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『抱擁、あるいはライスに塩を』
- 2018/11/24(Sat) -
江國香織 『抱擁、あるいはライスに塩を』(集英社文庫)、読了。

不思議なタイトルのお話。
そして、登場人物たちはもっと不思議。

神谷町の大きな洋館に住む一家。
祖父母と両親と4人の兄弟姉妹、さらに叔父と叔母。
このうち長女の父親は別にいて、弟の母親も別にいるという
奇妙奇天烈な家族構成。

そんな家族1人1人、もしくは家族に縁のある人の視点から
1章ずつ、この家族のことが語られていきます。
それも、それぞれの人物の人生に大きな意味を持つ出来事を
時間を遡ったり下ったりしながら、描いていきます。

30年前に戻ったり、5年進んだり、著者の構成力に身をゆだねる感じですが、
とても良いスムーズに話は進んでいきます。
「そうそう、この人物のバックグラウンドが知りたかったのよね」とか
「この人たちの変な関係性ってどこから来てるんだろう」とか
まさに知りたかったことが次に描かれていくという心地よさ。

兄弟姉妹は、学校にも行かず、自宅で家庭教師による教育を受けており、
家庭教師はお爺ちゃん。
友達もごく限られた人しかいない状況です。
そして、突然、父の思い付きで小学校に通うことになりますが、
環境になじめず3か月でリタイア。
また家庭教師生活に戻ります。

こんなんじゃ、この4人は、社会不適合者になっちゃうよ~と
心配しながら読んでいったのですが、
家の教育方針に従って大学だけは行くことになってます。
この場合の大学とは、男子は東大で女子はお茶の水限定。

で、大学に行ってみると、友人ができ、恋人ができ、
変わった人というレッテルを貼られながらも案外、なんとかやっていけるようになり、
人間って逞しいんだなと思わずにはいられませんでした。
それとも、大学生の柔軟さというところでしょうか。

そして、家を出ていく子供たち。
家から離れられない大人たち。
対照的です。

親子3代にわたる日々が描かれていきますが、
終盤、この人の死は悲しかったです。
なんだか家の明かりが明滅してしまうかのようで。
それに合わせるかのように、稼業の貿易業が傾いてきたような描写があったり、
この家の未来に暗雲が立ち込めてきそうな予感がありながら、
物語は幕を閉じます。

火が消える最後のパッと明るくなる瞬間が、
この本で描かれた後半20年間だったのかもしれませんね。





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『犬とハモニカ』
- 2017/05/25(Thu) -
江國香織 『犬とハモニカ』(新潮文庫)、読了。

サクッと読める小説はないかな・・・・と手元の積読本を探して、
見つけたのがこの一冊。薄い本に6つの短編が収まっています。

冒頭の表題作「犬とハモニカ」。
とある空港の到着ロビーで行きかう人々の生活を
断片的に描いてみせた作品。

何という出来事が起きるわけではないのですが、
短い描写の中で、それぞれの人が背負った人生の在り様をズバッと見せており、
それぞれの人が交じり合う一瞬を捉えて、お互いの人生を切れ味良く評価させています。

この技量たるや!
どうやったら、こういう作品を描こうと思いつけるのでしょうか。
物語の構成、登場人物たちの人間性、交じり合う一点の内容、
どれも絶妙な匙加減で作られています。

後で裏表紙を見たら、川端賞受賞作だとのこと。
そりゃ、そうですわな。素晴らしい作品です。

他にも、人間たちの交じり合えない様子を描いた短編が並びますが、
印象に残ったのは、『源氏物語』を現代風にアレンジした「夕顔」。
女心の機微が、イマドキの女の子の言葉遣いで描かれているので、
妙にリアルな感じがして面白かったです。


犬とハモニカ (新潮文庫)犬とハモニカ (新潮文庫)
江國 香織

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『すきまのおともだち』
- 2017/03/19(Sun) -
江國香織 『すきまのおともだち』(集英社文庫)、読了。

絵本っぽい表紙絵だったので、
気軽な気持ちで手に取ったのですが、
最初に感じたのは恐怖でした。

仕事帰りの道で、ちょっと寄り道しただけだったはずが、
いつの間にか知らない町に出てしまい、
帰り方が分からなくなる・・・・。

出会った女の子は自分の名前を「おんなのこ」と言い、
その子の家にあったお皿は、自分の名前を「お皿」だと名乗った・・・・。

お皿がしゃべったことよりも、
一般名詞が固有名詞に成り代わっているところが、
この世界の多様性を認めないというか拒絶している感じを受けて、
「こんな世界に飛ばされたら即発狂だわ」と恐ろしくなりました。

なんとなく、その恐怖感が最後まで続いてしまって、
本来の作品の味を楽しめなかった感じで残念。


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『真昼なのに昏い部屋』
- 2016/10/02(Sun) -
江國香織 『真昼なのに昏い部屋』(講談社文庫)、読了。

久々の江國作品だったのですが、
うーん、共感できず距離が開いたまま読み終わってしまいました。

夫に従順な主婦・美弥子さんは、近所に住む外国人の大学教授ジョーンズさんと
フィールドワークという名の散歩をともにするようになり、
次第に心の自由を得ていく・・・・。

さん付けの呼び名、美弥子さんのふんわりとしたしゃべり方、
ジョーンズさんの流暢な日本語、ご近所を彩る情緒的な舞台装置たち。
どれもメルヘンチックな香りを漂わせているのに、
やっていることは不倫。
しかも、本人たちが罪悪感がほとんど感じていない様子の不倫。

ま、不倫の道徳性を云々するつもりはないのですが、
登場人物みんなの心性が気持ち悪くて苦手でした。

冒頭、主人公と夫との日常会話のシーンが描かれるのですが、
自分の言いたいことだけ言って、妻の言うことは何も聞いてない夫。
本当に、「何も」聞いていません。
この時点で、まず、夫というキャラクターへの嫌悪感が掻き立てられるのですが、
その夫のやることなすことを全て受け入れ、疑問を持たない主人公・・・・・
この設定が気持ち悪くて、ここで躓いてしまいました。
普通の人は、主人公にピュアさとかを感じ取るのかもしれませんが。

さらに登場してくるジョーンズさんの主人公への思い。
これも、ピュアな恋愛感情なのかもしれませんが、
私にはストーカー気質の不気味さの方が先に立ってしまいました。

結局、妻、夫、不倫相手、三者とも印象が「気持ち悪い」「不気味」という括りに
なってしまい、肩入れする相手が見つからず。

それ以外に登場する人々も、あまり魅力的に感じられる人がいないままに
物語が終わってしまいました。


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『間宮兄弟』
- 2014/09/06(Sat) -
江國香織 『間宮兄弟』(小学館文庫)、読了。

刊行された当時、「お、これは面白そうだ!」と気になり、
ずーっと100円で捜し求めてました。
ようやく手に入れて、早速読み始めたのですが・・・・・

・・・・・・ナンカチガウ。

思い描いていた兄弟の姿と、
描かれていた間宮兄弟の姿が、重なりませんでした。
勝手に想像を膨らませていた自分が悪いのですが。

登場人物それぞれの心情が描かれており、
悪意を持っている人は居ないのですが、
あぁ、善意って、すれ違うんだなぁ・・・・・・・なんて
憂鬱な気持ちになってしまいました。

他人と交じり合って生きていくのって、難しいですね。


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『ふりむく』
- 2014/02/11(Tue) -
松尾たいこ 絵、江國香織 文 『ふりむく』(講談社文庫)、読了。

今日は、ちょっと調べ物で図書館に行ってきました。
目的の本を見つけた後、ぶらぶらと一周。
そんなときに目に止まった薄い本がこれ。

松尾たいこさんのイラストって、はっと目を奪われますよね~。
好きなイラストレーターさんです。

そんな松尾さんの作品に、
江國香織さんが文章をつけたのが本作。
つまり、絵が先にあり、それを見て感じたことを作家が文にするという企画。
面白いです。

なるほどねぇ・・・と思えるものから、
えっ、そんな見方するの???と新鮮なものまで、まさに色とりどり。
でも、文を読んでからもう一度絵を見てみると、
確かにそんな気持ちになってくるんですよねー。不思議。

作家の場面を切り取る能力と、画家の想像力を掻き立てる能力の
両方を楽しめる一冊です。


ふりむく (講談社文庫)ふりむく (講談社文庫)
江國 香織 松尾 たいこ

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『あかるい箱』
- 2013/06/01(Sat) -
江國香織 『あかるい箱』(マガジンハウス)、読了。

こちらも図書館で目に留まったもの。
絵本なのですが、表紙から伝わってくる不吉な感じが作品全編にも漂ってます。

子供が読んだら、トラウマになりそうな内容です。
大人の絵本ですね。

1ページごとの話の展開が、
ちょっとずつ飛ぶようなところがあり、
その行間を自分で埋めながらの読書になるのですが、
自分で勝手にダークな方へと色付けしたくなるんですよねぇ。

そんな怖い力をもった作品でした。


あかるい箱あかるい箱
江國 香織 宇野 亜喜良

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『いつか記憶からこぼれおちるとしても』
- 2013/01/05(Sat) -
江國香織 『いつか記憶からこぼれおちるとしても』(朝日文庫)、読了。

裕福な家庭の子供が通う女子高が舞台。
10人の女子高生の日常を描いた連作短編。

この「裕福な」というところが味噌。
決して「いじめ」や「校内暴力」といった乱暴な行動には辿り着かないのですが、
では、みんな幸せかというと、なんだか空疎な印象に満ちています。

むしろ、「いじめ」がある世界の方が、悩みや苦しみが濃密で、
生きている感じを受けてしまうほどに、この作品の世界は、空っぽな感じがします。
ただ、時間をつぶすために毎日を生きているような。
大人になってから振り返ると、いったい彼女たちはこの頃の何を思い出すのだろうかと
不安に感じてしまうものがあります。
だからこそ、このタイトルには納得。

重松清の学校を舞台にした本を読んだばかりだったので、
その世界観と比較しながら読んでいる自分が居ました。

どちらの作品にも出てきたのは、「みんな」って何?という問いかけ。
「いじめ」はないけど、どこか「孤独」。
学校社会って、難しいですね。

作品はとても面白かったです。


いつか記憶からこぼれおちるとしても (朝日文庫)いつか記憶からこぼれおちるとしても (朝日文庫)
江國 香織

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『スイート・リトル・ライズ』
- 2011/09/19(Mon) -
江國香織 『スイート・リトル・ライズ』(幻冬舎文庫)、読了。

江國センセお得意の、違和感がある結婚生活なのに
その違和感を違和感として認めたがらない夫婦のお話。
(って、要約間違ってるかしら?)

江國作品を読んでいると、「幸せな結婚生活ってあるんだろうか?」という
疑問がふつふつと湧いてきます。
そうすると、荒野作品を読んだときに、不慣れで無闇にドキドキしてしまうのです(苦笑)。

一度家庭を築いてしまうと、ふとした違和感よりも、
毎日の習慣のほうが優先されるのでしょうかねぇ。
ま、意識的に優先するというよりは、無意識に選択しているような感じなのでしょうけれど。

今回は、主人公夫婦+春夫+しほという4人の行動が描写の大半を占めますが、
個人的には、登美子や文といったキャラクターに、
もうちょっと突っ込んでかき回して欲しかったなという印象を受けました。
少し、狭い範囲で完結してしまったような小ぶりな印象です。

ま、でも、相変わらず、日常生活における違和感への気付きの描写と、
それを意図的に無視しようとする人間の都合の良さの描写が、
非常に上手い作家さんだと感嘆。




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『ぬるい眠り』
- 2010/10/21(Thu) -
江國香織 『ぬるい眠り』(新潮文庫)、読了。

冒頭の「ラブ・ミー・テンダー」が面白かったので、
期待値が無駄に上がってしまったのか、その後の作品はパッとせず・・・。

あんまりピンとくるものがありませんでした。

「清水夫妻」は、設定の突飛さと死というテーマが面白かったです。

あと、『きらきらひかる』の続編が入ってました。
笑子と睦月は、2人なりに幸せに暮らしていることが確認できて、
私の方まで幸せな気分になりました。


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