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『塗仏の宴 宴の始末』
- 2023/07/20(Thu) -
京極夏彦 『塗仏の宴 宴の始末』(講談社ノベルズ)、読了。

東京出張で、この巨大ボリュームの2巻ものをやっつけるつもりでしたが、
結局上巻しか読めず、帰ってから残りを読んでいたら時間かかっちゃいました。
京極作品、やっぱり覚悟が要りますね。

さて、上巻の『~支度』は、短編集で、登場人物や事件の背景は底で繋がっている感じですが
エピソード自体は個別の話が6本収められていました。
それぞれで語られる「謎」については、「後催眠」というキーワードでトリック的な部分は
解説されていますが、事件の背景というか、社会背景というか、そういう大きなものについては
全く解明されないまま『~始末』に持ち越しとなります。

で、『~始末』の方は、一本の長編として構成されていますが、
こまめに場面が変わり、話者の視点も変わるので、なかなか読んでいて混乱しちゃいます。
そもそも、登場人物が多すぎ!

しかも、過去の事件の被害者だったり関係者だったりも登場してきて、
シリーズ全体をきちんと順番通り読んでいない自分としては、
細かな背景が理解できてないので、そこは残念でした。
シリーズを通しての仲間の登場人物たちがたくさん出てくるので、
集大成的な作品なのかな?

肝心の大きな視点での背景については、
京極作品だから、なんとなく納得できる事件の展開ですが、
もし他の著者の作品だったら「そんなんありか!?」と思っちゃいそうです。

「謎」の解明に関しては、自然科学的な視点、人文科学的な視点、社会科学的な視点の
3つの柱があるように思うのですが、『~支度』では、自然科学的な視点が軸で
面白く読めました。

『~始末』は、どちらかというと哲学的な人文科学的な視点が軸になっているように感じました。
佐伯由布と益田の間の、自我とか人生とかに関する議論は興味深かったです。
一方で、これだけカルトが跋扈する話なら、社会科学的な視点での深掘りも欲しかったなと
感じました。

「不思議なことなど何もない」というセリフは、人間の思い上がりなのか、
それとも真実を探求する心の表れなのか、気になるところですね。




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『塗仏の宴 宴の支度』
- 2023/07/14(Fri) -
京極夏彦 『塗仏の宴 宴の支度』(講談社文庫)、読了。

私が京極作品を読んでいるのを見た友人から、
「『塗仏の宴』が一番面白いよ」と教えてもらったので、ブックオフで買ってきました。

「宴の支度」と「宴の始末」の上下巻のような形ですが、
片方で1000ページ近い大作なので、かなり覚悟がいる本です・・・・・。
3日間出張の予定が入ったので、移動時間を全部読書に充てるつもりで読み始めました。

冒頭の章「ぬっぺらぼう」は、百鬼夜行シリーズレギュラーの小説家の関口巽が主人公。
取材を頼まれ、伊豆韮山の山中にかつてあったとされた戸人村について現地に調べに行くことに。
地図には載っておらず、周辺地域の住民も誰も記憶にない村なのに、
戦時中の新聞記事に、その村で起きた皆殺しかのような大量殺人の噂が掲載されており・・・・。

関口と、以前戸人村に駐在していた記憶がぼんやりとある元警察官の男、
そして現在の韮山の駐在所の警察官と、郷土史家の男のそれぞれの会話で物語は進んでいきますが、
何かが起きた場面の描写ではなく、会話の言葉だけで空想していくので、
勝手に不気味な感じを思い描いてしまい、恐ろしいです。

佐伯家という謎の庄屋のような存在と、その庄屋の大きな屋敷は今やうっそうと茂った木々の中に
廃屋として存在し、村の他の家々は、空き家になったものもあれば
人が住んでいる家もあるものの、戸人村についての記憶を持っている者はなく、
何十年も前からここは韮山だと証言します。

この「戸人村の消失」に関する謎解きは、この「ぬっぺらぼう」の章内で行われますが、
佐伯家は?ぬっぺらぼうの謎は?という部分は触れられないまま次の章へ。

次の「うわん」は、舞台が静岡の町中に代わり、「成仙道」というカルト集団が
家々を回って信者獲得に動いている様子と、どこから来たのかわからない男の自殺未遂騒動が
描かれていきます。
あれ?佐伯家は?戸人村は?と思いましたが、この章はこの章で別の物語となっています。

さらに次の「ひょうすべ」では、再び関口と京極堂が登場してきますが、
少し時間が経過しているのか戸人村の話とはまた別の、華仙姑処女という占い師の話でした。

全部で6つの章があるのですが、登場人物たちが代わる代わる登場してきたり、
百鬼夜行シリーズのレギュラーメンバーたちがいろいろ登場してきたりするのですが、
連作短編集というほど繋がりが明確に描かれているわけではなく、
でも、「カルト」「後催眠」というようなキーワードで根底の部分は繋がっているようで、
不思議な一冊となっています。

最後、初出一覧が載っていましたが、なんと、章の1番目、3番目、5番目が
それぞれ別の時期に発表された短編で、間に挟まる2番目、4番目、6番目の章は
本作のための書下ろしとのこと。
最初から、この一冊にまとめる構想があったのかどうか分かりませんが、
こんな複雑なつくりかたをして「宴の支度」として一冊にするとは、なんと凄い力業かと驚きました。

結局、6章全部を読んでも、結末らしい結末は得られず、
どちらかというと6つの謎を提示された状態です。
後半、「宴の始末」で、どんな風な結論になるのか楽しみで、早速手を付けたいと思います。




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『百器徒然袋 風』
- 2022/12/09(Fri) -
京極夏彦 『百器徒然袋 風』(講談社NOVELS)、読了。

約10年ぶりぐらいの京極作品。
なんてったって、分厚いですからねー。
何冊かいただきものがあるのですが、積読のまま溜まっていく一方です。

先日、東京出張に持って行ったのですが、
なんと続きものの2冊目の方を持っていってしまい、読めず。
かさばるのに自分アホですねー。
しかも帰宅後に1冊目を探したら、持っていないという・・・・ブックオフで買わないと・・・・。

というわけで、京極作品を読む気にはなっていたので、
積読の中から別の本を。

本作も、シリーズ物の2冊目のようでしたが、どうやら探偵小説の中編集のようなので、
途中からでも行けるかな?と読んでみました。

榎木津薔薇十字探偵と、その下僕たちの物語ですが、
主人公は、下僕じゃないのに騒動に巻き込まれ続けている図面書きの本島君。
彼は凡人中の凡人で存在感のない男として描かれていますが、
これほど奇妙奇天烈な男たちに愛されているのは、それだけで変な人ですよ(苦笑)。

この本島君が、友人の近藤君と一緒に訪れた豪徳寺の参道で
たまたま出会った女性2人組の相談を受けることになり、
それを最終的に榎木津探偵事務所に持ち込むことで騒動が激化します。

そして、収録されている3つの事件は、別々のものかなと思っていたら、
黒幕は繋がっていて、連作集のような流れでした。
しかも、この黒幕に榎木津が狙われる元凶になった「伊豆の事件」というのは
どうやら長編作品として先行発表されているようですが、
そこもあんまり気にせず本作は楽しめました。

何より、コメディタッチで、この主人公の本島君が全ての登場人物の変な行動に
心の中でツッコんでいくので、それを軸に読んでいけば楽しめます。
小心者の凡人なので、あくまで「心の中で」のツッコミであり、
変人たちの暴走は一向に収まらず、好き放題に暴れてます。
凡人の本島君は心の中でツッコミながらも巻き込まれ被害は全く止まらず、哀れ哀れ。

そこに、中禅寺の博識が挿入され、なんとなく実のある話を読んだような気になりますが、
でも全体を通すとバカバカしいという。

ページ数の多い大作ですが、中身は軽いという、まぁそれはそれで面白かったです。




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『百鬼夜行 陰』
- 2013/02/17(Sun) -
京極夏彦 『百鬼夜行 陰』(講談社文庫)、読了。

京極堂シリーズのサイドストーリーという位置づけの作品らしいです。
本編で主要な役回りを演じるキャラクターを主人公にした短編なのですが、
『姑獲鳥の夏』しか読んでない私には、本編に思い入れようがなく・・・(苦笑)。

物の怪の仕業と思わせる話から、人間の精神世界の問題まで扱ってますが、
なんだか散漫な印象を受けてしまいました。
やっぱり、本編を知ってないと、深みが感じられないようです。

600ページもある分厚い本だった割には、
読んだ後に残るものが少なくて残念。


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『嗤う伊右衛門』
- 2011/10/16(Sun) -
京極夏彦 『嗤う伊右衛門』(角川文庫)、読了。

有名な四谷怪談をモチーフにした作品です。
かなり大きく手を入れて、新しい四谷怪談になっているようですね。

一つ勉強になったのは、「お岩さん」というのは元もとの名前で、
顔が崩れたことを指したニックネームでは無いということ。
怪談物は好んで読みたいジャンルではないため、自分の無知っぷりが激しいです(恥)。

さて、京極作品ですが、前に読んだときも感じたのですが、
過剰な修飾に慣れるまでに時間がかかってしまいました。

ただ、その過剰さを受け入れることが出来ると、人物造詣の深みがありますから、
それぞれの心の内がしっかりと掴みとることができ、
物語の展開の異様さにも、きちんと付いていくことができます。
この筆力は素晴らしいです。

また、ミステリー作品としての要素も色濃く出しており、
決して探偵役が登場するわけではないのですが、
それぞれが知っている事実を順に語らせていくことで、
物事の真相に辿り付ける仕組みになっています。
このあたりのどす黒いワクワク感もお見事。

映画化されていますが、
このグロさをどこまで画面に出したのだろうかと、気になるところです。
でも、怖いの嫌いなので、多分、見ないですけど・・・・。


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『姑獲鳥の夏』
- 2010/08/15(Sun) -
京極夏彦 『姑獲鳥の夏』(講談社文庫)、読了。

初の京極作品でございます。
おがさわら丸の船中で読書に耽ろうと思い、この大作を持っていきました。

京極作品というと、横溝正史のような、おどろおどろしいものと
勝手に思い込んでいて、今まで遠慮してきたのですが、
さほどホラー色は感じませんでした。

最初の、京極堂が巽に語った理屈尽しは、なかなか読み進めるのが大変でしたが、
京極堂の思考回路や世界との接し方が頭に入り、
これは、ホラーではなく、非常に科学的な思考の作品だとわかりました。
おかげで、事件発生後の展開がわかりやすくなりました。

事件の真相については、好みが分かれそうな気がしますが、
案外、この世の中で起きている事件というのは、
こういうものなのかもしれません。

時々、ミイラ化した遺体が民家で見つかって、
カルト的な言い訳をする家族が登場したりましすが、
それも、この作品と同じような土俵の上で起きている事象なのかなと思います。

今後、京極堂シリーズも、追いかけてみたいと思います。


文庫版 姑獲鳥の夏 (講談社文庫)
文庫版 姑獲鳥の夏 (講談社文庫)京極 夏彦 笠井 潔

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stars「姑獲鳥の夏」、タイトルからして良い
starsそういう作品なんだと思わないとダメですね。
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