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『明日の空』
- 2017/06/21(Wed) -
貫井徳郎 『明日の空』(創元推理文庫)、読了。

貫井さんっぽくない作品でした。
叙述トリックといい、青春モノといい、イメージと違います。

文章自体はサクサク読めますし、
帰国子女の女の子が、大したトラブルもなく日本の高校生活に溶け込み、
いじめも受けずに友達を作っていくという展開は、
ちょっとキレイ過ぎて物足りなかったのですが、
ちょいちょい腑に落ちない展開が残されていき、
どんな風な真相になるのだろうかと続きが気になり、一気読み。

第1章は女の子目線の高校生活、第2章は男性目線の六本木ナイト、
第3章は再び女の子目線の大学生活、
この3つがどう繋がっていくのか・・・・・。

第1章と第2章の間で、誤解を生むような仕掛けがなされており、
第3章で真相が分かった時には、「そういうことかー!」となりましたが、
日本人と帰国子女と外国人の間に引かれてしまう線というか、
差別意識や苦手意識みたいなものについて、
それほど踏み込んだ感想が得られるかというとそうでもなく、
叙述トリックモノとしての楽しみ方しかできなかったなというのが正直な感想です。

貫井作品なら、もう一段の深みが欲しかったところです。
叙述トリックとしては面白かったですけどね。


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『ミハスの落日』
- 2016/05/05(Thu) -
貫井徳郎 『ミハスの落日』(新潮文庫)、読了。

外国を舞台にした5つの短編集ですが、
その設定にする必然性があまり感じられませんでした。

その国の独特の文化を背景にしているわけでもなく、
異文化接点を有益に使っている作品も、「ジャカルタの黎明」以外には感じられず、
むしろ、作品中の会話やト書きで、外国というより日本を感じてしまうものが散見され
作品に集中できませんでした。

知らない女性が道端で自分の腕に手を絡めてきたとき、
「キャッチセールスか?新興宗教の勧誘か?」と疑うのは、
いかにも日本的な発想な気がします。

ジャカルタの娼婦が「アリバイ」という言葉を使うのもなんだか違和感。
(これは私の偏見かもしれませんが・・・・・)

電話でペコペコ頭を下げて謝るという描写も
アメリカ人はしないだろうに・・・・と思ってしまったり。

物語としても、謎解きとしてトリックやどんでん返しの大きなものはなく、
では人間を描いているのかというと、浅いように感じました。

「サンフランシスコの深い闇」は、「二十四羽の目撃者」の続編ということで、
保険の調査員+コワモテ刑事という組み合わせが面白かったので、
この枠組みでの連作短編集とか読んでみたいですね。


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『乱反射』
- 2015/09/13(Sun) -
貫井徳郎 『乱反射』(朝日文庫)、読了。

文庫で600ページ近い作品。

正直、長いよ・・・・・・って思っちゃいました。

特に、肝心の事故が起きるまでが、とてつもなく長い。

1つ1つの要素を、積み上げ形式で見せていくので、
確かに丁寧なストーリーテリングだとは思いますが、
話の展開に意外性がなくて、途中でダレてしまいました。

真相のところも積み上げ形式なので、分かっている範囲内で
淡々とドミノが倒れていくのを見ている感じです。

一方、事故が起きた後の被害者家族(というか主に父親)の行動は
あんまり共感できませんでした。
事故の原因を探ろうと関係者を一心不乱に回る姿には憐憫を覚えますが、
会う人、会う人に対して「こいつが真の原因を作ったヤツなのか!」と
怒りが上書きされていくのは、どうかなと思ってしまいました。
新しい事実も確かに原因の1要素かもしれないけれど、
この人よりは、手前に会ってる人の方が因果関係度が高いだろうに・・・・・と
思ってしまうところもあり・・・・。
ま、取り乱しているから判断が覚束ないのだと言われてしまえばそれまでですが。

個人的には、事実の積み上げよりも、
事故が起きてから、次第に真相を解き明かしていく謎とき形式の方が
小説として楽しめたのではないかなと思いました。
関係者の誰もがそれぞれに自分勝手なので、読んでいて辟易してしまったのかもしれません。


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『被害者は誰?』
- 2015/05/10(Sun) -
貫井徳郎 『被害者は誰?』(講談社文庫)、読了。

貫井作品は、どうも、重たいものの方が私には合うようです。

本作は、警視庁捜査一課勤めの主人公が、学校の先輩に当たるイケメン・ミステリ作家に
事件解決をお願いするという安楽椅子探偵モノです。

で、このイケメン・ミステリ作家のキャラが、傲岸不遜というところで
ユーモアタッチの味付けになっているのですが、
この設定には、それほど目新しさを感じられませんでした。

事件というか、謎解きの方は、
犯人が誰か?というものではなく、
本作のタイトルどおり、被害者が誰なのかを推理したり、
目撃者が誰なのか、探偵が誰なのかを解き明かすという構成になっており、
この点は面白かったです。

ただ、事件自体が、イマイチ、この構成を成立させるために捻り出された感があり
そこは作り物めいていて、やや興ざめな感じも。

設定を重視するのか、物語を重視するのか、
なかなか難しいところですね。


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『悪党たちは千里を走る』
- 2014/01/16(Thu) -
貫井徳郎 『悪党たちは千里を走る』(集英社文庫)、読了。

重たい作品が多い印象の貫井氏ですが、
裏表紙に「ユーモア・ミステリの傑作」とあったので、試しに読んでみました。

うーん、ちょっと軽すぎるかな。
文体の軽さでユーモア・センスを狙ってるのかもしれませんが、
軽すぎて滑ってる感じです。
主人公の男詐欺師、女詐欺師、それぞれ頭脳を使っているはずなのに、
文体の軽さで、彼らの思考力も大したものではないように感じられてしまいます。
(ま、徳川埋蔵金で詐欺を働く時点で、思考力は大してないのかもしれませんが・・・・)

彼らが狙った10歳の男の子にしても、
頭脳明晰な少年であることは分かるのですが、その割にはあっさりと捕まったり、
黒幕の男が、筋肉馬鹿なのか、文武両道なのか良く分からないキャラだったりと、
なんだかストンと落ちないものがいろいろありました。


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『愚行録』
- 2013/11/04(Mon) -
貫井徳郎 『愚行録』(創元推理文庫)、読了。

相当久しぶりの貫井作品となりました。
なかなか100円で見つけられないんですよねー。

さて、本作ですが、誰もが羨む生活をしていた一家が惨殺されるという事件が発生。
その関係者たちのインタビュー集という形をとっているので、
最初は、宮部みゆき作品の『理由』みたいな流れを想像していたのですが、
何人かのインタビューをこなすうちに、
惨殺された夫婦の表面と裏面が分かってきて、その二面性にゾッとしました。
そして、関係者の中でも、その二面性に気づいている人の黙認している残酷さと
気付いていない人の愚かさ、それぞれが分かってきました。

うーん、人間って、怖い!

各インタビューの途中で、誰だか分からない兄妹の対話が妹目線で差し込まれます。
この妹は、登場人物の中のこの人かな?と当たりを付けていましたが、違ってました。
予想が外れたから言うわけではありませんが、
このパートは、私は、あまり存在意義を感じませんでした。

この作品を読むとどうしても頭に浮かんできてしまう世田谷の事件が未解決なため、
本作も犯人は不明のまま終わらせても、
「関係者の愚かさ」を描くには十分だったのではないかと思ってしまいます。
逆に、真犯人には、あまり説得力がなかったような気がしました・・・。
貫井さん的には『プリズム』があるので、犯人ウヤムヤは止めようとしたのかもしれませんが。

と、不満を書きましたが、作品自体にはのめり込めました。
特に、夫婦それぞれの人間性を語るうえで「早稲田卒の旦那」「慶応卒の嫁」というところが
重視されていて、興味深く読みました。
大学を実名で出して、ここまであからさまに学風というか学生の気質を描き、
しかもぶった斬るというのは、なかなか勇気がいることだと思います。
早慶ですから、日本の中軸を敵に回すような行為ですよ(爆)。

私は都下の国立大の出身なので、あまり都内の私立大学の人とは付き合いがなくて、
早慶の文化にも詳しくはないのですが、
一度、慶應の三田祭に行ったときに、学生さんの雰囲気があまりに自分たちと違うことに
ショックを受けて帰ってきたことがあります。
まさに、「都会の金持ちのご子息・ご令嬢様がた」というような感じで目に映りました。
一緒に行った友人たちも同様に感じたようで、早々に引き揚げてきました。

私はそれ以降、大して慶應大との接点は持たなかったのですが、
その日一緒に行った友人の中には、彼らに憧れて、インカレの繋がりを利用して
慶應生と友達になろうと努力していた男の子たちも居ました。
(友達になれたのかは聞いてないですが・・・・)
そんな記憶があったので、「内部/外部」の区別を興味深く読みました。
私の友人の男の子たちは「外部のさらに外部」に連なっていたのかなと。

でも、慶應や早稲田は、プライドが高いインテリ層が集まり、
かつ世間の注目も集める学校なので、このように極端に表現されてしまいますが、
学校ごとに排他的な文化って、やっぱりありますよね。
しかも、インテリ学校ほど、下界を排除しがちだと思います。
選民意識がありますから。自分もそうです。
自分たちでは「我が校の有意義なOB人脈」なーんて美しく表現してますけど。

「どこの大学に行くのかはしっかり考えて検討しろ」という大人の助言はその通りだと思います。
卒業後にネームバリューが誇れるとかいう表面的な話ではなく、
どれだけ人生において使えるネットワークが構築できるかが、大学の大きな価値だと思います。
研究者になる人を除いては。(研究者業界も結局はコネなのかもしれませんが・・・)

というわけで、「受験戦争を勝ち抜いたぞ!」と思っている人々にとっては
結構、残酷な作品だと思いました。
当人にとっては、ブラックな面白さでした(苦笑)。


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『転生』
- 2009/09/03(Thu) -
貫井徳郎 『転生』(幻冬舎文庫)、読了。

これは一気読みでした。

「心臓移植手術を受けた患者に、心臓提供者の記憶が移る」という
言ってしまえば荒唐無稽というか、オカルト的な要素を
思いの外上手く扱っているように感じました。
なんとか現実と折り合いを付けているというか。

「移った記憶」の部分をむやみに広げなかったのが良かったのかなと思うのと、
やはり登場人物たちの魅力で読ませたということでしょうか。

主人公はさほど特徴的でもないのですが(苦笑)、
その母親、親友の如月、隣人の雅明、夢に出てきた恵梨子・・・・・・
みんな会話が上手いんですよね。
彼らに乗せられて、サクサク読めました。

また、ことの真相についても、
突飛な事件性の高いものに仕上げるのではなく、
「心臓移植」というテーマにふさわしい「悪」だったという印象です。
真相に落ち着きがあったと言いましょうか、大人びた真相だったと言いましょうか。

おもしろい作品でした。


転生 (幻冬舎文庫)
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おすすめ平均
stars「こころ」はどこに在るの?
starsさわやかな読後感。
starsミステリー?
stars読後感が良すぎ
stars似ている・・・

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『神のふたつの貌』
- 2009/08/02(Sun) -
貫井徳郎 『神のふたつの貌』(文春文庫)、読了。

キリスト教プロテスタントの牧師の家に生まれた少年の心の葛藤を描いた作品。

「神とは」「救いとは」「福音とは」というような疑問を
父や信者や恋人にぶつけていく早乙女少年の姿に、
キリスト教に親しみを覚えられない自分の姿を重ねてみながら読んでいました。

仏教的、神道的情緒環境で育ってきた私としては、
やはりキリスト教が説く「神の救い」というものは
簡単に理解できないものなんですよね。

とうわけで、ミステリーというよりは、キリスト教の解説書のようなつもりで
読んでいたところが大きいかもしれません。

ただ、キリスト教信者として信仰するにあたり人によっては悩む部分であり、
簡単に腑に落ちる理屈ではないんだなと分かりました。
そして、それを克服するための一つの理屈の付け方というのも分かり、
私にとっては、「そういう考え方で整理するのかぁ」と発見でした。

「宗教」というものがテーマになっているということで、
『慟哭』が頭が頭にチラつきながらの読書だったのですが、
第三章の後半で急にミステリー色の濃い展開になってきたときに、
その叙述トリックも『慟哭』を思い起こさせるもので、
正直、ミステリーとして本作は、今一つでした。


神のふたつの貌 (文春文庫)
神のふたつの貌 (文春文庫)
おすすめ平均
starsミステリーとしては・・・
stars最高の解説!
stars作家の力量不足
starsテーマが重いだけに
stars重いですが

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慟哭 (創元推理文庫)
慟哭 (創元推理文庫)
おすすめ平均
stars有名作家の激賛
stars後味が悪すぎますね
stars小説だからこそ。
stars2つのストーリーの交差が面白い
starsどんでん返し以前に事件解決してないのが慟哭

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『妖奇切断譜』
- 2009/07/20(Mon) -
貫井徳郎 『妖奇切断譜』(講談社文庫)、読了。

まあまあ面白かった・・・・という感じでしょうか?
朱芳慶尚&九条惟親という推理コンビは面白かったのですが、
動機がいまいち腑に落ちず。

「名誉」が絡んだ動機なので、
万人が納得できるものではないと分かりながらも、
いまいち合理的ではなかったような。

だって、もっとも知られたくない事実は隠し通せるのかもしれませんが、
噂になってしまった部分の不名誉は取り戻せないのですから。

ここまでの犯罪を犯すにしては、
見返りが少ないような気がしました。

あと、喜八郎のほうのサブストーリーは
意外とあっさり結末を迎えてしまい、
この作品全体にどれだけの価値を提供できていたのか不明でした。

犯人も、そんなところから身元がばれるの?という
ちょっと腑抜けな感じで。

こうやって難点を挙げていくと全然楽しんでいないように見えますが(苦笑)、
江戸から明治(作中では「明詞」)に変わる転換期の東京を舞台にしていて、
新組織である警視庁の立場など、この時代独特の背景が面白かったです。


妖奇切断譜 (講談社文庫)
妖奇切断譜 (講談社文庫)貫井 徳郎

おすすめ平均
stars朱芳の病状が気にかかるー
stars「美人」に食傷・・・
stars何となく惹き付けられた作品
stars残念である
stars前作と比較して・・・

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『失踪症候群』
- 2008/06/17(Tue) -
貫井徳郎 『失踪症候群』(双葉文庫)、読了。

症候群シリーズの第一巻。
順番間違えて『誘拐症候群』から読んでしまったのですが、
チーム環のメンバーの一人である原田の家庭が事件に絡んでいて、
「あれっ?チーム環って、こんなに読者の前に姿晒すんだったっけ?」と
軽い違和感を感じながらの読書。

でも、やはり貫井作品には「追いかける」というワクワク感がありますよね。
ただエンタメ的に楽しいのではなくて、
悲しみや恐ろしさが綯交ぜになったワクワク感。
次を期待させる筆致は流石です。

物語としては、多くの失踪者の共通項を洗い出そうと
片っ端から手をつけるという捜査方針で手をつけた
最初の3人に思わぬ展開を呼ぶ人物が混じっているというのは
いささか都合いいかな?という気もしました。

また、こんな事件が絡んでるなんて捜査着手当初は誰も想定してなかったでしょ?
というような唐突感は若干ある気がしますが、
それでも、最後うまく話はまとまっていって、
「読み終わった!」という感覚は得られました。


失踪症候群 (双葉文庫)
失踪症候群 (双葉文庫)貫井 徳郎

おすすめ平均
stars砂の果実
starsまるでスパイ映画
stars症候群シリーズ第1作
stars自分自身から逃げてはいけない!
stars症候群3部作の1作目

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誘拐症候群
誘拐症候群貫井 徳郎

おすすめ平均
starsキャラクター
starsスリリングな展開♪
stars第1弾よりパワーアップ
stars匿名性
starsシリーズ第2弾もなかなか

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