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『絶望ノート』
- 2021/06/06(Sun) -
歌野晶午 『絶望ノート』(幻冬舎文庫)、読了。

中学2年生の太刀川照音(たちかわしょーん)は、
キラキラネームを付けた父親の行為がきっかけでいじめられることに。
その内容を「絶望」と名付けた日記に綴っており、それを盗み見た母は・・・・・。

この「絶望」という名の日記を通して作品が展開していきます。
そのため、いじめの内容が延々と描き連ねられることになり、
なかなか読んでいてしんどいですが、主人公の照音が結構強い心を持っているので
その点は読者として救われた気がします。反抗しようとする気概があるから。

背表紙のあらすじによると、「ある日、苦しさのあまり『神よ、是永を殺してください』と書く。
すると主犯格・是永が死んだ」とありますが、
ここまで明確に、殺人依頼と死亡事件とが直線的に描かれているわけではないので、
読んでいて「あらすじとニュアンスが違うなあ・・・・」と気になってしまいました。
「次々に名前を書き付け級友が死んだ」というあらすじも、小説の中の展開の印象は異なります。

なので、最初は、ノートに書かれた日記に応じて、誰が事件を起こしているんだろう?という
目線で読んでいたのですが、次第に、「これは因果関係はなくて偶然が重なってるだけでは?」と
思うようになり、ちょっと読書の軸を見失ってしまった感もありました。

最後、物語のからくりというか、事件の構造がつまびらかにされて、
あぁ、そういう登場人物たちの関係だったのねぇ・・・・と頭では納得できましたが
ミステリ作品の種明かしとしては腑に落ちないところも感じてしまいました。
筋は通ってるけど、人間らしさを感じられない行動展開と言いますか。

まぁ、でも、本作は、いじめというものがどうやって発生するのか、
そして、そのいじめが防げない理由が、当事者以外に、家族の側にどんな問題があるのか
という部分では興味深い示唆に富んだ作品だったと思います。
あ、ここで家族が見て見ぬふりをするのか・・・・とか、
こういう家族の言動が子供を追い詰めるのか・・・・とか。

いじめを描いた作品としては力作だったと思います。
ただ、個人的に、「オイネプギプト様」という存在が登場した瞬間に、気分が悪くなりました。
これはフィクション作品でも、一線超えちゃう表現じゃないかなと。

いわゆる「バモイドオキ神様」を想起してしまったからなのですが、
私の中で、サカキバラ事件は、他の事件との差異を「バモイドオキ神様」に象徴していて、
この虚像の神様の存在が、サカキバラ事件の少年Aの精神状態の異様さを表していると思います。
なので、その神様と同じような神様を本作内に登場させてしまったことで、
生理的に受け付けない感じになってしまいました。
主人公に共感できなかったのは、この神様の存在のせいかと思います。

あの事件が世間というか私に与えたインパクトの大きさを思い起こさせる読書となりました。




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『家守』
- 2015/08/15(Sat) -
歌野晶午 『家守』(角川文庫)、読了。

家にまつわる短編サスペンスが5つ。

家って、住んでいる人の生活感が蓄積していくので、
ときに怖さや気持ち悪さを感じることがありますよね。
他人に見せていない一面を、家は全て見ていたりして・・・・・。

というわけで、不気味な雰囲気が漂うお話が集まっています。

冒頭の「人形師の家で」なんて、タイトルからして気味が悪いですが、
これは場面構成があっちこっちに飛ぶので読みにくかったです。
著者の、捻りを効かせ過ぎるきらいのある演出は、
ちょっと私は苦手かもしれません。

表題作の「家守」は、トリックが大掛かり過ぎて、ちょっと現実離れしている印象です。
でも、やる気のない先輩警察官と捜査がしたい後輩とのやりとりは面白かったです。

「埴生の宿」が一番面白かったかな。
惚けた老人の話相手をしたら日当5万円を出すというアルバイト。
後半で人が死んでしまうのですが、その真相究明よりも、
惚け老人の相手をさせるというアルバイトの真相の方が読んでいて気になりました。

「鄙」は、こちらもトリックがちょっと大掛かりすぎというか、雑というか、
一か八かに委ね過ぎというか。

「転居先不明」のような作品を読むと、
世田谷一家殺害事件というものが日本社会に与えた衝撃というのは
非常に大きかったのだなと思ってしまいます。
本作で起きる事件は、決して世田谷の事件とは別物だとすぐに分かるのですが、
住宅街で一家が惨殺されたという設定を聞くだけで、
世田谷の事件を想起してしまいます。

ま、そんなこんなで、時間つぶし程度の短編集だった感じです。


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『白い家の殺人』
- 2013/10/13(Sun) -
歌野晶午 『白い家の殺人』(講談社文庫)、読了。

久々の本格モノでしたが、疲れました・・・・。

信濃譲二シリーズ第2弾とのことでしたが、
本作は、あまり楽しめませんでした。

あまりにも、謎解きのために殺人事件が起きているような印象で、
殺人に至る動機や、トリックの必然性、もしくは現実味が、
どれも納得的ではありませんでした。

その分、ストーリーやキャラクター設定が面白ければ、
別の楽しみ方もできるのですが、本作は、そちらも弱いように感じました。

前作は面白かっただけに、これは残念。

最後についている解説で、本格モノの衰亡の流れのようなものが掴めて、
勉強になりました。


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『さらわれたい女』
- 2011/10/02(Sun) -
歌野晶午 『さらわれたい女』(講談社文庫)、読了。

一気に読んでしまいました。

狂言誘拐の片棒を担がされた便利屋が、
思わぬ事件の展開にどんどん嵌められていく・・・・。

二転三転が鮮やかで、次の展開、そして真相を知りたくなり、
読む手を止められませんでした。

真相を追いかける推理小説的な要素は弱かったのですが、
展開で面白がらせるエンターテイメント性は十分だったと思います。

最初の誘拐事件の展開からして、上手いと思わせる仕掛けで、
ぐいぐい引っ張られて読み進めました。

ちょっと主人公のキャラが軽めなのも、
楽な気持ちで読める要素になっていたと思います。
軽そうな割に、博学だったり、機転が利いたりというのは、
ちょっと違和感を感じたところもありますが(苦笑)。

佳作だと思います。


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『長い家の殺人』
- 2010/10/12(Tue) -
歌野晶午 『長い家の殺人』(講談社文庫)、読了。

今日も有休をとっていたので、「ゆっくり推理小説でも読みますか・・・」と
本作を選んだのですが、一気読みしてしまう面白さ。
ゆっくりではなく、ガッツリ読書となってしまいました。

トリックは、正直なところ、
昔、たまたま点けたテレビで何かのドラマのトリック解決シーンをやってて、
そこで同じようなトリックをやっていたのを見たことがあります。
なので、真梨子の日記の内容で、トリックは分かってしまいました。

が、物語の構成が結構面白かったので、
トリックがわかってしまっても、然程ガッカリはしませんでした。
むしろ、動機が知りたくて、どんどん読み進めていきました。

ドラマのときは、トリック解明までの前段を見ていなかったこともあって、
「こんな突飛なトリック、有り得なーい」と引いてしまったのですが、
本作では、それほど違和感を感じずに読めてしまいました。

事件現場の環境の特異さと、大学生バンドの合宿という
ちょっと非日常な香りのする設定だったからでしょうか。

これまでに読んだ歌野作品では、一番面白かったです。


新装版 長い家の殺人 (講談社文庫)
新装版 長い家の殺人 (講談社文庫)歌野 晶午

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『世界の終り、あるいは始まり』
- 2009/12/12(Sat) -
歌野晶午 『世界の終り。あるいは始まり』(角川文庫)、読了。

前回、『葉桜~』を読んだ時はまんまと騙されてしまいましたが、
本作は叙述トリックとは異なる仕掛けでした。

”Ⅰ”のパートは、ぐんぐん真相に迫っていく感触があって面白かったのですが、
”Ⅰ”を読み終わった時点で、「あぁ、真相には辿れないのかもしれない」と感じた瞬間に、
少し醒めてしまった感があります。

”Ⅱ”以降は、少しリアリティも欠けていて、
正直なところ、中だるみな気がしました。

貫井さんの作品にもこの手のものがありましたが、
読後のすっきり感がないのは、私はやはり不満に感じてしまいます。

しかし、雄介という少年の少しませたところや、
背伸びして厭味を言うところなんかは良いキャラだと思いましたし、
そのような息子を前にした父親の逡巡といったものも良く描けてました。
大人のダメなところやジコチューなところを晒していて、読みごたえありました。


世界の終わり、あるいは始まり (角川文庫)
世界の終わり、あるいは始まり (角川文庫)
おすすめ平均
starsどっちつかず…
starsリアリティのある面白さ
starsイライラ
stars世界の終わり、あるいは始まり
stars実験的な心配

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『葉桜の季節に君を想うということ』
- 2008/09/01(Mon) -
歌野晶午 『葉桜の季節に君を想うということ』(文春文庫)、読了。

「このミス」は、私には当たり外れが大きくて、
あんまり参考にならないということを、今回やっと得心しました。
たぶん、投票形式のため、ジャンルの裾野が広がり過ぎてしまうのが良くないのでしょう。

本作は、主人公をはじめとする登場人物たちの軽~い感じが
薄っぺらい印象に繋がって、最後まで物語に入れませんでした。

根の軽い人間が一生懸命頭を働かせて事件を解決する様と、
重みのある人間が軽さを装いながら事件に向かう様とは、
やはり全く異質の行為だと、本作で実感しました。

叙述トリックについては、確かにまんまと騙されてしまいましたが、
なんだか、それだけの作品だったような。


葉桜の季節に君を想うということ (文春文庫 う 20-1)
葉桜の季節に君を想うということ (文春文庫 う 20-1)歌野 晶午

おすすめ平均
stars生き方指南
stars納得できたような・・・できなかったような・・・
starsなるほど。葉桜ねぇ……。
starsやられた
starsいまいちでした

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