『任侠病院』
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- 2023/04/13(Thu) -
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今野敏 『任侠病院』(中公文庫)、読了。
任侠一家・阿岐本組による経営立て直しシリーズ。 第一弾を以前に読んでいたのですが、シリーズ化に伴い、今は『任侠書房』に改題してるようですね。 指定暴力団にはなっていない、昔ながらの地域に根付いたヤクザ稼業集団の阿岐本組。 そこに持ち込まれた話は、経営難に陥った中規模病院。 普通のヤクザなら、経営難という弱みに付け込んで最後の利益をむしり取ってから 売り飛ばしたり潰したりするんでしょうけれど、阿岐本組長は経営立て直しを目指します。 理由は、「地域に根差した病院が潰れたら地域の人が困るから」。 こんな地域思いの人、一般人にもなかなか居ませんよ。 なのに、阿岐本組の地元では、暴力団追放運動が巻き起こり、 事務所の前で住民が反対活動をし出す始末。 昔からの住民は、困りごとがあったら阿岐本組に相談するなど共生してきたのに、 マンションに引っ越してきたような新規住民は付き合いがないので 「暴力団」という見た目で排除をしようとする・・・・。 ま、正直、暴力団(暴力団的な人も含めて)に身近なところには居てほしくないという 気持ちは理解できます。一方で、任侠集団が地域と共存してきたという歴史も理解できます。 私の実家周辺でも、実家のある町が地元の大きなお祭りの会場になっていることから、 地場を仕切っているヤクザ稼業さんと両親(父親だけかな)は顔見知りで、 正月の初詣に行った先の神社の境内で露天の店を出していたら 挨拶してベビーカステラ買うぐらいのお付き合いがあります。 祭りの時に外部からやって来るテキヤさん達を、きちんとルールの下で営業するよう 地元のヤクザ稼業さん達が仕切っているから、商店主たちも安心して祭り会場として 場所を貸せるという関係だと思います。 だから、本作に登場してくる地元商店主たちと阿岐本組との関係はよく理解できます。 排除か共存か、どちらが良いかという問題ではないのですが、 その町における経緯というか歴史というか、そこは踏まえた方が良いのかなと思ってます。 ・・・・・・・と、病院と全く関係のない感想ばかりになってますが、 正直、病院の経営改革の方は、ちょっと上手く行き過ぎというか、 医師も看護師も事務員も、まともどころか優秀で職責も強く持っている人が揃っていて 単に、ヤクザのフロント企業に食い物にされているという部分に問題が矮小化されていたので この部分には、そこまで面白さを感じられませんでした。 阿岐本組幹部の日村が作中で行っている通り、 「病院経営は複雑で、素人が手を出して簡単に改善できるものではない」という事実が ストーリーの粗削りさに現れてしまっているように感じました。 というわけで、暴力団追放運動と病院経営立て直しの2本のストーリーのバランスが ちょっと悪いように感じましたが、阿岐本組の面々に心惹かれることには変わりないので、 引き続きこのシリーズは追いかけたいなと思います。 とりあえず、本作は第3弾のようなので、第2弾を早く見つけて読まないとダメですね。 ![]() |
『果断 隠蔽捜査2』
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- 2022/06/08(Wed) -
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今野敏 『果断 隠蔽捜査2』(新潮文庫)、読了。
隠蔽捜査シリーズ、誤って第2巻を読み飛ばして、第3巻、第3.5巻を先に読んでしまったので なんだか変な感じになってしまい、ストップしてしまってました。 ガッツリ長編サスペンスを読みたいなと思い、ようやく第2巻を手に取りました。 家庭内の不祥事で左遷され、本庁から所轄の署長に移動となった主人公の竜崎。 合理性の塊のような人物で、それまでの所轄内にあった不文律の仕来たりや作法を ぶった切って日々の業務を進めていきます。 現場の副所長や課長はもちろん戸惑いますが、 管内で起きた立てこもり事件を契機に、署長の考え方を部下たちが実地で理解していき、 事件解決の際の不手際の責任を押し付けられそうになった所轄は 一丸となって真相究明に取り組みます。 事件発生からの起承転結が、短い日数の中で目まぐるしく展開していき、 息をつかせないストーリーテリングはさすがです。 このスピード感あふれる物語世界は、著者の筆力はもちろんですが、 もう一つは、日本の警察の組織力や捜査力といったものが リアリティをもって存在しているからこそ描ける世界観なんだと思います。 組織の理屈に隷属しているように見える所轄の面々も 実際の事件に直面したら、組織における自分の役割をきちんと認識し 必死に成果を出そうと取り組む真面目さが垣間見えて、 やっぱり警察モノは面白いなぁと感じました。 人間の情熱が凝縮されている世界ですよね。 そして、本作で起きた立てこもり事件、事件そのものはそんなに派手な展開ではないですが、 事件をめぐる所轄と本庁の立ち位置の相違や、SITとSATの実績争いなど、 警察の組織論全開でのやり取りがじっくりと描かれて、面白いです。 事件の真相は、自分が思っていなかった方向に向かっていったので、 は~、そういうこともあるのか・・・・・と思う一方で、 現場の捜査員の着眼点も興味深く読みました。 やっぱり、このシリーズは面白いですね。 続きをブックオフで探さないと! ![]() |
『初陣 隠蔽捜査3.5』
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- 2017/03/30(Thu) -
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今野敏 『初陣 隠蔽捜査3.5』(新潮文庫)、読了。
隠密捜査シリーズの第2弾を早く読まなきゃ・・・・・と言いながら、 先に第3.5弾を読んでしまうわたくし。 第3.5弾という半端な数字が示す通り、 本作は、スピン・オフ短編集です。 シリーズ第1弾~第3弾では、キャリアの竜崎伸也が主人公で描かれる出来事を、 別のキャリア・伊丹俊太郎の目線で描いています。 竜崎は、本音と建前を使い分けない、全てが理屈の塊のような人物。 合理性でしか判断しない異端のキャリアです。 一方の伊丹は、警察官僚組織というものを十分に念頭において行動しますが、 現場主義を打ち出し、部下のところに下りてくる姿勢は、やはりキャリアとしては異色。 この2人の特徴的なキャリアの対比が、 この短編ではより際立った形で描かれており面白いです。 第3弾の『疑心』は、正直、警察小説としてはあまり面白くなかったのですが、 なんで、そんなストーリー展開になってしまったのかの理由が、 本作で分かるようになっているので、一応、頭では理解できました。 それで面白さが回復したというわけではありませんが・・・・・。 全体的に、キャリア官僚がどのような思考で物事を判断するのか、 基準なり判断軸なりがわかって面白かったですし、勉強になりました。 本作を独立した小説として見てしまうと物足りないところはありますが、 あくまでスピン・オフとして読むと満足できました。
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『疑心 隠蔽捜査3』
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- 2017/01/18(Wed) -
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今野敏 『疑心 隠蔽捜査3』(新潮文庫)、読了。
久々に、隠蔽捜査シリーズの第3弾。 登場人物たちがどんなキャラだったか忘れてしまってましたが、 履歴を見たら、第2弾をまだ読んでませんでした(苦笑)。 冒頭のシーンでそれぞれのキャラや話の経緯がきちんと頭に入ってきて、 問題なく読めたのは、ありがたいです。 舞台は、合衆国大統領の訪日の警備。 そこに日本人が絡むテロ計画の一報が入り・・・・・・と ワクワクする設定だったのですが、 さて物語が動き出したか!と思った途端に 堅物男の恋話に突入し、警備の指揮そっちのけで恋心を あーだ、こーだと描写されるので、辟易。 せっかくの大きな舞台装置も、 主人公の恋心の描写にばかり紙面を割いてしまい、 テロの阻止に向けた捜査の方はおざなりな対応。 事件解決も、どんでん返しなくあっさりと終わってしまい、 一体、これは何だったのか?と。 警察機構という世界における人間関係を描いた作品であり、 今回はそのテーマが50男の恋心だった・・・・・ということなのでしょうが、 それにしても、竜崎と伊丹の関係性において、 竜崎が、そんな個人的な悩みを伊丹に素直に話すのだろうか?という疑問が 沸々と湧いてきて、なんだか腑に落ちませんでした。 どうやら、シリーズ第3.5弾の『初陣』と繋がっているようですし、 そちらの方が捜査の現場を描いているようなタイトルになっているので、 警察モノとしての面白さは、そちらに期待することにしましょうか。 その前に、第2弾を読まないといけませんが(苦笑)。
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『とせい』
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- 2016/12/07(Wed) -
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今野敏 『とせい』(中公文庫)、読了。
ヤクザの親分が、急に出版社の社長業をやりたいと言い出した! ヤクザものって、コメディ路線で面白い作品が時々ありますよね。 独特な文化があり、また上下関係が絶対などルールが明確で、 しかも一般人には少し壁がある世界ということで、 デフォルメするには良い材料なんでしょうね。 本作に登場するヤクザな人たちは、任侠道に生きる昔ながらのヤクザさん。 素人には迷惑をかけはいけないという心得と、 面子をつぶされたら黙っていないという心意気。 そこから始まるドタバタ劇は、ふふふと笑える微笑ましい感じ。 また、ヤクザな方たちが語る人勢哲学というか、ヤクザ道の至言も、 なかなか勉強になる含蓄のあるお言葉で、面白かったです。 いくつか同時並行で進んできた問題がどうやって解決されるか、 それは途中で分かってしまいましたが、 ま、期待通りの筋がきっちり描かれて、スッキリ読み終われるというのも 気持ちの良いものですね。
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『膠着』
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- 2015/09/11(Fri) -
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今野敏 『膠着』(中公文庫)、読了。
裏表紙に「ユーモア小説」と書かれていたので 気軽に読み始めたのですが、予想の上を行く軽さでした(笑)。 社長の御曹司派と専務派に分裂した老舗の糊会社。 TOBをかけられ、、起死回生のつもりの新商品開発で生まれたのは「全くくっつかない糊」。 その新商品の使い道を、山奥の工場の一室に集められたメンバーで検討する・・・・・。 間違って1桁多く糊を納品してしまった新人主人公に対して、 訂正に謝りに行かせるのではなく、1桁多いまま納品して売り捌かせようとする先輩営業マン。 この導入部分は面白かったのですが、本題の商品会議の中身が、小説全編を使って 長々とやっている割にはぐだぐだで、結論も、「それで終わり!?」的な内容。 社内派閥争いも、TOBも、そこから派生したスパイ疑惑も どれも盛り上がりを見せないまま終息してしまい、 非常にこじんまりとまとまって(というか縮んで?)しまった感のある作品でした。 今野さん、あれこれ作品を書きすぎなのでは?と心配になってしまいました。
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『スクープ』
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- 2014/04/20(Sun) -
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今野敏 『スクープ』(集英社文庫)、読了。
長編かと思ったら短編集でした(苦笑)。 お気楽に読めて、面白かったです。 夜のTVニュースで社会部遊軍記者を務める主人公。 ちょっとルール違反な取材を飄々と進めて、スクープをものにする。 そして、警視庁の刑事部長とも太いパイプを持ち・・・・。 マスコミ記者を主人公としつつ、 マスコミ報道の在り方に自虐的なやり取りが多く、 この作品の持つ毒味にほくそ笑みながら読めます(笑)。 実際に、こんなにも大スクープの悪事が連発する国だったら嫌なのですが、 ま、そこはご愛嬌。 この本の中では、政・財・官、そして国民・報道いずれも腐っております(爆)。 シリーズ化しているようなので、続編も見つけたら読んでみようと思います。
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『触発』
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- 2014/03/23(Sun) -
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今野敏 『触発』(中公文庫)、読了。
連続爆弾テロ事件を描いた作品。 地下鉄での爆弾テロを解決するため、 政府の危機管理対策室は、警察庁に自衛官2名を送り込む・・・・。 当然、「事件の解決」という大義名分だけでなく、 外交や軍事の観点での政府としての思惑あってのこと。 このあたりの理屈と解説が興味深かったです。 また、送り込まれた自衛官2名も 警察官に向かって「われわれは軍人です」と言い切るだけの腹の据わりよう。 この辺のぶっちゃけ感も面白かったです。 ただ、事件の推理という点では、駆け足過ぎて雑な印象です。 犯人側を推理で追い詰めるというよりは、 運とまぐれで行き当たったみたいな。 ま、組織力を活かした捜査というのは、往々にしてこんなものなのかもしれませんが。 大量の情報からの絞り込みもサクッと進んで怪しい人物が特定されており、 ちょっと物足りなかったです。 犯人像も腑に落ちず。 海外から日本に戻ってきた際の、日本についての情報の持たなさぶりとか、 そこから日本という社会に対する恨みを抱くプロセスとか。 本作を通して思ったのは、 「組織機構」とか「社会分析」とか、マクロな視点では興味深い分析をするのに、 個人の感情を描くというミクロな視点が稚拙なように感じました。 リアリティがないというか。 あと、その人の強い思いを表すのに言葉を重ねすぎていてクドイと感じました。 本当の思いは、軽々しく言葉を消費せず、内的な思索に沈んでいくものだと私は思っています。 ということで、本作の枠組みは面白かったですが、 登場人物たち個人個人のストーリーとしては不十分かなと。 能代教授の「日本人は平和な日常を破壊されることに慣れていません」という言葉。 3.11の直後に私が考えていたことと重なる部分が多く、 もし能代教授が実在の人物だったら、その著作を読んでみたいと感じてしまいました。
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『臨界』
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- 2013/10/20(Sun) -
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今野敏 『臨界 潜入捜査』(実業之日本社文庫)、読了。
先日、実家に帰った時に持ち帰ってきた本。 お店のお客様からいただいたそうです。 シリーズものの第5作ですが、自分で1~4まで買うのも大変なので、とりあえず読んでみました。 舞台が三重県ということもあり、ま、この回だけでも良いかなと。 三重県に原発が建っているという設定で、 名古屋の暴力団が、違法な原発労働者の手配で儲けているというもの。 そこに原発反対の住民運動も絡んでくるという構図。 現在、三重県には原発はありませんが、 それは中部電力の芦浜原発建設計画に対する壮絶な反対運動が巻き起こったから。 以前、芦浜原発を巡るルポを読んだことがありますが、 賛成派と反対派で住民が大きく二分し、暴力沙汰も当たり前の混乱状況だったそうです。 原発建設は、一歩間違うとコミュニティを破壊するところまで行きついてしまうという その最たる事例だと思います。 また、原発での末端の労働者として、不法滞在の外国人などいわくつきの人々、 アメリカでは犯罪者や貧しい黒人労働者が使役されているという問題も 別のルポで読みました。 なので、本作で描かれている、電力会社、下請け会社、地元政治家、暴力団といった関係者の 問題の構図は正しいというか、突飛な話ではないと思います。 ただ、原発の存在そのものを、「奇形の魚が獲れる」といった文脈で描くのは 正しくないというか、311以降だからこそ、安易に書くべきではないことだと思います。 利権関係の問題を抉ることは大事な問題提起だと思いますが、 自然科学の問題として噂話や都市伝説的な話題で不安を煽るべきではないと思います。 反原発論者の、こういうところが苦手です。 というか、不信感を抱いてしまうところです。 怪しいカルトと同じ手口のように思えてなりません。 あとがきで、著者が、参議院議員選挙に、政党「原発いらない人びと」から出馬していたという 事実を知り驚きました。 しかし、本作の中で、反原発の住民運動を取り仕切っている運動家たちを 結構な勢いでバッサリと斬っているところは、スッキリしました。 彼らがやっているのは、「運動のための運動」「反対のための運動」であり、 「住民のための運動」ではないんですよねー。 市民運動家の怪しさは、原発問題に限ったことではないですが・・・。 作中で、地元民が、市民運動家の怪しさに気づいて、 自ら様々な活動を模索していたことが描かれており、 「三重県民、なかなかやるじゃーん」と、フィクションなのに嬉しかったりして。 とまぁ、いろいろ書きましたが、サスペンス作品としての出来はイマイチ。 「原発問題を取り上げたい」という著者の一方的な思いと、 「拳法の戦闘シーンをじっくり描きたい」というアクション熱とだけで 出来上がっているような作品のように思えました。 アクション熱を期待している読者にとっては、読み応えがあるのではないでしょうか。 私の好みではありませんでした。
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『特殊防諜班 組織報復』
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- 2012/03/06(Tue) -
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今野敏 『特殊防諜班 組織報復』(講談社文庫)、読了。
シリーズ第2弾ですが、私、ここで脱落します・・・・・。 正直、大したストーリー展開もなく、 ただただ、ドンパチやっているだけな印象しか残りませんでした。 武器マニアの人なら楽しめそうですけど・・・・。 日本人と古代ユダヤ人との不思議なつながりについて 特に話が深彫りされるわけでもなく、 ラマ僧についても、ダライ・ラマ14世という強烈に存在感のある人物を ただ作中に借りただけのような薄っぺらい感じが否めませんでした。
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