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『ひなた』
- 2021/09/20(Mon) -
吉田修一 『ひなた』(光文社文庫)、読了。

千葉のヤンキーだったのに、大学へ行き、ちゃんと勉強したことで
有名ブランドの広報担当に就職できた新社会人の女の子。
その彼氏で、一浪したのでまだ大学生の男の子。
その義姉で雑誌編集者のバリバリキャリアウーマン。
そしてその夫の信金職員で、趣味で劇団をやっている男。
この4人の1年を、季節ごとに順番に描いていく構成になっています。

最初は、吉田修一的な平板な日常を淡々と描いていく作品なのかと思ってたのですが、
この兄夫婦が実家に同居するようになり、さらには両親がバンコクに移住して居なくなり
そこへ兄の友人が転がり込んでくるという展開に、私は
「なんでそうなるの??」という違和感というか不気味さを覚えてしまい、
そこからは、本作は、背筋がゾゾゾという感じの作品という位置づけになりました。

読み終わってから思ったのは、この兄嫁の思考回路や行動力が恐怖の根源なんだなということ。
結婚後、夫婦2人で暮らしていたのに、嫁が「実家で同居しよう」と言い出して
引っ越してくるという展開がまず謎です。
夫の親のどちらかが介護が必要になったとか、子供が出来て育児を助けてほしくなったとか
そういうわかりやすいきっかけがあるならともかく、何もなしに、まだ大学生の弟が同居してるのに、
しかも自分はバリバリのキャリアウーマンで深夜帰宅もしょっちゅうあるという不規則生活なのに
兄嫁自身の発案で引っ越してくるというのが、普通の発想じゃないなと。

そして、夫が友人と毎週のように遊んでいても不満を持たないし、
しかも、離婚して職も失ったという友人が転がり込んできて何か月も住み着いていても
嫌な顔をせずに受け入れている嫁というのも、不気味です。
裏があれば腑に落ちるのに、裏らしい裏がないので、私には、不気味に思えます。

パーソナルスペースという感覚がこの人には無いのかしら?という疑問。
それが、「だから人物にリアリティがいないんだ!」という造形への不満に繋がるわけではなく、
なんだか、こんな人が居そうに感じてしまうので、そこが怖くて不気味なんです。
静かなタイプの吉田作品の怖さですね。

弟とその彼女が、弱いなりに社会の中で頑張ろうとしている姿と比較してしまうので、
なおさら、この兄と嫁の、社会の中でちゃんとしたポジションを持っているけど内面が不気味という
対比に恐怖を感じてしまいました。

Amazonで見ると、評価が結構分かれている作品のようですが、
この不気味さを受け入れられるか否か、または鈍感でいられるか否かの違いなのかなと感じました。
私は、不気味だったけど、こんな人居そう・・・・・と思えてしまう説得力を感じてしまったので
作品としては読後感が悪いけど、よくできた作品なんだろうなと感じました。




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『横道世之介』
- 2021/04/03(Sat) -
吉田修一 『横道世之介』(文春文庫)、読了。

吉田作品は、ドロドロしたものからカラッとしたものまで振り幅が大きいので
いつも新しい作品を読むときに楽しみなのですが、
本作は、あんまり私には合わなかったです。

男子大学生が主人公ということで、爽やかでちょっとおバカな青春小説かと思っていたのですが
爽やかというよりも、少し無関心さが気になってしまい、作品に入っていけませんでした。

入学式の日に最初に友だちになった男友達と、教室で最初に会話を交わした女友達と
3人で一緒に過ごすようになり、サークルも3人で同じところに入り、サークル新入生はその3人のみ。
私の中では、これって相当親しい間柄になっていく設定だと思うんですよね。

なのに、主人公は、この2人との関係がいつの間にか距離ができるようになり、
たまたま食堂で言葉を交わした男の家に入り浸るようになり、毎日のように寝泊まりするように。

そして、さらに、季節が変わりクーラーが要らなくなったら、この男の家にも寄り付かなくなり
自分の部屋で過ごすようになります。

あらー、ずいぶん、あっさりした人間関係なんだなぁ・・・・・と思ってしまいました。
関係が希薄というか。
まぁ、私自身が、サークルよりももっと体育会系に近い文化の組織に居たので、
同期や先輩・後輩と活動時間も遊びの時間も一緒に居たことが多く、
普通の大学生よりも閉鎖的な人間関係の中に浸かっていたという可能性もありますが・・・。
主人公のような、どんどん人間関係の軸が変わっていく方が普通なのかも。

でも、私は、濃厚な人間関係の中でやりとりされる青春のバカバカしさみたいなものが好きなので
単に好みが合わなかったというところかなとも思います。

というわけで、大学生時代の描写には、あんまり共感を覚えられませんでした。

しかし、そんな大学生時代の描写の合間、合間に、
彼らが年を重ねて30代、40代になったときの様子も描かれています。
ここに、吉田作品の厚みというか、人生というものに対する厳しく重たい視線が置かれていて、
あぁ、青春はキラキラしてても、現実世界はこんな感じで曲がっていくんだろうなぁ・・・・・と納得。
キラキラの物語でまとめるのではなく、その後も冷たく描いてしまうのが吉田作品の厚みかなと。

で、主人公やその周囲の人のその後が描かれるんですが、
主人公のその後は思わぬ展開に繋がっていき、「え、そういう作品だったの?」と、
そこに私はついていけなかったので、読後感がイマイチだったのかなと思います。
Amazonでは非常に評価が高い作品ですが、このその後の展開が全てではないでしょうけれど、
この展開を受け入れられると、大学生時代のバカさ加減も別の意味を持って見えてきて
多面的で面白い作品だったという感想になるのかな。

私は、この、その後の展開が、現実社会のとある事件と繋がっている点で、
小説世界の中で世界観を完結させるのではなく、現実社会で多くの日本人が感じ入ることがあった事件に
投下させる手法が、ちょっと小説作品としては、逃げのように感じてしまい、受け入れにくかったです。
唐突感も覚えましたし。

最後、読み終わってから裏表紙を見たら、「本屋大賞第3位」とのことで、
あぁ、やっぱり私は本屋大賞と相性が悪い・・・・・という結論になりました(苦笑)。




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『犯罪小説集』
- 2020/11/11(Wed) -
吉田修一 『犯罪小説集』(角川文庫)、読了。

独特なタイトルの作品が並ぶ短編集。
いずれも犯罪が関わってくる物語です。

冒頭の「青田Y字路」。
小学生の女の子が、学校からの帰宅途中で、友達と別れた後に行方不明に。
大人たちが必死に探し回りますが、用水路でランドセルだけが見つかっただけ。
そのまま10年がたち、また同じ通学路の途中で小学生の女の子が行方不明に。
10年前と今回の騒動の中で、あの男が怪しいという住民たちの思いが一気に爆発して・・・・。

不用意に高まった緊張感がなせる悪判断というか、群集心理というか、
人間の恐ろしいところが描かれています。
社会的に弱い者が追い込まれて、コミュニティの中で潰されていく姿。
人間がやさしく思いやりのある日々を送るには、治安の良さ、経済環境の良さ、衛生環境の良さなど
社会の質を高めることがいかに重要なことなのかが、一つの具体的な事象の中で見せつけられる思いです。

続く「曼珠姫午睡」では、何年も会ってない高校時代の同級生が、
不倫の果ての三角関係で殺人事件の容疑者になったという報道に接した主婦が主人公。
この話あたりから、「あれ、なんだか現実世界でもこんな事件が起きていたような・・・・」と
リアルの世界と小説の世界がオーバーラップしていく感覚に陥りました。

世の中、日々、何かしらの事件・事故が報道されており、それを見る方は一つの情報として
消費してはすぐに忘れてしまうということの繰り返しですが、
その事件の関係者は、こんな思いを巡らせるんだということが想像できる作品でした。
この作品で描かれる容疑者の女の高校生の頃の描写も不気味ですし、
その後の人生の断片的な描写もなんだか気味の悪さを感じさせます。
でも、もし、私がこの女の人と高校の同級生だったとしても、当時は、付き合いにくさを覚えたとしても、
まさか将来殺人事件を起こすだなんて想像できなかったと思います。
そういう意味で、全ての人の心の中に、なにか暗いものがあり、ある日突然火を噴くのかなと思うと
自分も含めて、人間の恐ろしさを感じずにはいられません。

「百家楽餓鬼」は、マカオのカジノでバカラにドはまりした大企業の御曹司が主人公ですが、
これまさまに、「あ、あの紙屋の・・・・」とモデルを思わざるを得ません。
経営者としては有能で、妻が力を入れている難民キャンプへの支援事業にも積極的に力を貸しているのに
週末はマカオに飛んで寝ずや食わずやでバカラ狂い。
これもまた、人間の複雑な一面ですね。

このあとも、限界集落での村八分を発端とする連続殺人事件を扱った「万屋善次郎」、
プロ野球のエースピッチャーが借金地獄に落ちる「白球白蛇伝」と続きますが、
いずれも人間と人間が仲良く過ごしていた環境が
何かのきっかけで一変していくという経過を描いており、恐ろしいです。

犯罪は、テレビ画面の向こう側の話ではなく、
自分のすぐそばで起こりうる、自分も起こしうる可能性があると思うと、
背筋が寒くなる小説集でした。




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『女たちは二度遊ぶ』
- 2018/11/06(Tue) -
吉田修一 『女たちは二度遊ぶ』(角川文庫)、読了。

この本には11人の女が登場します。
ちょっと常識の枠から外れたような一面を持つ女ばかり。
でも、非現実的な印象を持たないのは、
ダメ男の目を通して描かれているからでしょうか。
なんだか悪い意味でお似合いなんですよね。

ろくな仕事もせずにふらふらしている男とそんな男にくっついている変わった女。
自分の身近にはいないカップルだけど、どこかには居そうな存在感。
そのあたりの描写が、吉田修一氏はうまいんですよね。
ありきたりなダメ男のありふれた存在感が、なぜかちょっと風変わりな女の居場所を
作品の中に作ってしまうという面白さ。

そして、大したことは起きない物語。
起きないけど、なぜか読んでしまう、何かを感じようと思って読み込んでしまう文章。
これもまた吉田作品の特徴だと思います。

そして、短い作品の中で、過去の情景と今から振り返る感情と
うまく描き分けて構成しているので、物語に立体感を覚えました。

なんだか、自分が経験したことのない人生の時間を
いろいろ垣間見させてもらったような気持ちになりました。




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『最後の息子』
- 2018/06/11(Mon) -
吉田修一 『最後の息子』(文春文庫)、読了。

裏表紙に「とってもキュートな青春小説!」とあったので
軽い気持ちで手に取ったのですが、
表題作「最後の息子」は、仲間が死んだりして結構重たい内容でした。

主人公のプラプラしている男子は
新宿でオカマバーを経営しているオカマの閻魔ちゃんと同棲し、
オカマバーのお客さんとも知り合いながら、そんな日々をビデオカメラで撮っていく。
そのビデオの内容を見返していく主人公は・・・・・。

閻魔ちゃんはお店でも自分の家でも基本は明るいキャラなのに、
どこか無理をしているためか、ふとした切っ掛けで重たい本音が飛び出す。
そこに興味深い人生訓があるのですが、でも、閻魔ちゃんの立場を思うと悲しい。

オカマさんというキャラクターは、小説の中では、
世の中の表も裏も、酸いも甘いも、冷静な目で捉えている人物として
登場してくることが多く、そこから発せられる言葉たちに期待しているのですが、
その言葉の鋭さとは裏腹に、言葉を発した本人が深く傷ついているんだろうなという
思いを抱かずにはいられない悲しい境遇。

本作では、鋭さよりも悲しさの方が強く感じられて、
読み進めていくのが辛くなる感じでした。
それだけ良く描けているということだと思います。

そんな日々をビデオカメラで撮影された映像いよって辿っていくという演出により
余計に冷酷な印象を受けたのかもしれません。
悲しいけれど、良く描けた作品だと思います。

続く「破片」は、父親と兄弟の家族に影を投げる母親の死が、
重すぎて上手く読めませんでした。

最後の「Water」は、「やっと青春小説きたよ!」というぐらい、
ピチピチの青春でした。
高校の水泳部。個人競技では敵わないライバルがいるけど、
400mリレーでは絶対勝つ!という気持ちで臨んだ夏の物語。

家に帰れば、兄の事故死を受け入れられない母の姿や、
彼女に泣かれて困る自分や、酔った仲間に抱きつかれ同性愛の悩みに落ちたり、
いろんな人生が待っているのですが、それらを胸の奥に追いやってでも
追いかけたい青春がある!

プールでの出来事の爽やかさと、
プール外での出来事の深刻さとのバランスが
絶妙なところでコントロールされていて、凄い小説だと思いました。

吉田修一は、作品ごとに違った印象を与えてくれるので
次の作品が楽しみです。


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『あの空の下で』
- 2017/11/11(Sat) -
吉田修一 『あの空の下で』(集英社文庫)、読了。

ANAの機内誌『翼の王国』で連載された短編をまとめたもの。
小説12編とエッセイ6編という編成ですが、
私は小説18編のような印象で読みました。

機内誌という性格上、
すっきり爽やかな小説なのかと思いきや、
意外と人間の暗い感情に触れた部分もあり、
「ANAって度量広いなぁ」と思ってみたり。

1つ1つは短い作品ですので、
それほど踏み込んだ作品はないですが、
でも、余韻は結構感じられるものが多かったです。

「旅」そのものを、ウキウキ、ワクワクだけで描くのではなく、
「面倒」「仕方なしに」「やむを得ず」というシチュエーションでも描いていて、
飛行機という空間を、旅の一部であるとともに、
単なる移動手段として割り切ってみている部分もあることで、
PR臭さが消えているのが良かったです。

しばらく海外に行っていないのですが、
たまには面倒でも海外という異空間に触れるのも良いなぁ・・・・と
思える作品集でした。


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『日曜日たち』
- 2014/09/25(Thu) -
吉田修一 『日曜日たち』(講談社文庫)、読了。

最近、吉田作品は長くて重い内容のものが続いたので、
連作短編集をば。

5人の人物の、彼らにとってごくありふれた日曜日の姿を描きます。
時には時間を遡って記憶を呼び出し、なぜ自分が今日、このような一日を送ることになったのか
考えを巡らせていきます。

最初の物語を読んでいたときの印象は、
著者の芥川賞受賞作を読んだときと同じような、
大したコトの起こらない日常を淡々と楽しむ作品なのかな?と思いましたが、

しかし、次の物語を読み進んで、兄弟に出会ったときに、
あ、そういう仕掛けなのか・・・・と。

段々と、この兄弟が幽霊のような感じを受けるようになり、
私の中では勝手にホラー要素が足されてしまう始末(苦笑)。
決して、そうではないのですが、何だか物語に出てくるその唐突感がなんとも幽霊的で。

この5つの物語を読んでいると、
今日という日は、いくつもの過去の積み重ねの上に必然的に乗っかっているものであり、
しかも、私の今日という日は、他の人の今日という日に繋がっているものなんだという、
極めて当たり前の事実を、非常に自然な感じで納得させてくれる作品でした。

面白かったです。


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『さよなら渓谷』
- 2014/06/30(Mon) -
吉田修一 『さよなら渓谷』(新潮文庫)、読了。

先日読んだ『悪人』に引き続いて、
犯罪と加害者と被害者の不思議な関係を描いた作品でした。

普通の頭で考えると、
この作品で描かれたような人間の結びつきは
あり得ないことだと考えますし、異常だとも考えます。
でも、なぜか、この作品を通して物語を追っていくと、
こんな人たちも居るのかもしれないという気持ちになりました。

『悪人』でも思いましたが、アンバランスな人間たちの物語です。
『悪人』は、どちらかというと、環境によりアンバランスな状態に追い込まれた感じが強く、
本作では、自らの行動の選択により、アンバランスな状態に陥った印象ですが。

なぜ、そういう行為でアンバランスさを解消しようとするのか・・・・・
安全な日常に居る私には、不可解な判断に思える彼らの行動にも、
アンバランスさを解消させる何かを期待してのことだったのでしょうね。

人間とは、難しいし、やはり怖い存在です。


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『悪人』
- 2014/06/18(Wed) -
吉田修一 『悪人』(朝日文庫)、読了。

赤沢温泉のリクライニング・チェアでビールを飲みながら一気読み(笑)。

出会い系サイトや合コンで繋がった男女が
ちょっとした虚栄心の積み重ねで、死を招いてしまうお話・・・・
うーん、ちょっと要約が間違ってるかな(苦笑)。

常々、事件を伝えるニュースを聞いていて違和感を覚えるのが、
「むしゃくしゃしててやった」「金に困っていた」というような
動機についての説明文。

「むしゃくしゃしてたら、みんながみんな人を刺すわけじゃないだろう!」という
単純な反感もあるのですが、それ以上に、
「そんな簡単な言葉で、加害者の気持ちが分かったような気になるなよー」という怒りです。

加害者側の動機を安易に決め付ける行為は、
被害者の無念さを無視する行為に等しいのではないかと思っています。

新聞やテレビが報道する事件の「真相」によって、
この世の中は、本当に、ぺらぺらの薄さしか持たないつまらない社会に
成り下がってしまったような気がします。

本作では、殺人を犯してしまった男、死を引き寄せてしまった女、
そんな男女に全く想像力が追いつかない男、反対に共感しすぎてしまう女、
アンバランスな人間ばかりが登場します。

明るい社会であれば、そういうアンバランスな人間同士が
支えあい、凸凹を補い合いながら、日々の生活を幸せに営んでいけるのでしょうが、
暗く行き詰った社会では、凸に足をひっかけて転び、凹に嵌まり込んで身動きが取れなくなる
そんな人間ばかりが生まれてしまうのでしょうね。

救いのない社会において、
主人公の男と女が手を差し伸べあった切っ掛けとなったのが、
「出会い系サイト」というのが、より一層、心を暗くします。


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『熱帯魚』
- 2012/06/17(Sun) -
吉田修一 『熱帯魚』(文春文庫)、読了。

なんだか、とても不気味な小説に感じました。

描かれているのは、3組の男女の姿。
そのどれもにトリッキーな部分があり、
核となる男女関係での挙動において自分の思考回路に無い展開をするところや、
その男女を取り巻く周辺人物達が、これまた風変わりだったりして、
とにかく、自分とは異質な空間を感じるんです。

しかし、それが、荒唐無稽に見えるのではなく、
変な質感を持って、存在感をアピールしてくるんです。
彼らは、私ではないだけであって、どこかに居そうな感じがするんです。

でも、彼らの行動や思考は、とっても変。
こんな人たちが近くにいたら、嫌だな・・・・・と感じてしまって、
不気味に思ったのです。

ただ、嫌だ、嫌だと思いながらも、
彼らが人間を観察して得た分析には、なかなかうなずかされるところもあり、
油断できないのです。

ちょっと読後感が、爽快になれない作品でした。


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