『迷子の王様』
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- 2022/06/19(Sun) -
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垣根涼介 『迷子の王様』(新潮文庫)、読了。
ついに「君たちに明日はない」シリーズ完結です。 シリーズが進むたびに、主人公のリストラ面接官・村上の立ち位置が後退していき、 リストラされる側の人物にスポットが当たる量が強くなっているように感じました。 その分、リストラされる側の人生の悲哀というか、その人の持つ人生観がじっくり描かれ、 より一層読み応えのある作品になっているなと感じます。 本作では、化粧品会社の美容部員の女、家電メーカーの研究員、書店員の女、そして・・・・ という4人の被リストラ要員が登場してきますが、 みんな自分のこれまでの歩みに自分なりに確信を持っているというか リストラの危機に遭って多少の揺らぎはあっても、振り返って冷静に考えてみると 「自分はこうあるべきだ」と思えるものがある人たちばかりで、 あぁ、なんだかんだ良い人生を送ってるんだな・・・・・と爽やかな気持ちになりました。 リストラされてるのに本人も読者も前向きになれる力強さを持っている人って、 凄いですよね。尊敬します。 そして、彼らの共通点として本作を通じて感じたのは、 職場の同僚以外に、しっかりと会話ができる家族なり恋人なり友人なりが居るということ。 職場で辛い立場に追いやられても、その外に、それを相談することができる人が居るのは 本人が心強く感じたり、安心感を覚えたりできるという面もあるでしょうけれど、 それ以上に、そういう信頼できる人間関係を築く能力がある人間だという証明なんだろうなと。 そういう人は、逆境にも強いですよね。 自分もそういう人間関係を、毎日地道に作り上げていくようにしないといけないなと 心を引き締める読書となりました。 シリーズ完結編としては、最後、大団円の終わり方でしたが、 まぁこれぐらい強引に締めないと、このシリーズは終われないのかな。 変に続きが復活しそうな雰囲気を醸し出さずに締めたのは、すっきりしてて良いですね。 ![]() |
『永遠のディーバ』
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- 2016/12/22(Thu) -
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垣根涼介 『永遠のディーバ』(新潮文庫)、読了。
シリーズ4作目ですが、相変わらず読みごたえがあります。 やっぱり、リストラという人生の転機に、 首を斬る側も斬られる側も、真剣に向き合ってるからこその 人生模様ですよね。 今回は、高橋社長の過去についても語られ、 新しいビジネスを起業する人が持っている運というか、巡り合わせみたいなものを感じました。 「俺の仕事はこれしかない!」と思い込んでしまい、そこに固執するのではなく、 自分に来た流れにうまく乗って、流れに身を任せながら自分のポジションを取る、 そのバランス感覚が絶妙です。 これは、学びたい。 そして、そんな高橋社長と15年来の付き合いという年配の男性2人。 彼らの人生哲学がいろいろ聞けて、興味深かったです。 人間、もう必要とされなくなった場所に居てはいけないんだよ これは、経営破綻という荒波に揉まれ、そこから生き延びた人が言うからこそ 重みのある言葉ですよね。 そして、本作ではもう一つ。 セミプロのバンドマン上がりで、現在は楽器メーカーに勤める男性。 ミュージシャンの夢は叶えられなかったが、 親和性のある職を得て、サラリーマンを続けてきた彼。 そんな彼が、首切り面接で見せる態度や発言に、 「それは違う」と心の中で反論する首切り役の主人公。 主人公が、どういうポイントで、「こいつの考えは甘い」と判断しているのか、 そこが分かって、勉強になりました。 そう、この小説は面白いだけでなく、 仕事と向き合う姿勢について勉強になり、 自分を振り返るきっかけとなる、1粒で3度おいしい良書なんです。
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『張り込み姫』
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- 2015/07/26(Sun) -
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垣根涼介 『張り込み姫』(新潮文庫)、読了。
シリーズ第3弾。 リストラ請負人が主人公であることは変わりがないのですが、 シリーズが進むにつれて、段々と物語に占める割合が、 主人公の活躍譚から、彼の面接対象者であるリストラを迫られる人に移ってきています。 そのバランス感覚が絶妙。 リストラの物語は、それぞれのお仕事の物語なんだなと 今回は特に、それぞれの仕事にかける思いが伝わってきました。 業績は悪いけれども、その仕事に誇りやこだわりを持っている人々。 収録の4作とも、それぞれリストラの憂き目に合った人たちが 彼らなりのこだわりで次の人生を見つけていく姿に、 単純ではありますが、自分も頑張ろうと思いました。 東大を出て、純文学担当を希望して老舗の出版社に入ったのに、 写真週刊誌の編集部で、昼夜を問わない激務をこなす30歳手前の女子。 私は、もう、かなり前にそんな年齢を過ぎてしまいましたが、 しかし、それまでに蓄積してきた自分の経験値や学習知に対して、 足元の仕事の状況なり、そこに置かれた自分の姿なりを思うと、 彼女のことを他人事だと思えませんでした。 リストラの対象にされるというのは、 能力のある人にとっては、自分の人生を考え直す良い機会になるのかもしれませんね。 衝撃的であっても、そういう場に遭遇する機会がないと、 意外とダラダラとした日常に流されていくだけなのかもしれません。
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『借金取りの王子』
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- 2014/01/11(Sat) -
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垣根亮介 『借金取りの王子』(新潮文庫)、読了。
首切りシリーズ(と呼んで良いかわかりませんが)の第2弾。 ようやく100円で見つけることが出来ました。 様々な企業に出向いて、 その企業の都合で首切りを行っていくわけですが、 本作は、その「リストラ」という場面に着目したということだけでなく、 主人公とゲスト(首を切られる側)との距離感が、 非常に上手いんだなということに、今回ようやく気づきました。 リストラの面接の結果、 自主的に辞める人、最後まで抵抗しながら辞めさせられる人、辞めずに済んだ人、 それぞれの人に、それぞれの事情があるのですが、 主人公である首切り側には、原則、その事情が分からないままなんです。 だからこそ、純粋に、面接の時点でのやりとりにリアリティが出て、 主人公側が「上手く面接を進められた=勝った」と思っているケースもあれば、 「なんで、そんなにすんなり退職を受け入れるんだ?=負けた」と思うケースもあり、 人間を見る目の難しさということを、実感できます。 下手な小説では、主人公側が、変に面接対象の個人的事情を知ってしまう展開を作り、 リアリティのない肩入れの仕方や、不自然な感情を持ってしまったりするものです。 そんな要素を取り入れず、純粋に、面接官と被面接者の関係内で物語る。 そこで、主人公の彼女や、面接パートナーといった 女性の視点も活きてくるというもので。 というわけで、第1作よりも、一層楽しく読むことが出来ました。 満足、満足。
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『ヒートアイランド』
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- 2013/01/26(Sat) -
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垣根涼介 『ヒートアイランド』(文春文庫)、読了。
垣根作品はスピード感があるので、 読み始めると、止まらなくなっちゃいますね。 本作もなかなかのボリュームでしたが、一気読み。 ストリートギャングの集団が、 ひょんなことから裏金強盗のプロ集団、果ては暴力団たちに追いかけられ、 知恵を絞って切り抜けていくお話。 このストリートギャングのメンバー構成が、なかなか面白い出来なんですよね。 普通の不良さんとは違う空気を持っています。そして高速回転する頭脳も。 自分たちが置かれた状況の把握・分析力が優れており、 そこから未来の展開を組み立てていく能力も素晴らしい。 ストリートギャングでなければ、経営者として面白いかも(笑)。 一方の強盗たちも、身体能力の高さと判断力の冷静さにおいては、 これまた面白いグループを形成しています。 こちらを主人公にしても作品が出来そうな印象です。 この2つのグループに挟まれて、暴力団たちは道化役的な担当になっちゃってますが、 それでも、ヤクザ稼業の組織力やプレッシャーのかけ方などは、 読んでいて興味深かったです。 あまりにも多くの人が死んだ割には、 エンディングで爽やかさを感じてしまうのは、 主人公2人のキャラクターのなせる業なんでしょうね。
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『午前三時のルースター』
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- 2011/05/21(Sat) -
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垣根涼介 『午前三時のルースター』(文春文庫)、読了。
土日にゆっくり読もうかな・・・と思って手に取ったのに、 結局、一気読みになってしまいました。 どんどん展開していくから、キリの良いところで止めることができなくて。 主人公、依頼人の少年、親友の遊び人、 ベトナムのタクシー運転手、即席ツアーガイド、そして怪しいベトナム人たち。 どれもキャラクターが立っていて、役割分担がはっきりしているので、読みやすかったです。 ま、どの人物も、ちょっと善人過ぎる気がしましたが。 ストーリーのほうは、もう少し捻ったほうが・・・という感じで、 真相の方からどんどんやって来てくれる印象です。 あまり、情報収集には苦労していないような。 ま、その分、初っ端から罠に嵌められてはいましたが。 なので、あまり、主人公たちの機転の利かせ具合は、目立たなかった気がします。 ただ、ベトナムという街の暑さは、いろんな描写から伝わってきました。 そこに残ろうとした男の思いや、その息子の決断の重みが 熱くも爽やかな印象を残す作品だったと思います。
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『ワイルド・ソウル』
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- 2008/12/27(Sat) -
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垣根涼介 『ワイルド・ソウル』(幻冬舎文庫)、読了。
アマゾンの奥地に捨てられた日本からの移民家族たち。 上巻の前半は、読むのに苦労しました。 何よりも悲惨な現実。 なかなか泥沼の生活から進捗が無いので、 物語としてもちょっとイライラしてしまいました。 が、舞台が現代に戻ったところで一気に話が動き始めます。 何よりもまず、このスピード感が気持ち良かったです。 ケイと松尾を中心とした実働部隊のテキパキぶりとソツのなさ。 そして、復讐にも燃えながらも決して自分を見失うことのないケイという 強烈なキャラクターの存在。 また、彼を取り囲む貴子たちマスコミや警察の面々。 どれもこれも粒ぞろいでした。 最後まで読み終わって見ると、 前半のしんどいストーリーテリングも、 復讐の意味を理解するには大事なステップだったのだと納得。 同情を誘う復讐理由でありながら、彼らの犯罪の完全成功は許さない。 このバランス感覚も、私好みな感じの落とし方でした。
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『君たちに明日はない』
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- 2008/12/11(Thu) -
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垣根涼介 『君たちに明日はない』(新潮文庫)、読了。
最近よくお名前を見かける作家さん、初挑戦です。 山本周五郎賞の割にはちょいと軽めだな・・・なんて感じましたが、 内容は十分面白かったです。 リストラ請負会社という立場で リストラ対象者を自主退職に誘導していく一連の流れが なるほどなぁと思わせる内容で、勉強になりました。 人を説得するというのはこういうことなのか、と。 また、陽子のキャラクターも小気味よく、 特に悪態をついた時の台詞なんかがテンポ良いです。 まぁ、真介と陽子の恋愛話がどこまで必要だったのかはよくわかりませんが。 自分の学校の先輩に当たる設定の人も リストラ対象者として登場してきてビックリしましたが、 無事に再就職できてよかったなと、何故だかホッとしました。
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