『ベーコン』
| ||
- 2013/11/19(Tue) -
| ||
井上荒野 『ベーコン』(集英社文庫)、読了。
面白い短編集でした。 作品の持つ世界観にどんどん没頭していけるというか・・・。 どの短編も、食べ物が物語のキーアクセントになっていますが、 それ以外には主人公の年齢も立場も様々で、10歳がいれば、老年の女性もいる。 非常にバラエティに富んだ内容になっています。 各作品の共通項を、解説では「ふりをしている」というキーワードで捉えていましたが、 私も、近いニュアンスで「突き詰めては考えずに流される」ということを 思い浮かべました。 真実を認識したくないから、怖いから、不快だから、 様々な理由で、主人公は、うすうす気づいていることから目をそむけ、 空っぽの頭で流されていくことを選んでいるように感じました。 それが必ずしも悲しい結末や後悔する結末にならないところが、 人生の面白いところなのかもしれません。 ひょんなことから、丸く収まることもあるのです。 そういう点で、深みのある作品集だと感じました。 とりあえず、登場するどの料理も美味しそうで、 食事改善中の身としては、我慢するのが苦しかったです(苦笑)。
![]() |
||
『しかたのない水』
| ||
- 2012/12/27(Thu) -
| ||
井上荒野 『しかたのない水』(新潮文庫)、読了。
解説の「脂っこい」という表現がぴったりの連作短編集。 とあるスポーツクラブに集まる人々を主人公に、 スポーツクラブを離れた彼らの生活の「ホントの姿」を描いていきます。 そのギャップが、突飛に感じられるものはなく、 「みんなこんな風に表と裏があるんだろうなぁ」と納得させる描写です。 結構、えぐいことをやってるんですけどね(苦笑)。 恋をめぐるお話の数々のように見えて、 人間がいかに自分に都合の良いように生きているかを 容赦なく描き出した作品なのだと思いました。 「裏切られた」と思っても、自分は単なる被害者なのではなく、 バカだっただけなのかもしれない。 私もそうかも。 そう感じてしまう恐怖。 自分は毎日何をやってるんだろうか・・・。 思い込みや、勝手な責任感を作り上げて、ただ空回りしているだけなのではないだろうか。 なんだか、読んでいて、暗い気持ちになってしまいます(苦笑)。 でも、非常に面白い読書になりました。
![]() |
||
『不恰好な朝の馬』
| ||
- 2012/11/30(Fri) -
| ||
井上荒野 『不恰好な朝の馬』(講談社文庫)、読了。
とある町を巡る人々の生活を切り取った連作短編集。 作品ごとに主人公が変わっていきますが、 その1人1人は、どこかアンバランスなものを抱えています。 ところが、その周囲にいる人たちも、これまたアンバランス。 結果、アンバランス同士が、奇妙なバランスのもとで生活を送っています。 かといって、そのアンバランスさを無暗に崩してしまうのでもなく、 ある意味、淡々と描かれていきます。 これもまた不思議なバランス感覚。
![]() |
||
『切羽へ』
| ||
- 2011/06/24(Fri) -
| ||
井上荒野 『切羽へ』(新潮文庫)、読了。
直木賞受賞作。 著者の名前を知ったのは、この受賞のニュースででした。 他に2作品読んでから、いざ、受賞作へ。 まず、主人公夫婦の日常生活の描写に、少し驚いてしまいました。 いわゆる普通の夫婦なのですが、その情愛の細やかさに、 当てられてしまったのか、なんなのか、 不躾な性描写よりもドギツイ生々しさを感じてしまいました。 小説をたくさん読んでも、意外と、普通の夫婦の情愛という描写には出会わものだと 気づいてしまいました。そして、私は、あまりこの世界を好んでは見たくないと 感じていることも、わかってしまいました。 ストーリー的には、あまり大きな出来事は起こりません。 1年と少しの間に、とある島に起こる些細な出来事を書き連ねていきます。 しかし、そこに物足りなさを感じることはありませんでした。 エピソードの切り取り方がうまいです。 著者の小説書きとしての力量を実感できる作品です。 ただ、私個人の好みには合わない作品でした。
![]() |
||
『夜を着る』
| ||
- 2011/02/19(Sat) -
| ||
井上荒野 『夜を着る』(文春文庫)、読了。
荒野作品2つめです。 前回読んだ長編よりも、短編集のほうがグッと面白かったです。 ちょっとした切っ掛けで起こる心境の変化を 上手く捉えている作品だと思います。 他人の心の中が読めてしまった(と思った)ときに感じる、ふとした恐怖心、 踏み込んではいけない、これ以上覗いてはいけないという畏怖の気持ち。 そういうものを惹起させる作品でした。 文章が読みやすく、頭にスラスラと入ってくるのも心地よいです。 きちんとフォローしていきたい作家さんです。
![]() |
||
『もう切るわ』
| ||||||||
- 2010/10/30(Sat) -
| ||||||||
井上荒野 『もう切るわ』(光文社文庫)、読了。
直木賞受賞作家様。 ただし、受賞されるまで全く存じ上げない方でした。 てなわけで、お初の作品。 占い師で女たらしの男との日常を、妻と愛人それぞれの立場から描く一冊。 非常にありきたりな設定ではあるのですが、 やっぱり、読んでしまうのは、3人のキャラクター作りの上手さと、 展開の切なさのためでしょうか。 そして、妻と愛人それぞれが、周囲の人間を客観的に見つめていて、 状況に流されない強さを持っているところも、面白さの一つでした。 日本語は読みやすい。 でも、時々、妻のシーンなのか、愛人のシーンなのか ふと分からなくなってしまう時がありました。 あとがきを読んでみると、作者自身、その錯誤を許容しています。 「なら、ま、いいか」と適当な私。 ガツンとくる・・・までは到りませんでしたが、 他の作品も読んでみようかなと思わせる作品でした。 ところで、クリス・タッカーが「タリス・タッカー」となってました。 誤植?それとも作家の誤認?
![]() |
||||||||
| メイン |
|