『新世界より』
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- 2022/12/04(Sun) -
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貴志祐介 『新世界より』(講談社文庫)、読了。
2年半ぶりの東京出張に行ってきました。 行き帰りの新幹線とホテルで一気に読もうと、この3巻ものの大長編を持っていきました。 が・・・・なかなか上巻に気持ちが乗っていかず、結局、中巻の途中で出張終了。 読む前に、裏表紙のあらすじなどから、ちょっとカルトじみた味付けの社会批判の物語かなと 予想していたのですが、上巻は、今の世界から1000年後の日本の町に生きる 主人公の女の子とその同級生たちの学校生活の描写がメインで、 あんまり社会の様子が伝わってこなかったので、気持ちが入っていけなかったのだと思います。 子どもたち、というかこの世界に住む人間たちはみんな呪術が使える設定で、 学校での呪術の実習のシーンが大半です。 そして、日常生活を送る町は八丁標という結界で守られており、 その外側には異様な進化を遂げた動物というか怪物たちがウロウロしています。 この怪物たちの描写もたくさんなされるのですが、 椎名誠の『水域』系統のSF作品に比べると、怪物たちの描写がメインなわけではないので、 その種類の豊富さや生態描写の詳細さを比べると、引き込まれるまではいかなかったです。 予想以上にSFファンタジー系の話だったうえに、上巻の中で発生する出来事が 主人公たちのマッチポンプ的な行動が原因なように思えてしまい、 読むスピードが上がりませんでした。 しかし、中巻に入ると、倫理委員会、教育委員会、安全保障会議など社会の仕組みの部分の 描写が詳しくされるようになってきて、さらにそれら組織の上層部が語る 「今の人間社会がなぜ小さなコミュニティの中で完結して暮らしているのか」という理由が しっかりと構成されていて、興味深く読めました。 あー、やっぱり人間って我が儘だし、我慢が効かないよねー、という感想。 人間のエゴが極端に集約されて、現在の日本社会が崩壊したのに、 その後に残った人々が作る社会も、結局エゴの塊という展開に、 人間って救いようがないわねー、と思えてしまいます。 そんな人間社会が、下巻で、再度消滅の危機に晒されますが、 ここからはアクション作品として、手に汗握る展開でした。 この危機を乗り越えて、人間社会は新たにどんなステージに入るのか・・・・・という展望は 正直あんまり描かれていなかったので、再びエゴの塊になっちゃいそうな感じですが、 まぁ、でも、そんな社会でも自らの命を危険に晒してでも守ろうとする英雄が 生れ出てくるんだなぁという、なんだか構造主義的な感想で終わりました。 ![]() |
『硝子のハンマー』
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- 2017/12/01(Fri) -
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貴志祐介 『硝子のハンマー』(角川文庫)、読了。
本作を読んだつもりになっていましたが、 どうやら『青の炎』と記憶がごっちゃになっていたようです。 で、その記憶の誤りとタイトルの印象から、 少年が主人公のようなつもりで読み始めてしまいましたが、 女弁護士と中年男が主人公でした(苦笑)。 会社の社長室で起きた密室殺人。 隣の部屋にいた専務に疑いがかけられるも、 専務に雇われた女弁護士が防犯コンサルを雇って密室の謎解明に挑む。 動機云々よりも、密室の謎を如何に解決するかということに主眼が置かれた 本格推理モノです。 監視カメラや赤外線センサー、警備員の目、秘書の目、 様々なものをかいくぐる可能性を1つ1つ潰していきます。 それはもう、くだらないマンガのような発想から、意表を突く方法まで。 思考テストを繰り返し、モノによっては実験をしていきますが、 どれもどこかで躓いてしまい・・・・。 最後にたどり着いた真相は・・・・・・、うーん、現実味はどんなもんなんでしょうか? 仮に実行できた方法だとして、それを普通の頭で殺人方法として思いつくか?という点では やっぱりクエッションかなぁ。 まぁ、本格モノに現実味を求めてはいけないのかもしれませんが。 前半の、女弁護士と中年男が思考バトルを繰り広げている過程のテンポが良く ぐいぐい読めたのですが、後半、突然、主人公が高校生に切り替わってしまい、戸惑いました。 急ブレーキ踏まれたみたいで。 そちらも読み進めると面白い真相に繋がっていったのですが、 殺人に至るバックボーンについてじっくり描き込まれている分、 やはり殺人方法のリアリティの無さが浮き彫りになったような印象です。 そして、ここまで用意周到に計画を立て、着実に実行しておきながら、 なんで最後、凶器をそこに置いちゃうのかなぁ・・・・という杜撰さもアンバランスな感じが。 どこか引っ掛かりの残る作品でした。
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『天使の囀り』
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- 2011/11/13(Sun) -
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貴志祐介 『天使の囀り』(角川ホラー文庫)、読了。
バイオホラーというのは、 「現実世界でも起こりうるのではないだろうか・・・」という恐怖心を煽るので、 いわゆるホラーものよりも、一層怖いですね。 何と言うか・・・・たちの悪いホラーだと思います。 出だしの、アマゾン探検隊の一員からのメールの内容が延々と続くところは、 アマゾンという非日常世界からの語りかけだということに加えて、 どうも書かれている内容が独りよがりで、読み進めるのに苦労したのですが、 日本での自己啓発セミナーのシーンに変わってから、ぐいぐいと惹かれていきました。 (あ、決して、自己啓発セミナー自体に興味があるわけではないですよ 苦笑) カルト教団的な活動に、線虫を利用するという観点が、 オウム真理教の犯罪を生んだ日本という国で語られると、 非現実的だと切り捨てられないのではないかという不安を掻き立てられます。 セミナーハウスでのシーンは、本当に、気持ち悪い。 でも、読みとめることが出来ない。 この描写力は凄いです。 カルト教団の行為を、警察や司直の手に委ねずに、葬り去らせるという判断には ちょっと引っかかりを覚えましたが・・・。 いくら、学術世界での力関係が存在するとはいえ、 むしろ、この線虫の話を捜査の場に上げることで、警察力を背景にした 研究が出来るようになるのではないかと思いました。 研究者にとっては、最強の支援者だと思うんだけどなぁ・・・。 ま、それでも、物語の最後のシーン、 よくよく考えたらありうべき展開だったのですが、 完全に油断していたので、驚かされました。 なるほどね。
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『十三番目の人格』
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- 2009/01/05(Mon) -
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貴志祐介 『十三番目の人格』(角川ホラー文庫)、読了。
また性懲りもなくホラー作品を読んでしまいました。 怖いの苦手なのに・・・・・。 貴志作品なので、つい。 千尋の13人の人格が、最初は警戒していたのに 浩子の誘導ですんなり由香里を受け入れたり、 由香里のエンパスの能力が特に他人に(特に千尋らに)バレなかったり 真部と突発的なまでに相思相愛になったりと、 ちょっと都合いいかなーと思う設定もありましたが、 それでも物語としては面白かったです。 13人の人格を読み解いていく中盤、 そして、まさに十三番目の人格「ISOLA」が覚醒する終盤と、 畳みかけるような展開が読んでいてゾクゾクしました。 また、効果的に使われる『雨月物語』。 この本は、以前挑戦したのですが、怖くて飛ばし読みしちゃいました。 多重人格症という西洋的な訳の分らぬモノと 怪談という純日本風の訳の分らぬモノとが相まって、 不思議な世界観を「ISOLA」の背景に与えていました。
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『青の炎』
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- 2007/03/13(Tue) -
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貴志祐介 『青の炎』(角川文庫)、読了。
最初にこの作品を知ったのは、映画化されたときだったのですが、 「アイドル映画か・・・」と思い、興味を持ちませんでした。 ところが、原作が貴志祐介氏だと最近知り、 早速買ってきました。 秀一、いいわ。 頭が良いけど、良い子じゃなくて、世間からちょっと距離をとっている そんな中高生が主人公の小説は、概ねハマッてしまいます。 一昔前の日比谷高校の生徒みたいな感じ? ミステリーというより、 高校生の生活や内面を描いた作品として読んでました。 紀子や大門やゲイツら友人達とのウィットに富んだ会話の応酬に 「オトナだなぁ」と馴染まない感想を抱いてみたり。 結末、一番最後のところで家族や友人とのやり取りが あっさりと描かれていたのは、 ちょっと現実の重みが足りないかなという気もしましたが、 全編通して面白かったです。
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