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『JR上野駅公園口』
- 2022/02/15(Tue) -
柳美里 『JR上野駅公園口』(河出文庫)、読了。

東京に住んでいたときは、よくトーハクに行っていたので、
JR上野駅公園口の前は何度も通りました。

上野には、美術館に行くか、落語を聞くかぐらいで、
あんまり上野という街自体には親しみを抱いていませんでした。
ちょっとゴミゴミした感じというか、カオスな感じが苦手なんだと思います。
池袋と同じような感じを抱きます。
そのカオスを醸し出している要素の一つがホームレスの存在です。

本作では、上野公園でホームレスとして暮らしている高齢の男が主人公。
福島県の相馬で生まれ、あちこちに出稼ぎに行ったものの、
東京オリンピック開催前に東京に出稼ぎに来て、
高度成長の波にその身を洗われるようになります。

自身は平成天皇の誕生と同じ年に生まれ、長男は今上天皇の誕生日と同じ日に生まれる。
天皇家の出来事に、その祝い事による世間の盛り上がりがオーバーラップし、
一方で、地方において貧しさの中で生活している主人公が対比的な存在として描かれます。

あんまり小説に天皇陛下が登場してきた思い出がなく、
感覚が古いのかもしれませんが、なんだか不敬な感じがします。
中盤まではそこまで嫌な感じはしなかったのですが、
平成天皇の上野訪問の車列と遭遇したホームレスの主人公が向き合ったシーンで、
「あぁ、私は、この作品ダメだ・・・・」と最後に脱落してしまいました。

こういう、一般人の目の前に天皇陛下が居て、それに対して登場人物が
何か思いを馳せたり行動を起こしたりするのは、小説のシーンとして見たくないなという
そういう感覚が沸き上がりました。

一方で、天皇陛下が来るからというので、「山狩り」という、上野公園から一時的にホームレスを
追い出す対応が取られるという事実は、はじめて知ったので、
「結構、日本もえげつないことするのね~」と思いました。
冷静に考えれば、この前の東京オリンピックの前に新宿や渋谷からホームレスがどかされたりした
というニュースを目にしていたので、公権力はそういうことをするものだと分かるのですが、
オリンピックの時のように完全排除ではなく、上野公園では、天皇陛下が来るたびに、
日常的にホームレスの一時的な排除をしているということを知り、変なことに労力かけてるなぁと
思ってしまいました。

どういう経過をたどってホームレスになってしまうのか、
ホームレスの日常と一般社会はどういう風に接点を持っているのか等は、
この本を通してじっくり描かれていたので、勉強になりました。
自分の知らない世界だし、自分では入っていこうと思えない世界なので。

天皇陛下を使って小説を料理したその手法は個人的に嫌だなと感じましたが、
ホームレスの現実を一般人に突きつけようとしたら、それには効果的な手法なのかもと
最後は思えるようになりました。




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『家族の標本』
- 2021/01/14(Thu) -
柳美里 『家族の標本』(角川文庫)、読了。

著者の周囲にある様々な家族の姿を短い文章で描き出したエッセイ集という裏表紙の紹介でしたが、
私は、エッセイではなく小説として読みました。

それぐらい、濃密な家族の姿が描かれていて、
短い文章なので無駄を削った文章なのですが、
行間に人間のいやーな部分があふれ出ているようで、怖さを感じるぐらいでした。

で、人間って怖いな・・・・と思いながら前半を読んでいたのですが、
途中で気づいたのは、「著者の周りにはどんだけ重たい家族がたくさんいるんだ」ということ。
そして次に思ったのは、「どの家族も重たいものを抱えているとしたら、その闇のようなものを
周囲にいる人たちから引き出している著者の引力ってすごいな」というものでした。

ルポライターではないので、取材でそういう家族を探し当てているのではなく、
あくまで周囲の知人・友人・仕事仲間とのつきあいや会話の端々から
家族の闇を聞き出したり察知したりしているのだと思います。
その引き出し力がすごいなと。
もしくは闇を引き付ける負の力なのでしょうか。

私が最初に感じたように、小説としての創作の部分も多分に入っているのかもしれませんが、
こういう1組1組の家族の積み重ねが日本なんだなと、今の自分の立ち位置とは
違う視点で社会を眺めるきっかけになりました。




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『魚の祭』
- 2016/09/02(Fri) -
柳美里 『魚の祭』(角川文庫)、読了。

柳美里作品は、重たいから読むのしんどいんだよなぁ・・・・・と思いつつ、
表紙のきれいなベラの絵に惹かれて買ってしまいました。

が、ベラは出てきませんでした。
魚も出てきませんでした。

四男を不慮の事故で亡くした一家の通夜の日を描いた戯曲と
女子高校生5人の放課後を描いた戯曲の2本が収録されています。

戯曲なので、会話で物語が進んでいくのですが、
リズムよく掛け合いをしていたかと思えば、
突然ギラリと刃のように光る悪意や狂気。
ぁ、人間って怖いし気持ち悪い・・・・と思ってしまいます。

歪んだ家族の形が露骨に語られるのも気持ち悪いですが、
ちょっとした言葉で意図的に傷つけあう「仲良し」女子高校生5人組も
場面が日常を描いているからこそ、気持ち悪さが際立ちます。

この気持ち悪さを、普通は「闇」と表現するのでしょうかね。
そういう抽象的な表現ではなく、私は「気持ち悪い」と感じてしまいました。

とにかく、柳美里作品だなと感じさせてくれる戯曲でした。


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『私語辞典』
- 2012/10/23(Tue) -
柳美里 『私語辞典』(角川文庫)、読了。

「あ」から順番に44の言葉をピックアップしたエッセイ。

エッセイの内容は、この作者らしい露悪ぶり。
分かってはいても、そのドぎつさに辟易することも。

そんなに露悪趣味ではないものは、
視点の置き方とか、そのつなぎ方とか、面白く感じました。

構成で引っかかったのは、
冒頭に書かれている言葉の解釈が「定義」になっていないこと。
その言葉が生み出す状況を描写しているものが多く、
「辞典」と銘打っている割には、「辞典」になっていないように感じました。


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『水辺のゆりかご』
- 2007/10/21(Sun) -
柳美里 『水辺のゆりかご』(角川書店)、読了。

「柳美里」がどのようにして形成されたのかを辿る自叙伝。

読み進めるたびに気持ちが沈殿していくのですが、
読み止めることができず一気読み。

大人社会・子供社会を冷静な目で見つめ、
時に非常にシニカルな物言いをする少年少女を主人公とする作品が好きで、
これまでにいくつかの作品を読み、楽しんできました。

しかし本作は、「楽しむ」という余裕を与えてはくれませんでした。

作家本人=主人公が真正面から読者に挑んでくるような
圧迫感を受け続けたような印象です。

いじめ、家庭内のいざこざ、家族のルーツの闇、
あまりにも困難な問題に、この主人公は立ち向かわざるを得ない状況に置かれ、
わずか3歳にして、自分が置かれた環境を悟ってしまっていたかのように思います。

「柳美里は早死にするのではないか」と解説で林真理子女史が危ぶんでいますが、
まさに、生まれた時から大人の目線を身につけさせられた少女は
二十歳になるまでにどれだけのエネルギーを使い、奪われたのか。
激烈な半生を見せつけられて、こちらのエネルギーも摩耗したような感覚に
とらわれました。
それほどパワーを持った作品でした。

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『フルハウス』
- 2006/10/28(Sat) -
柳美里 『フルハウス』(文春文庫)、読了。

初めてこの方の作品に触れました。
訴訟問題等、ニュースになっている面の印象が強かったので、
これまで何となく遠ざけてしまっていたのですが、
本作は裏表紙に「家族の不在をコミカルに描いた」とあったので、
読んでみました。

ところが・・・
読後感は、「重い」「不気味」「しんどい」でした。

冷静な文章で綴られているので、
地に足が着いた世界が描かれているのですが、
突如、平穏な生活には違和感のある瞬間が登場してきます。
「きみに性的虐待はしていない」と不意に娘に言い訳する父親、
肩を掴んで話しかけてくるジョギングの男、
テレホンショッピングの商品を薦める電話を架けてくる不倫相手の妻・・・。
この異様な瞬間も、同じく冷静な文章で描かれていて、
こちらも読み進めてしまうのですが、
その場面を想像すると、なんともいえない不安な心持ちになります。
滑稽さが狂気を増大させているような。

凄い才能を持った作家さんだと実感しましたが、
今後、自分が彼女の作品を読んでいけるかは、正直なところわかりません。

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