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『孤高の人』
- 2016/09/12(Mon) -
新田次郎 『孤高の人』(新潮文庫)、読了。

1泊2日で北陸に行ったので、
その旅情に合う作品として、本作を持って行きました。

槍ヶ岳や穂高岳等が舞台になっており、
実際にその山々を眺めながらの読書は情感がありました。

山に入ったときの、山の描写、風の描写、雪の描写が素晴らしい。
そして、それに向き合う山男たちの周到な準備であったり、
とっさの判断であったり、思わず感動して立ち尽くしてしまう心であったり、
そういう山に対する人間の描写も素晴らしかったです。

ただ、主人公の加藤文三郎という人物は、
山歩きの能力が高すぎてパーティを組んでの行動に向かず、
単独行という能力をただひたすら伸ばしてしまったがために、
人とのコミュニケーション能力に欠ける部分があります。

それは、たぶん、他人の状況を想像し、共感し、支援するという
パーティには最も大切なのではないかと思われる洞察力が
欠けてしまっているのではないかと思います。

最後、自分の押しかけ弟子のような男に引きずられ、
冬の厳しい山歩きに挑戦というか、挑まさせられることになりますが、
その山での主人公の団体行動における判断力や行動力の
冴えなささには驚かされます。

最後までその能力は開花することはなく、
しかも、開花しないことを主人公自信が悔しいとか残念だとか
思っていないことが、これまたビックリ。

自分自身の内側から湧き上がってきた意思に対しては強い信念がありますが
他人から与えられたシチュエーションには、底なしの受け身姿勢です。

主人公のような名の知れた存在になってしまうと
扱いにくい弟子というものは、生まれてきてしまうものでしょうから、
そこをコントロールする知恵も術も持ち合わせていなかったのが
この主人公の悲劇なのでしょうね。

最後のシーン、圧巻でした。


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『芙蓉の人』
- 2015/10/10(Sat) -
新田次郎 『芙蓉の人』(文春文庫)、読了。

気象庁出身の著者が描く、富士山頂での冬季観測の記録。
これは気象予報士としては、身を正して読まないわけにはいきません。

気象観測に命をかける野中至青年の姿を、
妻の目から描いたところが本作の肝ですかね。

私財を投じて富士山頂で気象観測を単身で行おうとする計画、
しかも2時間おきの観測を毎日1人でやるつもりだったというのですから、
気象学への貢献度云々の前に、無謀すぎるというか、ある種、無計画と呼んでもよいかもしれません。

気象への思いが強すぎて、冷静に評価できなくなっているところが
学問の面白さであり、反面、恐ろしさでもあると思います。

そんな狂信的ともいえる夫の行為を全面的に支えようとする妻。
こちらもまた、狂信的です。
夫の信念が正しいと信じきっているからこそできる行為ですね。
下手に妻自身に気象の知識があると、反対したかもしれません。

こんな狂信的な観測活動は、夫婦そろって病気を背負い込むという結果になり
中断をしてしまいますが、これを武勇伝と受け止めた世論が後押しして、
富士山頂での観測施設の整備が進んでいくことになります。

時代の流れとして、いつかはそういう施設が作られたのでしょうが、
その時間を早めることができたのは、やはり野中至の功績なのでしょうね。

富士山頂における高層気象観測は、日本の天気予報において欠かせない判断材料であり、
それだけでも深く勉強すると面白いだろうなぁと感じつつも、
余裕がなくて手が回っておりません(苦笑)。

いつか、しっかり、勉強してみたいものです。


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『先導者・赤い雪崩』
- 2013/06/15(Sat) -
新田次郎 『先導者・赤い雪崩』(新潮文庫)、読了。

6月、梅雨時のはずなのに、晴天続きで暑いですなぁ・・・。
というわけで、涼を感じられるように冬山の作品をば(笑)。

ところが、冬山を舞台に起こるのは殺人、争い、足の引っ張り合い(苦笑)。
ドロドロの内容が多かったです。

新田次郎作品には、「山そのもの」の話を期待しているので、
殺人が起こった場所が登山中だったという物語は、
イマイチ面白みに欠けました。
本作は、そういう短編が大半だったので残念。

「嘆きの氷河」は、起こったことは三角関係による殺人でしたが、
氷河の描写が興味深かったです。

また、「まぼろしの雷鳥」は、八ヶ岳では絶滅したと考えられた雷鳥の写真を
素人登山家が撮ったことによる盛り上がりを描いていて、
本作中では最も山男の本来の姿を描いていて面白いと感じました。


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『山が見ていた』
- 2012/10/05(Fri) -
新田次郎 『山が見ていた』(文春文庫)、読了。

短編集です。

うーん、純粋な小説として読むと、
あんまり刺さってくるものがありませんでした。
物語の展開としても、短編のオチとしても、弱い印象です。

山が出てくると、やっぱり期待してしまうのは、
八甲田山のせいですね(苦笑)。


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『八甲田山死の彷徨』
- 2006/09/07(Thu) -
新田次郎 『八甲田山死の彷徨』(新潮文庫)、読了。

古本は、大抵ブックオフで50冊程度のまとめ買いをするので、
後になって「こんな本買ってたんだ」と思うようなことが結構あり、
この本もそんな一冊。
もしかすると、柳田邦男氏あたりが推薦していたのを買ったのかもしれませんが、
記憶定かならず。

で、「どんな本かな?」と不安に思いつつも読み始めてみると、
序章からハマッてしまいました。
ダラダラとした前置きもなく、サクッと本題に入る文章が心憎いです。

日露戦争開戦を前に、八甲田山系で雪中行軍の訓練を行い、
見事生還を果たした弘前三十一連隊の徳島部隊と
生還率5%となった青森五連隊の神田部隊。
物語性の強いノンフィクション作品ですが、
ともすれば組織論についての有益なテキストにもなりそうです。

隊長の人物像、
生い立ちから来る環境や背景の違い、
上官の人物像、
部隊の構成人員の違い、
準備時に得られた経験の違い、
天候の影響、
運/不運、
・・・・・・・・・・・・

一つ一つの要素は小粒でも、
それらが重なり合うことで大災害という結末を迎えてしまう・・・。
それは、どんな人災や事故事件においても言われることであり、
八甲田山の遭難事故においても、
これらの負の要素を個々の事象に留め置くことの出来た徳島部隊は生還し、
負の連鎖を断ち切ることができなかった神田部隊は壊滅状態となった・・・。

様々なノンフィクション作品から学ぶことのできる事故防止の要とは、
結局「負の連鎖の遮断」に尽きると思いますが、
たとえ同じ教訓しか得られなくとも、
実話が持つ物語の力強さの前には、惹き込まれて読み進めてしまいます。

雪山での猛吹雪とそれに伴う人体への影響の描写が生々しく、
気象学者であったという作者の本領発揮です。
また、読後に作者のことを調べてみたら、数学者の藤原正彦氏のお父様ということを知り、
科学者でありながら文章の才能がある血筋なのだと驚きました。


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