『カラーひよことコーヒー豆』
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- 2019/09/09(Mon) -
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小川洋子 『カラーひよことコーヒー豆』(小学館文庫)、読了。
かわいらしくポップなタイトルに惹かれて買ってきました。 著者の日常を綴ったエッセイでした。 雑誌の連載だったということで、1つ1つの分量は短めで、 まさに日々の体験を書いています。 私の、小説家・小川洋子のイメージは、 完成された異様な世界を描き上げる人で、時に怖さを覚えるのですが、 このエッセイで著者が見せている素の部分というのは、 何をやるにも不安げで、周りの視線を気にして、小さなことを後悔したり。 しかし、作品に対する不安のようなものは書かれていないのですよ。 自分自身には不安だけど、自分の作品には不安がない。 これってすごいことだなと、勝手に感じながら読んでました。 小説のような切れ味の鋭さは感じませんでしたが、 洒脱な文章は、やっぱりすてきだなと思いました。 ![]() |
『人質の朗読会』
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- 2018/04/09(Mon) -
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小川洋子 『人質の朗読会』(中公文庫)、読了。
地球の裏側で開催された辺鄙な場所での観光遺跡バスツアー。 反政府ゲリラの襲撃を受け、日本人7名が人質となる・・・・。 サスペンスにも、スリルにも、アクションにもなりそうな設定なのに、 あえて「朗読会」という設定に持ち込む力技(笑)。 普通、そんな展開を考えないですわよ。 人質になってから数か月が経過し、 膠着した状況に退屈さを感じるようになった人質たちは、 時間つぶしに、自分の人生の一場面を切り取って みんなの前で披露するようになった・・・・。 冷静に考えると、いくら膠着状態でもゲリラの見張りがいる前で長文の文章を 書き残すなんてことが許されるのかしら?とか、 しかも針で地面に?とか、疑問は感じますが、 1つ1つの物語が面白いから、その辺の違和感はすぐに忘れてしまいました。 (総じて、ゲリラ側にリアリティがなかったということですかね) 子どもの頃、公園のブランコで出会った足を挫いた工員さん、 美味しくないビスケットを作る工場に通う私と嫌われ者の大家さん、 危機言語を救う友の会に迷い込んでしまった私、 どれも変な話なんですよ。 なのに、存在感が漂ってくるお話たち。 小川洋子、さすがです。 前半に自分語りをする人たちは、 なぜ、この地球の裏側のツアーに参加したのか、 直接語られていなくても、なんとなく想像できるような理由を背景に感じられて、 そこもまた上手いなぁと。 後半の人たちは、そこまで感じることができなかったので、 ちょっと物足りなかったかな。それとも、自分の読解力の問題でしょうか。 いずれにしても、小川洋子作品は、すごいです。
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『海』
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- 2017/10/14(Sat) -
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小川洋子 『海』(新潮文庫)、読了。
つかみどころのない短編集です。 架空の楽器が登場したり、いつの時代の話だろう?という感覚になったり、 え、ここで物語を閉じちゃうの?というものがあったり。 でも、小川洋子らしい作品集な気もします。 個人的に気になったのは「バタフライ和文タイプ事務所」。 和文タイプライターという道具の、今から考えるとあまりに非効率というか 逆にその複雑性を仕組化した人の凄さが分かるというか、 この不思議な道具が醸し出す雰囲気は独特です。 その活字を倉庫で管理している男という存在がまた不思議というか不気味で。 作品の世界観が深ーくなっていく舞台装置だなと思いました。 あと、一番好きだったのは「ガイド」。 市内の観光ガイドをするお母さんが率いるツアーに参加することになった息子。 息子であることが周囲にばれてはいけないと気を遣う様子が健気です。 そして、隣に座った初老の男性との交流がはじまり・・・・。 この男性の職業が変わっているのですが、私はあまりそこに意味を見出せませんでした。 男の子の健気さばかりが目について、頑張れよ~と応援したくなる心境です。 そして、この母が案内する町が、拷問室があったり、武器庫があったり、 なんだかオドロオドロシイのが、また男の子の健気さやや母親の愛情と対照的な感じで 印象に残りました。
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『原稿零枚日記』
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- 2017/01/16(Mon) -
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小川洋子 『原稿零枚日記』(集英社文庫)、読了。
不思議なタイトルだなぁ・・・・と思って買ってきたのですが、 タイトル以上に中身が不思議なお話でした。 女性作家が、原稿を書こうとするも書けない日々を 日記形式で綴っているのですが、 その毎日に起きる出来事がなんとも不思議。 苔料理専門店に迷い込んだり、 無関係の小学校の運動会に参加したり、 スーパー銭湯で子宮風呂に遭遇したり。 日記のように書かれていますが、 そこに出てくる世界は夢の中のように頼りなく歪んだ世界。 どこまでがこの作家の廻りで本当に起きていることで、 どこからが作家の妄想の世界なのか、分からなくなってきます。 全てが妄想の世界の話であり、 本当は、この作家さん自体が居ないのかも、 作家だと思い込んでいる人の日記なのかも・・・・と思えてしまいます。 なんだか、立っている世界がボロボロと崩れていくような恐ろしさ。 小川洋子、やっぱり怖いです。
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『科学の扉をノックする』
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- 2016/05/24(Tue) -
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小川洋子 『科学の扉をノックする』(集英社文庫)、読了。
著者の数学に対する熱意は 小説でも対談でも十分に堪能できるのですが、 本作ではさらに視野を広げて自然科学の専門家にお話を伺います。 小説家なのに、子供のころから自然科学に興味があったという著者。 文系/理系の枠組みに囚われない幅広な興味関心の持ち方は、 私自身もそうですし、こうやって「数学って面白い!」「地学って不思議!」という感動を 素直に表現できる姿勢に爽快さを感じます。 自然科学の専門家の先生が、 自分の分野について「こんなに面白い分野なんですよ!」と語ってくれる本にも ワクワクする面白さがありますが、 こうやって専門家ではない人が、専門家の話を聞いて、 どんな風に感動したかをじっくり書いてくれると、とても共感できる楽しい読書になります。 小説家が書く「こんなに感動した!」という文章は、 そのワクワクの臨場感が伝わってきて、自分自身が感じたように思えてしまいます。 あ、自然科学って、単純に純粋に知的好奇心を刺激する分野なんだなということが 良く伝わってきました。 それと、 人間の力など到底及ばないスケールで地球は出来上がっているのだから、 多少人間が愚かな失敗を犯しても、取り返しがつくように思える この発言には、非常に共感を覚えます。 地球への絶大なる信頼感と言いますか、人間の非力さを認める控え目さと言いますか。 地球環境に悪影響を与えないという心配りは当然必要ですが、 しかし、人間の影響力を過信するのも何だか違うように思います。 地球に住む1つの生物として、身の丈を自覚しながら生きたいものです。
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『妊娠カレンダー』
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- 2014/02/07(Fri) -
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小川洋子 『妊娠カレンダー』(文春文庫)、読了。
ちょっと体調を崩してしまい、午前中に病院に行った以外は ずーっと寝ていました。 で、夜9時ごろに目が覚めて、ぼんやりした頭で読書をば。 そんなときに読む本ではないような気もしたのですが、手元にあったので(笑)。 ちょっと精神が不安定な感じの姉が妊娠。 旦那も何だか頼りない。妊娠の喜びをあまり表に出さない夫婦。 そんな2人と一緒に住んでいる妹の目線で見た妊娠の記録。 「食べること」「話すこと」「嗅ぐこと」「不快なこと」 そんなことの緻密な描写を通して描かれる妊娠。 生命というものに対して、何だか得体の知れない怖さを感じてしまう作品でした。 そう、小川作品って、根底に不気味な怖さが流れてるんですよねー。 併録されている「ドミトリイ」も、先生の日常を想像すると やっぱり不気味なものを感じます。 それは、障害というものへの感想ではなく、障害を持った先生が持っている雰囲気への感想です。 給食室の話も、大鍋の中で茹でたジャガイモを踏み潰す長靴の足など いままで考えたことがなかったのですが、確かにその姿を目撃してしまうと 給食が食べられなくなってしまうかも・・・なんて思ってしまいました。 日常生活の中にある不気味さには、一度気づいてしまうとドヨーンとした 怖さが背中に貼り付きますね。
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『まぶた』
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- 2012/08/26(Sun) -
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小川洋子 『まぶた』(新潮文庫)、読了。
ちょっと気味の悪いカバー絵。 物語の内容は、ストレートに怖いものを描いているのではないのですが、 そこはかとなく不穏な空気が漂ってきます。 人間の持つ不気味な部分・・・ それは、悪意とか、憎悪とかいうような具体的で攻撃的なものではなく、 誰もが持っていそうな抽象的な気味の悪さとでもいうのでしょうか、 肌がそわそわするような空気を感じさせる短編集です。 まだ、小川作品をたくさん読んだわけではないので、当っているか分かりませんが、 著者の特徴的な世界観が現れているのかな?と感じました。 ただ、私の得意分野ではなく、そこが残念。 それぞれの物語には、結末らしい結末がつかないものもあり、 余韻を味わう作品だと頭では分かっていても、 やはり物足りなさを感じてしまうんです。 私の想像力の無さ、もしくは想像力を楽しむスキルの無さが問題なのでしょうけれど。 単純明快に、起承転結のある話を好んでしまう身としては、難しい作品でした。
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