『武士道シックスティーン』
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- 2019/10/21(Mon) -
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誉田哲也 『武士道シックスティーン』(文春文庫)、読了。
剣道一家に育った剣道エリートの香織は、 中学の大きな大会で準優勝となり、最後に負けた悔しさを晴らすためか 地元の小さな剣道大会に出たところ、無名の中学生に負けてしまう。 この屈辱を何とかしたいと、その無名選手が下から上がってくるはずの高校に入学し、 剣道部に入部する・・・・・。 エリートの香織と、無名選手の早苗という2人の少女の視点を交互に置いて それぞれの行動や態度が、お互いにどんな風に見えているのかが分かり、面白いです。 香織は、エリート剣士にイメージされる知性や冷静さとはちょっと違うタイプで、 どちらかというと野武士のような武骨な性格です。そして、やや乱暴。 言葉遣いも、敬愛する宮本武蔵の影響か、「かたじけない」とか言っちゃってるし。 スポコン物のエリート像とはちょっとずれる型破りなキャラクターです。 一方、早苗の方は、日本舞踊から剣道に道を変えたという、これまた変わり種。 勝負へのこだわりは薄く、むしろ自分の技術を高めることや、型をきちんと決めることに拘ります。 闘争心がないので、平和で穏やかな部活を望みますが、 なぜか粗暴な香織のことが何かと心配になり、構ってしまうのです。 このコンビは、早苗のキャラクターがあってこその組み合わせだなと思います。 こんな2人の、主に高校1年生の1年間を描いていますが、 ストーリーの大きな波は、この野武士エリートに不調の波が訪れること。 しかも、技術的な不調というより、「私なんで剣道やってるんだろ?」的な本質的な不調。 このあたりの展開、心情が急変したポイントがどこだったのか 正直よく分からなかったのです。 この出来事がきっかけなんだなというのはわかるのですが、 その出来事を受けて、一体どの事象が心のスイッチを押してしまったのかが曖昧です。 ここ以外にも、香織と早苗がけんかのような状態になって、 仲直りのきっかけをつかめないでいた時に、なぜか自然と2人の気持ちが近寄って行ったくだりがあり、 そこも、感情の機微が良く分からなかったです。 早苗自身、なんで自分が相手を受け入れられたのか分かっていないというような描写があったので 具体的なきっかけがなくとも、人間は相手を許せるんだということなのかもしれませんが、 私個人の好みからすると、感情の揺れ動きをガッツリ書き込んでほしかったなというところです。 物語は最後、続きがあるように思わせる描き方だったので、 最初からシリーズ化が頭にあったのでしょうかね。 誉田さんの作品って、グロくて気持ち悪いものしか読んだことが無かったので、 こんな爽やかな作品も軽やかに描けるのかと今更ながらビックリしました。 とりあえず、次の『セブンティーン』を早く100円で見つけなければ! ![]() |
『感染遊戯』
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- 2014/09/28(Sun) -
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誉田哲也 『感染遊戯』(光文社文庫)、読了。
姫川シリーズの第5弾。 うーん、まだ第2弾までしか読んでない・・・・・と思いつつ、 このシリーズの人間関係そのものにはあんまり興味を持てないでもいるので、 ま、いいか、と先に手をつけてしまいました。 そしたら、スピンオフだったようで、主人公は勝俣警部補。 シリーズの連続性を気にしなくても読めたのはラッキーでした。 最初にポコポコと、過去の殺人事件がいくつか語られます。 時代も、登場人物も全くバラバラなので、 「あれ?短編集だったっけ?」と思わず感じてしまうほどなのですが、 唯一の共通点は、被害者が元エリート官僚で今は天下りの悠々自適生活ということ。 サスペンスとして読んでしまうと、 大した謎解きは出てきませんし、真相も予想の範囲内で、面白さはあまり感じないかもしれません。 しかし、官僚組織に対する世間一般の憎悪という面を考えると、 この作品が描く社会問題は、非常に興味深いものでした。 私自身、官僚ではないですが、官僚のモノの考えに近いものを持っているという自覚があるので 国益のためには時には憎まれ役を買って出なければいけない、それが官僚だ、 もちろん、憎まれるような表立ったことにならないよう、水面下で仕組みを作るのが デキル官僚の姿だけれど・・・・みたいな考え方を持っています。 国益をもらたす官僚と、天下りで利権を吸う官僚とは 本質的に違うものだと私は思うのですが、 なかなか、そこは、世間様からは理解されずに、一緒くたになってしまっていると思います。 それを、世間とはこういうものだから、仕方がない・・・・・と割り切った瞬間に、 この本で描かれたような社会の憎悪を集約して行動に移させるような仕組みが 是認されてしまうというところに、この本が描いた内容の怖さがあるのかなと思います。 読んでいて、一番強く印象に残ったのは、 この憎悪を行動に移させる仕組みが、今の世の中であれば、 簡単に実現できてしまうという、その身近なリアリティ感でした。 現在、日本の空気が、右に寄っていっているのも、仕組みとしては同じような形で 空気が醸成されていっているのだと思います。 指示・命令されたわけではないのに、攻撃的な行動に移ってしまう、 攻撃的な行動を、善きものとして肯定できる思想をもっているかのように錯覚してしまう、 こういう社会は、一線を越えたときに、非常に恐ろしい事態になる可能性があります。 そういう怖さを読み手に想像させる作品でした。
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『ソウルケイジ』
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- 2014/06/07(Sat) -
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誉田哲也 『ソウルケイジ』(光文社文庫)、読了。
姫川シリーズの第2弾。 多摩川土手で発見されたバラバラ死体事件を追いかけます。 建設業の下請け構造や、経済ヤクザの利権構造など、 社会問題も組み込んでいて、面白い事件でした。 (殺人事件を面白いと評しては語弊がありますが・・・・) 事件の謎解きも、刑事側に見えている部分だけでの推理モノにするのではなく、 被害者側、犯罪者側の物語も併せて見せていくことで、 この事件の背景となる社会問題をぐっと浮かび上がらせていたと思います。 登場人物たちも、対立構造や物語内で与えられた役割がはっきりしているので読みやすいです。 ま、姫川をめぐる恋の鞘当てが、単なる息抜きのシーンになっている分には良いのですが、 ちょっと本作では重たい感じになっていて、私的には好みではなかったです。 (スカーペッタシリーズも、同じ理由でだんだん心が離れてしまいました・・・・・) 正直、このサブストーリーは邪魔だなと感じてしまいました。 シリーズモノとしては、こういう連続性と展開力を担う要素は必要なのでしょうが、 1つの作品として見ると、物語のスピードが落ちるように感じてしまいます。 このサブストーリーは、第三弾で面倒なことになってそうで、 第三弾に手を伸ばす際の心理的障害になりそうです(苦笑)。
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『ストロベリーナイト』
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- 2013/12/31(Tue) -
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誉田哲也 『ストロベリーナイト』(光文社文庫)、読了。
面白くて一日で一気読み。おかげで、大晦日は何もしてません(苦笑)。 冒頭のシーンは、薬物のせいで精神に異常をきたしている両親と その子供との暴行行為なのですが、あまりのグロさにうんざり。 この調子が続くのなら、早々にリタイアだなと思っていたのですが、 すぐに警察側の描写に移ったのでほっと一安心。 警視庁捜査一課の姫川班を中心に描いていますが、 ところどころ、主人公の姫川と、彼女の周囲の刑事達との 過去のエピソードを語る一文が入ってくるため、 「あれ?シリーズモノの途中から間違って読み始めたかな?」と思ってしまいましたが、 単なるキャラクター設定のための背景説明だったようです。 ま、今後、「エピソード・ゼロ」とか言って作られるのかもしれませんが・・・。 いずれの捜査員も、キャラが立っていて、 でも劇画調にはならずに、そこそこ現実的な範囲で収まっているので、 安心して読んでいくことが出来ました。 主人公による推理の部分は、 警察による捜査という地道さはなく、名探偵による謎解きのようなものでしたが、 そういうキャラクターなのだ周囲の刑事が認め、または反発している描写があったので そのまますんなり受け入れることが出来ました。 犯人達が仕出かした犯罪や、その動機については、 純粋に「欲求」というものに結びついていて、 変に「金が欲しい」なんていう安易なものよりも説得力がありました。 ただ、お客の顔が相互にわかるような環境は、ちょっと非現実的だと感じてしまいましたが。 というわけで、犯罪の内容には納得がいったのですが、 犯人の顔ぶれについては不満ぶーぶー。 正直、この手の真犯人には飽きました。 主人公が負っているトラウマに関しては、 途中の、裁判のシーンにはじーんと来ちゃいましたが、 この作品内でどれだけの存在価値というか、波及効果をもたらしていたのかは、 良くわかりませんでした。 ま、シリーズ化していくうちにじんわり効いてくるバックグラウンドなのかもしれませんが。 というわけで、このシリーズは、読んでいきたいと思わせる第一作です。
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『アクセス』
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- 2013/05/12(Sun) -
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誉田哲也 『アクセス』(新潮文庫)、読了。
お初の作家さんです。 青春モノのサスペンスだと思っていたので、 後半になってSFホラー的な展開になった時に、取り残された感がありました。 そういうジャンルの話なのか・・・・と。 でも、後から、ホラーサスペンス大賞の特別賞を受賞した作品だと知り、 それを知らずに読んだ自分が悪いのだと反省。 というか、受賞については裏表紙に書いておいてほしいなぁ。 お話は、携帯電話やプロバイダの料金が無料になるというサービスに登録した人たちが 自殺、失踪、殺人といった怪現象に巻き込まれていくというもの。 最初は、現実世界の話だと思ってたので、 どうやったら、そんな行為をさせることができるんだろうかと考えちゃいましたよ。 ホラーと分かってからは、考えることを放棄(苦笑)。 どんなエンディングになるのかだけを期待して読んだのですが、 至って普通の終わり方でした(苦笑)。 この怪現象が、主人公を含む周辺の高校生数人の描写で終わっているのですが、 主人公らがターゲットに選ばれる必然性がないので、 きっと日本中に、このサービスに登録した人たちは居るはずなんですよ。 それであれば、全国で怪現象が起きているはずなのに、 その描写は一切ありません。ちょっと世界観が狭すぎる印象です。 主人公やその家族には、あまり共感するところがなかったのですが、 サブキャラの雪乃と翔也は、露悪的ですが頭の回転が早いので、 なかなか面白いキャラクターだなと思って、好意をもって受け止めてました。 なのに・・・(詳細省略)・・・残念。 サクサク読めるんですが、何か物足りなさの残る作品でした。
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