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『琥珀のまたたき』
- 2021/10/20(Wed) -
小川洋子 『琥珀のまたたき』(講談社文庫)、通読。

4人兄弟の末っ子が、犬に頬をなめられた後に亡くなり、
「魔犬の呪いだ」と考えた母は、残りの3人の子供を連れて別荘に引っ越し、
さらに様々な生活のルールを課したうえ、子供の名前も変えてしまいます。
図鑑の中からランダムに選んだ「オパール」「琥珀」「瑪瑙」へと。

著者の筆力で不思議な世界観が広がっているので、なんとなく読み進めていけましたが、
でも、「これって精神的にかなり歪んだ母親と、その母親に支配された歪みに気づけない子供の話だよな」
と気づいてしまうと、私には苦手なジャンルなので、読みこなせませんでした。

登場人物それぞれにとっては、それぞれの正義なり正しさなりで行動しているのだと思いますが
そういう真っすぐすぎる思いとか、視野が狭そうな感じが、
私には恐怖を覚えてしまうので、どうにも苦手です。

もうちょっと現実社会と接点がある話だったらついていけたかと思うのですが、
それだと小川ワールドの魅力が半減しちゃうのかな。

物語のキーになるアイテムが「図鑑」という、ストーリーもへったくれもない
ただただ事実を羅列するという冷たさを持った書物であることも、
この作品のダークな雰囲気を強めているんだろうなと感じました。




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『ミーナの行進』
- 2021/02/24(Wed) -
小川洋子 『ミーナの行進』(中公文庫)、読了。

ミュンヘンオリンピックの年に、母の姉である叔母の家に1年間だけ預けられた中学生の朋子。
いとこで小学生のミーナは病弱で、発作を起こしては時々入院するほど。
学校まで歩いて通学できないので、乗り物に乗って登校します。それはカバ。

芦屋の豪勢な洋館での生活は、その建物や庭や調度品の優雅さだけでなく、
ドイツ人の祖母やハーフで良い男の叔父、穏やかな叔母、躾に厳しいお手伝いさん
何でも言うことを聞いてくれる小間使いさん等、普通の家族には無い多様性に富んだ家です。

みーんな優しい人たちで、そんな人々の愛情を注いでもらっているミーナは
聡明な女の子に育っています。
が、言葉の端々に、叔父夫婦を中心とする何だか暗い影みたいなものも見えてきます。
長期間家を不在にする叔父。明言されていないけど不倫してるみたい。
昼間からアルコールを飲んで、活字の誤植探しに夢中になる叔母。ちょっと心のバランスが悪そう。
なんだかちょっとギクシャク感を覚えてしまいます。

作品の雰囲気は温かいのに、「何かの拍子に叔父・叔母の関係が崩壊したりしたらどうしよう」
というような不安感も覚え、終盤に向けて、朋子が思いきった行動を取っちゃったりするから、
ドキドキしましたわ。

時代背景も、ミュンヘンオリンピックという、五輪の本筋のところではない事件で
世界の記憶に残ってしまった大会だったので、その背景も暗さを漂わせていたのかも。
芦屋の洋館の中は幸せでも、世界は大変な時代だったのですね。

オリンピックの描写は、朋子とミーナが男子バレーに熱中する姿が中心に描かれていますが、
そのピュアなスポーツ熱を描けば描くほど、テロの暗い影が逆に意識されてくるというか、
ギャップが印象に残りました。

物語の中では、基本的に、温かく穏やかな一家の話で満ちているのに、
常に陰を意識させられるような作品で、さすが小川洋子・・・・と感じ入る一冊でした。




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『ことり』
- 2021/02/09(Tue) -
小川洋子 『ことり』(朝日文庫)、読了。

ある日突然、人間の言葉を話さなくなった代わりに、鳥たちと会話をするようになった兄。
そんな兄が話す鳥語をなぜか理解でき家族と兄との間の通訳係になった弟。
弟が6歳の時に始まったこの習慣は、兄が亡くなるまで数十年に渡って続けられた。
そんな兄弟の姿を弟の視点で追いかけた作品。

人間との関係を遮断するかのようになった兄は当然のことながら、
通訳係の弟も人間関係を要領よくこなしていくタイプではなく、
なるべく目立たず、我が儘も言わず、自分の生活を穏やかに静かに過ごす日々。

こういうピュアな人が主人公の作品は、
この人が、誰か悪意を持った人に傷つけられないだろうか、世の中の不条理に押しつぶされないだろうかと
ハラハラと不安を抱いてしまうので、どうも居心地が良くなくて苦手な読書です。

本作も、主人公の周囲の人には、極端に悪意をむき出しにする人はおらず、
ちょっと毒のある対応をされても、ある意味、一般社会にはそういう考えの人もいるよなぁ・・・という程度です。
しかし、それであっても、あぁ、主人公が傷ついたのではないかと
心配になってしまい、次の展開が不安でなりません。

要領は良くなくても、周囲との折り合いのつけ方を良くわきまえている主人公だったので、
うまく深い傷を負わずに立ち回れているとは思いつつも、
小さな傷がたくさんありそうで、悲しいです。

この作品には、美しい側面がたくさんあると思うのですが、
それ以上に悲しい側面に気持ちが寄ってしまって、あまりうまく楽しめませんでした。
残念。




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『カラーひよことコーヒー豆』
- 2019/09/09(Mon) -
小川洋子 『カラーひよことコーヒー豆』(小学館文庫)、読了。

かわいらしくポップなタイトルに惹かれて買ってきました。
著者の日常を綴ったエッセイでした。
雑誌の連載だったということで、1つ1つの分量は短めで、
まさに日々の体験を書いています。

私の、小説家・小川洋子のイメージは、
完成された異様な世界を描き上げる人で、時に怖さを覚えるのですが、
このエッセイで著者が見せている素の部分というのは、
何をやるにも不安げで、周りの視線を気にして、小さなことを後悔したり。

しかし、作品に対する不安のようなものは書かれていないのですよ。
自分自身には不安だけど、自分の作品には不安がない。
これってすごいことだなと、勝手に感じながら読んでました。

小説のような切れ味の鋭さは感じませんでしたが、
洒脱な文章は、やっぱりすてきだなと思いました。




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『博士の本棚』
- 2019/02/07(Thu) -
小川洋子 『博士の本棚』(新潮文庫)、読了。

小川洋子さんが本への愛情を綴ったエッセイだと、裏表紙に書かれていたので
これは読みたい!と思い、買ってきました。

が、思いのほか、読書全般というよりは、個々の作品に寄った内容で、
しかもそれが海外の作品中心だったので、自分の読書ジャンルと違っていて
なかなか内容に入っていけませんでした。

「そう、それそれ!」みたいな共感できるポイントが無いというか、
「どんな物語なんだろう?」とイメージしようとしても追いつかない悲しさというか、
残念ながら、「あ、この本おもしろそう!」と触手が動くものがありませんでした。

途中、愛犬の話とかが挟まって、
むしろ、そこで、「あぁ、共感できるエッセイがやっと来た・・・」という感じで
一番楽しく読んだかもしれません。

個々の作品への思い入れよりも、
もうちょっと著者の読書スタイルなり、読書から得ていることとか
そういう部分を読みたかったなという気持ちになりました。

ただ、

本を読んでいるところを人に見られるのは何でもないが、
選んでいる姿を見られるのはどことなく恥ずかしい

という気持ちは、とても良く分かります。
こういう観点のエッセイを読みたかったな。




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『偶然の祝福』
- 2019/01/02(Wed) -
小川洋子 『偶然の祝福』(角川文庫)、読了。

一人の女性が経験した
人生の節目節目での不思議な出来事を連作短編集の形で綴ります。

冒頭の「失踪者たちの王国」。
叔父が海外で行方不明になったことで「失踪」という言葉を覚えた少女。
タクラマカン砂漠に子羊の買い付けに行って行方不明になるとか、
冷静になって考えると「なんじゃそりゃ!?」なエピソードなのですが、
なぜか小川洋子女史の手にかかると、納得してしまうんですよね。
そんなこともあるかもと(笑)。

そして続く「盗作」。
弟の身に起きた異変のエピソードが続く中、
どこに盗作の要素が出てくるんだろうかと集中しながら読んでいったら、
最後の最後に。
途中でそうなるかもと思いつつでしたが、
それでもやっぱりそうなると、それしかないわよね~となぜか納得。

次の「キリコさんの失敗」。
キリコさんというお手伝いさんの不思議な存在感が面白いです。
少女の悩みや問題を解決してくれる魔法のお姉さん。
でも、なぜか不穏な空気をまとっていて、健全な感じがしません。
そこが魅力です。

後半は、ちょっとダレてしまった感が。
自分の集中力が続かなかったせいかもしれません。
前半ほどのパンチ力を感じませんでした。
主人公の立場が母親という現実的な重みのあるものを背負ってしまったからかな。

いずれにしても、小川洋子作品の面白さが味わる本でした。




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『最果てアーケード』
- 2018/12/16(Sun) -
小川洋子 『最果てアーケード』(講談社文庫)、読了。

安心の小川洋子クオリティ。

世界で一番小さなアーケード、
何かの拍子にできた世界の窪みのような、ひっそりとした商店街。
その商店街の大家の娘の視点から、商店主や常連客の姿を描いていく連作短編集。

私自身がアーケード街の中にあるお店舗兼住居で生まれ育ったので、
アーケードが舞台というだけで心惹かれます。
しかも、小川洋子作品であれば、きっと不思議なテイストが加えられ、
斬新な仕上がりになっているんだろうなぁと期待膨らみまくりで読みました。

結果、期待の上を行く面白さ!
さすが、小川洋子さん。

使い古しのレース専門店、義眼屋、ドアノブ専門店、
こんな店が隣り合って並んでたら、さぞ不気味でしょうね(苦笑)。
1軒だけでも異様な存在感だと思います。

そんなヘンテコな店々が集う商店街の大家は、火災で亡くなり、今は娘ひとり。
この娘はどうやって生計を立てているんだろうかと
普通なら疑問が湧いてくるだろうに、この商店街なら、こんな生活もあり得そうと思えてしまう
そんな小川ワールドが広がっています。

一見、どのお話もファンタジーテイストなのですが、
冷静になって読んでいくと、そんなマニアックな店を真面目にやってる店主も異様なら、
そんな店にせっせと通い続ける常連客も異様なわけで、
ちょっと狂気の香りが漂ってくる感じです。
そこがまた小川ワールド。

死の影も、結構どの話も色濃く感じられて、
正直なところ、あまり幸せそうに感じられないアーケード街。
そんなところも含めて、「最果て」なんでしょうね。




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『人質の朗読会』
- 2018/04/09(Mon) -
小川洋子 『人質の朗読会』(中公文庫)、読了。

地球の裏側で開催された辺鄙な場所での観光遺跡バスツアー。
反政府ゲリラの襲撃を受け、日本人7名が人質となる・・・・。

サスペンスにも、スリルにも、アクションにもなりそうな設定なのに、
あえて「朗読会」という設定に持ち込む力技(笑)。
普通、そんな展開を考えないですわよ。

人質になってから数か月が経過し、
膠着した状況に退屈さを感じるようになった人質たちは、
時間つぶしに、自分の人生の一場面を切り取って
みんなの前で披露するようになった・・・・。

冷静に考えると、いくら膠着状態でもゲリラの見張りがいる前で長文の文章を
書き残すなんてことが許されるのかしら?とか、
しかも針で地面に?とか、疑問は感じますが、
1つ1つの物語が面白いから、その辺の違和感はすぐに忘れてしまいました。
(総じて、ゲリラ側にリアリティがなかったということですかね)

子どもの頃、公園のブランコで出会った足を挫いた工員さん、
美味しくないビスケットを作る工場に通う私と嫌われ者の大家さん、
危機言語を救う友の会に迷い込んでしまった私、
どれも変な話なんですよ。
なのに、存在感が漂ってくるお話たち。
小川洋子、さすがです。

前半に自分語りをする人たちは、
なぜ、この地球の裏側のツアーに参加したのか、
直接語られていなくても、なんとなく想像できるような理由を背景に感じられて、
そこもまた上手いなぁと。
後半の人たちは、そこまで感じることができなかったので、
ちょっと物足りなかったかな。それとも、自分の読解力の問題でしょうか。

いずれにしても、小川洋子作品は、すごいです。


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『海』
- 2017/10/14(Sat) -
小川洋子 『海』(新潮文庫)、読了。

つかみどころのない短編集です。
架空の楽器が登場したり、いつの時代の話だろう?という感覚になったり、
え、ここで物語を閉じちゃうの?というものがあったり。
でも、小川洋子らしい作品集な気もします。

個人的に気になったのは「バタフライ和文タイプ事務所」。
和文タイプライターという道具の、今から考えるとあまりに非効率というか
逆にその複雑性を仕組化した人の凄さが分かるというか、
この不思議な道具が醸し出す雰囲気は独特です。
その活字を倉庫で管理している男という存在がまた不思議というか不気味で。
作品の世界観が深ーくなっていく舞台装置だなと思いました。

あと、一番好きだったのは「ガイド」。
市内の観光ガイドをするお母さんが率いるツアーに参加することになった息子。
息子であることが周囲にばれてはいけないと気を遣う様子が健気です。
そして、隣に座った初老の男性との交流がはじまり・・・・。
この男性の職業が変わっているのですが、私はあまりそこに意味を見出せませんでした。
男の子の健気さばかりが目について、頑張れよ~と応援したくなる心境です。
そして、この母が案内する町が、拷問室があったり、武器庫があったり、
なんだかオドロオドロシイのが、また男の子の健気さやや母親の愛情と対照的な感じで
印象に残りました。


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『原稿零枚日記』
- 2017/01/16(Mon) -
小川洋子 『原稿零枚日記』(集英社文庫)、読了。

不思議なタイトルだなぁ・・・・と思って買ってきたのですが、
タイトル以上に中身が不思議なお話でした。

女性作家が、原稿を書こうとするも書けない日々を
日記形式で綴っているのですが、
その毎日に起きる出来事がなんとも不思議。

苔料理専門店に迷い込んだり、
無関係の小学校の運動会に参加したり、
スーパー銭湯で子宮風呂に遭遇したり。

日記のように書かれていますが、
そこに出てくる世界は夢の中のように頼りなく歪んだ世界。
どこまでがこの作家の廻りで本当に起きていることで、
どこからが作家の妄想の世界なのか、分からなくなってきます。

全てが妄想の世界の話であり、
本当は、この作家さん自体が居ないのかも、
作家だと思い込んでいる人の日記なのかも・・・・と思えてしまいます。

なんだか、立っている世界がボロボロと崩れていくような恐ろしさ。

小川洋子、やっぱり怖いです。


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