『ダナエ』
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- 2017/04/24(Mon) -
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藤原伊織 『ダナエ』(文春文庫)、読了。
久々の伊織さん。 若くしてお亡くなりになったニュースに触れたときには驚きましたが、 本作は亡くなる直前に出された中編集とのこと。 画廊に展示されていた肖像画が、 何者かにナイフで切られ、薬品をかけられるという事件が発生。 しかし、作家は犯人に心当たりがあるのか、警察に届け出ようとはせず・・・・・。 表題作は、あらすじだけ書くと犯人捜しのサスペンスのようですが、 その実は家族のありようを描いたヒューマンドラマだと感じました。 お金持ちの実業家一家、芸術への傾倒、離婚と子供、 普通の人よりも大きな才能を持った人なりの複雑な家庭の状況に 自分を重ね合わせることはなかったですが、 しかし彼らの苦悩を理解したいと思い、じっくりと読む読書になりました。 一緒に収録されていた他2作は、 広告代理店に勤める男性が主人公でしたが、 華やかなだけではない、しんどい面が描かれており、 その歪んだ二面性が、一番この業界らしい要素なのかなと感じました。 仕事をすること、生計を立てること、自分の作品を生むこと、 時には対立する、しかし人生にとって大事な柱となるものについて 考えさせられる作品集でした。
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『ダックスフントのワープ』
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- 2014/08/22(Fri) -
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藤原伊織 『ダックスフントのワープ』(文春文庫)、読了。
いつもの藤原ハードボイルドではなく、 観念的な中篇4つが収められている作品集。 表題作は、家庭の事情から、世間とのコミュニケーションを放棄した少女が 相手役として雇われた心理学科の学生と、空想の話を紡いでいく物語。 設定は、なかなか目新しくて面白いと感じましたし、 学生と少女の会話も斜め上にずれているところが、 次はどうなるんだろうか、どんな反応があるんだろうかと期待させてくれます。 が、作品の底のほうから湧き上がって来る不幸な香りがどうにも気になり、 「最後はどうせ、悲しい終わり方なんだろうなぁ・・・・」と 終盤が近づくにつれて投げやりな気持ちになってしまいました。 観念的かつ悲劇的なお話は、どうにも性に合わないところがあります。 残り3つの作品も、基本的に暗い印象を受けるので、 なかなか読み通すのに苦労してしまいました。
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『名残り火』
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- 2013/03/17(Sun) -
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藤原伊織 『名残り火』(文春文庫)、読了。
『てのひらの闇』の続編であり、また著者の遺作となった作品です。 改めて、若くして亡くなられたことを惜しいと思わせる濃い内容でした。 飲料品メーカーの合併劇の結果、退職して零細マーケティング会社を起こした主人公。 メーカー時代の同僚は、流通企業の役員となっていたが、 役員を辞任後に暴漢に襲われ重傷、その後、容体が急変して亡くなった。 オヤジ狩りと思われていたが、その真相は・・・。 スピード感のある展開、諧謔の効いた会話、知的レベルの高い登場人物たち、 いおりんワールド健在です。 そして、関係者たちが、過去からやたらと繋がっているところも、 真相の方から主人公の元へ飛び込んでくることも、いおりんワールド(苦笑)。 謎解きの展開としては、いつも「都合よすぎじゃない?」と思ってしまう幸運な偶然が 本作でもいくつか起こるのですが、スピード勝負のハードボイルド作品は こういうものなのかもしれませんね。 それよりも、今回は、三上社長という豪快なおじさんが登場し、 またまた楽しませてくれました。 登場シーンだけ読むと、敵なのか味方なのか分からない存在、 私は、むしろ黒幕側の匂いを嗅ぎ取ってしまったのですが、 このキャラクターが作品中に与える味付けが面白かったです。 警察の関根警部補も、腹の座った人物で興味深く、 また、ナミちゃんの炸裂ぶりも筋が通ってます(笑)。 一人可哀想なのは大原。 中盤で、主人公との関係に何らかの変化が起こりそうな種を蒔かれながら、 結局、本作中では大きな進展を迎えられないという扱いに。 良いように利用されて(「主人公に」という意味だけでなく「作品に」という意味も込めて) 終わってしまったような気がします。 あと、亡くなった元役員の妻の最後の行動も、 以前に他のいおりん作品で感じた「女性キャラの感傷的な扱い」に感じた不満を 本作でもやはり感じてしまいまいました。 それまでの、彼女の行動・思考と、最後行動が上手く結びつきませんでした。 ま、でも、作品自体にはのめり込むように先を読みたくなったことは確か。 面白い作品でした。
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『ひまわりの祝祭』
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- 2011/06/13(Mon) -
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藤原伊織 『ひまわりの祝祭』(講談社文庫)、読了。
超ごぶさたの伊織作品。 なかなか100円で出会えないんですよねー。 さて、今回は、ファン・ゴッホの「ひまわり」を巡るミステリー。 「ひまわり」と言えば、日本人には、単なる美術品以上の感想を覚えるのではないでしょうか。 美術品をテーマにした骨太ミステリーをあまり読んだことがなかったので、 興味深く読み進めることが出来ました。 ハードボイルド作品としての味付けは、 伊織作品らしい安定した内容で、会話の妙もいつもどおり。 ワンパターンと呼ばれるゆえんかもしれませんが、 この安定感は、長編を読むには安心感を与えてくれます。 というわけで、設定や展開は非常に楽しめたのですが、 コトの真相については、少し不満が。 何より、奥さんである英子の自殺の原因が、ちょっと腑に落ちず。 自殺で消せる事実よりも、自殺で周りに与える傷の方が、はるかに大きい気がします。 もう一人の女性の死も、なんだか唐突感あり。 この作家さんは、女性を死なせることに、 必要以上に感傷的な何かを求めているように感じます。 それが、ちょっと余計。 あと、ハードボイルドと同性愛は、深く結びついているものなのですか? 他の作家さんのハードボイルド作品にも登場するエッセンスなので・・・。 本作では、あまり効果的に同性愛という要素が使えているようには思えませんでした。 と、まぁ、細部には不満が残るものの、 ぐいぐい読ませる力はさすが。 新幹線の中で、眠らずに、一気読みできました。
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『雪が降る』
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- 2007/07/16(Mon) -
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藤原伊織 『雪が降る』(講談社文庫)、読了。
この作家さんの短編集は初めて読みましたが、 期待以上に面白かったです。 ハードボイルド系の作品が並んでいるのかと思いきや、 非日常的な空間が広がっている「トマト」や「ダリアの夏」のような 作品も散りばめられており、作家さんの挑戦意欲のようなものを感じられます。 作品としては、「台風」「雪が降る」のストーリー構成が面白かったです。
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『てのひらの闇』
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- 2007/05/19(Sat) -
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藤原伊織 『てのひらの闇』(文春文庫)、読了。
本作を読み始めたその日、訃報を耳にしました。 闘病生活を送られていたことを知らなかったため、 若くしての死に驚きました。 合掌。 さて、作品のほうですが、一気読みできました。 体調が万全でない過去のある中年男と、デキルうら若き女性との組み合わせは 『テロリストのパラソル』と類似ですが、 この作家さんが描く会話の妙、諧謔のセンスが大好きです。 最後、謎が解き明かされる部分の展開は、 当事者が真実を延々と語るというもので、 これまた『テロリストのパラソル』を思い出しましたが、 この作品では、それほど違和感を抱きませんでした。 それほど話が過大に膨張しなかったからかと思います。 十分に堪能できました。
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『テロリストのパラソル』
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- 2005/10/23(Sun) -
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藤原伊織 『テロリストのパラソル』(講談社文庫)、読了。
圧倒される出来。 午前4時までかけて全部読んでしまった。 伏線がすべて見事に生かされているストーリー構成といい、 登場人物のキャラクターの濃密な描き方といい、 ところどころに現れる専門的知識の使い方といい、 緻密に練られていて申し分なかったが、 なかでも、会話の妙が素晴らしかった。 各キャラクターに乗せて、キャラが増幅されていくような 会話運びが子気味良い。 文章、特に会話部分の文章が、全く違和感無く読み進められる。 現代の日本語を上手く文章に落としていると思う。 ラストへの急展開はちょっとやりすぎた感がありますが、 そこは眼をつぶっても傑作でした。
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