長しています。 「あの小学生が大きくなったら、もっと排他的なはずなのに」と ちょっと違和感を感じましたが。 この間の成長ぶりが抜けていたような印象を持ちましたが、 高校生活の中での成長ぶりの描写はお見事。 この手の作品を読むと、いつも、 なんて自分はのんびりとした10代を過ごして、 何も考えずに生きてきたんだろう・・・・・・という喪失感です。 木島や村田の1/100も「マジに」生きてこなかった気がして、悔やまれます。 自分を見つめようと努力し、 自分の状態を上手く掴めなくてもとにかく考えようとする気概、 そういう緊張感を自分の中に持てるようになりたいです。
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『しゃべれども しゃべれども』
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- 2007/11/21(Wed) -
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佐藤多佳子 『しゃべれども しゃべれども』(新潮文庫)、読了。
嵯峨根さん、元気にやってらっしゃるかしら・・・in 内さま という感想を抱きながら、本作を読みました(邪道)。 物語の始まり、師匠と三つ葉の会話から文章がノッテます。 江戸っ子口調も、「ン」「ァ」「ッ」といった撥音や促音などで 上手く表現されていて、どんどん乗せられて読み進められました。 一文が短く簡潔で、リズム感もあって、読みやすい日本語でした。 また、三つ葉をはじめとする登場人物が個性豊かで、 黒猫の歪んだ存在感や、村林のやんちゃぶりが見事に表現されています。 一方で、綾丸は、彼のおっとりキャラには似合わない台詞をズバッと口にして 「ついに変身か」と思わせる箇所がところどころにあったのですが、 イマイチその愚図加減がイライラさせてくれました。 映画では登場人物から外されちゃったようですが、止む無しかなぁ。 ところで、佐藤多佳子さんお初だったのですが、 Wiki で見たら、賞レースの常連さんなんですね。 本作も、「本の雑誌」が年間No1に選んだそうです。 ただ、正直なところ、「これが年間一番か・・・・」という思いも。 読みやすくて読後感も爽やかなんですが、 一位になるにはちょっと文章に重みが足りないかなって。 まあ、「本の雑誌」のランキング基準がわからないので、何とも言いようがないのですが。
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