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『これでよろしくて?』
- 2022/07/08(Fri) -
川上弘美 『これでよろしくて?』(中公文庫)、読了。

川上弘美さん、最初は苦手意識を持ってたのに気付けば十数冊読んでて
いつの間にか川上ワールドにはまっちゃってますよ。

うわー、めっちゃわかるー、という作品もあれば、
全然共感できない、という作品もあり、当たり外れが大きいのですが、
それでも続けて読んでいるのは、当たりの時の当たり感が大きいからなんでしょうね。

本作では、30代子供なし専業主婦が主人公ですが
正直、今の私からは、「仕事もなく子育てもなく、毎日何が生き甲斐なんだろう?」と
私からは冷たい言葉を投げてしまいそうな人物が主人公です。

日常生活のワンシーンで、突如、元カレの母と出くわし、
母に誘われるがままに、「これでよろしくて?同好会」の会合に誘わる主人公。
とりあえず参加してみたら、町の洋食屋さんに集まって
新聞の人生相談みたいなお題を好き勝手議論するだけの会合。
いやー、普通の人は1回で懲り懲りでしょう・・・・・って思うのですが、
主人公は、月1回のこの会合に皆勤出席しちゃうんですよねー。

で、その同好会で繰り広げられる「ガールズトーク」ですが、
人生達観しちゃってる人たちの言葉のオンパレードで、
ある種、すごい修業の場だと思います。

リーダー的立場の土井母、何度も離婚を経験しているみずほ、
フルタイム主婦の香子、20代で若手の雛子、
そういう面々に囲まれながら、突然姑が押し掛けてきた顛末や
姑と同居し始めてから感じた夫の頼りなさとか
いろいろと同好会の面々に相談し、時には真面目な回答をもらい、
時には茶化した回答をもらう、でも、客観的に見てると、
なんて絶妙なバランス感覚!という代物です。

いろんな人間関係が交錯する我が家以外に、
この同好会みたいな独立した人間関係の下で、
何にも忖度しないフラットな意見が聞けたら、気持ちいいだろうなーと
思ってしまいました。
私は結婚してないから、夫婦間の悩みも、嫁姑関係も、義理姉妹の関係も
ほぼ悩みはないんですけどね(爆)。

あぁ、みんな、こんな感じで毎日気を使ってるんだー、と思うと
自分の結婚への意思はますます減退していきますが、
弟夫婦とか、いとこ夫婦とか、身近なところにいる新たな婚姻関係を結んだ人たちには
尊敬の念を抱かずにはいられません。
私の分まで、親戚一同の期待を背負って頑張ってね!みたいな(爆)。

ま、いずれにしても、結婚には覚悟がいりますし、
私にはその覚悟がてんでないんだな(笑)ってことですね。




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『東京日記1+2』
- 2020/11/23(Mon) -
川上弘美 『東京日記1+2』(集英社文庫)、読了。

雑誌に連載された日記をまとめたもの。

「日記」ということだったので、エッセイという理解で読み始めたのですが、
私的には、これは小説でした。

1か月で数日分の日記が掲載されていますが、
その1か月の中にストーリー性があり、何らかのテーマのもとで日記が構成されています。

4/5は本当の話ということですから、1/5は創作という意味かと思いますが、
私の中では、個々のネタ元は事実として存在していたとしても、
文章化する際に、相応の作家としての演出がかかっているなと感じました。
その演出が、とっても面白いんです。

1か月の中で、そのテーマが展開していくので、
「起承転結がどうなっていくのかしら?」という小説を読むときと同じワクワク感が
たった数ページの中で得られ、しかも、その数ページのワクワクが何度も繰り返し楽しめるというお得感。

カワカミさん、変な日常を送ってますねぇ・・・・というところもあるのですが、
私的に最後まで違和感を覚えたのが、お子様の存在。
カワカミさんと家族の存在が結びつかないんですよね~。
私の勝手なイメージですけど。

そのお子様がまた、変わってるんですよね。
「オクラごっこ」って何!?
そのうえ、本質を突くような一言を発したり、まったく侮れません。

さらには、意味不明な電話を寄こしてくるお知り合いも多く、
そしてカワカミさん自身も不思議行動を起こしていたり、
その不可思議さも、「小説だ」と思いたくなる一因かもしれません(苦笑)。

シリーズ化されているようなので、追いかけたいと思います。




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『ざらざら』
- 2020/09/20(Sun) -
川上弘美 『ざらざら』(新潮文庫)、読了。

川上弘美さんの掌編小説、大好きです。

この短い文章で、なんでこんなに存在感のある世界観を出せるのかと
いつも驚いてしまいます。

ある日常の瞬間を切り取ったように見せかけて、
しっかりと凝縮して表現しながら、その凝縮感を出さずに、さらっと描いてしまう技量。
すごいです。

「恋愛小説集」というジャンル分けになるようですが、
私は人間そのものを描いた小説のように感じました。
確かに1個1個は恋愛の場面を描いているのですが、
恋愛そのものよりも、それを通して人間が何を考えているのか、何を見ているのかというところが
伝わってきて、面白かったです。




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『パレード』
- 2020/05/11(Mon) -
川上弘美 『パレード』(新潮文庫)、読了。

ブックオフで川上弘美の棚を見たら、読みたい本リストの中にあったので手に取ったのですが、
薄っ~い(笑)。
110円で買っても1ページ1円以上するなぁ・・・・と思いつつ、
まぁ、わざわざリストに載せてるんだから・・・と思って買ってみました。

で、早速読んでみたのですが、『センセイの鞄』のスピンオフになっていて、
最初の1ページを読んだらすぐに、ツキコさんとセンセイの会話のシーン、
「あぁ、これこれ、ボワボワと会話するんだよなぁ」と、すぐにその世界観に入っていけました。
12年ぶりに触れた世界観なのに、すごくビビッドに感じられました。
最初に読んだ時の感激が今も自分の中に根付いているんだなと思いました。

物語の中心は、ツキコさんが子供の頃に天狗を連れて歩いていたことを
センセイに話して聞かせるというファンタジーなのですが、
他の子も、ろくろ首を連れていたり、砂かけばばあだったり、もう鬼太郎感満載。
なにこの教室?(笑)

そしてお母さんは昔きつねを連れていたそうで、
物わかりの良い母親ですね(笑)。

途中から小学校でのいじめの話になり、少ない分量であっさりと描いていくので
逆に残酷さが引き立つような感じになっていますが、
子どもは残酷ですからねぇ。

最後、いじめ問題は子供らしい理屈のなさでなし崩し的に展開していき、
あれ?これで終わり??とちょっと拍子抜けしてしまいますが、
いじめ問題を語ることが主題の作品ではないと思うので、こんなもんですかね。
ツキコさんとセンセイのボワボワとした会話でほっこりと終わっていくので
読後感はあたたかです。




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『椰子・椰子』
- 2019/05/19(Sun) -
川上弘美 『椰子・椰子』(新潮文庫)、読了。

ブックオフの50円ワゴンにあったので、
内容は特に確認せず、「川上弘美が50円だー!」という、それだけで買ってきました。
そして、特に考えずに、「さっくっと読めそうなものを・・・・」と思って手に取ったのですが、
図らずも、川上弘美2連発となりました。

でも、正直なところ、途中まで、川上弘美2連発になっていることを気付いていませんでした。
それほど、作品のタッチが別物だったので。
『真鶴』が情念の世界なら、『椰子・椰子』は観念の世界。
いきなり冒頭に、モグラと一緒に写真を撮っちゃったりしてるのですが、
「あれ?動物界の擬人話法??」とか悩む暇もなく、
隣にはランドセルを背負ったもぐら(らしき)すらっとした生物のイラストが。
もう、ぶっ飛んでます。

モグラとの日常生活の話なのかと思いきや、
次の日には原っぱに怪物が住み着いたという話になり、
「ランドセルを背負ったモグラは怪物じゃないのか!?」と突っ込もうと思ったけど、
次から次へと異次元の話が出てきて、
しかも各エピソードが繋がってたり、ぶっ飛んでたりで、
なんとも捉えどころのない物語です。

でも、空気感がポップだから、
不快な感じや不穏な感じを覚えずに、読み進めていきことができます。

真鶴での不倫話とは、ぜーんぜん違う世界観で、
これが同じ作者から生まれてきたのか!とビックリ。

タイトルの「椰子・椰子」は、著者のお子様が幼かったときに
「おやすみなさい」がうまく言えずに「やし、やし」になっていたというエピソードから。
あぁ、夢の中の世界なのか・・・・と、ようやく納得。

あとがきに行くまで、「夢の中の話を描いている」ということすら思い至らなような
独特の世界観が出来上がってました。
私的には、『真鶴』より面白かったです。




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『真鶴』
- 2019/05/18(Sat) -
川上弘美 『真鶴』(文春文庫)、読了。

真鶴半島というと、私の中では、ダイビングで通った場所です。
リゾートというよりは、講習の場所。
ちょっと地味なイメージがあるので、「真鶴」というタイトルからは、
「そんな場所が小説の舞台になるのか!」と驚きを覚えました。

そんな地味な場所なのに、小説はヒットしていた、という記憶から、
なんとなく私の中では、『真鶴』=川上弘美の代表作という公式が出来上がってました。

で、読んでみたのですが、情念の世界というか、怨念の世界というか、
なんとも濃厚な感情の世界が広がっていました。
正直言うと、私の苦手なジャンル・・・・。

でも、その描写の細やかさから、
「こんな繊細な感覚をもって生きている人おいるんだなぁ」と
なんだか勉強になりました。
私自身は、芯がガサツなので、ちょっとやそっとの周辺の変化は、
たとえ気づいても意図的に無視してしまう気がするんですよね。
でも、主人公は違う。

娘がそっけない態度を取った一瞬の表情を捉え、
それをフォローするような母の言動を捉え、
恋人=不倫相手の些細な振る舞いに神経をとがらせる。

私の感覚では、私の3倍ぐらいの濃さで、
日常生活を感じているのではないかと思われるほどの神経質さ。
そうなりたいわけじゃないけど、ここまで濃い描写を読んでしまうと、
自分自身、いろんなことを気付かずに捨ててしまっているような喪失感を覚えます。

ストーリー自体は、ガサツな私からすると
「はっきりせい!」と喝を入れたくなってしまうほどウジウジしている印象を持ってしまいますが、
女(霊?)が付いてきちゃう(憑いてきちゃう?)なら、
こんな風にウジウジ考えた末に、女(霊?)と対話しちゃったり出かけちゃったり
しちゃうんでしょうかね・・・・・・いや、やっぱり、それは壊れてるな。

世界観を堪能するまではいかなかったですが、
こんな世界もあるのね・・・・と思える程度には濃い作品でした。




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『ニシノユキヒコの恋と冒険』
- 2019/05/03(Fri) -
川上弘美 『ニシノユキヒコの恋と冒険』(新潮文庫)、読了。

ニシノくん、幸彦、西野君、ユキヒコ、
ニシノユキヒコが関わった様々な女性との恋愛関係を、連作短編集の形で描いていきます。

全部を読み通せば、ニシノユキヒコという人物の女性遍歴、
そして人生そのものが見えてくるはずなのに、
不思議と筋が一本通っているような通っていないような不安定さ。
その不安定さが、逆に面白かったです。

一言でいえば、女たらしで、真面目に恋愛ができない男ということになるのでしょうけれど、
各話に登場してくるニシノくんなり、幸彦なり、西野君なり、ユキヒコなりは、
どことなく違う雰囲気をまとっていて、その少しブレた感じが
この男の本質的な部分を表しているような印象を受けました。
つまりは、自分を持たずに、他人に合わせて生きているような。

終盤で、こんな人間に育った理由が描かれていましたが、
私は、あんまり、そこはどうでも良い感じでした。
むしろ、変幻自在な人間が存在しているという不思議さの方が面白かったです。

川上作品にしては、あんまり居心地の悪さを感じなかったのは、
ニシノユキヒコの自分のなさが、軽い方にブレていたからでしょうね。
これが、内省的な方に落ち込んでいったら、非常に不気味な人間だったのではないかと思います。




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『水声』
- 2018/10/19(Fri) -
川上弘美 『水声』(文春文庫)、読了。

なんとなくBookOffで手に取って、そのまま買ってきた本。
タイトルの「水声」。
「みずごえ」かと思いきや「すいせい」。
そして、造語かと思いきや、ちゃんと変換されました。
日本語、奥が深い・・・・・。

さて、物語は、私と弟が中心。
1969年に私は11歳。
今は、結構、良いお歳になっています。
なのに弟と実家で2人暮らし。
何となく不穏な感じが。

自分たちの子供の頃を振り返っていきますが、
母のキャラクターが秀逸。
素晴らしい母という意味ではなく、不気味な母という意味で。
1歳だった頃の自分の娘について振り返った時に
「柔らかで突けばすぐに死んじゃいそうだった」と本人に向けて描写する母。
悪意のない残酷さが不気味です。

そして、そんな母のもとで育った兄弟。
40代になり2人で実家に戻って一緒に暮らすようになり、
なぜか同じ寝室で布団を並べる2人。
夜中にふと目を覚まし、隣にで眠る弟を眺める姉、触れる姉。
不気味です。

そして、そんな不気味さの正体が、
この家族の真相として現れてくるとき、不気味さの理由が腑に落ちてしまう分、
さらにリアリティを増して気持ち悪さを感じてしまいます。

相変わらず、川上作品は居心地が悪い。
でも、それをきちんと描いて世界観をモノにしている著者は凄い。




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『龍宮』
- 2017/11/10(Fri) -
川上弘美 『龍宮』(文春文庫)、読了。

「8つの幻想譚」という紹介文のとおり、
ふしぎなお話が詰まっています。

冒頭の一編は、人間になった蛸のお話。
この蛸親父の行動が不思議なのはもちろんのこと、
しゃべる日本語がいくつもの人格が継ぎ接ぎされているようで不気味。
そして、それに対する人間の男の主体性もあるのかないのか分からず
この2人の対話が、なんとも居心地悪い感じです。
この狙った居心地の悪さが、上手いなぁと思わせます。

そして、表題作の「龍宮」。
「龍宮」という語感からイメージする華やかさは全く感じられない
本当に不気味な婆さんと曾孫の物語。
言霊を扱うような祖母イト、背丈は曾孫の膝までしかない?
もう、どんな存在なのか想像が追い付かないのですが、
でも、どしりとした存在感を感じさせる描写。
書かれたままの姿で存在しているわけではないとしても、
何かしらの比喩やもしくは曾孫側の錯覚があるだけで、
こんな婆さんが居てしまうのではないかと思わせる存在感。
そこが気持ち悪いのです。
こういう存在を許してしまう余地が世の中にはあるのではないかという恐怖。

この短編集で感じた怖さは、
「作り話に見せかけて、こういう気持ちの悪い存在は、現実に居るのではないか」と
思わずにはいられないところ。

気持ち悪いけど心に踏み込んでくる、
そんな迫力のある作品でした。


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『溺レル』
- 2017/05/26(Fri) -
川上弘美 『溺レル』(文春文庫)、読了。

たぶん、川上弘美らしい短編集になるのでしょう。
でも、私には苦手なジャンルでした。

どの短編も、出てくる女性に主体性がないというか、
なぜ、こんな男性に、現実世界から連れ去られてしまうのか、
そこが私には理解できない・・・・・。

ま、理性では理解できない世界だからこそ、
「溺レル」なのでしょうけど。

その流されていく情景は、読んでて違和感はないんです。
でも、共感できないというか、
自分ならこうはならないという思いがあるというか。
まぁ、自分もいざというときに理性が保てるかは分からないですが(苦笑)。

解説で、男性評論家が
「一緒に逃げてくれそうな女と言えば、ずばり、つまらない女に限る」
と断言していて、これは、本作を通して読んでみて、
あぁ、そういうものなのかもしれないなと、すんなり納得してしまいました。


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