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『dele』
- 2021/05/07(Fri) -
本多孝好 『dele』(角川文庫)、読了。

3週間、Blogから離れておりました。
仕事で想定外の事態に巻き込まれ、連日朝9時から夜28時まで19時間労働・・・・みたいな地獄でした。
決して、アレに感染して入院してた・・・とかではありませんので、あしからず(苦笑)。
たぶん、今日でひと段落したと思うので、Blog生活に復帰します!

19時間労働だと、さすがに読書時間は減っていたのですが、
朝ごはん5分、昼ご飯5分、夜ご飯5分、お風呂5分、マッサージチェア20分、寝る前10分で
毎日50分は読書に充ててたので、3週間で数冊読めました。
これから順次アップします。

さて、今日ちょど読み終わったのが本作。
久々の本多作品です。

自分が死んだ後に誰かに見られるとまずいデータを、
「24時間スマホが操作されなかったら、このデータを削除してください」というような個々の契約に基づき
データ削除作業を受託する会社の新人スタッフが主人公。
会社と言っても、社長1名、新人1名の小所帯ですが。

「自分が死んだらこのデータを見られたくない」という気持ちはわかります。
まぁ、私に、具体的にこのデータを隠したいというものはないのですが、
なんとなく、自分が死んだ後に、自分が残したものを、たとえ家族とはいえ
いろいろ調べられるのって嫌だなという・・・・・・・うーん、この感情は本作とは関係ないかな(笑)。

会社の側も、データ削除という行為の重要性に鑑みて、
「24時間スマホが操作されなかったら」という契約であっても、
スマホの操作実績がないことだけでデータ削除をするのではなく、
きちんと依頼者の死亡を確認してから削除を実行するという念の入れよう。

なので、物語は、死亡確認をする工程から始まるのですが、
契約時にはネットを介して依頼者側が一方的に申し込んでくるだけで契約成立となるため
遺族との接点からはじめて依頼者の人物像が見えてくるようになり、
「遺族の目からはこんな風に見えているけど、どんな裏がある人物なんだろうか?」という
想像をかきたてる展開になっているので、ぐいぐい読めます。

そして、主人公の新人君は、今どきの若者のようなおちゃらけ感を身にまといながら、
その軸は意外と熱血漢だったり、依頼者の立場に寄り添う共感力が強かったりと、
結構イイヤツで、その清々しさが、読んでいて気持ち良かったです。

そして、依頼者には皆それぞれ裏があるのですが、
あぁ、こういう人生の考え方もあるのかな・・・・と思えるような説得力があり、
人間の複雑さというか、奥行きというものを見せてくれた作品でした。

どうやらシリーズ化されているようなので、続編も追っていきたいと思います。




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『FINE DAYS』
- 2018/01/15(Mon) -
本多孝好 『FINE DAYS』(祥伝社文庫)、読了。

本多作品は、ウィットと毒のバランスがとても好みなのですが、
本作は、これまでに読んだ中でも、一番かも。

表題作は、高校の教室の中で浮いている僕といじめられっこの彼、
不良少女の彼女と、1学年下の美人転校生の彼女。
この4人が馴染めない教室という「世間」。
「スクールカースト」という言葉が頭を過る設定です。

この4人の存在のリアリティがとてつもなく強いのに、
展開されていく物語はSFというかサスペンスというかホラーの領域。
人が呪い殺されるという・・・・・。

そういう変な問題に4人が関り合っていくのに
なぜか圧倒的なリアリティ。なんなんでしょ、これは。

機知に富んだ4人のやりとりに、イマドキの尖った高校生の姿を
私が必要以上に重ねてしまっているのでしょうかね。
今、欅坂46のアルバムをヘビーローテーションしているので、
「エキセントリック」の世界観のようなものを本作に投影してしまったのかもしれません。

続く「イエスタデイズ」も、SF恋愛モノなのに、
SF要素にも恋愛要素にも惹かれず、父と息子の葛藤みたいなものに惹かれてしまいました。
思春期の親子関係の難しさと、一度捻じれてしまった関係を修復する難しさ。

「眠りのための暖かな場所」は、大学のゼミという閉じられた空間の中で、
院生でヘルプに入っている私と、学生の男の子、女の子、そして教授。
みんなウィットに富んだ会話ができるのに、どの言葉も非常に刺々しい。
攻撃的な機知が飛び交っている世界でした。
現実には、こんな人間関係は珍しいんだろうなぁ・・・・・と思いながらも、
彼らの存在感はやはり確かに感じられて、
私たちが本音をあと10%ずつ表面に出すようにしたら、
こんな感じになるのかも・・・・と思えるほどでした。

最後に収録された「シェード」だけは、ちょっと私にはピンとこなかったのですが、
それでも、作品の最後を飾るには温かい作品だったと思います。

良い作品を読めて満足、満足。


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『at Home』
- 2016/07/28(Thu) -
本多孝好 『at Home』(角川文庫)、読了。

盗人の父、結婚詐欺師の母、パスポート偽造の僕、
高校受験の妹、ゲームの中で世界を守るべく戦い続ける弟、
この5人家族に降りかかった災難とは、なんと母の誘拐!

とにかく、1本も2本も飛んじゃってる家族の騒動は、
騒動が起きなくても騒々しいです(笑)

みんな一癖あるので、家族の会話が毒々しい。
でも、笑える毒々しさ。「家族」としての信頼があるからこその毒々しさ。

この一家の物語の連作小説なのかな?と思っていたら、
次は別の変わった家族のお話。
表題作の家族が気に入っていた私としては、ちょっと残念・・・・・・。

でも、この2番目の一家も相当変。
再婚して義理の父と娘となった2人が
非常に丁寧な敬語を使って会話をしてます。
片方、小学生なんですけど・・・・・(笑)

そんな一家に巻き起こるのは、お母さんの失踪・・・・・って
またまた母親が居なくなっちゃう物語です。
妻が居なくなったときの旦那の動揺ぶりっていうのは、
滑稽なぐらいに深刻ですね。

3話目は、少し毛色が変わって、50代のバツイチおじさんが主人公。
借金帳消しの代償に、外国人女性と偽装結婚をし、なおかつ同居することに。
この外国人女性が日本語を話せない設定のため、
おじさんの空想というか回想世界に落ち込んでいくシーンが多く、
ちょっと重たい作品でした。
2話、3話とだんだん重苦しくなってきて、ちょっと苦手感が先行してしまいました。

最後の話は、子供の頃に失踪した父と偶然再会し、
それから年に1回だけ決まった日に合うことになる親子の話。
話の中で起きている事件は、児童虐待だったり、精神疾患だったり、
まさに現代の社会の病気のような部分を扱っているのですが、
この主人公親子が、どこか間の抜けた生き方をしているので
なんだか憎めない気持ちで作品世界と向き合うことができました。

社会や人間に対する、辛辣な著者の意見が垣間見えるものの、
世の中に対して斜に構えている分、客観的な毒や皮肉が前に出てきて、
嫌な話だけど笑えてしまうという・・・・・この作家さんの特徴であり、才能ですね。
それを堪能できる作品でした。


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『チェーンポイズン』
- 2015/10/07(Wed) -
本多孝好 『チェーンポイズン』(講談社文庫)、読了。

これまでの本多作品に感じていたような
ウィットに飛んだ一見ポップな中にあるチクッとした毒という印象の作品とは違って、
本作は、全編通して重たい感じで、ちょっと苦手でした。
読書前の勝手なイメージとのギャップの分、読みづらさが増してしまった感じです。

人生に行き詰まりを感じた、もしくは絶望を感じた人が手を伸ばそうとする自らの死。
そこに、「1年待ちませんか?」と待ったをかける存在が登場して・・・・・。

最後まで読むと、このあらすじ自体がミスリードを誘う役割を果たしているわけですが、
真相を知ったときの驚きは、私の中ではさしたる演出効果は無く、
なぜ人は死を選ぶのだろうかというそもそもの疑問に最後までもやもやしてしまいました。

確かに、登場人物たちは、自らの将来に絶望を感じるような体験をしたのかもしれませんが、
しかし、その体験と自殺の間には、やはり大きな溝があるような気がします。
絶望した人が全て自殺するわけではないだろうと考えたときに、
では、なぜ自殺した人は、死を選んだのか。
その直接的なきっかけが、本作に限らず、私には想像が及びません。
だからこそ、私は、のうのうと日々を生きていられるのかもしれませんが。

自殺という行為が帯びる暗黒のエネルギーが、
想像の及ばない存在であるために、非常に恐怖を持って私は感じ取ってしまいます。
なので、それをテーマに据えた小説は、上手く読み通せないのかもしれません。


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『正義のミカタ』
- 2015/08/05(Wed) -
本多孝好 『正義のミカタ』(集英社文庫)、読了。

この本多作品も面白かったです!

高校卒業後に就職すべき家庭環境だったのに、
無理して大学に入学した主人公。それは変わりたいという一心から。
そして、訳もわからぬまま入部してしまったのは正義の味方研究部、略してセイケン!

この要約ではちっとも分かりませんが(苦笑)、
高校時代に酷いいじめに遭っていた主人公が、どれだけ強い思いを抱いて自分を変えたいと思っているか、
そして自分の過去と向き合っているのか、ポップなストーリーテリングでありながら、
主人公自身がしっかりと考えていることが伝わってくる深みのある内容です。

本多作品は、この表面に現れるポップさと、登場人物たちが思考する深さとが
絶妙なバランスで描かれていて、楽しく読みながらも、しっかりと考えさせられるという
非常に濃密な読書になることが多く、満足度が高いです。

本作でも、「正義って何なの?」「それって独り善がりじゃない?」という疑問を突きつけ、
また、いじめで傷つくことの痛ましさを何度も訴え、
「ごめん」という言葉が、仮に本心から出たものであっても、被害者からしてみれば
簡単には受け入れられないという複雑な心境を描いています。
たやすくハッピーエンドに持っていかないところに、作品としての信頼感を覚えます。

主人公以外の登場人物たちがそれぞれに披露する
人生哲学も興味深かったです。

正義の味方研究部の創設の経緯エピソードは、熱かった!


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『WILL』
- 2015/04/08(Wed) -
本多孝好 『WILL』(集英社文庫)、読了。

気づけば3年半ぶりとなってしまった本多作品。
こちらは、以前に読んだ『MOMENT』の続編です。

前回の感想では、十分に作品を楽しみながらも、
「葬儀屋の森野を活かしきれていない気がする」と書いたのですが、
本作では、その森野が主人公です。

いやはや面白かったです。

高校生のときに両親を事故で亡くし、
家業の葬儀屋を継ぐことになった森野。
現在もまだ20代での葬儀屋社長としてフル回転・・・・・ではなく、
商店街に佇む地域密着型葬儀屋では月に2回葬儀が入れば御の字という経営状態。

そんな葬儀屋事情も垣間見えて興味深いのですが、
やはり、このシリーズは、人の悪意というものの取り扱い方が
非常にドラスティックかつナイーブで、絶妙のバランスで成り立っています。

それは、各物語の主人公となる葬儀屋のお客の事情が直接的な原因ですが、
主人公である森野の精神のバランスのなせる業だと思います。

表面的には、男っぽいぶっきらぼうな言葉遣いをし、
会話もユーモアにまぶして上手く立ち回ります。客あしらいも上手い。
しかし、一歩内面に踏み込むと、亡くなった両親への思い、
葬儀屋という稼業への思い、商店街の幼馴染の恋人への思いが交錯し、
しかも、外向けのアクティブな姿勢とは裏腹に、内面では非常にもろさを感じさせます。

このあたりの描写は、下手な書き手だとアンバランスさが目立って
読むのがしんどくなってくるのですが、著者は流石の筆致で書き進めていきます。

死というものに日々触れる主人公だからこそ、
なぜ生きるのか、何のために生きるのか、どうやって生きるのかということを、
自分一人で必死に考えています。
誰にも相談できずに。

本作の葬儀屋の面々のキャラクタ設定からすると、
ポップなユーモア小説にすることもできたでしょうが、
それを、深みのある作品にもっていっているので、読み応えがあります。

本多作品、いいわぁ。


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『ALONE TOGETHER』
- 2011/09/19(Mon) -
本多孝好 『ALONE TOGETHER』(双葉文庫)、読了。

自殺未遂で運び込まれた患者を安楽死をさせた老教授、
その教授からの依頼のシーンで始まるので、
真相追究型のサスペンスかしら?と思ったら、
主人公が事件の関係者たちととコミュニケーションをとることで、
関係者たちの心理に影響を及ぼしていく・・・そこには特殊な能力も介在し・・・。

と、まぁ、要約困難なところは、いつもの本多作品どおりということで(苦笑)。

安楽死云々のところは、人と人とが出会うための舞台装置に過ぎず、
本作では、主人公が語る哲学が面白かったです。
その内容は、相当、ブラック。
著者自身、「呪い」という表現を使うほどに。

しかし、その哲学が、呪いと言えるほどに力を持つのは、
きっと本質を突いているから。人間の痛いところを突いているから。

特に、良二くん親子それぞれと主人公との対話が印象に残りました。

他にも、ミカやサクラといった
自分の世界観をもった魅力的な少女たちが登場するので、
様々な「思想」に触れたような気持ちになり、読んでいてワクワクしました。

人間の人生観というのは、死と接近したときに、パッと輝くものですね。


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『MOMENT』
- 2011/07/21(Thu) -
本多孝好 『MOMENT』(集英社文庫)、読了。

上手いなぁ・・・と感心しながら読みました。

噂の設定と、その真相の回収の仕方、
一流大学の学生なのに病院の掃除夫として働く主人公のキャラクター設定、
1章に一人のエピソードという単純構造ではなく、様々な人々を絡ませる手法、
病人相手に毒を含んだ会話をしても受け入れられる自然な流れ、
どれも絶妙なバランス感です。

「死ぬ前に願いを一つかなえてくれる」
このテーマだけを聞くと、心温まるファンタジーのように想像します。
現に、第1章も、そんな展開でした。
なのに・・・・・。

人間の心というものが、死を目の前にして何を望むのかという問いに、
結構、厳しい回答を突きつけてくる作品だと思います。

そして、その回答が、露悪的でも過激さ狙いでもなく、
「人間って、こんなものかも・・・」と思わせる力が、本作にはあったと思います。

主人公の幼馴染・森野を活かしきれなかったように感じたのは残念でしたが、
トータルでは、非常に楽しめた一冊でした。


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『MISSING』
- 2011/03/17(Thu) -
本多孝好 『MISSING』(双葉文庫)、読了。

お初の作家さんでしたが、面白かったです。
引き込まれました。

ちょっと特異な状況で事故や事件に巻き込まれ、
何かを「失った」人たちのその後を描いているのですが、
その特異な状況が、あまり違和感を感じないほどに上手く物語の中に溶け込んでいます。

特異な状況を場面設定に使った作品は、ややもすると
「激烈な物語でしょ!?」「すさまじい体験でしょ!?」という
お涙ちょうだい具合が前面に出てきて、引いてしまうことがあるのですが、
本作では、その気持ち悪さを感じさせないのです。

それは偏に、何かを「失った」人たちと向き合おうとする人たちの
清々しさによるものだと感じました。

その多くが、まだ若い、20~30代の人たちなのですが、
この年代に特有の冷淡さも持ち合わせながら、
でも、目の前にいる人への優しさは人一倍持ち合わせていて、
そして、少し照れ屋なのか、その優しさをユーモアに包んで差し出すのです。

この人物設定の妙が、短編のそれぞれで活きていて、
とても読後感が爽やかでした。

面白い作家さんに、また出会えました。
しかし、この作品も、「このミス」ランクイン作か・・・。
「このミス」の対象作品の定義が、やっぱり分からん。


あぁ、この記事を書いている間に、また余震です。
東京は震度3。


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