『昭和16年夏の敗戦』
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- 2023/08/21(Mon) -
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猪瀬直樹 『昭和16年夏の敗戦』(中公文庫)、読了。
こちらも、戦争・憲法を考える夏・・・・・ということで挑戦。 太平洋戦争開戦直前の昭和16年春に新設された内閣総理大臣直轄の「総力戦研究所」。 当時、各省庁や軍隊、インフラ系の民間企業から、30代前半エース級が35名抜擢され、 研究生という位置づけで集められます。 当初は、座学や現場視察などを行っていたものの、夏になると、 「机上演習」として、「インドネシアの石油採取施設を奪いに行く」という課題を出され、 35名が内閣総理大臣、外務大臣、海軍大臣、日銀総裁、企画院総裁、朝鮮総督などの 主要ポストに任命され、いわゆるシャドー・キャビネット的な、しかし、閣外のポストもあるので まさに総力戦として戦局をシミュレートしていく演習を行います。 その結果出た答えは「負ける」というもの。 海上輸送を確保できずに戦局が悪化し、日本の本土事態を危機に陥れるという予想は、 まさに現実世界で起きたことを予言しているかのようです。 シャドーキャビネットの面々は、それぞれの出身組織を反映するように決められており、 海軍大臣には海軍から来た少佐が、日銀総裁には日銀の書記が任命されている他、 各省庁からリアルなデータを取り寄せて演習に活用しているので、まさに現実世界の 知恵とデータを活用したシミュレーションに他なりません。 ここで敗戦の結論が出たものの、いざ、内閣総理大臣への報告の場となると、 素直に「負ける」とは言いづらいとの配慮が働き、 「(当初の戦局は)顕著なる効果を収めたるも未だ決定的ならず世界動乱の終局に関しては 何人も予測を許さざる実情なり」という曖昧な内容になっています。 しかし、細かな戦局予測はそのまま報告されたとのことで、きちんと聞いていれば 「勝てない」という予測であることは、容易に理解できたものと思われます。 報告当時は近衛内閣でしたが、陸軍大臣として東條英機も聞いており、 しかも、報告以前の演習の段階で、東條大臣は何度も研究所に足を運び その議論の内容を聞きに来ていたとのこと。 それを知ると、なぜ開戦になったのか・・・・・と、疑問を持たざるを得ません。 本作では、この演習の議論の経過だけでなく、実際の内閣において、 日米開戦をどのように議論・判断してきたのかも丁寧に描かれていますが、 昭和天皇は開戦反対、近衛内閣も近衛首相はじめ主要閣僚は反対派の方が多く、 東條陸相も決して開戦推進派だったわけではない様子。 むしろ、近衛首相が匙を投げた後、昭和天皇の意向もあり、 陸相の東條に首相をやらせて、日米開戦を回避するよう軍部を抑え込もうという意図が あったと述べられています。 そして、何よりも天皇陛下に忠誠を誓っていた東條は、天皇の意向である開戦回避を実現しようと 軍部の開戦突進の意見との折衷案を見出そうとするものの、土台無理な話で・・・・・・。 敗戦後の東京裁判において、東條英機は、「国務と統帥の二元化が日米開戦を回避できなかった原因」と いう趣旨の主張をしており、本作に描かれた経緯を読むと、まあ、そういうことなのかなぁと 一応は納得できました。井沢史観を読んでいても、天皇制度と幕府制度が両立して以降、 責任回避なり、大義名分なり、都合よくこの二元制度を活用・悪用してきた日本社会の様子が よくわかります。責任逃れでありつつ、しかし、この都合の良い制度のおかげで、日本社会というものが 曲がりなりにも断絶することなく、数千年続くことができた理由でもあるように感じます。 結局は、この日米開戦に向かうまでの無責任な意思決定プロセスこそが日本人らしさかもしれませんし、 敗戦後に国民全員が頑張って復興に努めたという姿も、日本人らしさなんだろうなと思いました。 国民性というものは、きっとなかなか変わらないと思うので、今の日本の政局のうだうだ感も 戦時中と同じことを繰り返しているんだろうなと思ってしまいます。 ![]() |
『東京からはじめよう』
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- 2018/03/24(Sat) -
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猪瀬直樹 『東京からはじめよう』(ダイヤモンド社)、読了。
猪瀬さんの名前でこのタイトルなら、 都知事としての政策を語ってるんだろうなぁと期待しちゃいますよねぇ。 著者プロフィール欄を見たら、石原都政での副知事時代の発行だったのですが、 都政に携わる人間としての見解を聞きたくなりますよねぇ。 でも、この本で行われる9つの対談は、 対談というよりもインタビューみたいな印象を受けました。 猪瀬氏は第三者的な立場で、対談相手の専門領域について質問を投げかけていくというような。 もっと、猪瀬氏が東京都の現状や政策について熱く語る様子を期待してたのに。 インタビュー自体は面白かったです。 官房長官になる前の菅さんとか、 増田レポートを出す前の増田さんとか(県知事の実績はありますが)、 近い将来日本に大きな影響を及ぼす主要な人物を押さえたりしてて、 こういう人間の先読みをする能力はさすがだなと。 でも、彼らへのインタビューになっちゃってるんです。 東京都副知事の発言ではないんですよね。 とっても残念な読後感でした。
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『ゼロ成長の富国論』
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- 2012/12/23(Sun) -
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猪瀬直樹 『ゼロ成長の富国論』(文芸春秋)、通読。
新都知事の本が、ずーっと積読になっていたので、この機に。 経済改革や行政改革についての政策論の本だと思い込んで読んだら、 二宮金次郎が行った農村改革の本でした(苦笑)。 子供が薪を背負っている銅像の印象しかありませんでしたが、 金貸し業で成長していったというところに興味を持ちました。 小学校で勧める職業ではないですよね(笑)。 道徳と実利が共存している人間像が面白かったです。 ただ、それを今の政治にどう生かすのかというところが、 金次郎伝に割いたページ数に比べて、物足りない印象です。 ま、この本は7年も前のもので、副都知事にもなっていない時期のものなので、 都知事としての基盤の考え方は、別の本で読まないといけないですね。
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『ミカドと世紀末』
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- 2011/12/19(Mon) -
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猪瀬直樹、山口昌男 『ミカドと世紀末』(小学館文庫)、読了。
『ミカドの肖像』を受けての対談集だったので、 内容がある程度分かっているものをおさらいしていく感じになり、 対談で言っていることが理解しやすかったです。 また、注釈もたくさんついており、助けになりました。 もともとの対談に加えて、文庫版で出す際に、 対談を追加しているのですが、最後の対談(最も新しい対談)を 冒頭に置いていることで、本書の内容について客観的に総論を語っていて、 なおかつ、最新の天皇周辺情報も加味されていることで、構成も上手いと思いました。 特に、「明治天皇に対する大正天皇」と「昭和天皇に対する今上天皇」という 関係の相似性を語ったところが、興味深かったです。 今では、さらにそこに、次世代の天皇、次々世代の天皇といった議論まで加わっているので、 また、このタイミングで、この2人の天皇論を読んでみたいと感じました。 山口昌男氏の著作は、読んだことがなかったのですが、 対談での語り口が分かりやすく、またウィットに富んでいて、 主張の内容自体も興味深い切り口を持っていると感じたので、 もし、素人向けの初歩的な著作があるのなら、読んでみたいと思いました。 本作で何度となく触れられた『天皇の影法師』も既に入手済なので、 こちらも楽しみです。
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『僕の青春放浪』
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- 2010/08/15(Sun) -
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猪瀬直樹 『僕の青春放浪』(文春文庫)、読了。
著者の青春時代を綴ったエッセイということで読んでみました。 中学、高校時代の話から、 大学時代の学生運動の話、 卒業後に転々とした職業遍歴の話、 そして、現在の作家の取材活動や執筆活動についての話。 一つあたりの文量がさほど多くないこともあって、 読みやすく、また面白かったです。 ただ、いろんなところに発表したものの寄せ集めのようで、 体系立てて書かれているわけではないので、 自伝エッセイと呼ぶには、ちょっと物足りない感じです。 中盤、大谷光瑞の話が出てきたのには驚きました。 ちょうど、一橋フォーラムで講義を聞いたばかりだったので、 興味深く読みました。 そうか、袋小路には十年間も嵌り込むことがあるのか・・・。 もし、今、自分が袋小路に嵌り込んでしまっているのだとしたら、 本を読み、映画を見て、体内にエネルギーを蓄積しよう。
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『日本国の研究』
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- 2007/05/12(Sat) -
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猪瀬直樹 『日本国の研究』(文春文庫)、読了。
官僚たちの天下り先のからくりを暴いた作品。 著者の質問に対して、 回答拒否を決め込む人々、のらりくらりと交わす人々に交じって、 「それってギャグですか?」というようなオモシロ回答をする人々もいて (まぁ、本人は至って本気なのでしょうけれど) 皮肉な意味で楽しめました。 長良川河口堰問題は、私の地元の話でもあり、 最も興味深かったです。 三重県庁にも努力の人が居たんだなぁとちょっと感激してみたり。
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