『禁猟区』
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- 2019/03/02(Sat) -
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乃南アサ 『禁猟区』(新潮文庫)、読了。
乃南作品の警察モノ短編集。 まともな警察モノは一作しか読んだことがありませんが、 その時の、女性刑事が抱えている重たい雰囲気が本作の一話目にもあって、 「乃南作品との出会いってこんな感じだったな」と懐かしく思いました。 警察モノと言いながら、テーマは「監察」。 警察組織内部での不適切行為を取り締まる話です。 一話目は、ホストクラブに溺れてしまうベテラン女性刑事を主人公に据えて、 ホストにどうやって金を巻き上げられているか、その金をどうやって調達しているかを じっとりとした描写で書いていきます。 客観的な読者の目線で見ると「バカだなぁ」の一言で終わってしまうのですが、 こういう状態に陥っている人、結構いるんだろうなぁと憂鬱な気持ちになります。 この一話目では、監察の人間はチラリとしか登場してきませんが、 二話目以降は、監察の若手女性刑事が主人公となります。 このあたりの構成はうまいなぁと思いました。 ただ、一話目でのチラ見せでは、優秀な女刑事のような印象だったのに、 二話目以降ガッツリ出てくるようになると、どうも仕事ぶりが不安定な若手刑事 かつ甘えが垣間見えちゃってるような女性要素も強くなって、 「あれ?キャラ変??」と、少し混乱しました。 観察対象になった警察官は、 ホスト狂い、クスリ転売、マスコミへの情報漏洩、ストーカーと、 「警察官として、それはどうなのよ?」と思ってしまうものばかりでしたが、 でも、それぞれの警察官のバックボーンがしっかり描かれていて、 話に説得力がありました。組織が大きければ、こんな人も出てきちゃうかなと。 警察官を監視する監察という、特殊な組織の目線でストーリーが進むので、 最近たくさんある警察モノですが、新鮮な気持ちで読めました。 監察チームのメンバーの描写があまりなかったので、 続編があったら、もっと他の観察メンバーにスポットを当てた作品を読んでみたいです。 ![]() |
『氷雨心中』
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- 2017/03/04(Sat) -
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乃南アサ 『氷雨心中』(新潮文庫)、読了。
日本の伝統的な工芸品の職人世界を舞台にした短編集。 染物、杜氏、提灯など、その製造現場には馴染みのない世界が続き、 日本の工芸文化を覗き見るには面白い作品でした。 しかし、小説として見た場合、情感を描くことが優先されてしまっており、 プロットの輪郭が弱いように感じてしまいました。 物語がぼんやりしてしまっているというか、 「えっ、ここで終わり!?」みたいな感じを受けるものが多かったです。 その中で、表題作の「氷雨心中」は、 短い枚数の中で、50年前の封印された出来事が現在に甦り、 登場人物たちの「情」が一点においてスパークする感じで、 これは見事な世界観の作品だと思いました。 逆に、この作品と他の作品との温度差が 読み手としての私の中にありありと生まれてしまい、 後半は読み流し気味の読書となってしまいました。
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『今夜もベルが鳴る』
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- 2013/01/28(Mon) -
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乃南アサ 『今夜もベルが鳴る』(祥伝社文庫)、読了。
うーん、イマイチでした。 主人公の女性が、男友達に紹介してもらった男性に惹かれ、 その男性と電話をするうちに、恋になっていく。 しかし、なんとなく電話の応対がおかしいことに気が付いて・・・・。 ま、裏表紙の作品紹介を読むと、 サスペンス作品という位置づけになっているようなのですが、 事件が動き出すまでが長いよー。 正直、飽きちゃいました。 しかも、この主人公女性が、なんでこの男性に惹かれるのか、 全然共感できず・・・・。 決して、この男性が良くないと言っているのではなく、 なぜそこまで惹かれるのかの描写が、足りてない気がしました。 それは、サスペンス側の犯人が、なぜそこまでぞっこんになったのかについても、 あんまり踏み込んだ説明がなく、ふーん・・・という感じです。 で、物語に入り込めないまま、 最後にバタバタと事態が動いて、なんとか解決! 最後まで置いてきぼりの読書になりました。
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『ボクの町』
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- 2012/06/16(Sat) -
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乃南アサ 『ボクの町』(新潮文庫)、読了。
見習いお巡りさんが、交番勤務で経験する出来事を描いた一冊。 交番勤務というのは、こんな感じなのか・・・・という お仕事紹介的な目線で読むと、知らないところがたくさんあって、非常に興味深かったです。 勤務体系といい、仕事内容といい、交番を訪れる市民とのやりとりといい、 面白く読めました。 しかし、新人お巡りさんの成長期としてみると、 残念ながら、私は楽しめませんでした。 まず、先輩-後輩という関係がなってないんです。 ちょっと指導されたらすぐに不貞腐れ、 あまりものごとを深く考えずに、聞き流してしまいます。 熱心に日々の仕事に取り組む同期の姿に感化されることもなく、 先輩から何かを学び取ろうという熱意も無い。 新しい警察組織の人物像を目指したのかもしれませんが、 あまり上手くいっているようには思えませんでした。 また、一応なりとも警察学校を出た身で、 この言葉遣いは無いのではないかと思ってしまいました。 ここは、主人公のキャラクター云々というよりは、小説のリアリティの問題です。 組織で動くことを旨とする警察で、この教育は無いだろうと思うのです。 というわけで、満足半分、不満半分の読書となりました。
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『団欒』
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- 2012/03/30(Fri) -
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乃南アサ 『団欒』(新潮文庫)、読了。
狂気を狂気と思わず、それが日常であり常識だと勘違いしている人間を描かせたら ピカ一の作家さんですね。 本作も、のっけから気持ちの悪い家族が登場します。 ちょっとデフォルメしたところはあるものの、 身の回りに、こういう気持ちの悪い集団(=家族)がいるということを 思い起こさせてくれる短編が並んでいます。 ただ、1つ1つの作品は面白く読めるのですが、 さすがに、これだけ立て続けに読むと食傷気味・・・・・。 というか、気分が悪くなります。 乃南さん、やり過ぎ(苦笑)。 ま、それも作家の力量なのでしょうけれど。
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『ピリオド』
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- 2011/12/01(Thu) -
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乃南アサ 『ピリオド』(双葉文庫)、読了。
乃南長編は、気づいたら2年ぶりでした。 文庫で550ページの大作。 面白かったです。 40代でバツイチ子供なしの女性が、 兄の病気、甥や姪の状況、不倫の後始末、実家の処分といった 日常生活の延長上にあるんだけれど、日常ではない事象に巻き込まれ、 それにより自分を見つめ直してみる・・・・・・・ あぁ、なんとも陳腐な要約しか出来ない自分が残念(苦笑)。 この主人公の、兄を見る視線、その嫁でかつての同級生への評価、 不倫相手の男への冷酷なまでに冷静な判断、 仕事仲間のちょっとした言動へのアンテナ、 その一つ一つの自分の行動や思考回路に対しても、 ときには自己嫌悪に陥るような醒めた目をもつところが、非常に惹かれます。 素敵な女性だという意味ではなく、そういう面を自分も持っているなぁという親近感に似た感覚。 もしくは、40代になったら、自分もこんな風になるのだろうかという怖いもの見たさ。 そういう意味では、主人公が、一人で住む部屋で時々寂しさに気が滅入ってしまうところや、 甥や姪が上京してきたときに、面倒だという思いが先にたちながらも、 心の奥では嬉しさを感じてしまうところなど、 その心境がなんとなく分かってしまう自分がいます。 この本を読み通して、そんな人生に、 前向きな結論も、後ろ向きな結論も持つには至らなかったのですが、 何らかの覚悟が必要だということは分かりました。 なかなかに重たい読後感。 読んでいる途中は、殺人事件やレイプ事件など、非日常的な要素に対して、 どれも有耶無耶のまま過ぎていくようなところがあり、 少しモヤモヤを感じていたところもあったのですが、 読み終わってみると、現実とはそんなものかもしれないと思いました。 他人がどうなったか、ということよりも、 自分がどうありたいのか、ということに気持ちが向いた読後感でした。
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『悪魔の羽根』
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- 2011/04/12(Tue) -
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乃南アサ 『悪魔の羽根』(新潮文庫)、読了。
あんまりピンとくる作品がないままに読み終わってしまった短編集でした。 どんでん返しの妙があまり感じられず、 そんなものか・・・・・で終わってしまう作品が多いように思えました。 主人公たちも、なんとなく一人相撲な感じというか、 それぞれが抱える悩みのようなものに、親しみを持って共感することが できないままに終わってしまいました。 乃南短編集は、どうも、合うもの、合わないものがはっきり分かれてしまいます。
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