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『はぐれ猿は熱帯雨林の夢を見るか』
- 2022/09/15(Thu) -
篠田節子 『はぐれ猿は熱帯雨林の夢を見るか』(文春文庫)、読了。

タイトルは、『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』から取っているというのは分かったのですが
「はぐれ猿」「熱帯雨林」というワードから、アニミズム的なものを感じてしまい、
SF作品というよりも、カルトホラー的な作品を想像していました。

が、短編集最初の作品は、「深海のELL」。
これまた『深海のYrr』から取ったタイトルと丸わかりです。

篠田作品は、駿河湾の底引き網にかかった巨大ウナギを食べた消費者が食中毒を起こし、
体内にパラジウムを溜め込んでいることがわかり、レアメタル採取のために
重工業産業が巨大ウナギ採りに取り組む話。

漁師の内輪の試食で食中毒になったのではなく、
民間の料亭に食材として卸されて、そこで客が食中毒になってるんですから、
もっと世論が沸騰、糾弾するはずで、それなのに回転すし屋がしれっと加工処理して
メニュー提供しているという展開が、あまりに非現実的な気がしてしまいました。

1話目を読み終わって、あれ?思いのほかSFなのかしら?と気づいたのですが、
続く「豚と人骨」は、マンションの基礎工事現場から見つかった縄文時代の遺跡から
若い女性の人骨の山というかタワーが見つかり、その調査を請け負った研究者たちが
騒動に巻き込まれるというもの。

騒動の内容は、予想外の展開で興味深いところはありましたが、
でも、やっぱり、町中の工事現場で、いわゆるどこでも掘り返したら出てくるようなレベルではなく
異様な遺跡が出土してきたのであれば、メディアなり、研究機関なり、行政なりが、
もっと騒動を巻き起こしてると思うのですが、イマイチ静かなんですよねー。

3話目の表題作は、ラジコンカー的な仕組みの機械にストーカーされる女性が主人公で、
そりゃ、一人暮らしの家をこんな機械に監視されたり侵入さえたりしたら怖いでしょうけれど、
でも、防御策が「逃げ出す」「警察に相談する」しかないのは、あまりに策がないかなと。
2010年の作品ですから、スマホで動画撮影するという対策はなかったとしても、
写メぐらい撮らないと、何度警察に訴えても、真剣には受け取ってはもらえないというか、
訴えれば訴えるほどメンタル面の不調を心配されそうですよね。
主人公の行動の仕方にイマイチ共感できず、まぁ多分、それは、狙われる前の
普通の職場における行動とか思考に共感できなかったというところを
引きずってるから余計にそう感じるのだと思うのでしょうね。

AIと猿が結びつくところに本作の斬新さがあるのだと思いますが、
うーん、そこも、書き手によっては、もう少し学術的に深みを与えられたのではないかと思ってしまいます。
ちょっとSFホラーとしての表面的な描写でしかないような浅さが気になりました。

最後の「エデン」は、先の3作とは異なって、北米大陸の荒野の真ん中で
63年もの歳月をかけて巨大トンネルを掘るというプロジェクトに駆り出された
末端の作業員たちのコミュニティが舞台です。
享楽や嗜好品を排除するだけでなく、技術や学問も芸術も、トンネルを掘ることに関係ないものは
一切排除するという閉鎖的なコミュニティを維持しており、主人公は、
そこに犯罪的な方法で連れてこられたというか、軟禁された若い日本人男性。

シンプルなキリスト教的潔癖さを維持したコミュニティで、
技術や学問さえも排除することで、若者は無知のために享楽を求める術も知らないという
そういう閉鎖的な世界です。

このカルト的にも見えてしまう集団に取り込まれた日本人男性は、
実家が寺で、帰国したら僧侶としての人生がスタートすることが決まっているため、
その自分の立場も相まって、この特異な白人集団を観察し、逃げられない自分の立場を嘆き、
そして諦めの人生に突入していきます。

このコミュニティの「知的好奇心の排除」というようなスタンスには嫌悪感を覚えたので
作品自体には共感できなかったのですが、アニミズムとは言いませんが
シンプルな宗教観の違いみたいなとこは興味深く読みました。

この短編集の評価としては、タイトルが違っていたら
もう少し面白く読めたのではないかなと思います。
篠田作品は、結構、タイトルから受けるイメージと内容がずれているように感じることがあり
せっかく面白い材料を揃えているのに、付いていけなくなってしまうような面があるのは残念です。






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『贋作師』
- 2019/01/21(Mon) -
篠田節子 『贋作師』(講談社文庫)、読了。

大御所の洋画家が自殺した。
その遺言で、過去の作品の修復を依頼された主人公。
洋画家とは面識がなかったが、洋画家の元に美大の同級生が弟子入りしていた。
しかし、彼も数年前に自殺しており、主人公は、縁のない保管庫に通うことに。

どうにも、舞台となる洋画家の家も登場人物たちも不気味な感じで
読んでいくのがしんどいお話でした。
この家の主人は自殺、妻は失踪、弟子も自殺、唯一残った姪が全資産を管理。
怪しすぎでしょ(苦笑)。

洋画家の作品は、若い頃はそのエネルギーに満ちたところが評価されていたものの
晩年はお金になる通り一遍の大判の風景画ばかりを描くようになり
修復師としての主人公の目で見ても、美術的価値の劣る作品ばかり。
しかし、世の中では、そんな作品の方が高価な値段で取引されているという皮肉。

姪は資産を維持するために、洋画家の評判が落ちるようなことが起きないよう
神経質になっており、その行動がねちっこく不気味です。
そんな人と、アトリエや保管庫で2人きりにならねばならぬ主人公に同情。

でも、この主人公も、たいした証拠も集めずに、自分の思い込みだけで
この姪に向かって殺人事件の疑いや偽物制作の疑いなんかをぶつけるので、
「なんて無防備な人なんだ」と、ちょっと引いてしまいました。
残念ながら主人公に気持ちが入っていきませんでした。

良い味を出していたのは、ゲイの修復師である才一ですが、
主人公の彼に対する「あなたの性癖は正常でない」というような酷い言葉の数々、
今の時代の目線で読むと、かなり引っかかります。
最初は、主人公を通して著者の価値観が出ちゃってるのかな?と懸念しましたが、
「病気」に対する主人公の偏見を才一が糾弾するくだりがあり、
あぁ、主人公がこの家に対して抱く偏見のようなものを象徴してたのかと納得。

贋作の真相も、死の真相も、主人公が勝手な推理でいろいろ引っ掻き回した割には
オーソドックスなところに落ち着いていった感じで、ミステリが軸ではなかった印象です。
むしろ、芸術家の執念とか、自分の才能の限界に対する苦悩とか、
そういう人間的な苦しみの部分が軸になっている作品だなと思いました。

でも、あまり気持ちの良い作品ではありませんでした。




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『スターバト・マーテル』
- 2018/08/18(Sat) -
篠田節子 『スターバト・マーテル』(光文社文庫)、読了。

久々の篠田作品。
ちょっと不気味な表紙絵。中編が2つ収録されています。

表題作は、乳癌を患い、人生に対する熱意が醒めてしまったかのような女性。
夫や親友の助けを煩わしく感じているかのような素振りを見せていた日々において
中学時代の秀才だが嫌われ者だった同級生とふいに再会して、
彼の存在に引き寄せられていく・・・・・。

主人公が、夫や親友に対して感じる微妙な思いや、
中学時代の少し苦しい思い出などの描写は、さすが篠田作品と思いましたが、
ちょっと私には共感できない部分が多くて、最後まで距離のある作品でした。

そもそも、主人公は乳癌を患っているのですが、
私の叔母は40代で乳癌で亡くなっており、叔母の必死に癌と闘っている姿を間近で見ていたので、
ガン転移の恐れがあるのに検査を受けなかったり、夫が必死で病院へ行くように勧めても
のらりくらりと言を左右にしたりする主人公の姿勢が、私としては我慢できなかったです。
これはもう、個人的な感情の部分なので、作品の出来不出来とは関係のない部分です。

そして、中学時代の主人公と秀才君とのエピソードは興味深く、
また高校以降の秀才君の苦難の人生も興味深かったのですが、
現在の勤め先に就職してからの秀才君の人生展開が
どうにもアクションものに急変してしまい、読んでいて置いてきぼりになっちゃいました。
もう少し、別の展開は用意できなかったのかなぁ・・・・・と。

併録されている「エメラルドアイランド」は、海外リゾートで結婚式をあげるカップルの話ですが、
マザコンならぬ、親友母娘の歪んだ関係がテーマです。
かなりコメディタッチになっているので、軽く読み進められますが、
冷静になって考えると、非常に気持ち悪い母娘関係です。

そもそも旦那側の親族の我儘が原因ではあるものの、
海外挙式に、当事者夫婦と嫁の側の母と嫁の親友の4人しか来ないって、
いったい、どういう状況なのでしょうか!?
旦那を置き去りにして、母娘で食事を楽しんだり、観光をしたり。
旦那は人間としての芯がないのか、そんな状況を受け入れてしまってます。

唯一外部の人間として参加した嫁の親友である主人公は、
この変な状況に違和感を持ち、嫁に対して忠告を何度もしますが
嫁の方は、何が変なのか全く分かっていないような反応です。

コメディタッチだったので、この気持ち悪さは、最後痛快な出来事を通して
パッと晴らすんだろうなと予想しながら読んでいったのですが、
なんと嵐の直撃により大災害が起きて現場は大パニックという展開に。

うーん、こういう出来事による状況変化を求めていたわけじゃないんだよなぁ・・・・。

この本は、2作品とも、起承転結の「転」の部分が、
あまりにもブっ飛んでる感じがして、私の好みではありませんでした。


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『コミュニティ』
- 2015/05/31(Sun) -
篠田節子 『コミュニティ』(集英社文庫)、読了。

ちょっと寄せ集め感のある短編集ですが、ホラーな味付けの作品が面白かったです。
人間の悪意なのか、魔が潜んでいるのか、
ギリギリのラインを描かせると、本当に上手いですよねー。

「恨み祓い師」では、「妖怪」という表現が出てきて、魔を払うような役割の人物も登場しますが、
しかし、老女2人の生活の描写に存在感がありすぎて、
現実世界で、こんな空間が存在していてもおかしくないような印象を受けました。

反対に、東京郊外の寂れた公団で生活する人々を描いた「コミュニティ」は、
非科学的なものは登場しないにも関わらず、
そこで生活する人々の思考が不気味すぎて、私にはホラーに感じられました。
あれほど忌み嫌っていた広江が、ある夜を境にコミュニティに溶け込み、
しかも、その理由説明の描写がほとんどなされないというところが、
恐怖を想像させてくれます。

久々の篠田作品だったのですが、すっかり堪能させていただきました。


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『ゴサインタン』
- 2012/12/09(Sun) -
篠田節子 『ゴサインタン』(双葉文庫)、読了。

ネパールから農家に嫁いできた陰のある女。
言葉は通じず、日本の習慣にも馴染めず、何となく家の中で浮いたままの存在だったのが
とある出来事をきっかけに、不思議な現象を起こし始める・・・。

オカルト的な要素を期待して読み始めたのですが、
新興宗教が出来上がっていく過程を見ていくうちに、
そういう組織論的な部分に関心が向くようになり、
そういう組織に取り込まれずにいる主人公の男のことが気になったら、
今度は、その男の無気力な生き方が呼ぶ暗い闇が怖くなってきました。
なんで、こんなにも自分の人生に無関心になれるのだろうかと。

普段だと、こうやって自分の目が移って行ってしまう時は、
「この本は何が書きたいのだろうか?」と軸のブレが気になってしまうのですが、
本作は、その重量さから、軸のブレは気になりませんでした。
むしろ多面的な作品の世界の中で、自分の関心の軸を探していたような感じです。

地方の旧家の農家を継いだものの、
農業に身が入っているわけでもなく、拡大する気もなく、
副業の家賃収入で生活が成り立っている現状。
旧家の立場で顔役としてあちこちに駆り出されるものの、
未だに周囲の頭にあるのは父親への信頼であり、主人公は当てにされていない。
こんな閉塞感漂う環境で40歳まで過ごし、恋人も作れず、ネパール人の妻を義務感から娶る。
この主人公の人生の空しさを思うと、オカルト的な出来事よりも、
数段恐ろしいことのように感じてしまいました。

結局、作品中では、オカルト的な要素には答えが用意されていないのですが、
主人公の男自身には答えが訪れるエンディングになっているので、
物語としては、上手く締まったように思いました。


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『レクイエム』
- 2012/08/15(Wed) -
篠田節子 『レクイエム』(文春文庫)、読了。

加門ホラーがいささか期待はずれだったので、
何か怖そうな作品はないかしら・・・・と探して出てきたのがコレ。

タイトル、カバーの雰囲気、著者から、
ホラーものかも!と期待して読み始めましたが、
怖さよりも幻想的な感じの作品が収められていました。

これまた、ちょっと今のニーズとはズレてたのですが、
後半に入っていた「コンクリートの巣」が非常に面白かったので、満足でした。

これは、ホラーではなく、リアルな人間を描いたもの。
児童虐待と母子愛の微妙な関係を、非常に上手く描いています。

人間って、やっぱりコワーイ!!!



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『聖域』
- 2011/09/25(Sun) -
篠田節子 『聖域』(講談社文庫)、読了。

未完の小説原稿を手に入れた編集者が、
その続きを書かせようと、失踪した著者を探しに東北へと向かう・・・。

この未完の小説は、いわゆる幻想小説で、
修行僧が東北の僻地で出会った魔のものたちと対峙するというもの。
序盤は、この小説が作中作という形で展開されていくのですが、
幻想小説というジャンルが、自分の好みでないため、
ここを読み通すのに苦労しました。

しかし、主人公が著者を探し始めた途端に止められなくなり、一気読みです。
原始宗教や地域の信仰、新興宗教などの要素が絡み合い、
社会科学的な側面でも興味深かったこととが大きいです。

そして、「信仰」にまつわる超常現象的なものについて、
それを体験したものの視点から活き活きと描きながらも、
どこかに冷静な視点が残っており、どことなく自然科学的な日常世界の思考とも
違和感無く同居できるような世界観になっています。
これは、かつて著者の『カノン』を読んだときにも感じたことであり、
読んでいて、とても納得感があるのです。

最初は、いろんな要素を詰め込みすぎなのでは?と感じた
一つ一つの出来事も、最後には、意味のある結びつき方をしてきて、
全ての要素が、無駄なく、きちんと作品中で料理されたというスッキリ感も味わえます。

一つだけ気にかかったことと言えば、
主人公が、失踪作家に対し、とにかくすぐに続きを書けと迫るところ。
失踪作家の頭の中に、続きが既に完成しているという前提があってのことなのでしょうが、
小説を書くということが、なんだか軽視されているような印象を受けました。

小説を書く行為を、「ストーリーを作る」作業と、「文字に落とす」作業とに分解して、
前者は作家の腕の見せ所だが、後者は単なる機械的作業と割り切っているようで、
腑に落ちないものが残りました。
文字に落とす作業自体にも、その作家独特の文体や、リズム感を生むための
歴とした創造的な作業だと思ったので・・・。

まぁ、それは、物語の完成に執念を燃やす編集者の熱い心が
言わせた台詞なのかもしれませんね。
それぐらい、いろんな人のいろんな「想い」を、ずっしりと重く感じさせる作品でした。


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『天窓のある家』
- 2010/11/04(Thu) -
篠田節子 『天窓のある家』(新潮文庫)、読了。

非常に怖い作品群です。
自分のすぐ隣にこれらの恐怖が転がっていて、
ほんの些細なきっかけで、自分も同じような目に遭うのではないか、
自分も同じような愚かな行動を取ってしまうのではないかと
気が気ではなくなります。
そういう、ひたひたと迫ってくる恐怖です。

ジャンルは、生活を描いたものから、SFチックなもの、ホラーものと
非常に多彩で飽きることがありません。

「上手いなぁ」と、感嘆する気持ちにどっぷり浸かれる作品群です。

「誕生」の静かに迫ってくる感じが、とても怖かったです。


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『家鳴り』
- 2010/06/27(Sun) -
篠田節子 『家鳴り』(新潮文庫)、読了。

7つの作品が収められていますが、
「春の便り」を除き、いずれにも、生々しいほどの人間の嫌らしさが
これでもかというぐらいに書き込まれており、
うんざりしてしまうほど、凄い小説です。

大地震による避難生活、育児ネグレクトに遭っている姉弟の生活、
認知症を持つ義母の介護、不妊問題、ペットロス症候群・・・・
社会問題となっているものから、今後起きうる危機まで、
とにかくリアリティをもって、
これらの問題と、それらに端を発した人間同士の負の感情のぶつかり合いが、
描かれています。

まさに、現代の恐怖小説だと思います。

篠田作品は、短編も切れ味があって、読み応えがあります。


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starsすんなり読めるホラー
stars摂食障害小説を含む七篇の短編集
stars鮮烈
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『カノン』
- 2009/06/09(Tue) -
篠田節子 『カノン』(文春文庫)、読了。

「ホラー長編」という触れ込みだったので、
あまり期待せずに「どんなもんかいな?」というぐらいの心づもりで読んだのですが、
結構はまってしまいました。

確かに起きている現象は幽霊モノなのかもしれませんが、
それに直面している主人公自身が
「疲れや精神不安定によるものなのかも」というような半信半疑の状況で、
意外と冷静に状況をとらえようとしているので、
変なドタバタ感が出ることもなく、
また自分の内面をみつめるようなしっかりとした心理描写もあり、
読ませてくれる内容でした。

最後も、映像として考えると劇的なのかもしれませんが、
ホラー作品として見ると、現実の世界の中で何とか結末をつけようとしていて、
キョーレツな摩訶不思議現象でエンディングにしてしまおうという
感じではなかったので、それなりの納得感をもって読み終えました。

自殺の原因探しのところは謎解きの要素もあって、
読み物として面白かったです。


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おすすめ平均
starsぼやけている
stars心の深層にひっかかる作品
stars状況描写が素晴らしい
stars音楽の追求
stars小説版「フーガの技法」

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