『晩夏のプレイボール』
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- 2020/11/02(Mon) -
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あさのあつこ 『晩夏のプレイボール』(角川文庫)、読了。
先日、著者のマラソンものを読み、それはそれで面白く読んだのですが、 野球ものも読みたいなぁ・・・・という気持ちが高まってしまい、 積読の山の中を探したら本作が出てきました。 「夏の甲子園」について、ストレートに描いたり、 はたまた間接的に取り上げたりしながらの短編10作。 「夏の甲子園」という、スポコンものの超王道の舞台を使いながら、 あくまで著者が描くのは、人間対人間の物語、 そして、野球にいかにひたむきに真摯に向き合うかという人間の姿を描いているので どの作品も飽きを覚えることなく、常に新鮮な気持ちで読めます。 一生のうちで、どんなに頑張っても3度しか挑戦できない夏の甲子園。 そして、学年が入れ替わるので、その3度とも異なるチーム編成で臨むのが通常の姿であり、 言ってみれば毎年がそのチームメンバにとっては一生に一度の大会。 日本一になりたいというスポーツをやる人間にとって素直な気持ちもあれば、 甲子園で活躍してプロになりたいという長期的な計画をもって臨む子もおり、 様々な思いが複雑に絡み合っていて、なおかつそれがメディアで大々的に扱われるという点で、 他の高校生スポーツとは少し異質な存在なのかなと思います。 ひたむきな高校生の姿を多面的に感じられて、面白い作品でした。 ![]() |
『ガールズ・ブルー』
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- 2019/04/24(Wed) -
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あさのあつこ 『ガールズ・ブルー』(文春文庫)、再読。
「野球少年が主人公じゃないあさのあつこ作品だ」と思い、 ふむふむと読み終わって、さて感想を書こうかなとBlogを開いたら、 なんと3年前に読んでいたという(驚)。 そして、全くその記憶がないという(爆)。 前の感想を読んでみたら、結構満足していたようなのですが、 今回は、後半は面白かったのですが、前半は話が進まずダルかったなぁとか、 地方都市の低偏差値高校という割には、登場人物たちの会話がウィットに富んでて 面白く感じながらも、違和感を覚えてました。 まぁ、でも、話が動き始めた中盤以降は、青春感が溢れてて、素敵でした。 お互いのことを思いやるという友人関係が、 言葉は照れ隠しで皮肉っぽくても、結構素直に吐き出されているので、 良い関係だな~ぁと思いました。 私自身は、高校生活は、進学校で部活もやっていなかったので 結構灰色な感じというか、 中学校までがキラキラ楽しくて、大学もイキイキ楽しかったので、 なんだか霞んだ時代になっちゃってます。 それに比べると、理穂、美咲、睦月らの友人関係が作る日常生活って、 素敵だなぁってうらやましく思います。 ![]() |
『グラウンドの空』
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- 2018/08/21(Tue) -
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あさのあつこ 『グラウンドの空』(角川文庫)、読了。
少年野球モノと言えばあさのあつこさん。 甲子園が秋田パワーで盛り上がっていたので、手に取ってみました。 舞台は地方の中学校。 少子化の影響で、チーム編成自体がままならない野球部は、 ピッチャーが夜逃げのために不在となり、急遽新たなピッチャーを探すことに。 そこにやってきたのが、大地主の家の孫。 都会に住んでいたのに、孫一人が実家に戻ってくるというワケアリ感。 主人公のキャッチャーの少年が、親友のファーストの少年とともに 彼をリクルートに向かうという物語。 野球の試合のシーンは冒頭のみで、 しかも地方大会の決勝を勝ったというところから始まります。 野球の試合の緊迫感を求めて手に取ると、とんだ肩透かしを食らいます。 引きこもりに近いような姿勢を見せるピッチャー候補に なんとか野球部に入ってもらうと掛け合う少年2人。 この野球へのピュアな思いをもつ少年と、熱い思いを持つ2人の、3人の物語です。 そこに、倒産とか夜逃げとか、駆け落ちとか、地主と雇われ百姓の身分さとか。 結構、大人の世界のグロい部分がもろに中学生の身にも降りかかっていて、 野球の青春感との対比がきついです。 個人的には、物語の長さに対して、ちょっと要素を詰め込み過ぎで バランスが悪いかな?と感じてしまいました。 地主のばあさんと孫の人間関係がどうなっているのか 最後までつかみきれなかった感じもあり、ちょっとモヤモヤしつつも、 少年たちは純粋でした。
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『ガールズ・ブルー』
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- 2016/02/18(Thu) -
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あさのあつこ 『ガールズ・ブルー』(文春文庫)、読了。
あさのあつこと言えば野球小説というイメージだったので、 女子高校生たちが主人公の小説と聞いてピンとこなかったのですが、 読んでみたら、しっかり青春小説でした。 オチコボレ高校の女子高生たちが登場しますが、 つい良い子ぶってしまう子、病弱で入退院を繰り返すけど言葉は毒を吐く子、 本当におバカだけどテキ屋の商売が板についている子、 いろんなタイプの子が登場し、それぞれの視点で社会を見ているので 子供っぽい会話の中にも、鋭い指摘が含まれたりしていて面白いです。 そして、やっぱり登場してくる甲子園出場を目指す野球少年。 この純朴な感じがまた、かわいらしいんですよね。 オチコボレ高校と言いながら、 しっかり自分の人生を歩んでいる彼女たちが羨ましくも感じられる小説です。
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『ラスト・イニング』
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- 2014/11/15(Sat) -
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あさのあつこ 『ラスト・イニング』(角川文庫)、読了。
『バッテリー』シリーズのその後を、 ライバル校の先輩・瑞垣の目で描いた作品。 シリーズの最終巻を読んだのは、もう4年半も前のことになってしまいました。 続編についていけるか不安に思いましたが、 読み始めると段々と思い出すことができ、その世界観が蘇ってきました。 ただ、シリーズで描かれた場面を振り返る展開が多いため、 この作品を単独の小説としてみたときには、 短編としてはちょっと物足りないと思ったものもありました。 瑞垣のキャラクターは、目端が利いて、頭の回転が早く、照れ屋で、 非常に面白い人物に仕上がっています。 しかし、ちょっと思索の言葉が中学3年生~高校1年生のものではないような・・・・。 深みを持たせすぎて、この年代ならではの繊細さが消えてしまっているような印象です。 ちょっと、そこは残念でした。 キャラクターに背伸びさせすぎたということでしょうか。 それにしても、この作品に登場してくる野球少年たちの何と純粋なことでしょうか。 野球への情熱、チームメイトへの思い、対戦相手への敬意、 こんな少年時代を送れることをうらやましく思います。
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『バッテリーⅥ』
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- 2010/02/12(Fri) -
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あさのあつこ 『バッテリーⅥ』(角川文庫)、読了。
いよいよ最終巻、決戦の時です。 巧と豪の間に空いた隙間は、埋めることができたのかどうか、 ちょっと読みとりにくいところもありましたが、 海音寺や吉貞が上手く埋めてくれたということでしょうか。 吉貞は、野球の動きを見る目が優れていますが、 それ以上に、空気を動かす力に長けています。 こういう人材が活躍できる組織は強いんだろうなと思ってしまいます。 そして海音寺の抱える思い。 巧と豪に向けて少し過剰になってしまっているところもあったようですが、 瑞垣とのコミュニケーションでコントロールしていこうとする 自制力もなかなかのもの。 それぞれが、それぞれのポジションで、それぞれの思いを持って挑んだ試合。 是非とも、その試合を最後まで描いてほしかった・・・というのが 野球ファンとしての慾でした。 せめて、門脇の第一打席だけでも、最後まで・・・。 第一球の結果を伝えることで、 あとは読者の想像に任せるということにしたようですが、 私は最初、「描くのから逃げたな・・・」と思ってしまいました。 彼らの成長ぶりは、試合開始までに十分描いて見せたので、 そこがメインのお話だったという解釈もできるでしょうけれど、 反面、いろんな立場の人物の思いを深く描きすぎたことで、 収拾がつかなくなってしまったんじゃないかなと 裏を読みたくなってしまいます。 てなわけで、若干のモヤモヤ感が残ってしまっていますが、 そこから先は夢の中で見ましょうということで・・・。
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『バッテリーⅤ』
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- 2010/02/06(Sat) -
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あさのあつこ 『バッテリーⅤ』(角川文庫)、読了。
Ⅳ巻は敗戦をひきずった重い内容でしたが、 Ⅴ巻では再試合に向けて前向きなところが出てきたので、 読んでいてしんどいと思うところは少なくなりました。 が、バッテリーの関係が完全修復されたわけでもなく、 どこかチグハグな感じが残っています。 これは、巧が、キャッチャーではなく、豪という人間のことを考え始めたから。 ものすごい内面の変化だと思います。 そして、その豪はというと、 自分の軸をブラさないだけの強さを備えて、 本当に信頼できる男に育っているなと、頼もしいです。 特に、巧に説教するシーン。 ものすごく納得。 吉貞、東谷、沢口といった仲間や、 海音寺という包容力のある先輩、横手二中の面々に囲まれ、 2人の変化していくさまが良く描かれています。 端垣のキャラクターが、少し暴走させすぎかなと思う面もありましたが、 おかげで次の試合の楽しみが膨らみました。
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『バッテリーⅣ』
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- 2010/01/11(Mon) -
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あさのあつこ 『バッテリーⅣ』(角川文庫)、読了。
この巻は重かったです。 Ⅲ巻の終わり方として、さぁ試合だ!という状況だったので、 ワクワクしながらⅣ巻を開いたのですが、淡々とした導入部分で?? 「あぁ、試合から少し経った時点を描いてるんだ」とわかったものの、 で、試合の結果は? 回想として試合のシーンが出てくるのですが、 天才肌の投手の女房役に限界がきて、それが原因で天才が大崩れ。 バッテリーの存続問題にぶつかってしまいます。 まさに試練。 この試練となった試合を、回想シーンで、なおかつ対戦相手の目から描くという 間接的な手法をとったことで、バッテリーが感じた衝撃の大きさを 上手く描写していると思います。この描き方には感心。 そして、今回は、相手への理解共感力、理解共感志向、理解共感後の行動というような 観点から、人と人が関係するとはどういうことかを教えてくれます。 ひたすら真摯に相手に向き合う豪や門倉には見えないことを、 少し距離を置いておちゃらける余裕のある吉貞や瑞垣には見えていて、 しかも、状況を上手くコントロールしていく力がある。 おちゃらける力とは、ただふざけているだけではなく、 心に余裕を持ち、またその余裕を相手に与えられるということなんだとわかりました。 緊張感の中のユーモア、う~ん、どこぞの芸人さんのようだわ(笑)。 一方で、大人が手を差し伸べてあげられる限界というものも見せられたような。 監督は豪の置かれた立場を理解しながらも、それに対して「やめる」という 選択肢しか与えてあげられない。 たとえ子どもであっても、自分の心は自分で整理して、 自分で決断しなくてはいけないんだということが良くわかりました。 周りがしてやれるのは、選択肢を増やしてあげることだけ。 いろいろ、読み応えのある巻でした。
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