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『地層捜査』
- 2022/07/24(Sun) -
佐々木譲 『地層捜査』(文春文庫)、読了。

キャリア官僚に暴言を吐いて謹慎処分になった若手刑事の主人公。
謹慎明けに与えられた仕事は、迷宮入りになった15年前の殺人事件の再捜査。
別に新たな証拠や証言が出てきたわけではなく、関係者の都議から
「自分に疑いがかかったままで気持ち悪いから解決してほしい」というクレームがあったから。

事件の舞台になった荒木町を、定年退職した相談員の所轄OBとともに
2人で歩き回って事件の真相にたどり着く・・・・・。

この荒木町という町、本作でも、小さな飲み屋が集まっている場所として描かれていますが
私も東京でサラリーマンをした居た頃、よく飲みに誘っていただいた上司から
「最近、荒木町にはまっててさぁ~」という話を聞き、気にはなっていたのですが、
結局、その上司と飲みに行くことはありませんでした。
会社から近い池袋から数駅の範囲で飲むことが多かったので。

ただ、住居が新宿区だったので、あちこち散歩する中で、荒木町周辺は何度か歩きました。
荒木町を意識していた訳ではなく、四谷方面や新宿方面に散歩するとき、
曙橋のあたりを通っていきました。
で、先の上司の荒木町云々という話を聞いた後で、「あ、荒木町ってこの辺か~」と
散歩の途中で発見したような次第です。
通ったのは昼間でしたが、その時に見た町のディープそうな雰囲気から
「こりゃ、おじ様に連れてきてもらわないと、女子会では使いにくそうだな」と判断。

そういう、なんとなくの土地に対するリアルな印象が記憶に残ってたので、
本作で捜査員2人が荒木町を歩き回るシーンが立体的に頭の中に蘇ってきて、
非常に面白く読めました。

というか、作品としては地味なものだと思うので、
この荒木町という町を知っているかどうかで、面白さが変わってきそうな気がします。

物語は、バブル崩壊期における地上げが行われた荒木町という舞台において
とある芸者上がりのアパートオーナーが刺殺された事件を再捜査するのですが、
地上げが横行した時代も過去のものであれば、荒木町が花街だったのも過去のこと。
現代の若手刑事が、2つの過去が重なる街で殺人事件を捜査するという枠組みに、
ビジネス世界の厳しさと、時代が変わっていく厳しさの両面が感じられる
重みのある作品で、興味深く読みました。

この若手刑事と、サポートについたOB刑事が
それぞれ別の筋読みをしていながら、お互いを尊重して協力はきちんと行うという
大人な関係を作っていくため、そこも面白かったです。
変に自我を通して対立するのではなく、相手を尊重しつつ自分の意見も伝えていく
その大人な対応には、ビジネスマンとして学ぶべきところもありました。

途中で、別の殺人事件も見えてきて、複雑な雰囲気を漂わせていきますが、
正直、大元の事件の真相については、あんまり好みの展開ではありませんでした。
というか、その真相が顕わになるプロセスにおけるOB刑事の関与の仕方が
それまでのOB刑事の捜査姿勢に対する私の評価を傷つけるような展開で、残念でした。
まじめな刑事はまじめな刑事であって欲しかったです。情より役目。




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『愚か者の盟約』
- 2022/07/01(Fri) -
佐々木譲 『愚か者の盟約』(講談社文庫)、読了。

超久々の佐々木譲作品
「ポリティカル・スリラー」という紹介文だったので、
日本の政界を舞台にしたフィクションの権力闘争の話なのかなと思いきや
北海道選出の社会党の衆議院議員とその第一秘書を主人公コンビとして
社会党の躍進やリクルート事件など実際に起きた事件を描いていきます。

実在の人物や政治団体、企業があれこれ登場してくるので、
事実を再現した政治小説なのかと思いきや、主人公には具体的なモデルは居なさそうです。
一方で、小説としての盛り上がりという点では、
政局の盛り上がりに反して描写が淡々としているので、イマイチ乗り切れず。

後半は、自民党と社会党の55年体制の崩壊を描いており、
実際に非自民連立政権が誕生する2年前に本作を書き上げているのは
すごい想像力というか取材力と洞察力だと驚きました。
ただ、「当時の社会党にこんな政局を牛耳る力はないだろうに・・・・・」という感想も。

本作は結局主人公コンビはフィクションなのだろうと思いますが、
非自民連立政権が誕生裏話は、リアルな政局を小説風にした作品で
一度読んでみたいなぁと思いました。

小説としての本作は、弁護士あがりで清廉熱心な二世議員と
その第一秘書のコンビで話が進んでいきますが
特に第一秘書の政局を読む力と、社会党としての建前よりも本音の権力奪取を重視する姿勢に
非常に興味を覚えました。
ただ、この手のやり手秘書は、自民党の秘書だと言われると違和感ないですが、
社会党にこんな人材いるのかな?とも思ってしまいます。失礼な話ですが。
昔は居たのかな。おたかさん時代は。

一方、議員センセの方は、そんな監視役も担う秘書に反発を覚えながら
結局は秘書の敷いたレールの上を走っていくような政治活動なので、
なんだかあまり共感できず。

終盤、女性レポーターとの最後の電話のやり取りのシーンは、
ここまで政局をしっかり描いてきたのに、なんだこの紋切り型の女性像は!
というので、私は別にフェミニストではないですが、
つまらない女性キャラクターに落としちゃったなぁ・・・・・と思ってしまいました。

それなりに根詰めて読んだ感じではありましたが、
いろんな要素の結果、満足感がなんだか中途半端になってしまった作品でした。




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『暴雪圏』
- 2015/09/11(Fri) -
佐々木譲 『暴雪圏』(新潮文庫)、読了。

冒頭、様々な登場人物たちが一気に登場してくるので、
1人1人を頭に入れるのに苦労しました。
なんだか、どの人物も、社会に対して前向きさが感じられないというか、何というか・・・・・。

雪解けの河原で女性の変死体が見つかり、
一方で、暴力団の組長の家では強盗殺人事件が勃発しますが、
意外と両方の事件は、大きな変化を伴うわけでもなく、淡々と事件後の動きが展開していきます。
ま、現実の世界は、こういうものなんでしょうね。

ページ数のボリュームが多い割には、
淡々と物語が進んでいくので、途中でちょっとダレてしまいました。

最後に何か凄い展開が待っているのかも・・・・と期待しましたが、
最後まで田舎の人間模様を描いた作品というスタイルを貫いた印象です。

ま、こういう作品もありなのかな。

サスペンスとか、警察小説を期待して読むとガッカリするかもしれませんが、
地方の暮らしを描いた作品としては、しっかり書き込まれているように思いました。


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『廃墟に乞う』
- 2015/08/16(Sun) -
佐々木譲 『廃墟に乞う』(文春文庫)、読了。

直木賞受賞作とのこと。
短編集ということで、読む前から嫌な予感がしていたのですが、
やっぱり、「なんで、これで直木賞なんだよ~」という印象が。

もっと読み応えのある長編小説を多数書いているのに、
賞を与えるタイミングを逃した臭がプンプン。

普通に読んでいれば、相応に面白いと思える短編集だと思います。
心療内科通いで現場から遠ざけられている主人公という設定が
上手く生かされている作品になっていると思います。

でも、直木賞受賞作と聞いてしまうと、
これじゃないよなぁ・・・・・と思わずにはいられません。

こういう読書になってしまうと、賞レースって、一体何なんだろうかと思ってしまいます。


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『サンクスギビング・ママ』
- 2014/05/29(Thu) -
佐々木譲 『サンクスギビング・ママ』(新潮文庫)、読了。

佐々木譲と言えば、警察モノが頭に浮かびますが、
本作は、アメリカをドライブしながら書き留めた風景をヒントに
小説に仕上げていったという短編集です。

へぇ~、こんな作品も書くんだ~ というのが最初の印象。

創作プロセスから、当然、アメリカを舞台にした作品が多いのですが、
冒頭に収められた表題作「サンクスギビング・ママ」が良かったです。
ほんの一時のNYの風景を切り取っただけなのに、
感謝祭の日という晴れやかさと、その祝いの輪に上手く入れない面々。
その対照性を、カラッとした筆で淡々と書いていくところが良いです。

他にも、「氷雨のフリーウェイ」「サンタフェまでの距離」などが面白かったです。

淡々とした描写なので、
作品の世界観にぐーっと入っていける感覚は味わえないのですが、
世界のどこかに、こういう出来事を体験している人が居るんだなという
存在感を感じられる短編集でした。


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『警察庁から来た男』
- 2012/11/30(Fri) -
佐々木譲 『警察庁から来た男』(ハルキ文庫)、読了。

『笑う警官』の続編。
単なる、登場人物たちが同じという意味での続編かと思いきや、
事件自体が前作から連綿と続いています。
どこまで腐敗してるんだ、北海道警!って感じです(苦笑)。

前作であれだけ世間を騒がせた腐敗事件を起こしておきながら、
その後も、本作のような組織的な犯罪機構が、そのまま道警の中に維持されていたというのは
ちょっと楽観し過ぎだろうと思いましたが、
それでも、ストーリーテリングの力で、楽しく読めました。

各キャラクターの配置が、絶妙なんですよねー。

今回も、事件の真相に辿り着くまで、正味3日間。
このスピード感が、ぐいぐい読ませてくれる原因の一つなんでしょうね。

佐々木作品、他にもどんどん読んでいきたいです。



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『笑う警官』
- 2012/09/06(Thu) -
佐々木譲 『笑う警官』(ハルキ文庫)、読了。

北海道警の不正事件の余波として、
1人の警察官が同僚殺しの罪を負わされ、射殺命令までもが出る事態に。
かつて、おとり捜査で彼とタッグを組んだ主人公は、濡れ衣を晴らすために
仲間とともに真相究明に乗り出す・・・・。

与えられた時間は、翌日の10時まで、十数時間しかない状況で、
真犯人逮捕と疑われた警察官の身を守り通すという2つのテーマが与えられます。
この、時間とのせめぎ合いの中で、テンポ良く物語が展開していくので、
一気に読むことが出来ます。
ただ、十数時間で型をつけるために、あまりに早急に真相に辿り着いてしまう感はありますが。

ラストの展開の慌しさも、
主人公の指示のもとに事態が刻一刻と変わっていくので、
一緒に場面をコントロールしているような気持ちを味わえます。

というわけで、読書としては十分に楽しめました。
ただ、ストーリーで、いくつか疑問点も。

そもそも射殺命令って、すご過ぎません???
いくら組織のために生きる警察官とはいえ、見つけたら撃て、しかも同僚を・・・
というのは、ちょっと日本では受け入れにくいのではないかと感じました。

細かい行動判断についても、真犯人を、ある種自由にしてしまう対応は疑問でした。
(その後の展開は十分に予想できたはずです)
それと、裏切り者の動機がいまいちピンと来ませんでした。
一種の保身なのかと思いきや、そうでもなさそうですし・・・。
ま、当人に本文中であまり言い訳をさせていないので、何とも分かりませんが。

あと、時々、場面が変わるときの最終の一文で、
思わせぶりなことが書いてあるのに、結局、何も意味をしないところがあって、
無駄に誘導しようとしているような印象を受けて、やや、そこはイラッとしました。

登場人物の一人が、携帯電話で話している場面を描き、電話相手の会話文を載せずに
「弟さんに・・・・ということを連絡したのだろう」という一文で締めると、
誰か他の人に電話をしていたようにも邪推できます。

これを章の最後にもってこられると、気になって仕方ありませんでした。
でも、後ろのどこにも繋がらず、弟さんに電話していただけという真実。
あんまり思わせぶりな文章を散りばめないで欲しいなぁ。

ま、でも、全体としては、楽しめました。


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『制服捜査』
- 2010/05/23(Sun) -
佐々木譲 『制服捜査』(新潮文庫)、読了。

最近は、面白い警察小説を描く作家さんがどんどん出てきていますね。
この作家さんの作品は初めてだったのですが、案に違わず一気読み。

北海道十勝地方の人口6,000人の町が舞台。
そこに新たに赴任されてきた駐在さんが主人公。

この駐在さんが赴任してくる背景が興味深い。
数年前に大問題になった裏金問題を始めとする北海道警の数々の不祥事。
この再発防止策として道警が実施したのは、長期勤務者の一斉異動。
これによりベテラン刑事は異動を余儀なくされ、
各署の現場力は一気にダウンしたという。

実際に発生した事件を物語の背景に上手くとり込み、
非常に説得力のある舞台装置にしています。

また、「駐在さん」という立場での事件への関与の仕方も新鮮です。
事件捜査の中心には立てず、あくまで本隊が到着するまでの場つなぎ役。
その後も、思いつくことがあっても、捜査の中枢に意見することが困難な立場。

作品の作り方としては、駐在さんの役割を超えて大活躍させるという
選択肢もあるでしょうが、本作では、あくまで組織の一員として、
主人公には分相応の動きをさせるにとどめます。
この現実的な判断が、背景にある道警の現実の問題ともリンクして、
作品全体のリアリティを非常に実感のあるものにしていると思います。

リアリティという面で一つ難があるとすれば、
こんな小さな町で大きめの事件が起こりすぎだろう・・・という点ですが、
そこは、解説でも裏事情が紹介されていました。
これは、やむなしですね。

でも、無暗に大きな事件が立て続けに起こるわけではなく、
事件の内容は、町のサイズに合っていたと思います。
ただちょっと、それらが連続して発生するというだけで(苦笑)。

いずれにしても、非常に面白く読める作品でした。
たくさん作品を出されている作家さんのようですので、
頑張って読んでいこうと思います。


制服捜査 (新潮文庫)
制服捜査 (新潮文庫)
おすすめ平均
starsもったいない、一気に読んでしまった。
stars味のある警察小説、お薦めです
stars安心して読める警察小説
stars警察小説の秀作
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