『スケルトン・キー』
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- 2023/01/01(Sun) -
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道尾秀介 『スケルトン・キー』(角川文庫)、読了。
年内に読み終えようと手に取ったのですが、 予定通りにいかず越年・・・・・。 新年一発目がサイコパスの残虐グロ作品となってしまいました(苦笑)。 2歳半で児童保護施設にもらわれ、そこで18歳になるまで育った主人公。 里親希望の人間も現れず、一人で自活してくことに。 子どもの頃から恐怖心などを感じることがなく、 目の前に生じた問題を、時には直截的に、時には暴力的に解決し、 園の子供たちだけでなく職員からも少し距離を取られていたものの 本人にはその税室を解決する術がなく、受け入れながら仕事をしていきます。 この主人公に、園の時代に仲の良かった少年が久々に連絡をしてきて、 会ってみると、「お前の母親を散弾銃で撃ち殺してお前を孤児にしたのは俺の親父だ」と。 「おいおい、こんなこと本人に平気で伝えるのかよ・・・・」と思ってしまいましたが、 この少年は、知能的に標準をかなり下回っているような描き方がされており、 「これは、ケーキの切れない少年ってやつか・・・・・」と納得。 そこから急展開して、この少年の父親が惨殺され、 さらには園で一緒に過ごして里親にもらわれていった少女が自宅で惨殺され、 主人公の周辺で、人間の所業とは思えないような酷い殺人事件が短期間に 連続して発生します。 その事件描写の中で、ところどころ、「ん?!」と引っかかる部分があったのですが、 その真相が中盤あたりで明かされ、なるほどねー、そういうことかー、と サイコパスが、いったい何人登場してくるんだよ!って感じですが、 まぁ、道尾作品だからサイコパス推しなのは仕方なし。 サイコパスが、自身のサイコパス加減の由来、つまりは遺伝と外因という2点ですが その2つに悩まされ、しかし恐怖は覚えずに、可能な方法で対処しようとする その姿を見て、やっぱりサイコパスは問題解決能力という点で最優秀な人材だよなーと 思ってしまいました。 私が、小説に登場するサイコパスな人々を毛嫌いすることが少なく、 むしろ共感を覚えがちなのは、その自分自身で道を切り拓いていける能力に 憧れている部分があるからだと思います。 まぁ、本作のように、人を殺すことで解決しようとは思いませんが。 一番、作中での変貌ぶりというか、本質の隠蔽ぶりに驚かされたのが、 仲良しだった少年(主人公の母親を殺した男の息子)です。 ケーキの切れない少年のように描かれながら、しかし、どうやったら自分が生きていくのに 最も利益があるかという観点で、人を選んでしっかりくっついていき、うまい汁を吸います。 その本来の目的を一切周囲に感づかせることなく、ちょっとおバカな子供を演じきっている その能力に感嘆しました。 こんな人、周りにいたら怖いですけど。 新年早々、グロい読書となりましたが、 やっぱり小説って面白いよなー、と実感させてくれる作品でした。 ![]() |
『龍神の雨』
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- 2021/04/06(Tue) -
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道尾秀介 『龍神の雨』(新潮文庫)、読了。
大藪春彦賞受賞作品ということですが、 あんまり意識したことがなかったので、受賞作が自分の好みに合うのかどうか イメージがわかなかったのですが、検索してみたら受賞作も候補作もそれなりに読んでました(笑)。 ハードボイルド小説・冒険小説に与えられるということなのですが、 本作を読んでみて、うーん、その定義に合っているのかしら?とやや疑問。 というか、他の受賞作を見ても、ピンとこないです。 硬派な感じの作品というぐらいの緩やかな括りのような気がします。 親の再婚により血の繋がらない他人が「家族」として家庭の中に入ってきた後で、 血の繋がった親が亡くなり、継母・継父と兄弟だけが残されてしまった特異な家族が2つ。 その2つの家族が、万引き事件をきっかけに接点を持ち、 そして、殺人事件に巻き込まれていく・・・・・・。 この子供たちの目から見た、継母・継父への嫌悪感とちょっと配慮をする感覚が 見事に描かれていて、「あぁ、知らない人が突然家族として家の中に入り込んでくるのって こんな感覚なんだなぁ・・・・」と、4人の視点から見える景色に納得しました。 一方で、ミステリとしては、物足りない感じでした。 殺人事件が起き、それをいかに隠ぺいするかという視点で物語が進んでいきますが、 淡々と進んでいくような印象を受けてしまい、あまり興味が持てませんでした。 隠ぺいしようと兄妹は必死に頭を回転させますが、ちょっと理屈っぽいかなと。 人間、窮地に陥ったときに、こんなにいろいろ考えられるだろうかと。 事件の展開にドキドキしたのは、むしろ万引きシーンの方。 店員側の視点も含めて、どういう展開になるのか、発覚後の駆け引きにおける心理戦も含め 面白かったです。 個人的には、圭太の視点が、一番、人間として安心できる心情の持ち主だったので 圭太目線で本作を読んでました。 最後のシーン、小学生ながらこんな場面に居合わせてしまった彼の不幸を思い、 その後の人生において、少しでもトラウマにならなければと祈りたくなりました。 ![]() |
『光媒の花』
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- 2017/08/22(Tue) -
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道尾秀介 『光媒の花』(集英社文庫)、読了。
連作群像劇というスタイルの道尾作品は初めてでした。 冒頭の「隠れ鬼」。 主人公が子供の頃の夏に避暑地で経験した年上の女性との出会い。 熊笹の生い茂る空き地へ、毎日会いに行くというファンタジーな感じで物語は進みますが、 終盤、やっぱり道尾秀介!というグロい終わり方。 タイトルを見返すと、また不気味さが光ります。 というわけで、続く「虫送り」も、これまた不気味。 道尾秀介×虫という組み合わせが、すでに気持ち悪いですが、 虫送りというある種の農耕儀式を、ここまで不気味な道具に使う人も なかなかいないのではないでしょうか。さすがです。 ところが、この不気味さが、「冬の蝶」あたりから 少しずつ、人間の内面の葛藤の積み重ね、ひいては人生を描いていく作品に タッチが変化していきます。 このあたりの匙加減が絶妙。 苦しみを背負ってきた人間が、 ある出来事が切っ掛けで視野が変わり、 過去の自分と決別するとともに、周囲の人にも寛容になれる、 そういう前向きな気持ちになる読後感が、 道尾作品ということを忘れさせてくれるほどでした(苦笑)。 連作群像劇のつながり具合も面白かったですし、 そのつながりの中で感じられるグラデーションもまた面白い作品でした。
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『カササギたちの四季』
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- 2017/01/28(Sat) -
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道尾秀介 『カササギたちの四季』(光文社文庫)、読了。
道尾作品にしては、やけにカラッとした作品で、 「いつか、どーんと暗い話に落ちるのかな」と思って読み進めましたが、 最後までのほほんと明るい作品で、 菜美の身に起きた事件とかに期待しちゃった分、なんだか肩透かし。 道化役が、一見それらしいけど的外れな推理を披露し、 それを探偵役が覆していくという二段推理は作品として手が込んでいると思いますが、 探偵役が道化役の顔を潰さないように、わざと的外れな推理を当たっているかのように 見せてあげるという演出は過剰ではないかと思いました。 また、そこまでしなければいけない理由も、ないように思えました。 1個1個は、たいした罪のないお話なので、 気軽に読むには手ごろな本ですが、 道尾作品だと思うと、なんだか勿体ないなぁ・・・・と思ってしまいます。
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『球体の蛇』
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- 2016/01/04(Mon) -
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道尾秀介 『球体の蛇』(角川文庫)、読了。
幼なじみの姉妹の姉が子供の頃に自殺した。 その真相を知る主人公の男は、姉に似た雰囲気を持つ女性に出会い、 その女性に会いに行くのではなく、覗きに行くために床下に潜る・・・・・。 江戸川乱歩か!という感じの設定ですが、 床下に潜るという行為も、あくまで物語の中の1つのパートに過ぎず、 主人公と姉妹をめぐる物語が、長い時間をかけて語られ、振り返られ、進んでいきます。 この姉のサヨの人物造形が何とも不気味で、 大人の行動ならまだしも、小学生、中学生の頃に、このような思考回路を持っているとなると 相当に歪んだ何かを感じてしまいます。 その妹のナオは、純真で明るい女の子なので、ますます対比が際立ってきます。 しかし、その純真さは、姉の影響があることが段々と分かってくるにつれて、 こちらも何か歪んだものを感じざるを得ません。 大人になって、ようやく、コトの真相らしきものに近づいては行くものの、 その解釈は読者に任されており、自分なりの読み方ができるようになっています。 いくつか考えられるストーリーがあるのですが、 いずれにしても切ない結論になってしまうのが、何とも言い難いです。 読ませてくれる一冊でした。
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『ラットマン』
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- 2015/04/16(Thu) -
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道尾秀介 『ラットマン』(光文社文庫)、読了。
上手く楽しめませんでした。 どんでん返しに次ぐどんでん返しを楽しむ作品なんだとは分かっているものの、 こんなストーリーにする必然性がないのではないかという疑問が ずーっと付いて回ってしまい、作品の世界に入っていけませんでした。 なんでバンドなんだろうか、 なんで子供時代の不幸な思い出があるんだろうか、 なんで父親は出て行ったんだろうか、 なんで死のうとするのだろうか、死を作ろうとするのだろうか・・・・・・・ いろんな疑問が、読み終わっても、頭の中に残ってしまっている感じです。 こういう作風の著者なんだと思って読むしかないのかもしれませんが。
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