『サイコパス』
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- 2023/12/07(Thu) -
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中野信子 『サイコパス』(文春新書)、読了。
「サイコパス」という言葉は、昔、ヒッチコックの『サイコ』を見たので、 偏執狂的で常識はずれな人・・・・ぐらいのイメージを長年持っていましたが、 岡田斗司夫氏のYoutubeチャンネルを見るようになってから、 「サイコパスの人生相談」コーナーが好きで、身近な存在になりました。 岡田氏自身が、自分自身がサイコパス気質であるという前提で人生相談にのっており、 サイコパスが人生相談に答えるメリットは、情緒的な要素とか、「常識」と言われる要素とかを排除して 目の前の相談にある事実のみから状況を把握分析し、客観的に効果のありそうな解決策を提示できる というサイコパスの特徴を良い方に利用しようという目的なところが興味深いです。 この動画シリーズを見るようになって、サイコパスは「良くも悪くも極端な性格」 「社会に害を与える人もいるが、それよりも社会に良い影響を与える人の方が多そうだ」 という風に理解が変化しました。 そして、私自身も、岡田斗司夫氏ほどではないですが、他人の感情よりも 結果や効果、効率を重視して決断する傾向にあるので、ややサイコパス傾向あるのかなと。 「こういう割り切ったことを提案したら、相手は気分を害するだろうな」とか 「こんな身も蓋もない言い方したら嫌な顔されるだろうな」という想像はできる方なので、 そこに想像が至らない・・・というサイコパスの本質は私にはありませんが、 想像したうえで、「ちょっと気分を害しても、こっちの方がメリットあるよ」と思ったら メリット重視の決断をしてしまうので、ややサイコパス的な面があるかなと。 そういう点で、自分の性格の評価ができるかな?と思って本作を読んでみましたが、 正直なところ、イマイチでした。 理由は、「サイコパス=社会に害悪を与える人」という枠組みの中で議論を展開しているように思え 岡田氏の講義に比べると、薄っぺらいというか、読者側の「非常識な人の心理を知りたい」というような ゲスな期待に応えて本を売ろうとしているような印象を持ってしまいます。 本作でも、例えば、医者とか弁護士とか学者とか、感情に流されずに客観的に効果追求する必要性が ある職業の人にサイコパス傾向の人が多いという話は出てきますが、そこから 「サイコパスの冷徹さは社会に役立つ面があるんですよ」という方向の話はほとんど膨らませないので ちょっと印象操作気味じゃない?差別的な感じがしない?という風に思えてしまいます。 そうは言いつつ、負の方に振り切れている側面の心理学的調査や社会学的調査、遺伝学的調査には やっぱりそれはそれで興味があるので、面白く読めた面もあるのですが。 負の面を強調しすぎる著作、そして断言が目に付く著作は、 こういうセンシティブなテーマを扱うには、ちょっと偏見を助長してしまいそうで、 学者さんなんだから、もうちょっと慎重な文章で綴ってほしかったなと思いました。 ![]() |
『原発・正力・CIA』
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- 2023/12/05(Tue) -
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有馬哲夫 『原発・正力・CIA』(新潮新書)、読了。
大学の卒論で原発問題を扱ったので、日本の原発産業の歴史は一通り調べたのですが、 その発端である原子力行政のトップが正力松太郎氏だと知り、 なんで読売新聞の社主が???と不思議に思ってました。 まぁ、ナベツネさんのような政治とズブズブの記者が生まれる新聞社なので、 ナベツネさんの師匠ともいえる正力氏が自民党の真ん中に食い込んでても不思議じゃないか・・・・。 卒業後も、いくつか原発関連の本を読んで、正力氏に関する記述も目にしてきましたが、 まさに正力氏と原発の関係性そのものに目を向けた本作をブックオフで見つけて、 買ってきました。しかも、CIAとか書いてあるし(苦笑)。 学者である著者が、米国で開示された公文書を徹底的に調べ上げ、 米国がCIAルートで正力氏を活用して日本に原発を構築していく様子が詳細に述べられています。 結局は、正力氏の総理大臣になりたいという個人的野望と、 読売新聞や日本テレビといったメディア網を持っている正力氏のメディア影響力を利用したい米国という 非常に実利的というか、功利的というか、打算的というか。 誰も日本そのものの国益を考えていないままに、原子力行政が進んでいったようで 残念な気持ちになりました。 正力松太郎という人物は、読売新聞を日本一の発行部数の全国紙に育て上げ、 民放テレビ第一号の日本テレビを作り上げるなど、日本のメディア王のイメージで、 さぞ有能な経営者で、時代を先読みする能力を持っていたんだろうと想像していましたが、 この晩年の政治への執着を知ってしまうと、老いるって怖いなぁ・・・・と。 米国側の動きが読めていなかったり、意図を理解していなかったり、 往年の先読み力が鈍ってしまっていたのではないかとも思えます。 私個人の意見としては、日本の高度成長や以降の安定成長には 原子力発電は一定の貢献をしてきたと思っているので、 戦後10年経ったところで原発建設に舵を切ったのは、 米国の強力なプッシュがあったとは言え、原爆へのアレルギーもあったであろう日本国内の世論を よくぞ歓迎ムードにまで引き上げていったなぁと、そこは正力氏のメディアマンとしての 優秀さを感じざるを得ません。 いずれにしても、米国の政治文書をベースにした緻密な解析は興味深かったのですが、 残念ながら学者さんの文章なので、その点での盛り上がりがイマイチでした。 誰か、ジャーナリスト系の作家さんか、企業小説系の作家さんが、正力氏と原発行政というテーマで 手に汗握る作品を書いてくれないかなぁ。 ![]() |
『たけしの面白科学者図鑑 ヘンな生き物がいっぱい!』
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- 2023/11/23(Thu) -
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ビートたけし 『たけしの面白科学者図鑑 ヘンな生き物がいっぱい!』(新潮文庫)、読了。
今は無き月刊誌『新潮45』の連載企画のようです。 生物学者10人とビートたけし氏の対談 前に、自然科学者10人との対談本を読んで面白かったのですが、 それの続編と言うか、生物学版な感じです。 テーマである科学のジャンルが狭まったとは言っても、 生物学そのものは幅広く、研究対象は、ゴリラやカラスなどの誰もが知っている生き物から、 ダイオウイカやユスリカなど珍獣系、さらにはシロアリやダニなどの害虫系と 大きなものから小さなものまで登場してきて、バラエティ豊かでした。 そんな中で、個人的に一番気になったのは、生物の縞模様を研究しているという近藤滋先生。 シマウマの縞は「チューリング波の理論」に従いパターンを表現した方程式により その出現がシミュレーションできるというもの。 実際に、タテジマキンチャクダイで観察と理論の計算が合致することを証明してみせたとのこと。 ダイビングをやっていて不思議に感じるものの一つが、幼魚と成魚で全く違う模様に変化する魚が 一定数存在していることです。 子どものときはドット柄だったのに、途中から網目模様みたいなものが現れて、 大人になるときれいな縞模様になったり。 なんでそんなに変化するの?という疑問とともに、なんでどの個体もきれいに同じような変化を遂げるのだろう? という疑問も持っていました。 近藤先生の証明は、この後半の部分を方程式でばっちり解き明かすものとなり、 あー、生物としてのプログラミングに従ってるだけなんだなと納得。 一方、近藤先生の理論では、前半の謎には全く答えられないというのも面白いです。 気象も、空を眺めていると無秩序に雲が変化していくように見えますが、 ちゃんと理論的に詰めたら、方程式で変化が表現できるというのと 同じような世界観なのかなと思いました。 そして、もう一つ印象に残ったのは、研究者の多くが、今の専門分野に子供の頃から特別関心が あったわけではなく、大学や院での研究時代に、指導教官から指示されたテーマを扱って、 少しずつ興味を持ち始めたり、何かに気づいた瞬間にのめり込んだりという経過を経ていること。 虫の世界は子供の頃からの虫好きがそのまま昆虫学者になっているけど、それ以外の生物は 研究テーマとして降ってきたものにたまたま興味が湧いて、その後大きな成果を得られたという ケースが多いようです。 なんだかちょっとサラリーマン的で親近感(笑)。 このシリーズ、また見つけたら読んでいきたいです。 ![]() |