『看守眼』
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- 2014/08/24(Sun) -
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横山秀夫 『看守眼』(新潮文庫)、読了。
安定の横山短編集です。 本作では、警察機構の中の看守や庁内報、ウェブサイトなどのマニアックな部署で働く人や、 新聞社の整理部、県知事の秘書などが主人公の作品が集められ、 いろいろ目先が変わって面白かったです。 警察組織もその特殊性が興味深いですが、 県庁という組織も、物語の舞台には面白いだろうなと感じました。
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『ルパンの消息』
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- 2014/06/16(Mon) -
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横山秀夫 『ルパンの消息』(光文社文庫)、読了。
著者のデビュー作だそうで、 すでに、単なる推理モノではなく、警察機構における捜査のあり方を軸にしているところに、 この作家さんの骨の太さを感じました。 高校教諭が高校の屋上から飛び降りた自殺事件は、 実は、殺人事件だった可能性が・・・・しかし、時効成立まであと1日しかない! 時効まであと1日というところで急に真相が立ち上がってきた経緯や 関係者があまりにも事件当夜にこぞって各自の行動を起こしている集中性など、 やや舞台装置の設定に強引さが感じられるところはありますが、 しかし、「如何に15年間隠し続けていた真相をしゃべらせるか」という 取調室でのテクニックや捜査員たちの競争意識を煽った描写に ワクワクしながら読み進められました。 1つ1つの細かな謎にもきちんと答えを用意し、 (多少ご都合主義とはいえ)全体の整合が取れた真相となっています。 それぞれが15年間黙っていた理由も、用意されていて納得。 今回刊行するに当たり、どれだけ手を加えたのかは分かりませんが、 その後のヒット量産が納得できる水準になっています。 物語の中で印象に残ったのは、 高校生活において、これだけ同じ時間を共有し、悪さもし、 また生涯忘れることの出来ない体験をした仲間なのに、 15年経てば、というか卒業してしまえば、別々の人生になっていまうという現実です。 1人は大学に進学し、家庭を持って平穏な日々を送ることに。 もう1人は地上げ屋の手先に、最後の1人はホームレスに。 この事件がほじくり返されなければ、再び交わることのなかったであろう3人の人生。 青春時代って、何なのでしょうかね。 私自身、小・中・高の友達とはFacebookで繋がってはいますが、 では会っているかというと、同窓会で数年ぶりに会うぐらい。 近所の幼馴染もそれぞれの新生活地に散らばっていて、なかなか会う機会がありません。 中でも高校の同窓生が一番縁遠いかも・・・・・。 というわけで、読み終わって遠い目になってしまった読書となりました。
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『出口のない海』
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- 2013/12/01(Sun) -
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横山秀夫 『出口のない海』(講談社文庫)、読了。
これまで、横山作品は警察小説や推理小説の「犯罪まわり」の話ばかりを読んできましたが、 本作は太平洋戦争もの。しかも、特攻隊が舞台です。 「推理小説作家の特攻モノって、どうかなぁ・・・・」と 正直、買うかどうか迷いました。 で、読んでみて、やっぱり、横山秀夫作品として読む必要はなかったかなぁ・・・というのが 正直な感想です。 主人公をはじめとする登場人物たちの言動や思考回路、 さらには彼らが住んでいる時代の描写が、 どうにも現代的過ぎて、昭和10年代後半という印象を持てませんでした。 「今」過ぎるんです。 野球部の面々も、マスターも、美奈子も。 特に、美奈子とのくだりは、非常に違和感を覚えました。 ただ、後半、回天の操縦を覚え、人間魚雷としての生き方もしくは死に方が 物語の前面に出てくるようになってからは、読む手を止められませんでした。 特に、主人公の周囲にいる、北、沖田、佐久間の口からこぼれる 彼らの人生観が、非常に興味深かったです。 出撃シーンは、久々に本を読んでいて、涙があふれてきました。 彼らの戦績が、どの程度戦況に影響を及ぼしたかは分かりませんが、 こういう人たちの思いが重なって、今の日本があるのだろうなとは思います。 一方で、やっぱり主人公の「今」風な思考の描写には不自然さを感じます。 特に、終盤の音楽室で、思いを語るシーン。 あの時代に、こんな境地に至るというのは、よほどの異端児ではないかと思うのです。 これは戦後世代が戦争を「歴史の一部」として見るからこその考え方だろうと思います。 てなわけで、共感と違和感が綯交ぜになった読書でした。 特攻については、フィクションではなくノンフィクションできちんと押さえるべきですね。
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『64』
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- 2013/01/01(Tue) -
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皆様、あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。 横山秀夫 『64』(文藝春秋)、読了。 さて、年越しで読んだのはヒット中の本作。 古本一家において、珍しく母が新刊本を買ってきました。 母が東京に遊びに来た時に読み終わり、私の部屋に置いて行ったのですが、 父から「俺も早く読みたい」とせっつかれ、 今度は私が年末の帰省の車中で読んで帰ってくるということに(笑)。 本作は、14年前の誘拐事件が出発点になっています。 子供は殺され、誘拐犯は捕まらず、しかも捜査上の問題も抱えている事件。 もはや風化したと言ってもよい状況なのに、 なぜか東京から警察庁長官が視察に来て、マスコミの前で会見をすることに。 広報官の主人公は、その段取りをつけに当時の被害者の父親宅へ出向きます。 一方で、県警と記者クラブとの関係は、とある事件の警察発表の内容を巡り大混乱中。 警察組織内の刑事部と警務部の対立構造の激化問題もあり、 さらには、広報官自身の家族の問題もあり・・・。 これほどまでに幅広い展開を見せる物語なのですが、 まぁ、どれも上手く描き分けて、しかも、最後には、一つ一つのエピソードを きちんと漏れなく繋げていきます。 それはもう、気持ちの良いほどに。 650ページ近くある大作ですが、 全てのページが、無駄なく使われているように感じました。 終盤で起きた事件の犯人は読みながら分かってしまいましたが、 しかし、その犯人の事件を起こすまでの行動には驚かされました。 「なるほどぉ」と呻るしかなかったです。 横山秀夫、すごいわ。 今年の読書は、一冊目からワクワクドキドキ、楽しいものになりました。 この1年間、さらに素敵な本に出会えることを願ってます。
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『真相』
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- 2012/09/19(Wed) -
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横山秀夫 『真相』(双葉文庫)、読了。
本作は、警察機構ではなく、 犯罪を犯してしまった市民の側が主人公の短編集。 罪を悔いているようにみせながら、 その裏側には、ずるい考えも見え隠れするような 人間の嫌らしさを上手く描いていると感じました。 ちょっと上手過ぎて、「不眠」でのいじめの描写は、気分が悪くなるほど。 こんな体育会もあるんですかねぇ・・・・。 作品としては、あまり奇をてらった展開ではない中で、 人間の感情の起伏を上手く描いていると感じた表題作「真相」が 一番面白かったです。
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『深追い』
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- 2012/04/09(Mon) -
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横山秀夫 『深追い』(新潮文庫)、読了。
相変わらず、上手いですね。 主人公の立ち位置の設定が上手いんです。 視点が斬新。 かつ、サラリーマン的には親近感が持てる設定。 「刑事の中の刑事」というようなところからの外し具合がお見事。 組織における一個人という立場での苦悩が、 警察組織という、組織として完成されたものの中で描かれるので、 なおさら際立ってきます。 事件としては、さほど大きなものは起こりませんが、 その分、人間味が増して、面白い小説になっていると思います。
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『臨場』
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- 2011/12/21(Wed) -
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横山秀夫 『臨場』(光文社文庫)、読了。
やっぱ、横山秀夫、すごいわ。 そう感じさせてくれる短編集でした。 「終身検視官」の異名をとる検視のエキスパートが、 一体何を切っ掛けに、真相にたどり着くのか・・・・・ その1つ1つが具体的かつ現実的で、腑に落ちるんです。 その説得力が、読んでいて気持ち良いほどでした。 また、この「終身検視官」が縦軸ではあるのですが、 主人公には据えずに話を進めていくところも、憎らしい演出です。 周りの人の目を通して語らせることで、 かえって、この終身検視官のキャラクターが際立って見えてきました。 年次が上の人たちに対する言葉遣いは、ちょっとキャラを立て過ぎではないかと思いましたが (前の部署で警察OBの方たちと仕事をしたのですが、やっぱり組織としてガチガチみたいです) それ以外の設定や展開、描写の完成度は最上級だと思いました。 物事を見る目というのはどういうことなのか、 小説を通して勉強になりました。
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『震度0』
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- 2011/08/13(Sat) -
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横山秀夫 『震度0』(朝日文庫)、読了。
久々に骨太の長編小説に当たりました。 夜を徹して読んでしまいました。 県警の刑務課長が突如失踪した。 その行方を捜すどころが、この事件をネタに、権力闘争を行う部課長クラスの面々。 そんな組織と個人の論理を書き込んだ作品です。 経歴と将来を背負って行動する男、 自分の職務のプライドにかけて譲らない男、 保身に走る男、 思わぬ裏面を持つ男、 そして、旦那のために動く妻、 妻同士の牽制のし合い、 様々な要素が絡み合い、しかも、最後、見事に一つの事実に収斂していきます。 失踪事件の真相は、ある意味、拍子抜けするような結末かもしれませんが、 しかし、それが逆にリアリティを想起させます。 むしろ本作は、権力闘争を描こうとしていると思うので、 舞台装置に過ぎない失踪事件のオトシドコロとしては、良い線だと感じました。 冬木の嫁のキャラクターだけは納得がいかなかったのですが、 (なぜあの上昇志向の塊が、こんな女性を選んだのかと・・・、しかも許容しているのかと・・・) それ以外の登場人物たちの人物造詣、性格描写はお見事。 個人的には藤巻部長にちょっと肩入れして読んでいました。 こういう権力闘争ものは、 自分が大きな組織の中にいればいるほど、 実感を持って面白く読めるだろうなと感じました。
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『影踏み』
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- 2011/03/19(Sat) -
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横山秀夫 『影踏み』(祥伝社文庫)、読了。
これは面白かったです。 連作短編集なのですが、それぞれの話の繋がり方、伏線の張り方が 非常に巧妙に出来ていて、一冊の作品としての構成がお見事。 時間軸も、1年間という長めのスパンの中で、 それぞれの物語を起こしていくので、不自然さを感じません。 今回は、出所したばかりの泥棒が主人公ということで、 警察の符牒などもたくさん出てきて、興味深いです。 そして、単なる推理物にするのではなく、 火事で亡くなった主人公の双子の弟の意識が 生き残った兄の頭の中に住み着いているという、 ちょっとファンタジーな要素も。 通常なら、「そんな設定いらんわーい(怒)」と感じるところですが、 本作では兄弟のキャラクター設定のおかげか、 意外とすんなり受け入れられて、しかも楽しめました。 主人公が、泥棒に入るシーンはドキドキ感満載。 どの角度からも佳作です。
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『顔 FACE』
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- 2010/09/26(Sun) -
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横山秀夫 『顔 FACE』(徳間文庫)、読了。
『陰の季節』に登場した似顔絵捜査官・瑞穂を主人公にした連作短編。 「婦警さん」という主人公を据えることで、 警察機構の中の男尊女卑的な習慣が主要テーマとなっているのですが、 どうにも、その描き方に違和感を感じてしまって、のめり込めず。 たしかに、警察機構は男性社会でしょうし、閉鎖的でもあるでしょうし、 そのせいで、時代遅れな習慣もあると思います。 ただ、ここまで露骨なのか・・・という疑念が拭えず。 あまりに露骨な、というか率直すぎる嫌がらせは、 男の側の頭の悪さを露呈するだけだと思うんですよね。 今は、もう、そんな時代ではなく、表面的にはみんな男女平等になってますよ。 そこはお利口さんを装えるようになってます。男も女も。 ところが、普段は繕っていても思わぬところで性差別的な言動が思わず出てしまったり、 もしくは、日常的に嫌がらせをしたいなら、もっと陰湿に行われるのが、 今の性差別だと思います。 そういう点で、この作品での性差別の描き方は、時代遅れで頭が固い感じがしました。 そして、性差別に反対している女性の中にも女を見下しているところがあるんだ という指摘は、当然、そういうところがあるのは分かっているのですが、 これまた、パターンにハマったような描き方をしている気がします。 瑞穂という、ちょっと考え方が幼い(=理想主義的な)キャラクターを通して、 性差別を描こうとすると、どうしても、無理が出てきてしまう(=舌足らずになる)の ではないかと思います。 警察機構における性差別を描いたという点では、『凍える牙』なんかがありますが、 乃南作品では、違和感を感じることが無かったんです。 そこは、きっと、主人公のキャラクター設定の成功/失敗の違いではないかと思います。
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