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『満月ケチャップライス』
- 2022/08/23(Tue) -
朱川湊人 『満月ケチャップライス』(講談社文庫)、読了。

気づいたら、朱川作品は5年ぶりでした。

中学生の男の子が主人公。
母親はスナック経営で夜に子供だけの生活。
小学生の妹は幼いころ自分の不注意で足に障害を抱えてしまっています。
こんな父親不在の家庭ですが、母親の教育方針がしっかりしており、
兄は頼りになる存在に成長し、妹も頑張り屋さん。
そんな家庭に、モヒカンの若い男が転がり込んできます。

母の唯一の欠点は、寂しくなると男を家に連れてきてしまい、しかも見る目が無いという
子供からしたら致命的な欠点なのですが、こんどのモヒカン男はどうも様子が違う。
母との間に恋人らしい雰囲気がなく、どちらかというと子供と一緒にいる方が楽しそう。
居候ながら、毎食を子供と一緒に作り、コミュニケーションもばっちりです。

ところどころで詳しくレシピが紹介されるモヒカン男の料理は、
手軽なのに本当に美味しそうです。

主人公は、妹に障害を持たせてしまったという負い目から
とにかく何でも我慢し、妹優先、家庭優先で自分の人生を犠牲にしてしまいますが、
そんな主人公に対して、間接的に「無理しなくていいんだよ、犠牲にならなくていいんだよ」と
温かいメッセージを送るモヒカン男は、素性が分からないのに人間味に溢れる人物です。

登場してくるキャラクターはみんな生き生きと素敵な人たちなのに、
肝心の物語の方はというと、この優しい雰囲気のキャラクターたちに
超現実的な時事ネタを絡めまくっていて、なんだかキャラクターが汚されているように感じてしまいました。

まず、このモヒカン男は、少年のころスプーン曲げの超能力少年として世をにぎわし、
しかしトリックがメディアに隠し撮りされて地位転落という、まさに清田クンそのもの。
転落後の不祥事もふくめて、まさにこの本で読んだ清田クンそのものです。

なんで、こんな読者にとってリアルな輪郭を持った現実社会の人物を
この物語の中に組み込もうとするんだろう???と疑問に思っていると、
今後はオウム真理教としか思えない宗教団体が登場してきます。
こちらもやっぱり、創作した宗教団体にした方が、物語の世界観にマッチしたように思います。

教団名は登場しないものの、「ソンシ」とか「なんとかヤーナ」とか「松本」とか「農薬を混ぜた」とか
あまりにド直球なエピソードを持ち込んでくるので、すごく座りが悪いように感じました。
現実社会を本作に持ち込んだ効果があるなら納得できるのですが、
そこに必然性はなかったように思います。

すごく魅力的な家族だったので、ストーリーの味付けの仕方が残念で仕方なかったです。
特に、カルト問題が大炎上している今のご時世では、余計に要らぬ感情が湧いてくる読書となってしまい
残念でした。
最後も、モヒカン男との別れが、こんな別れ方では悲しすぎます。




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『本日、サービスデー』
- 2017/01/27(Fri) -
朱川湊人 『本日、サービスデー』(光文社文庫)、読了。

朱川作品にしては軽いタッチの作品が続き、
ちょっと私のイメージとは違ってました。
ギャグが上滑っていると言いますか・・・・・。

報われない人生を歩む人々に訪れる転機。
自殺だったり、悪魔との出会いだっり。
そこから思わぬ逆転を狙って・・・・というプロットは、
もう一捻りしないと、どこかで書かれていそうな気がします。

個人的には「あおぞら怪談」が一番面白かったです。
古いアパートに出没する手だけの幽霊、その名も「るみ子」。
幽霊と同居して何不自由なく暮らしているのだから放っておいてやればいいものを、
何かとお節介を焼きたがる主人公のせいで、ドタバタ劇に。
軽ーい筒井康隆作品のようでした。

でも、朱川作品には、もうちょっと情緒だったりブラックさだったりを
求めたくなっちゃいますねぇ。


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『わらくば日記』
- 2014/12/21(Sun) -
朱川湊人 『わらくば日記』(角川文庫)、読了。

久々の朱川作品は、超能力系のお話。

人や物が持つ過去の記憶を見に行くことができる少女。
彼女の能力を、妹、友達、警察が頼ってきて・・・・・・。

このような特殊能力にありがちな、使いすぎると肉体的な害が大きいという設定は
全能性に対する制約条件としてイマイチだなぁ・・・・・と思っていたのですが、
物語の主眼が謎解きではなく、その場面に置かれた人間の心理状況を理解することにあるので
面白く読めました。
この特殊能力は、味付け程度の位置づけに上手く置かれていたと思います。

昭和30年頃の日本を舞台にし、
さらに主人公の姉妹が、貧しいながらもしつけの厳しい母に育てられ
「母さま」「姉さま」などと呼んでいるような古風な家庭です。
そのような味付けも、上手く生きているように感じました。

この母子家庭で、父親は遠くに居ることがちらりと述べられていますが、
「その話はまた今度」と言ったっきり本作では出てこなかったので、
既に相当長期のシリーズ化が決まっていたのでしょうかね。
父親問題が片付かなかったのが、ちょっとモヤモヤしています(苦笑)。

警察官の秦野くんは、少し残念なキャラクターに追いやられてしまいましたが、
母さま、茜ちゃん、本庁の神楽さん、村田のおばさん、クラさん等、
脇役たちも活き活きと作品の中で動いていて、楽しかったです。

続編も楽しみです。


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『水銀虫』
- 2011/12/12(Mon) -
朱川湊人 『水銀虫』(集英社文庫)、読了。

後味の悪いホラーが続きます。

人間の悪意とか、残酷さとか、バカさ加減が満載です。
そこに少しホラーの味付け。

やや、人を殺す理由が軽すぎるような気もしましたが・・・。
殺人に至る経緯をさらっと書いているので、そう感じるのかもしれません。
そのため、殺人者への同情などが湧きにくかったです。

でも、同情しながらだったら、怖過ぎて読めなかったかも。

冷たい朱川作品が詰まった一冊でした。


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『かたみ歌』
- 2010/03/06(Sat) -
朱川湊人 『かたみ歌』(新潮文庫)、読了。

亡くなった者たちとの行き来が起こる、とある東京の下町でのお話。
それぞれのお話が、古本屋の主人と関わり合いながら語られていきます。

不思議な出来事に遭遇した町の住人達は、
その不思議を、「恐怖の対象」として遠ざけるのではなく、
また「興味関心の対象」として、無暗に探究するのでもなく、
「体験した不思議なこと」として、自分の生活レベルの中で捉えています。

この自然な関わり方が、読んでいて、とても心地よい印象を受けました。

また、個人的に、古本屋が登場するお話が好きで、
出久根作品はもちろんのこと、宮部みゆきの「イワさん」も楽しく読みました。

最後の章で、この古本屋の主人の過去が明らかになりますが、
皆それぞれ、いろんな人生を歩んできているんだなぁという
月並みながらも、しみじみと感じ入ってしまいました。


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『都市伝説セピア』
- 2009/12/30(Wed) -
朱川湊人 『都市伝説セピア』(文春文庫)、読了。

これは面白かったです。佳作が揃ってました。

最初の「アイスマン」は、ちょっと頭でっかちな印象で
いまいち楽しめませんでしたが、他の作品は面白かったです。

「昨日公園」が一番良かったです。
途中までは成り行きが読めたのですが、
子どもなりの結論の付け方がお見事でした。

「フクロウ男」は、自分の狂気から抜け出せなくなった男の姿が
じっくりと描かれていました。
一方、「死者恋」は、狂気にハマっていく友人のことを語っているようで
実は・・・・という展開が面白かったです。

「月の石」では、呪いの人形の設定が興味深かったです。
実際に、電車の中から、ふとこのような光景を見てしまったら、
衝撃で夜眠れなくなってしまいそうです。

どれも怖ろしい話でした。


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『花まんま』
- 2008/10/25(Sat) -
朱川湊人 『花まんま』(文春文庫)、読了。

お初の作家さんです。
出だし、大人が子供時代を振り返って語るという構図に
「もさっとしてるなぁ・・・・」と感じたのですが、
ホラーな香りが漂い始めたら一気に引き込まれました。

「トカビの夜」、めちゃ怖いよー!

その後の作品も直球ホラーとそうでないものと混在していたのですが、
いずれも深々と恐怖が潜んでいるような作品ばかり。

きっと、大人が子供時代を振り返って語るという時間的な距離感と
丁寧な語り口という心理的な距離感が
怖さを増幅させているのでしょうね。

怖いけど、面白い。
さすが直木賞なだけあって、当たりの作家さんでした。

しばらくの間、電気を消した後に部屋の隅とか見るのが怖いかも。


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