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『虎と月』
- 2020/11/24(Tue) -
柳広司 『虎と月』(文春文庫)、読了。

中島敦の「山月記」をモチーフに、虎となった李徴の息子が、
父を探しに旅に出る・・・・・。

最初、「あれ、『山月記』って、虎になったあとどうなるんだっけ??」と記憶があやふや。
どこまでが原作にあって、どこからが本作の創作なのかわからないまま読み始めましたが、
「ええい、虎になった以降は全部本作の創作だ!」と決めつけてしまいました。
その方が楽しめそうだから。

息子は、虎になった父と会話をしたという手紙をくれた袁傪に、まずは会いに行きます。
しかし、訪ねた先には袁傪はおらず、内戦平定の関連業務で他所へ赴任中とのこと。
ここで書生とやりとりがあるのですが、なんだか要領を得ない問答が繰り広げられ、
あぁ、本作は父の虎話の真相よりも、息子の成長譚なんだなと了解。

続いて袁傪が虎になった父と遭遇したという町へと行きますが、
この町では地元住民から冷たい対応をされます。
この冷たい対応といい、先般の要領を得ない問答と言い、
なんだかRPGの世界観を小説にしたような印象でした。

原作「山月記」の漢文調の重々しい雰囲気とは異なる、
微妙にポップなファンタジー感があります。
「山月記」ファンからすると、ちょっと違和感を覚えるかも。

最後、虎になった真相に迫りますが、私的には、そういう解釈もありだなと感じられました。
少なくとも、こじつけ感はないように思いました。

こうやって、後世の作家が、知恵を絞って新たな作品を捻り出そうと思えるだけの
エネルギーを持っている原作なんだろうなと、原作の力強さに感じ入った読書となりました。




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『贋作『坊ちゃん』殺人事件』
- 2020/07/21(Tue) -
柳広司 『贋作『坊ちゃん』殺人事件』(角川文庫)、読了。

夏目漱石の『坊ちゃん』の舞台と登場人物を使ったパロディ作品。
なんと赤シャツが自殺した!という事件の謎を追うのですが、
数ページ読んで気づいたのは、「あ、まだ『坊ちゃん』自体を読んでなかった!」という事実(爆)。

一般教養として、『坊ちゃん』の登場人物の仇名や大体のキャラクター設定は知っていますし、
大学入試の対策として抜粋文を読んだ記憶はあります。
なので、「あぁ、『坊ちゃん』っぽい文章だ!」というのは、素直に感じることができました。
この主人公の、ひねた感じが、凄く良く再現されているなと。

解説でも「本家を読んでいなくても楽しめる、本作を読んだ後に必ず本家を読みたくなる」と書かれているように、
日本人一般の『坊ちゃん』知識を持っている人なら、本家を読まなくても十分楽しめると思います。

『坊ちゃん』の世界観が、社会主義と自由民権運動の思想闘争だった!という解釈は
とても斬新で興味深かったです。
しかも、自殺事件を絡めて、本家『坊ちゃん』の世界で起きた出来事について
思想闘争として再構築することに成功していると感じました。
この組み立て力は凄いなと。

一方で、やっぱり、細かい『坊ちゃん』のエピソードとのリンクを楽しもうと思ったら、
本家を読んでいないといけないわけで、解説が言う通り、本家を読みたくなる読後感でした。




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『ラストワルツ』
- 2020/02/02(Sun) -
柳広司 『ラストワルツ』(角川文庫)、読了。

D機関シリーズ第4弾ですが、
前作で感じたパワーダウンの流れを本作も変えられず。
なんだか理屈っぽさが目に付いてしまいました。

冒頭の「ワルキューレ」には、ゲッペルスとレニ・リーフェンシュタールが登場し、
歴史の味付けの部分は興味を持って読みました。
映画監督というものを、民衆のナショナリズム高揚にどう利用したのかとか。

ただ、それぐらいしか印象に残らない作品でした。
全編通して。

ネタ切れになる前に、きれいにシリーズを閉じるというのは
編集者さんの腕の見せどころではないかなと思います。




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『吾輩はシャーロック・ホームズである』
- 2019/12/24(Tue) -
柳広司 『吾輩はシャーロック・ホームズである』(角川文庫)、読了。

著者のイメージは、最近、D機関シリーズで固まってしまっていたので、
「夏目漱石がロンドン留学中に精神を崩して自らをシャーロック・ホームズと思い込んでしまった」
というハチャメチャな設定を知り、一瞬「えっ?」と思ってしまいましたが、
そういえば、最初に読んだ作品ではダーウィンが殺人事件の犯人探しをしていたと思い出し、
歴史上の人物に謎解きさせるのが得意な人だった!と納得。

本作では、自らをホームズだと思い込んでいる心神喪失の夏目漱石が参加した
交霊会での毒殺事件の謎解きが話の軸となっていますが、
正直私には、謎解き自体には興味を惹かれませんでした。

むしろ、夏目漱石がなぜ国費留学した先のロンドンで心神喪失状態になってしまったのか
その過程を描写したくだりに興味が向かいました。
近代化に向かったばかりの後進国・日本から世界最先端のロンドンに来て、
先進性の違いに愕然としたり、人種差別を受けたり、国費留学というプレッシャーに押し潰されたり、
それはもう、大変な2年間だったと思います。

心のバランスを崩して、自分をシャーロック・ホームズだと思い込んでしまうという設定は
最初は、単に話を面白くするために、殺人事件との絡みを作るためのものかなと思ってましたが、
後半で、その理由が述べられており、「あぁ、なるほどなぁ」と納得しました。
なぜホームズだったのかという点で、納得がいきました。

本作は、ホームズ作品を読んでいれば、もっと楽しめたと思うのですが、
実は一作もホームズ作品を読んだことのない私には
浅い読書となってしまったかもしれません。




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『新世界』
- 2018/08/19(Sun) -
柳広司 『新世界』(角川文庫)、読了。

ロスアラモス研究所での原爆開発最終段階~終戦にかけての期間を舞台に
そこで起きた殺人事件の謎を解く・・・・・というミステリが一応表向きのジャンルかと思いますが
原爆の開発者やヒロシマ・ナガサキの上空で原爆を投下したパイロットなどが登場し、
そこで原爆についての議論が展開されていきます。
日本人読者に向けてこの作品を書くということは、
やっぱり、本題は原爆ですよね。

原爆開発の責任者、オッペンハイマーの口からいろいろ原爆についてを語らせ、
さらに議論をふっかけるように、周辺の主要科学者たちが言及を重ねますが、
正直、何が正しかったのか、私には判断がつきませんでした。

戦争を終わらせるためとはいえ、軍人以外の一般市民をあんなに殺す必要はなかったという
意見に対しては、死んだ人にとっては原爆も焼夷弾も変わらず、そこにあるのは死であり、
原爆投下だけが非難されるものではないだろうなと思います。

そもそも8月6日の時点では日本が降伏する方向が見えていたので
原爆を投下する必要がなかったという意見については、
今の時代から客観的に見たらそう見えるかもしれないけど、
戦争当時にそのような楽観的な観測に頼れるのかなという気もします。

ソ連の日本侵攻を恐れたために、無理やり投下して軍事力を誇示したんだという意見には、
アメリカがその誇示行為を必要と判断したなら、
日本人の被害がどうこうと考える前に、アメリカの国益のためにやっちゃうんじゃないの?
と割り切って考えてしまいます。

でも、やっぱり、日本人としては、原爆の開発と投下って必要だったのかな?と
やはり感じざるを得ません。
特に、開発の方。
本作中でも、核分裂のエネルギーを戦闘行為に適したレベルにコントロールできるのかとか
核分裂からの爆発の連鎖反応で地球上のすべてが燃え尽きてしまう可能性とか
そういう想定もしながら、そしてその危険性が排除できないまま
実験を強行してしまうという科学者たち。

自分の仮説が実現できるのか検証したい、
そのためには地球が壊れる可能性が僅かにあったとしても、やってみたい!
ある種、科学者としては当然の熱意なのかもしれませんが、
その対象が原爆ということになると、恐ろしいですよね。

戦争も兵器も、人間の「挑戦してみたい」「思いついたから試してみたい」という
ある種のピュアな欲望が作り出している部分もあるのかなと思いました。

本作の殺人事件自体は、あまりパッとしない結末で、
ふーん・・・・という程度で終わってしまいましたが、
読後感はしっかりとしてました。


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『パラダイス・ロスト』
- 2017/01/12(Thu) -
柳広司 『パラダイス・ロスト』(角川文庫)、読了。

D機関シリーズ第3弾ですが、
本作は、少し変化球のストーリーが多く、
私個人としては、あまり好みではありませんでした。

シリーズ物の宿命なのかもしれませんが、
スパイ活劇ばかり見せていても読者は飽きてくるという判断でしょうか。
それとも著者の方が飽きちゃうのかな。

最後に前後編で収録された
「暗号名ケルベロス」は、スパイものの王道のような、
スパイの主人公を中心に物語が展開していくので、面白く読めました。

やっぱり、スパイものは、スパイがあってナンボのもんでしょう!


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『ダブル・ジョーカー』
- 2016/08/04(Thu) -
柳広司 『ダブル・ジョーカー』(角川文庫)、読了。

D機関シリーズ第2弾。

表題作である冒頭の1篇を読み、
ジョーカー同士の競争を描いた作品なんだな!と思ってしまったのですが、
それは、その1篇のみでした。

ま、この1編で決着がついたということなんでしょうね。
ちょっと続編を読んでみたい気になりました。

が、そのあとに続く短編も、
スパイの世界を様々な角度から描いており、
飽きさせません。

第1作と比べると
衝撃度はゆるやかになりましたが、
本作も楽しませてもらいました。


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『ザビエルの首』
- 2016/01/07(Thu) -
柳広司 『ザビエルの首』(講談社文庫)、読了。

フランシスコ・ザビエルの年譜を逆に辿っていく形で
この偉人にまつわる謎を、タイムスリップした主人公が解き明かすというSFサスペンスです。
登場人物は本当に存在した人で、謎解きの対象となる事件自体は作り話という
理解で合っていますかね?

著者お得意の歴史ものなので期待したのですが
あまり物語りにはワクワクできませんでした。
キリスト教の布教活動という行為自体に
歴史の事象として、私が好ましい印象を持っていないからかもしれません。

その分、主人公の男が布教活動をしている登場人物たちに対して投げつける
厳しい言葉に多少スカッとするところがあったり(苦笑)。

でも、本作での宗教観は浅い感じなので
やっぱり物足りなさの方が強く感じちゃいますね。


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『キング&クイーン』
- 2013/10/20(Sun) -
柳広司 『キング&クイーン』(講談社文庫)、読了。

柳広司作品は、歴史のとある場面を切り出して
ミステリ仕立てにアレンジする作風だと思っていたので、
現在の世界の舞台にした護衛サスペンスと知り、意外に思いました。

しかし、読み進めていくと、物語の軸をなすのはチェスの歴史。
その歴代のチャンピオンたちの流れの中にいる現・チャンピオンの護衛ということで、
チェス文化が根付いている地域の人々にとっては、
れっきとした歴史の一部なのかもしれないと思い至りました。

私が小学生の頃、クラスの男の子たちを中心に将棋ブームが起こり、
私も皆の対局を観戦する輪に入れてもらってました。
で、家に帰り、父に将棋の手ほどきをしてもらい、
飛車角落ちの状態で何とか父との対戦が形になるくらいにはなりました。

そんな時、叔母の家の大掃除の手伝いに行ったときに、
チェス盤が出てきて、将棋に似ているゲームだと聞いて、もらってきました。
父も詳しいルールを知らなかったので、超・簡略化して遊んでみましたが、
正直、将棋ほど面白いとは思えませんでした。

将棋のように駒が成ったり、取った駒を再び使えたりという変化がないことが
将棋よりもつまらないもののように思えてしまった原因です。
ただ、後に何かの本で、「これは西欧と日本の戦争観・捕虜文化の違いによる」と読み、
比較文化論的な面では非常に興味深く感じた思い出があります。

とまぁ、本題から外れてしまって何ですが、
本作では、「今起きている護衛劇」「主人公のSP時代の話」「アンディのチェス戦歴」
この3つの物語が同時並行で語られていき、どれにもワクワクしました。
1つ1つの物語は、正直、本1冊にするには物足りないのですが、
3つを絡めていくことで、ワクワク感が醸成されていき、読む手を止められませんでした。

現在起きている事件の真相は、正直、風呂敷を広げ過ぎて内容は薄っぺらかったです。
真相究明を期待して読んでいた人は、ガッカリだったのではないでしょうか。
登場人物たちのキャラクターで言うと、バー「ダズン」の面々は活かせていませんでしたが、
SP仲間たちは魅力的でした。『ジョーカー・ゲーム』に通じる面白さを感じさせます。

チェス自体への私の興味は、結局、本作を通してもあまり盛り上がらなかったのですが、
実在するチェス王者たちの奇人ぶりには関心が向きました。
将棋や囲碁の世界の実力者たちは人格者が多いイメージがありますが、
チェスに限って、なぜ、こんな風に我が儘爆発な感じになってしまうのでしょうか。
これも、チェスや将棋が歴史の中でどのような地位でどのような役割を担っていたのかの
違いによるものなのでしょうかね。
将棋も囲碁も、武士のたしなみという側面により、人格者として振る舞うことが
運命づけれているように思いました。


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『ジョーカー・ゲーム』
- 2012/02/17(Fri) -
柳広司 『ジョーカー・ゲーム』(角川文庫)、読了。

これは、さすがヒットしているだけあって、面白かったです。

第二次世界大戦中に陸軍内に極秘に設立されたスパイ養成機関。
そこの訓練生や卒業生の活躍を軸に、
様々なスパイ活動を描いていきます。

まず、スパイ活動の内容が、非常に興味深いです。
どのような推論を組み立てていくのか、
どこでボロを出さないように注意するのか、
どんなはったりをかけていくのか、
一つ一つが、劇画的でありながらも、意外と説得力があります。

そして、このスパイたちの背景に、
敗戦に突き進んでいく日本陸軍という象徴的な失敗例の組織があり、
その対比が面白くもあり、また悲しくもあります。

スパイになるべき素質を持った人間が
あまりにたくさん集まりすぎているような気もしましたが、
ま、そこはシリーズ化するなら、必要なご都合主義でしょう(笑)。

続編も楽しみです。


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