『青春ぐんぐん書店』
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- 2013/10/19(Sat) -
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ねじめ正一 『青春ぐんぐん書店』(新潮文庫)、読了。
舞台は山形県酒田市。 3300人もの被災者を出した1976年の大火事が物語の幕開きとなります。 こんな大火災が昭和の時代に起きていたことに驚きです。 そして3300人もの人が家を焼かれたにもかかわらず、 死者を1名に抑えたというのは奇跡的だと驚きました。 小学生の時、近所で火事があり、父親と一緒に見に行きました。 非常に不謹慎な話、火が燃える様に見とれてしまいました。 まさに野次馬であり申し訳ない行為ですが、火そのものには恐怖を感じませんでした。 一方で、火が出ている家の両隣では、住人の方が、必死の形相で家財道具を 2階の窓から下の道路に降ろしていて、その鬼気迫る雰囲気に、「火事は怖い」と 思い至りました。経済損失の恐ろしさのようなものを感じ取ったのだと思います。 というわけで、火事が生活に与える損害を少しは分かっていたつもりですが、 改めて小説の形で描写されると、恐怖を生生しく感じます。 酒井の大火を、主人公のように高校生の時に目の前で経験するのと、 兄や姉のように遠い地で一報に触れるのと、 父母のように働き盛りで経験するのと、 何年も経ってから振り返った時に、全く違った事象の捉え方をしてるんだろうなと思います。 小学校1年生の時に御巣鷹山の事故のニュースを家族みんなで見守った、 阪神大震災の揺れを高校1年生の時に体験した、 オウム事件の一連の報道を高校の教室でみんなで注視した、 9.11のニュースに社会人1年目で触れ、アメリカの話が自分の仕事に影響することを体験、 東日本大震災の揺れを会社で体験し、歩いて家に帰った、計画停電を耐えた、 スーパーに食べ物がなかった、義捐金を贈った、ボランティア活動をした。 自分が人生のどんなステージの時に何に遭い、何を感じ、どんな行動をしたのか。 これは、その後の人生観に大きく影響を与えるものだと思います。 この点で本作を見た時に、父や母の奮闘はよく理解できましたが、 主人公およびその兄は、感度が悪いように感じました。 その後の父に起きた出来事の際の兄弟の行動の俊敏さと判断力の力強さに比べると、 自分の事として、火災を捉えきれていなかったのだろうなと思います。 経済的に自立していないと、そんなものかもしれませんね。 主人公の英雄的な行動がみられるわけではありません。 「ぼんやり」と呼ばれる主人公は、「ぼんやり」なりに大火とその後の生活を受け止めます。 しかし、その中で、友人たちに向ける眼差しの変化や、 兄を含めた大人の世界への理解の深まりなどがあり、 青春小説としては、満足度の高いものでした。 ねじめ青春小説は、いいですね!
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『鳩を飛ばす日』
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- 2012/06/05(Tue) -
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ねじめ正一 『鳩を飛ばす日』(文春文庫)、読了。
著者の描く、「昭和の男の子」、好きなんですよねー。 元気いっぱいだけど、恥ずかしがりや、 不器用だけど、優しさに溢れ、 やんちゃだけど、親の言うことにはそれなりに素直。 男の子のあるべき姿を、真っ直ぐに描いているように感じます。 本作では、父の妹が死別で片親となり4人の子供を抱えることとなり、 そこから長女を引き取ることになります。 主人公の少年と、引き取られてきたもの静かな少女が軸となり、 そこに家業である和菓子屋の出来事や、 学校の友人達との伝書鳩の育成、 引き取った少女の実兄との気まずさなど、 様々な要素を組み込んで、主人公の少年の成長ぶりを描きます。 不器用なりに、兄となった立場での優しさが随所に溢れていて、 心がほんわかする作品です。 少年の両親も、精一杯生きている様子が描かれ、 素敵な家族だと思いました。 ちょっとタイトルだけは、ピンと来ませんでしたが・・・・。
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『ご近所パラダイス』
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- 2010/10/29(Fri) -
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ねじめ正一 『ご近所パラダイス』(新潮文庫)、読了。
ねじめ作品で「ご近所」とのタイトルから、 「すわ、商店街モノ!?」と勇んで買ってきたら、 エッセイでございました・・・・・(+_+) 勇み足でやんした。 日常を淡々と描いたエッセイでカラーを出すのは難しいんだろうなぁ・・・と 感じてしまいました。 思いのほか、口が悪くていらっしゃるんですね(笑)。 でも、小説の空気からすると、この口調は予想すべきですね。 エッセイの中身からすると、結構テレビにも出ていらっしゃるようですが、 私はあんまり印象がありません 想像しようとすると、なぜだか梅沢富美男さんのお顔が出てきて、 私の頭の中で、ねじめさんとして動き出してしまいました(苦笑)。 とてもじゃないですが、宮崎勤さんとは結びつきません。 エッセイのネタに、紀子様の婚礼の儀なんて話が出てきて、 これまた時代の中途半端さも残念でした。
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『出もどり家族』
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- 2010/03/07(Sun) -
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ねじめ正一 『出もどり家族』(光文社文庫)、読了。
『高円寺純情商店街』に続いての商店街モノということで、買ってきました。 私小説と銘打っているだけあって、舞台はご実家の「ねじめ民芸店」です。 そこで巻き起こる、様々な憂鬱の種を、主人であり父親である 「ネジメハジメ」の立場から描写するというもの。 前半は、非常に面白く読みました。 嫁の実家が巻き込まれた親類の使い込み&夜逃げ事件により、 1千万円を超える借金の肩代わりをする羽目になったネジメ家。 他にも、浪人生の娘が妊娠しちゃったかも事件とか、 タレント志望でプー太郎の長男がどうにもなんない事件とか、 嫁の両親がちっとも反省せずに被害者気どっちゃってる事件とか、 いろんなことに巻き込まれつつ、大した解決方法も見つけられないまま その場の状況に流されていってしまいます。 あぁ、こんな事態に突然巻き込まれたら、オタオタしちゃうんだろうなぁ・・・と 同情心も湧いてきます。 しかし、後半が、ちょっとついていけませんでした。 自分の愛人に振り回されたり、 その愛人宅からの帰りに交通事故に遭っちゃったり、 その交通事故の被害者の借金まで肩代わりしちゃったり、 自分で問題を広げすぎなんですよねー。 最後にネジメ自身が振り返っていますが、 嫁の憂鬱は周囲の人間が引き起こしたことであり、まさに巻き込まれ系なのですが、 ネジメの憂鬱は、全部、自分が引き起こしたことなんですよね。 言ってしまえば、ダメ亭主。 そして、袋小路にハマってしまったダメ亭主の起死回生の策が、 「アレ」では、家族が可哀そうすぎますよー。 商店街という、ただでさえ人間関係が濃い環境なんですから。 もし、自分の父親がこんな行動をしたら・・・・と考えると、 ちょっと許せない気持ちになってしまいました。
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『高円寺純情商店街』
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- 2009/06/16(Tue) -
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ねじめ正一 『高円寺純情商店街』(新潮文庫)、読了。
これは面白かったです! 私の実家が商店街の中の一軒だということもあって、 ものすごく親近感を持って読むことができました。 さすがに、正一少年のように 毎日相当な時間を家業の手伝いに充てることはありませんでしたが、 出前を持って行ったり、買い物に行ったり、 お皿を洗ったり、注文を聞きに回ったり、 一日の売り上げを数えたり、伝票の整理をしたりと、 自分が小学生の頃にもいろいろ手伝ったなぁ・・・と懐かしく思い出しました。 (まぁ、30歳になった今でも、帰ると手伝わされるのですが・・・) とにかく、商店街の日常を描いたところや、 店の一日を描いたところが、 「そう!そう!そう!そんな感じ!」と膝を打ちたくなります。 小学生ながらに家業を誇りに思っているところなんかも、 読んでいて気持ちのいい作品でした。
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