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『竹光始末』
- 2023/04/08(Sat) -
藤沢周平 『竹光始末』(新潮文庫)、読了。

安定の面白さ。

戦国の世が終わり、安定した徳川の治世になると、
各藩の武士たちも武芸より行政官僚としての才能を重要視されるようになり、
そうなると、家庭における旦那の立場も、物理的な「力」を盾にした亭主関白は成り立たなくなり、
頭の回る妻がいては男女平等となり口の回る方が優位に立つということで
かかあ天下の家庭も出てきます。

まさに現代のサラリーマン家庭に通じるところがあり、
世のおじ様たちは身につまされながら読むのか、共感しながら読むのか、
どちらなんでしょうね。

独身で好き勝手にふらふら生きている私からすると(苦笑)、
結婚すると大変だなぁ・・・・・という感想が募ります。
守るものができるというのは、立てなければいけない相手が身近にできるので
何かトラブルが起きたときに丸く収めるのが難しくなりますわねぇ。

「恐妻の剣」では、この平和な世の中において
自らの武芸を藩のために役立てる数少ない機会に抜擢された主人公が、
結局、妻子には理解されないという悲しみ。
その悲しみも含めての、家庭の安泰第一なんですかね。

「遠方より来る」も、かつての戦場で瞬間的に関りがあった男が
浪人となり、職を求めて、主人公の家に転がり込んでくるという話で、
妻からの「この男を家に泊めて食事も出してやる義理があるのか?」という
非情に現実的な声と、武士としてのメンツとの板挟みにあう主人公がなんとも哀れ。
まぁ、私としては、妻の言い分に理があるように思ってしまいますが(苦笑)。
最後、この我儘な浪人にも武士の心が残っていたということがわかり
ちょっとすっきりしますが、しかし夫婦にとっては災難でした。

こんな夫婦間の揉め事がある一方で、「乱心」では、
武士の心の奥底に潜んだ狂気が突如表に噴出する様と、
その危険性を感じて武士の同僚に相談に来るものの本心が見えにくい妻の姿の双方に
狂気を感じました。正直、何考えているのか分からない人というのは怖いですよね。

結局、武士の社会も、サラリーマンの社会も、悩みや苦しみは変わらないものですね。




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『冤罪』
- 2022/08/31(Wed) -
藤沢周平 『冤罪』(新潮文庫)、読了。

先日読んだ井沢本で、藤沢周平が織田信長のことを「意味なく冷酷すぎる」と評価していることに対し
長いページを割いて反論してたのが印象に残り、積読だった藤沢本を読んでみました。

藤沢作品は、武士の世界を中心に、市井に暮らす人々の何気ない日常を描いた作品が多く
著者の庶民に寄り添うような温かな視線を感じることが多いので、
確かに、織田信長の改革の気風とは合わなそう(苦笑)。

藤沢周平作品が、戦国時代の武将たちや、その後の豊臣・徳川政権のリーダーたちを
取り上げているようなら、当時の武将の国家観がどういうものだったのか
なるべく現実に即した理解というものが作品の世界観にも大きく影響するような気がしますが、
本作のように、武士階級の中でも最下層で、農業に片足突っこんでないと生活が成り立たないような
そういう階層の人々を主人公にするなら、彼らはむしろ「殿や家老が何を考えてるのか分かりませんわー」
という感じだと思うので、織田信長の社会構想の偉大さに共感を持てない著者の方が
同じ目線に立てるのかなと思いました。

ちょっと皮肉っぽい言い方になってしまいましたが、藤沢作品には藤沢氏らしい優しさが必要なので
反織田信長の感覚が必要なのかなと思いました。

具体的な作品としては、どれも満足できる水準でしたが、
特に「夜の城」「臍曲がり新左」が面白かったです。

「夜の城」は、高熱の病に倒れ、それ以前の記憶を一切なくしてしまった下級武士が主人公。
もう一度、仕事をゼロから教えてもらい、日々、地道に仕事をこなします。
家でも妻と2人で静かに暮らしていましたが、妻が外で男に会っているのではないかという
疑念を抱く出来事があり、妻を尾行したりしているうちに、ふと自分を取り巻く様々な出来事に
何か裏があるのではないかと思うようになり・・・・・・この物語展開の立体感が
なんとも面白かったです。

「臍曲がり新左」は、その性格の面倒くささから同僚に嫌われている新左。
一人娘と2人で生活しており、隣に住む若侍が娘にちょっかいを出してくるのが気にくわない。
そこに、藩内のお家騒動が絡んできて、斬り合いの現場に駆り出された新左は、
その周辺でうまく立ち回る隣の息子の姿を見て、人物評を改める・・・・・。
エンディングの温かさまで含め、登場してくるキャラクターたちの人間臭さ、愛らしさが
際立った良い作品だと思いました。

藤沢作品は、やっぱりこうでなくちゃね。




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『神隠し』
- 2022/02/01(Tue) -
藤沢周平 『神隠し』(新潮文庫)、読了。

武士の日常、商家の日常、職人の日常、
そんな短編が11編収められた短編集。

最後の数行で落としたりひっくり返したりする展開のものが多く、
時代小説の阿刀田高みたいな印象でした。

私としては、物語のオチ云々よりも、
主人公夫婦の生活ぶりというか、お互いをどういう風に思いながら日々を暮らしているかという
そんな人間臭さの面を味わいながら読んでました。

「暗い渦」で、夫が口にする
「有難いことに、何とかボロも出さず、辻つまを合わせて生きてくもんだな人間というやつは」
というセリフに、あ、人生って、最後の最後は楽観的に捉えていた方が
気持ちに余裕を持ちながら暮らしていけそうだな・・・・・と思いました。

江戸時代、みんながちゃんと自分なりの生活をできていて
生命の不安とか、飢餓の不安とかに、むやみに怯えずに生きていけていたということを思うと
良い時代だったんだろうなと思います。




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『橋ものがたり』
- 2019/04/09(Tue) -
藤沢周平 『橋ものがたり』(新潮文庫)、読了。

橋が物語の中でアクセントになっている短編集。
かなり前に、阿刀田高氏の『面影橋』という短編集を読んだことがありますが、
「橋」というのは、小説家にとって想像を掻き立てるものなのでしょうね。
二つの世界を橋渡しするもの、もしくは、二つの世界を隔てるもの。

本作では、どちらかというと、二つの世界を隔てるものとして存在しているような
作品が多いように思いました。
橋で隔てられた二つの町は、違う文化や習慣で動いているような。
そして、「あの橋の向こうには行っちゃいけねえ」と言われるような
境界としての役割を担っているような。

登場してくるのは、職人だったり商人だったり、
市井の一人に過ぎないような人々ですが、
皆さん、自分の人生を一生懸命生きていて、凄いなと。
借金のカタにイカガワシイお店に売られたような立場の女性でも、
自分の立場を受け入れて、その店で一生懸命働いているようなところがあり、
日本人って勤勉だなぁと変なところで感心してしまいました。

短編集で、話はテンポよく展開しますし、
最後もサクッと切り上げて、あとは余韻を楽しんで・・・・・みたいな感じなので、
自分で想像できる余白があって、良い短編集だなと思いました。
さすが、藤沢周平です。





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『闇の歯車』
- 2016/05/25(Wed) -
藤沢周平 『闇の歯車』(講談社文庫)、読了。

押し込み強盗を企む男が
共犯者を募っていく過程を描いた作品。

なので、押し込みメインで期待すると
当てが外れるかと思います。

押し込みに加わらざるを得なくなった人々の姿を描いていると
表現すればよいのでしょうかね。

期待したようなワクワク感が得られず、
じとっとした仕上がりに、あまり物語の世界に入れませんでした。

こういう作品だと予めわかっていれば
もっと読み込めたのかもしれません。


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『時雨のあと』
- 2010/07/08(Thu) -
藤沢周平 『時雨のあと』(新潮文庫)、読了。

Amazonでは評価が高いようなのですが、
私は、どうにも乗り切れないまま終わってしまいました。
久々に残業続きで、ちょっとテンパっちゃってる気持ちの問題かもしれませんが。

会話における言葉使いが気になっちゃうんですよねー。
地方の小さな藩を舞台にしているなら、土地の言葉をしゃべらないの?とか、
江戸の話でも、下級武士や庶民の世界での会話なら、
もうちょっとくだけた感じなんじゃないの?とか。
みんな、ちょっとお上品すぎるように感じてしまいました。

ストーリーのほうも、「え?これで終わり?」というようなところがあり、
ま、庶民のちょっとした日常を描いているのだと言われてしまえば
それまでなのですが・・・・・。
「鱗雲」は、ちょっと捻ってあって面白かったです。

どうやら、私には、長編のほうが合うみたいです。


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『たそがれ清兵衛』
- 2009/11/18(Wed) -
藤沢周平 『たそがれ清兵衛』(新潮文庫)、読了。

表題作は大ヒット映画になりましたが、
原作は短編だったのですね。

本作は、他にも「うらなり与右衛門」「ごますり甚内」など
8人の武士のお話が収録されています。

いずれも、傾きかけた藩で整斉と日々のお役目を勤めている
静かな武士たちが主人公です。

ややもすれば他人から嘲りの対象となるような渾名をつけられ、
それでも黙々と仕事をしているのに、
ある日突然厄介事に巻き込まれ、敵陣に攻め込まれると
知る人ぞ知る剣術で難所を切り抜ける・・・・・。

一つの作品としては面白いのですが、
8作揃うとワンパターンで飽きてしまいますね。

一人ぐらいは、語学の能力でどんでん返しとか、
そういう変化球があっても良かったかなと思います。

「かが泣き半平」が、ストーリー、殺陣の描写とも
面白かったと思います。


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『市塵』
- 2006/09/02(Sat) -
藤沢周平 『市塵』(講談社文庫)、読了。

初めてこの作家さんの作品を読みましたが、
さすが人気作家だけあって、面白いですね。

表面的なことしか教えない学校での日本史教育のせいか、
「政治を取り仕切った将軍の側近」と聞くと
裏で権力を握った悪人と言うようなイメージで捉えがちですが、
この作品で述べられていた新井白石は筋の通った論旨で建議をしており、
有能な政治家だったようです。
(もちろん「物語の主人公」として美化されている部分も多々有るとは思いますが)

また、間部詮房の人間性が面白く描かれており、
私などは白石よりも間部のほうが興味深かったです。
ただし、この手の人物は、描き方一つで、口八丁の大悪人にもなりそうですが。

そして、彼らが使えた6代将軍家宣は、
日本史を勉強した際には、「歴代の徳川将軍を挙げてみよう」
なんていうときにしか名前を思い出さないような
非常に印象の薄い将軍だったのですが、
この作品で、知性も徳も人間味もある将軍であったことがわかり、
彼が没する件では、泣けてしまいました。
そして非常に立派な最期に感動もしました。

家宣の時代を主に描いているため、
8代将軍吉宗の治世の描写は必然的に否定的な調子になってしまうのでしょうが、
吉宗が文盲であったという記述にはびっくりしました。

気になったのでネットで調べてみましたが、
室鳩巣の言葉として残っているだけのようです。
しかし、出自は将軍としてはちょっと異色のようで、
そのあたりのエピソードも初めて知りました。

歴史物は興味がとめどなく広がっていくので、はまりますね。

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