『上野介の忠臣蔵』
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- 2022/12/21(Wed) -
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清水義範 『上野介の忠臣蔵』(文春文庫)、読了。
一般的な日本人は、『忠臣蔵』において、判官贔屓で浅野内匠頭に肩入れするかと思いますが、 私は判官贔屓で吉良の方に肩入れしてしまいます。 だって、いくらお涙頂戴で盛り上げるためとはいえ、 あまりに悪者として極端に描かれてて、可哀想ですよね。 吉良の行政官としての忠実さを再評価するような池宮作品を読んだからかもしれませんが、 もともと、お涙頂戴モノというジャンルが苦手なこともあります(苦笑)。 もし、自分が仕えるとしたら、多少厭味ったらしい能吏の老人よりも、 感情が不安定な若輩者の男の方が、嫌だなぁと思います。 ちょっとしたことで顔が真っ赤になったり、真っ青になったり、あまりに情緒不安定。 平和ボケの徳川の治世のために、こういう不安定な人物でも大名として成り立ってしまうことが 不幸の始まりかなと思います。 著者は、愛知県贔屓で有名ですから、三河の国が地元の吉良義央が 世の中で不当に悪人の汚名を着せられているのが許せなかったんだろうなと。 最初、私の頭の中で井伊直弼とごっちゃになってて、 「あれ?地元って滋賀じゃなかったっけ?なんで清水センセが?」と大いなる勘違いをしており、 江戸時代の悪人として一緒くたにしちゃってる私も清水センセからお𠮟りを受けそうです(苦笑)。 そうか、三河かぁ、赤穂とは塩の産地どうしという関係でもあるのかぁ、と いろんなバックグラウンド情報も手に入り、 さらには、上杉家のお家騒動を受けて吉良家が手助けに入ったばっかりに その余波で上野介は高齢になるまで跡継ぎに家督を譲れず引退できなかったり、 徳川綱吉の母親の官位問題を背負わされたり、 自身の健康問題が重なったりで、松の廊下の事件が起きたときに 誰がどんな精神状態、肉体状態であったかを、簡潔なストーリーテリングで 分かりやすく納得的に描いており、「あ、これが真相かも」と腑に落ちる感覚になりました。 どこまで、この清水説が裏付けできるのかは分かりませんが、 状況証拠にはおかしなところがないように感じました。 政府高官って、いつの時代も汚名を着せられるというか、 庶民の不平不満の吐き出し口として歪んだ評価を受けがちですが、 まさに吉良上野介義央が、そういう無責任な世論の犠牲になっちゃったのかなと思いました。 ![]() |
『飛びすぎる教室』
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- 2020/04/21(Tue) -
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清水義範、西原理恵子 『飛びすぎる教室』(講談社文庫)、読了。
シミズ博士とサイバラ画伯のコンビで送るお勉強シリーズの最終巻・・・・ということでしたが その後もシリーズは続いているようなので閉店商法ですね(苦笑)。 それまでは、国語、算数、理科、社会の教科に対応した作品でしたが、 本作は、授業中に先生が脱線してしゃべる雑談を意識したと著者が言うように、 特定の教科と結びつくものではありません。 天使の話から、アメリカ人の宗教観の話に広がり、具体的にはハリウッド映画で検証したり、 暦の各国文化における違いから、支配者層が国家統治をどのように行ったかを見て行ったり、 外国に旅行することで気づくこと、気づかないことを比較し、バイアスについて考察したり。 雑談が多面的、多層的に広がっていくので興味深かったです。 小学校の教科というより、社会学の世の中の眺め方に近いのかなと思いました。 サイバラ画伯の方は、相変わらず文章とリンクしない漫画で押し切ってますが、 久々にサイバラ画伯の本職の漫画作品も読んでみたくなりました。 まさに、シミズ博士からサイバラ画伯に流れた1人である私(笑)。 サイバラ画伯からシミズ博士に流れてくる人は、確かに想像しにくい(爆)。 私はキリスト教についての初心者向けの本を何冊読んでも キリスト教についての理解が深まった気が全然湧いてこないのですが(苦笑)、 本作でシミズ博士が端折りながらも解説してくれた聖書の話が 要点を押さえやすいと感じました。 教義についてはよくわかりませんが、誰と誰が身内でつながってて、 誰が誰を殺したとか、いじめたとか・・・・・・・愛のない要約ですみません。 シミズ博士は、宗教をネタにした作品もたくさん書かれているので もう1回読み直してみても良いのかなと思いました。 ![]() |
『笑説 大名古屋語辞典』
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- 2020/02/21(Fri) -
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清水義範 『笑説 大名古屋語辞典』(角川文庫)、読了。
清水センセの本は、やっぱり国語を扱ったものが面白いですね。 しかも、本作は名古屋弁の本なので、一層力が入ってます。 構成はシンプル。 「あ」から順番に名古屋弁を解説しています。 この構成を最初に見たとき、「意味で分けた方が、話が行ったり来たりしなくて 読みやすいんじゃないかなぁ?」と思ったものですが、 やはり清水センセの知恵で、うまく処理されています。 むしろ、ちょっと間が空いてから、時間差ギャグのような形で前に読んだ部分が活きてきたりして 油断がなりません。 挿入される四コマ漫画も、くだらないのですが、時々ピカッと光るものがあります。 個人的には「聖書」の欄に描かれた四コマが好きでした。 ナナちゃん良い味出してます。 私は三重県民なので、名古屋の人の言葉は耳にする機会もあり、 また名古屋人気質にも触れたことがあるので、 この本で書かれていることは、ふふふふふ・・・・・と笑えます。 三重県の人は良く名古屋を馬鹿にして、 「三重は田舎だけど名古屋は大きい田舎(決して都会ではない)」という言い方をします。 名古屋人の名古屋に対するプライドに関して、 隣人として、これまた捻じ曲がった感想を抱いているわけですよ。 だからまぁ、名古屋出身者による、自虐的なこんな本が出ると、 つい読んでみたくなり、ふふふふふ・・・・と薄暗く笑ってしまうのです。 ただ、東京の人や大阪の人にとってはどうなんでしょうね?名古屋弁って。 結局、みゃーみゃー言っているという、タモリのネタのレベルでしか知らないんじゃないでしょうか? というか、あまり名古屋に興味なさそう(苦笑)。 最近は、河村市長の名古屋弁がテレビで流れることもあるので、 なんだか余計に印象が悪くなっている気がしないでもないですが。 ご年配の方はともかくとして、働く年齢層の人で、名古屋弁がきつい人って、 河村市長みたいに、なんだか意図的に演じているような不自然さを感じてしまいます。 私も、昔の取引先の名古屋の会社の部長さんに、名古屋弁の強い人がいましたが、 東京で飲み会とかしたときに、道化役を進んでやってくれるような方だったので、 道化のアイテムとして名古屋弁があったような気がします。 日常生活から河村市長ばりの名古屋弁の人っているのかなぁ? 名古屋人同士がしゃべるとそんな感じなのかなぁ? あと、本作の中で「名古屋語」として紹介されている 「おそわる(教えてもらう)」って方言なんですか?てっきり標準語だと思ってました。 似たような形の「おぼわる(覚えられる)」は、確かに名古屋弁(三重県も使う)だと思いますが。 それと、名古屋めしとして紹介されている「天むす」。 それは三重県津市が発祥じゃ! ![]() |
『愛と日本語の惑乱』
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- 2016/03/26(Sat) -
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清水義範 『愛と日本語の惑乱』(講談社文庫)、読了。
清水節炸裂の一冊、面白かったです。 テレビ局SHKの用語委員会の委員を務めるコピーライターの主人公。 委員として、「正しい」日本語と現実の日本語の折り合いのつけ方を考えたり 学者先生に難癖をつけられて怒ったり、 出版者の校閲の五月蝿いチェックにイライラしたり。 「正しい」日本語にまつわる様々な論点を コミカルな小説仕立てで描いており、面白おかしくサラサラと読めます。 著者自身の経験も多分に入っているだろうなぁと思わせる エピソードの数々に思わず笑ってしまいます。 それにしても、なぜ日本人は、「正しい」日本語というものに かくも拘るのか・・・・というか、喧々囂々と議論したがるのでしょうか。 他の言語でも同じようなものなのでしょうか? 日本語を話す人間と、日本国籍を持つ人間と、日本国に住む人間とが ほぼほぼ重なるという状況と、日本という国の2000年近い歴史からすると 「純粋日本人が過去からずっと使い続けてきた真正の日本語」というものが あるように錯覚してしまっているのではないかと思います。 他民族の支配を受けたことがある中国や、 他の国からの移民の国である米国、 戦争により国境が幾度も変化してきた欧州などでは、 言語への執着というものは、日本人ほどには持っていないのかもしれないと思いました。 ただ、その日本人自身が、本作の主人公が学者センセにネチネチと言われたように 従来の表現を破壊して、造語や新表現、新文法を作ってしまうという 柔軟性を持っているのも、面白い特徴だなと思います。 中国から漢字を輸入し、かなとカナを作り、 欧米から横文字を輸入し、造語もたくさん作り、 各種文化を柔軟に受け入れつつも、日本流の文化に変容させてしまう そして純日本文化にも拘ってみせる(得てして「純」ではないものを「純」と思い込んでますが・・・)という 二面性を持った面白い国民性の現われなのかもしれません。 というように、私もゴチャゴチャ日本語について述べたくなってしまうところが、 まさに日本人なんでしょうね。
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『雑学のすすめ』
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- 2015/05/26(Tue) -
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清水義範 『雑学のすすめ』(講談社文庫)、読了。
清水センセとサイバラ画伯のコンビによる教育シリーズ。 「雑学」と銘打ってますが、かなり社会科よりです。 やはり、それなりに掘り下げて論じようとすると、どうしても歴史の話に行かざるを得ず、 そうすると、地理方面も加味しながら、社会科になってしまうようです。 とっぴな雑学知識を期待するとアレですけど、 いろんな雑学がつながっていく展開を楽しむには面白い本です。 世界って、繋がってるんだなぁ~みたいな。 サイバラ画伯は、マンガではなく、イラストとしての参加だったので ちょっと存在感が薄くて残念でした。
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『ああ知らなんだこんな世界史』
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- 2014/12/04(Thu) -
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清水義範 『ああ知らなんだこんな世界史』(朝日文庫)、読了。
清水センセによる世界史の解説。 ただし、世界史と言っても、日本には馴染みの薄いイスラム圏を中心とした歴史です。 私は、高校生のときに日本史を選択したので、 世界史の授業は、必修授業だった1年生に学んだ範囲でブチッと中断しています。 今思えば、なんとも意味の無い学び方・・・・・・。 日本史を選択した理由が、 世界史の授業って、とある地域の特定の時代の歴史をちょっと学んだら すぐにまた別の地域の別の時代の話になって・・・・・と 連続性がなかったので、興味を持ち続けられなかったんですよね・・・・。 「ヨーロッパの歴史」「インドの歴史」「中東の歴史」みたいに 一気通貫で学べれば、その地域独特の歴史の面白さを感じられたと思うのですが。 一方で、「日本の歴史」と言ったときに、アイヌや琉球地方は別としても、 基本的には「日本」という国境の変化が時代を通してあまりないために、 「国の歴史」というものが、一気通貫であるように思い込んでしまっているのも確か。 それは、万世一系の天皇家が綿々と継がれていっていることに象徴されるように。 しかし、本作を読んで感じたのは、とある国の歴史や国の大きさというものは、 横に大きく広がったり、縮んだりし、 時には消滅したり、分裂して生まれたりという縦の変化も多様です。 「この国の歴史」なり「この地域の歴史」という形でまとめるのが 非常に難しいんだろうなということも、良く分かりました。 そういう意味では、やはり、海外では、「民族」という概念が最も連続性を求めやすい 大事な軸なんだろうなということも納得。 日本(と言っても私だけかもしれませんが)と世界では、 全然違ったものの見方をしている可能性があるということを気づかせてくれる 良い読書になりました。
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『行儀よくしろ。』
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- 2014/02/21(Fri) -
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清水義範 『行儀よくしろ。』(ちくま新書)、読了。
なんだか清水センセが怒ってるようだったので(笑)、読んでみました。 この方、結構、本音でお話しちゃうところがあるので、 「それ、言っちゃうか!」と、気分爽快。 教師は危機感のない公務員で、誇りは強く、社会常識は少し欠け、 えも小・中学生に教科書の内容を教えことはできる・・・・ 等とバッサリ書いていき、 先生なんて、そのぐらいのものである。 と言い切ってしまうところが凄いです。 つまり、過剰な期待をするなということ。 聖職者や人生の師となりうる人はもちろんいる。でもそれは一部だ。 教科書の内容を教えられる程度の先生で我慢しろ。それ以上求めるな。 うーん、教育大学の出身者の方で、ここまで言い切れる人は凄い。 友人や先輩、後輩に多くの教師がいるだろうに(苦笑) 他にもテレビCMだったり、バカな若者に優越感を抱く大人だったりにあれこれ言ってます。 ここまで割り切って、本音で主張できる人には清清しさを感じます。 しかも、責め立てたり、キツイ言葉を言い放ったりするのではなく、 関係者や、反対に揚げ足取りをしたがる人に相応の配慮をしながら 文章を重ねていく丁寧さはさすがです。 後半は、ちょっと、お爺ちゃんのお小言的な文章が多かった気がしますが、 中盤までは小気味よく読めました。
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『親亀こけたら』
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- 2013/02/13(Wed) -
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清水義範 『親亀こけたら』(徳間文庫)、読了。
久々の清水作品、面白かったです。 ツアー旅行の同行者とか、喪中ハガキとか、回覧板とか、 日常生活の、ある意味どーでもよいところに拘って、 1つの作品に描いてしまうところなど、流石です。 大したことのない人の年譜を作ってみたり、 家族の1人1人の断面を紹介して家族全体を描いてみせたり。 枠組みを工夫した作品も面白かったです。 1つだけ、掃除(というか家事全般)をしない主婦の日常を淡々と描いた作品は、 もう、生理的にダメでした。 こういう不衛生さを徹底的に描写してくる作品って、本当に苦手です。 特に本作は、本人が不衛生だと感じていない時点で最悪です(苦笑)。 男の人で、ここまで描けるのは逆に凄いかも・・・と思ってしまいました。
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『サイエンス言誤学』
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- 2012/02/02(Thu) -
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清水義範 『サイエンス言誤学』(朝日文庫)、読了。
「おっ、ハカセ&サイバラのシリーズだ!」と思って 勢いよく買ってきたら、どうやら違ったみたい(涙)。 前にも同様手口に騙されたのに、全然その経験が活かされてません(苦笑)。 さて、本作は、『サイアス』誌に連載された科学コラムをまとめたもの。 科学素人の立場で科学について語ってみようということで、 清水先生に白羽の矢が立ったのは、良い人選ですね。 素人目線で分かりやすく解説してくれるだけではなく、 分からないものには「分からない」とはっきり言うという勇気ももらえ(笑)、 さらには、読者から間違いを指摘されて次号で訂正したり、 いっそのこと読者に教えてくれと質問してしまったりと、 まー、科学マニアを上手く巻き込んだコラム展開をしています。 正味、文庫本で3ページ弱のコラムですから、 内容的にちょっと物足りないところはあるのですが、 息抜きに読むのには、ちょうど良かったです。
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