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『チエちゃんと私』
- 2021/09/15(Wed) -
よしもとばなな 『チエちゃんと私』(文春文庫)、読了。

これは面白かったです。

40代独身の主人公。
ひょんなことから豪州から戻ってきた7歳年下の従妹・チエちゃんと同居することに。
母を亡くして帰国した寡黙なチエちゃんは、毎日をリハビリのようにゆったり過ごし、
味噌汁だけは忘れずに作ってくれるという日々。
一方の主人公は、叔母が経営する輸入雑貨の店で、イタリアに買い付けに行くバイヤーとして働き
身内がオーナーという融通の利く職場で、のびのびと仕事をして、実力を発揮しています。

主人公の働き方や生き方に、自分と近いものを感じることが多かったのですが、
ただ、自分の中には、誰かと同居するという選択肢がありません。
とにかく気詰まりだな・・・・と思ってしまって。
実家には良く戻りますが、1日、2日で十分という感じで、毎日家族と一緒に暮らすというのは
もう想像できない感じになってます。食時の時間とか、お風呂の時間とか、合わせるのが面倒だなとか
そういう小さい一つ一つが負担に感じてしまって。

たぶん、主人公も、そういうタイプの人だったと思うんですよ。
なのに、なぜかチエちゃんとの同居を受け入れて、しかも自然に同居生活が成立してしまう
その不思議な感じに惹かれました。
主人公の柔軟性と、チエちゃんの本質的な人間性がうまくマッチしたのかな。

チエちゃんとその母は、豪州のかなり怪しいヒッピーのコロニーで生活してきたため
チエちゃんは日本での生活に慣れておらず、人とのコミュニケーションのテンポも独特。
そんなチエちゃんが、まるで解毒剤となったかのように
主人公は身の回りで、店長の引き抜きにより急に忙しくなったり、
買い付けから戻る飛行機の席で隣り合った男性から言い寄られたり、
いろんな大きな変化が訪れても、ひょうひょうと受け止めてこなしていく姿に、
チエちゃんの力を感じずにはいられません。

なので、終盤、チエちゃんが一度豪州に戻ったときに、
この関係が壊れてしまったら嫌だと、本当に願いながら読み進めました。
悲しい展開もありましたが、それぞれの人生を守り通した感じがあり、
読後感はほっとしたものでした。

不思議な存在を、「こういう人もいるかもな、こういう人との関係もあるかもな」と
思わせる筆致はさすがだなと思います。




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『ハゴロモ』
- 2020/10/07(Wed) -
よしもとばなな 『ハゴロモ』(新潮文庫)、読了。

前半は、全然、物語に入っていけませんでした。
主人公の自分語りというか、主人公の内面世界だけで話が進行していく展開は
苦手なんですよねー。

不倫相手の男に振られ、故郷に戻ってきた主人公。
父親は米国にいるので、祖母と平凡な毎日を送っています。
そんな中で「なんで自分はこうなったんだろう」とか鬱々と考えて過ごしているのですが、
私の性格では、「うじうじ悩む前に何でもいいから行動しろ!」と言いたくなってしまいます。

それが、中盤、インスタントラーメンを出すラーメン屋が登場してきたあたりから
「どんなふうに展開していくんだろう?」と興味を持って読めるようになってきました。
きっと、「ラーメン屋の青年」という外部との接触が生まれて内面世界のうじうじ描写が
かなり減ったからだと思います(苦笑)。

その後、ラーメン屋の母、主人公の祖母、主人公の父なども
積極的に話の中に登場してくるようになり、最後は、前向きな感じのエンディングだったので、
読後感は「おもしろかったな」というところに落ち着きました。

失恋などつらい経験をしたときに、「環境を変える」という行動に出ることには共感できます。
でも、「故郷に戻る」という行動は、なんだか何も考えずに済む空間に逃げている感がして
私的には共感度が薄いです。

本作の主人公は、最初は後者だったと思うのですが、
途中から外部からの働き掛けもあり、かなり前者のような前向き発想に変わっていったので、
途中から興味を持って読めたのかなと思います。

インスタントラーメンとか、夢の中のスケートリンクとか、
何がきっかけで前向き発想に変われるのか予想がつかないところが
人間の面白さなのかもしれませんね。




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『スナックちどり』
- 2020/09/17(Thu) -
よしもとばなな 『スナックちどり』(文春文庫)、読了。

タイトルの語感に惹かれて買ってきたのですが、
表紙のイラストと印象にギャップがあるので、どんな話なんだろう?と思いながらの読書でした。

主人公は、離婚して傷心中。
いとこを誘ってイギリスの辺鄙な町に旅行にやってきますが、
いとこの方も育ての親のような祖父母を亡くした後というタイミング。
お互いの傷に心を配りながらの旅行となります。

この、いとこ・ちどりが、祖父母が経営していたスナックを引き継いで、
帰国後はバーとして再開予定。
まだ改装中ということで、気分はスナックを引きずっています。
そして、主人公の離婚後の傷心話を聞いて慰めているうちに、
さもイギリスの地で「スナックちどり」を開いたかのような癒しの空間が生まれました・・・・というような展開です。
表現へたくそで申し訳ないですが。

私は、姉も妹も親しい女のいとこも居ないので、
血のつながった年齢の近い女性に悩み相談をした経験がありません。
なので、本作を読んで、「あぁ、こういう本音を安心して吐露できる同姓の相手がいるというのは羨ましいな」
と感じました。でも、無防備に本音をさらけ出しているわけではなく、
あくまで相手がどう思うかということを慮って、思慮深く悩みを少しずつ吐き出していきます。
その思いやりがまた美しいなと。

ちどりの方も、祖父母を亡くした喪失感があるわけで、
きっと主人公のさっちゃんに話を聞いてもらうことで慰められた部分も多かったと思います。

個人的には、さっちゃんの旦那の我が儘ぶりが苦手なタイプだったので、
あまりにさっちゃんが可哀そうに思え、反対に、ちどりの方の祖父母は素敵な夫婦だったようなので
ちどりは幸せ者だなぁと、単純に、さっちゃんに心を寄せて読んでいました。

でも、素敵な家族を亡くした喪失感というのは耐え難いものがあるでしょうし、
一方でダメな夫を分析評価するさっちゃんを見てると、「なんであんたこんなヤツと結婚したんだよ~」と
呆れてしまう部分もあり、だから結局、いとこ同士で補い合わないといけないんだなと思い至りました。

終盤、さっちゃんとちどりの関係に大きな変化が訪れそうな展開になりましたが
その変化をも飲み込んで、平常運転に戻るという、なんだか凄い大人な関係。
私の個人的な好みからすると、この手の展開は苦手なのですが、
イギリスの暗い風景の町で展開されたら、なんとなく受け入れられてしまいました。
ばななマジックなのかな。




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『哀しい予感』
- 2019/05/13(Mon) -
吉本ばなな 『哀しい予感』(角川文庫)、読了。

ブックオフの50円ワゴンに、ばなな作品が入ってたので「おっ!」と思って即買い。

主人公の少女には、音楽教師の不思議な叔母が居る。
叔母は、学校に行くときは地味なスーツでバチっと身を固めて隙が無いのに
古い一軒家は汚く散らかってて、ゆるーい格好でダラダラしているというギャップ。
そんな叔母の家に、ある日、少女は家出してくる・・・・・。

叔母の存在感が凄くフワフワしてて不思議な感じ。
弟の哲生との距離感も近すぎて不思議だし、母親との距離感は離れているような。
登場人物たちの存在感や距離感に違和感満載なのに
その違和感がこの作品の面白さに繋がっていて、魅力的です。

私は、外ではきちんとしてるけど、家の中ではタガが外れたようにズボラという叔母に
非常に親近感を覚えました(笑)。
まぁ、ここまで現実感の無い生活ではないですけれど。

そして、タイトルの「哀しい予感」。
このタイトルのせいで、「この家族は一体どんな結末を迎えるのだろうか?」と
不安で仕方がなかったです。
ハッピーエンドになるとは思えなかったので。

最後のシーン、少女と叔母が立っていた場所は恐ろしい景色でしたが、
でも、なんだか前向きな終わり方で、「あぁ、こんな展開もあるのか」と
なんだか勉強になりました。

吉本ばなな作品では文章に苦手意識があったのですが、
本作ではそれほど気になりませんでした。
同じ作家さんでも、合う作品、合わない作品というのがあるものなんですねぇ。




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『アルゼンチンババア』
- 2017/10/20(Fri) -
よしもとばなな 『アルゼンチンババア』(幻冬舎文庫)、読了。

映画公開時に映画館まで観に行きました
小汚い魔女のようなオバチャンを演じる鈴木京香が見たい、その一心で(笑)。
小汚い鈴木京香と小汚い役所広司がタンゴを踊っているシーンの記憶しかないのですが、
面白かったというフワッとした印象はありました。

その原作です。

こんなに短い作品だったのか・・・・・と、
まずはシンプルさに驚きましたが、
ムダを削ぎ落した中にも独特の世界観があり、
原作も面白かったです。

そして、読んでいくにつれて、映画のシーンをいろいろ思い出しました。
主人公の少女が初めてアルゼンチンビルに入ったとき。
いとこの男の子を連れてビルに入ったとき。
夏草の生い茂る庭からビルを見上げている風景とか。

どういう暮らしをすることが幸せなのか、
自分の幸せとは?家族の幸せとは?ということを
考えさせられる作品です。

職人気質な父、彫刻家になりたかったのに墓石屋になった父、
妻を亡くして落ち込む父、アルゼンチンババアと同棲を始めた父、
どれも女の子の立場からは扱いにくく、面倒くさい存在なのに、
この子は、無闇に遠ざけず、かといってお節介に介入することもなく、
絶妙な距離感で父親と向き合っています。

さらに、昔ひと悶着あったいとこの男子とも
水に流したのか、お互いに成長して気にならなくなったのか、
これまた上手い距離感で会話をしていきます。

このあたりの、人間関係構築力の高さというか、
無理をしない突き放し感が、羨ましい能力だなぁと感じてしまいました。

あと、この作品を読んでいる間じゅう、
魔女のような鈴木京香が、私の頭の中で活き活きと動いていました。
女優さんの存在感ってすごい!


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『マリカのソファー』
- 2015/08/13(Thu) -
吉本ばなな 『マリカのソファー』(幻冬舎文庫)、読了。

「世界の旅①」というサブタイトルが目に止まったので、
旅行エッセイだと思って買ってきたら、小説+取材旅行記という構成でした。

その小説は、バリの明るさよりも重さの方に目を向けたかのような
多重人格障害の女のとの交流のお話で、結構ヘビーな内容です。
個人的には、ちょっと苦手な空気を漂わせてくる作品です。

こういう情緒不安定な感じは、どうにも受け入れにくくて・・・・。
バリ島の独特な多神教の世界観と、
少女の多重人格障害という世界観が重なると、なんとも重たい感じになります。

作品の舞台となったバリ島の描写は、この作品に独特の風味をつけていると思いますが、
小説よりも取材エッセイで描かれたバリ島の方が、明るい感じがして、私は好きでした。

小学生の頃、家族旅行でバリ島に行きましたが、
石造りの寺院の質感に圧倒されつつ、午後はホテルのプールで遊び、
夜は美味しい料理をお腹いっぱい食べるという、楽しい思い出の地です。
ケチャ・ダンスは、子供心に恐怖というか畏怖を感じてしまい、ちょっと怖い思い出です。

二十年以上も前の夏休みにタイムスリップできたという意味では、
夏の読書に合っていたのかもしれません。

あと、原マスミさんによる挿絵が非常に印象的でした。


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『デッドエンドの思い出』
- 2010/05/04(Tue) -
吉本ばなな 『デッドエンドの思い出』(文春文庫)、読了。

ふわっとした感じの短編がならぶ作品集。

ゆるやかに周囲と折り合いをつけているような女性たちが登場しています。
彼女たちの対振る舞いに共感できるところが多く、
興味深く読みました。

表題作は、ちょっと高梨君に魅力を感じられなかったせいか
イマイチのめり込めなかったのですが、
「おかあさーん!」とかは、設定も突飛で面白かったです。

ただ、ばなな作品の独特の文章リズムが、やっぱり苦手です。
時々読むのにつっかえてしまって、ちょっと戻ってしまいます。
最初に読んだばなな作品で感じた苦手意識が克服できません。
そこは、いつも残念に感じるんですよねー。


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『とかげ』
- 2008/05/06(Tue) -
吉本ばなな 『とかげ』(新潮文庫)、読了。

「時間と癒し」「運命と宿命」をテーマにした短篇集。

おかげで、結構、観念的な感じが強く、
自分としては読み辛いところもありました。

現実と観念が入り混じっていて、
継ぎ目がよくわからないような感覚です。

作品としては、「キムチの夢」が
読者の側にも「癒し」になっていて、気持ち良く読めました。


とかげ (新潮文庫)
とかげ (新潮文庫)吉本 ばなな

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stars暖かい涙
starsよかった!
stars受け入れることの強さ
starsやさしい作品だが、物足りなさも・・・
starsとかげのタトゥーって!

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『N・P』
- 2007/12/06(Thu) -
吉本ばなな 『N・P』(角川文庫)、読了。

ばななさん、お初です。

前半、なんだかとても読み難さを感じてしまいました。
一文一文は明快だし、リズムもあるし、なんでだろ?と思っていたのですが、
一文一文の距離感(行間というのでしょうか?)が
自分の感覚よりも離れているような感じだと思い到りました。
この一文の次にこれが来るの?と戸惑ってしまうというか・・・・。

次に来そうな文章や描写や登場人物を、なんとなく想像しながら読んでいると
その予想からちょっとズレたところから次の文章がやってくるような・・・・・。

そして、そのズレというのは、
登場人物たちの年齢関係をよく頭に入れないまま読み進めてしまっていた点にも
原因がありました。
庄司が40代で、風見は庄司と付き合っていた当時高校生で、でもって翠は??
というわけで、場面が頭の中に描き切れずに、
次の展開を迎えては、前のページをめくりまくるという、
なんとも忙しない読書でした。

キャラクター達は、非常にユニークで、
面白い行動を重ねていたのに、
なんだか落ち着いて読めずに残念でした。
また、いつか読みなおします。


N・P (角川文庫)
N・P (角川文庫)吉本 ばなな

おすすめ平均
stars初期の傑作
stars今はまだ。
starsN・P
stars書物をめぐる双子と異母妹の幻想世界へ
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