『夢はトリノをかけめぐる』
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- 2019/10/08(Tue) -
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東野圭吾 『夢はトリノをかけめぐる』(光文社文庫)、読了。
世の中はラグビーW杯で盛り上がってますね! 昔のラグビー中継は、社会人も大学も、ラグビーファン向けだったので 素人が見てもチンプンカンプンでしたが、今回の中継ではルール解説をこまめに入れてくれるので 素人でも試合展開についていけるようになってます。 テレビも頑張ればできるじゃん!ってな感じです(←上から目線)。 さて、何かスポーツ物はないかな?と手元の積読の山を探したら、本作が出てきました。 東野圭吾氏によるトリノ冬季五輪の観戦記です。 奥田秀朗氏はスポーツエッセイをいろいろ書かれているので、スポーツ大好きという印象がありましたが 東野氏がウィンタースポーツ好きとは知りませんでした。 ただ、作中で触れられているように、『鳥人計画』というスキージャンパーが主人公の作品を書いているので 言われてみれば、普通の小説家がこんな題材なかなか選ばないよなぁ・・・・とは思います。 で、トリノ冬季五輪の取材エッセイとして、前半は、国内の競技施設で練習しているところにお邪魔し、 後半では実際にトリノに赴き観戦するという内容です。 ただ、普通のエッセイと違って、なぜか「ネコの化身の夢吉」という存在が主人公で 小説仕立てになってます。 夢吉が、東野氏の取材に帯同して、夢吉の視点で描くというもの。 あんまりその演出効果はなかったようにも思いますが、 「エッセイは苦手なので、書き進められるように小説仕立てにした」という趣旨のことを 本人が述べてますので、仕事をするための苦肉の策だったということかなぁ。 スポーツそのものの紹介記や観戦記というわけではなく、 著者の思考が、「僕はこんなにウィンタースポーツ好きなのに、なんで日本では人気がないんだろう?」 という疑問を軸に組み立てられているので、日本社会とウィンタースポーツという関係性が 各競技ごとに考察されていて、結構面白かったです。 著者は、札幌冬季五輪でのジャンプ表彰台独占という快挙の後の大会で 惨憺たる成績だったので人気が長続きしなかったというような理由をいくつか挙げていましたが、 私は、ルール改定の恣意性にあると思っています。 ノルディック複合で荻原兄弟が抜群の成績を残したらルールを変え、 ジャンプで舟木らが好成績を収めたらルールを変え、 フィギアで羽生が王者になるとルールを変え・・・・。 ウィンタースポーツは、日本人が頭角を現すとルールが欧州勢の都合の良いように変えられるという 感覚が私の中にあります。 もちろん、夏季五輪の競技でも、恣意的にルール改定をしているケースはあるのかもしれませんが、 私の印象では冬季の競技に多いような印象です。 それは、ウィンタースポーツは欧州の金持ちが優雅に楽しむものであり、 アジア人がそのトップに立つことなんて許さん!というような感情が入っているような気がします。 その点、夏季の競技は、純粋にルールの下で各国が世界一を競い合うという気持ちが 強いように思います。 「100mを走る」とか「100mを泳ぐ」とか、シンプルな競技では、どの国が勝つかも興味がありますが それ以上に「何秒を記録するか」という人類の最高到達点を見たいという感情が優先されるのかなと。 だから、ルールで小細工せずに、とにかく最速の人間を見たいという気持ちに従っているのかなと思います。 さらには、冬季五輪は人気のある国が偏ってるので、 商業的に稼ごうと思ったらその国を優遇するのが手っ取り早いですが、 夏季五輪は世界各国で注目されているので、商業的に稼ぐには、いかに各競技を面白く見せて 放映権を高くしてどれだけ多くの国に販売するかという戦略になると思います。 今回のラグビーも、聞くところによると、点の与え方が時代により変わってきたようですが より熱戦になるように、魅せるプレーが高得点に繋がるように設計を変えてきたように思えました。 スポーツに商売魂を持ち込むな!という声もあろうかと思いますが、 ラグビーW杯は、やぱりこれを商機ととらえた日本企業なり協会なりが一生懸命知恵を絞って 何年もかけて対応してきた結果、このブームに繋がっていると思います。 それを思うと、まだまだ冬季五輪では、ビジネスチャンスが小さいと見られているんでしょうね。 ![]() |
『魔球』
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- 2018/01/20(Sat) -
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東野圭吾 『魔球』(講談社文庫)、読了。
高校野球が絡んだ殺人事件。 被害者はレギュラー捕手の高校生、彼とバッテリーを組むエースピッチャーは 20年に1人と言われるほどの逸材だった。 高校生が殺害されるという展開がショッキングですが、 その事件の直後に、野球部の中で最初に議論されたのが 誰が次のキャプテンになるか、そして、エースをキャプテンにさせないためには どうしたらよいかということ。 チームメイトを喪ったことよりも、自分たちのエゴが優先されるやりとりに、 人間の嫌な一面を見せつけられました。 でも、殺人事件という、あまりに非現実的な事態に遭遇してしまうと、 こんな風に卑近な話題に逃げてしまうのかもしれませんね。 そして、警察が少しずつ犯人に迫っていくプロセスが描かれますが、 そんな中で発見される第二の遺体。 この展開は衝撃でした。 あまりに悲しい・・・・。 そこから捜査は行きつ戻りつしながら、 捜査員・高間の推理、チームメイト・田島の記憶により、 ついに真相にたどり着くと、そこには悲しい過去が。 正直、最後に全容が分かった時に、 そこまでのことをするのかしら・・・・・という思いに駆られたところもあります。 事件の被害者の在り様と、それを起こすだけの心理、引き金となった原因、 それが少しアンバランスな印象を受けました。 でも、エースの子が背負ってきた過去の重さを思うと、 全ての哀しみが事件の起きた週に集約されていったのかなという気持ちになりました。 少年と犯罪の物語は、いつも読後感が悲しいです。
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『白夜行』
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- 2017/09/06(Wed) -
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東野圭吾 『白夜行』(集英社文庫)、読了。
ヒットしているのは分かってたので、読んでみたいなぁと思いながら、 あまりの分厚さに買うのを躊躇っておりました。 が、ブックオフが全品20%引きセールをしていたので ドカ買いついでに、勇気を出してエイヤッと買ってきました(笑)。 1973年に起きた質屋殺し。 その被害者の息子と、容疑者の1人だった女の娘。 2人の子どもの30歳までの人生が断片的に描かれていきます。 それぞれのエピソードが交互に描かれていくのですが、 第三者の目から見た様子で語られていくので、 その内面が見えてこず、非常に不気味な印象が積み重なっていきます。 事件当時に自宅に居なかったかもしれない息子、 容疑者の女が死んだときに、自殺ではなく事故として処理させた娘、 いずれも小学生の立場で、この設定は気持ち悪いです。 そんな子供が大きくなっていく過程で起こる不審な事件、事故たち。 レイプ事件、ハッキング事件、離婚騒動、失踪事件、そして殺人、 息子の周辺の方が、金銭的な臭いがきついので まだ現実味があるというか、想像できる範囲の犯罪の匂いですが、 娘の方は、被害者やその周囲の人が精神的に破滅してしまうような むごたらしい事件が多くて、女の執念深さというか、 怨念みたいなものを感じてしまい、本当に怖いです。 このように20年近い時間の経過の中で起きる事件を、 オイルショックやバブル崩壊などの時事ネタと絡めて 上手く時代背景を利用しながら、社会全体の心理状況や経済状況も この2人の行動のリアリティを増すように使われていて 上手い見せ方だなと感心しました。 最後まで2人の描写が交わることはないのですが、 その演出もうまいです。 刑事、探偵、会社役員、様々な人が真実を追いかけましたが、 彼らの推理も交わったり、交わらなかったり。 このあたりの匙加減が絶妙でした。 総じていうと、人間って怖い!
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『容疑者Xの献身』
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- 2017/05/04(Thu) -
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東野圭吾 『容疑者Xの献身』(文春文庫)、読了。
ガリレオシリーズ初の長編。 小説としては直木賞受賞作、映画化もされて大ヒット。 東野圭吾氏の名を知らしめた代表作ですね。 正直、ガリレオシリーズの短編集は、 科学知識を用いた謎解きがメインになっていて、 小説としては軽くてリアリティに欠ける印象受けていたのですが、 本作は長編ということで、初めて湯川センセが現実味のある存在として 作品中で躍動していると感じました。 また、冒頭に犯行シーンを詳細に描いてみせることで、 倒叙ミステリーとして、犯人と推理役のせめぎ合いが面白く、 読む手を止めることができませんでした。 しかも、その結末には、そんなどんでん返しが潜んでいるとは!!! という展開で、最後まで息のつけない作品でした。 ガリレオシリーズでは、現実世界の法則を相手にする理系の思考が尊ばれる作風ですが、 本作では数学者が主人公であり、理系の中でも抽象世界を相手にする分野なので、 上手く行ったのかなと思いました。 短編で気になったのは、トリックが自然科学に執着するあまり非現実的になっている点でしたが、 本作は、数学者的な論理的思考の世界をまざまざと見せつけてくれて、 あっぱれ!という感じでした。
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『悪意』
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- 2017/02/15(Wed) -
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東野圭吾 『悪意』(講談社文庫)、読了。
面白くて一気読みでした。 気鋭の作家とされる男と、その幼馴染の子供本作家。 引っ越し間際の男の家を訪れたら、男は殺害されていた・・・・・。 捜査に来た警察官は、子供本作家が以前勤めていた学校のかつての同僚だった。 1つの殺人事件をめぐる推理なのですが、 それを語っていく小説の形態が、 作家の手記と刑事の独白を交互に見せていくという構成で、 客観性がなく、主観的に描かれているというところがポイント。 手記のどこまでが事実なのか、どこに不自然な箇所があるのかを 突き止めていくことで、真相にたどり着いていくという展開で、 捜査自体に大きな動きや大立ち回りはないのですが、 頭の中で大きな世界が動いていくような感覚があり、面白かったです。 報道もルポルタージュも歴史書も どれほどまでに主観的な描写がなされているのかということを 思い浮かべてしまう作品でした。 日高という男のキャラクターが 随分、散漫な印象というか、固定しない印象でしたが、 その謎が解けてスッキリ!
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