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『サイコパス』
- 2023/12/07(Thu) -
中野信子 『サイコパス』(文春新書)、読了。

「サイコパス」という言葉は、昔、ヒッチコックの『サイコ』を見たので、
偏執狂的で常識はずれな人・・・・ぐらいのイメージを長年持っていましたが、
岡田斗司夫氏のYoutubeチャンネルを見るようになってから、
「サイコパスの人生相談」コーナーが好きで、身近な存在になりました。

岡田氏自身が、自分自身がサイコパス気質であるという前提で人生相談にのっており、
サイコパスが人生相談に答えるメリットは、情緒的な要素とか、「常識」と言われる要素とかを排除して
目の前の相談にある事実のみから状況を把握分析し、客観的に効果のありそうな解決策を提示できる
というサイコパスの特徴を良い方に利用しようという目的なところが興味深いです。

この動画シリーズを見るようになって、サイコパスは「良くも悪くも極端な性格」
「社会に害を与える人もいるが、それよりも社会に良い影響を与える人の方が多そうだ」
という風に理解が変化しました。

そして、私自身も、岡田斗司夫氏ほどではないですが、他人の感情よりも
結果や効果、効率を重視して決断する傾向にあるので、ややサイコパス傾向あるのかなと。
「こういう割り切ったことを提案したら、相手は気分を害するだろうな」とか
「こんな身も蓋もない言い方したら嫌な顔されるだろうな」という想像はできる方なので、
そこに想像が至らない・・・というサイコパスの本質は私にはありませんが、
想像したうえで、「ちょっと気分を害しても、こっちの方がメリットあるよ」と思ったら
メリット重視の決断をしてしまうので、ややサイコパス的な面があるかなと。

そういう点で、自分の性格の評価ができるかな?と思って本作を読んでみましたが、
正直なところ、イマイチでした。
理由は、「サイコパス=社会に害悪を与える人」という枠組みの中で議論を展開しているように思え
岡田氏の講義に比べると、薄っぺらいというか、読者側の「非常識な人の心理を知りたい」というような
ゲスな期待に応えて本を売ろうとしているような印象を持ってしまいます。

本作でも、例えば、医者とか弁護士とか学者とか、感情に流されずに客観的に効果追求する必要性が
ある職業の人にサイコパス傾向の人が多いという話は出てきますが、そこから
「サイコパスの冷徹さは社会に役立つ面があるんですよ」という方向の話はほとんど膨らませないので
ちょっと印象操作気味じゃない?差別的な感じがしない?という風に思えてしまいます。

そうは言いつつ、負の方に振り切れている側面の心理学的調査や社会学的調査、遺伝学的調査には
やっぱりそれはそれで興味があるので、面白く読めた面もあるのですが。

負の面を強調しすぎる著作、そして断言が目に付く著作は、
こういうセンシティブなテーマを扱うには、ちょっと偏見を助長してしまいそうで、
学者さんなんだから、もうちょっと慎重な文章で綴ってほしかったなと思いました。






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『原発・正力・CIA』
- 2023/12/05(Tue) -
有馬哲夫 『原発・正力・CIA』(新潮新書)、読了。

大学の卒論で原発問題を扱ったので、日本の原発産業の歴史は一通り調べたのですが、
その発端である原子力行政のトップが正力松太郎氏だと知り、
なんで読売新聞の社主が???と不思議に思ってました。
まぁ、ナベツネさんのような政治とズブズブの記者が生まれる新聞社なので、
ナベツネさんの師匠ともいえる正力氏が自民党の真ん中に食い込んでても不思議じゃないか・・・・。

卒業後も、いくつか原発関連の本を読んで、正力氏に関する記述も目にしてきましたが、
まさに正力氏と原発の関係性そのものに目を向けた本作をブックオフで見つけて、
買ってきました。しかも、CIAとか書いてあるし(苦笑)。

学者である著者が、米国で開示された公文書を徹底的に調べ上げ、
米国がCIAルートで正力氏を活用して日本に原発を構築していく様子が詳細に述べられています。

結局は、正力氏の総理大臣になりたいという個人的野望と、
読売新聞や日本テレビといったメディア網を持っている正力氏のメディア影響力を利用したい米国という
非常に実利的というか、功利的というか、打算的というか。
誰も日本そのものの国益を考えていないままに、原子力行政が進んでいったようで
残念な気持ちになりました。

正力松太郎という人物は、読売新聞を日本一の発行部数の全国紙に育て上げ、
民放テレビ第一号の日本テレビを作り上げるなど、日本のメディア王のイメージで、
さぞ有能な経営者で、時代を先読みする能力を持っていたんだろうと想像していましたが、
この晩年の政治への執着を知ってしまうと、老いるって怖いなぁ・・・・と。
米国側の動きが読めていなかったり、意図を理解していなかったり、
往年の先読み力が鈍ってしまっていたのではないかとも思えます。

私個人の意見としては、日本の高度成長や以降の安定成長には
原子力発電は一定の貢献をしてきたと思っているので、
戦後10年経ったところで原発建設に舵を切ったのは、
米国の強力なプッシュがあったとは言え、原爆へのアレルギーもあったであろう日本国内の世論を
よくぞ歓迎ムードにまで引き上げていったなぁと、そこは正力氏のメディアマンとしての
優秀さを感じざるを得ません。

いずれにしても、米国の政治文書をベースにした緻密な解析は興味深かったのですが、
残念ながら学者さんの文章なので、その点での盛り上がりがイマイチでした。
誰か、ジャーナリスト系の作家さんか、企業小説系の作家さんが、正力氏と原発行政というテーマで
手に汗握る作品を書いてくれないかなぁ。




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『TOKAGE 特殊遊撃捜査隊』
- 2023/12/04(Mon) -
今野敏 『TOKAGE 特殊遊撃捜査隊』(朝日文庫)、読了。

テロや誘拐などの特殊な事件を専門に担当する警視庁特殊捜査隊の中にある
「トカゲ」と呼ばれるバイク部隊。
機動力を活かして、被疑者の追跡や現場の状況把握を役割としている彼らが
主人公なのかと思ったら、そこまで中心でもなく、主要登場人物という位置づけでした。

とある銀行の行員が3名まとめて誘拐され、身代金10億円を要求されるという事件が発生。
警視庁特殊捜査隊を中心に捜査本部が組まれ、
銀行本部には警視庁特殊捜査隊の主任らが前線部隊として派遣され、
捜査本部には本庁や所轄の捜査員に交じってトカゲ部隊が配置され、
全国紙社会部の遊軍記者が独自の調査を展開する・・・・・この3つの軸で
物語が進行していきます。

そもそも大の大人で思慮分別もあるであろう銀行員が3名も一度に誘拐され、
誘拐時点での目撃情報ゼロ、家族知人からの捜索届もゼロ、
10億円の身代金要求ではじめて誘拐事件が発覚するという入り口の展開に、
ちょっと違和感を覚えてしまいました。
そんなことありうる???と。

私自身、銀行ではないですが、銀行に近しい金融機関に勤めていたので、
銀行文化には親しいつもりですが、「職員が出勤してこない」という事態には、
まず「金を持って逃げた」「顧客とトラブルを起こして失踪した」という業務上の失態を想定し
かなり危機感をもってすぐに対処するイメージです。
それが、出勤してきていないのに犯人一味からの電話が来て初めて会社として動き出す
というのは何だか違和感。

というわけで、出だしでちょっと躓いた感はありますが、
捜査が始まってからの展開はテンポがよく、一気読みでした。

警察に誘拐事件を通報してから、銀行本部に警察が乗り込んできて
銀行の危機管理担当ラインの課長や常務と特殊捜査隊が向き合う形になりますが、
銀行側は形式的な協力だけで、銀行内部のことに警察から首を突っ込まれたくないという
本音がスケスケで、これは現実社世界でもありそうだなーと(苦笑)。

まぁ、銀行員の誘拐事件なんて現実世界では起こらないと思いますが、
例えば総会屋事件が起きたときに、大事になってしまったら銀行も警察に通報するでしょうが、
全ての事実をオープンにして捜査に協力するなんていう事態は想像できません。
たぶん、ヤバいところは隠しながら、面倒な総会屋の排除さえしてくれればと
警察を利用する感じになると思います。

そういう銀行特有の隠蔽体質と捜査のぶつかり合いは面白かったです。
ただ、担当常務が頭が悪すぎて、「そんな露骨な態度とったらマイナスだろう・・・・」と
引いてしまうところもありました。まぁ、守りの経営統合をせざるを得なかった銀行の役員なんて
こんなレベルなのかもしれませんけど。

そして、新聞の社会部遊軍記者の取材のテクニックも、お仕事小説的な面白さがありました。
大阪社会部の若手記者の使えなさは相当なものでしたが、
それに対する有能遊軍記者の心の声は面白かったです。

事件の真相は、まぁ、読み始めて最初に感じた違和感から想像した犯人像と近しいものでしたが
正直、仮に警察の捜査をうまく攪乱できたとしても、最終的に身代金10億円を得るのは
仕組み上、無理なんじゃないの?と思えてしまいます。

銀行の送金システムは、システム部門の中枢にいる専門スタッフとか、権限の高い地位にいる幹部とかを
仮に犯人側の味方につけられたとしても、一人でできるオペレーションには限界があると思います。
10億円なんて大金を送金するには、少なくとも処理者1名に加えて、別の権限が上の決裁者の操作がないと
処理が完結しないんじゃないかと思います。
小口の送金なら一人でも処理できるかもしれませんが・・・・。

銀行のシステムは堅牢だと本作の中でも触れられていますが、その堅牢さって、
外部からの侵入以上に、内部犯行の方に重点を置いているはずです。
あと、善意の職員の誤操作とか。
10万円の送金のつもりが10億円を送金してしまった・・・・ということがないように、
システム的な制約がかかってると思うので、ちょっと犯行計画に難があるかなぁと思ってしまいました。

まぁでも、みずほ証券のジェイコム株大量誤発注事件とか実際に起きたから、
システムの堅牢さは、金融期間によってはザルなところもあるのかなぁ。




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『Visual マーケティングの基本』
- 2023/12/03(Sun) -
野口智雄 『Visual マーケティングの基本』(日経文庫)、通読。

このVisualシリーズは2冊目ですが、
辞書的な感じでちょっと調べるのに手ごろな本だと思うのですが、
本作はイマイチでした。

マーケティングの手法って、単独で実行することはなくて、
いろいろ組み合わせて使うと思うので、
本作のように、2ページごとに用語解説をする本だと、
ページをめくると異なる事例で解説されてしまい、
イメージを統合しながら読むのが難しいですね。

例えば、全編通してユニクロで事例解説されたりしたら、
もっと刺さってきたかも・・・・と思ってしまいました。




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『妻に捧げた1778話』
- 2023/12/02(Sat) -
眉村卓 『妻に捧げた1778話』(新潮新書)、読了。

Amazonで見たら帯が付いてて、
どうやら『アメトーーク』でカズレーサー氏が紹介したことで人気に火が付いたようですが、
私がブックオフで見つけたときは帯はついていなくて、そんな情報は全くなしに、
単にショートショートがたくさん収録されているのかな?と期待して買ってきました。

余命一年と宣告された妻のために、毎日1話ずつショートショートを創って読ませるという
ルールを自分に課した著者。
本作は、そのルールを課した話や妻の闘病生活の話が主で、
ショートショートはお飾り的なボリュームしかなかったのは残念。

しかも、1778話のうち、前半部分の良い出来のものはすでに出版されていて
そこと重複しない作品を本作用に選んだということで、要は出来がそうでもないものから
収録作品が始まるので、著者のことは名前しか知らない状態でしたが、
正直、「こんなレベルの作品を書く人なのか?」と印象が悪化してしまいました。

ショートショートというと、私の中ではやっぱり星新一氏と阿刀田高氏が双璧です。
この二人の作品は、無駄のないストーリー運びと、切れ味の良いどんでん返し的な結末。
この2点で本作のショートショートを評価すると、後者が圧倒的に足りないと思えてしまいます。

著者本作の冒頭で、この創作活動のルールについて「商業誌に載っても良いレベルを確保」
なんて説明しちゃうから、これから読むこちらとしてはどうしても期待値が上がってしまいます。

1778話の後半部分はまだ出版した作品がないということで、
そこからピックアップされた作品、とくに中盤の作品は面白いものが多かったです。
商業誌に載っててもおかしくないかなと。
しかし、前半と、終盤は、やっぱりショートショートとして切り出して判断すると
残念な印象でした。

妻との闘病生活の話は、確かに温かい夫婦のお話だったと思いますが
ちょっと冒頭のルール説明に肩ひじ張り過ぎたのが裏目になったかなと感じてしまいました。




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『数に強くなる』
- 2023/12/01(Fri) -
畑村洋太郎 『数に強くなる』(岩波新書)、読了。

失敗学の畑村先生による、「数」の捉え方の本。

私自身、小さいときから算数は好きで、学校の勉強でも得意でした。
新しく出てきた数学的概念についても、それほど理解に苦労した覚えがありません。
唯一、ベクトルは苦手でしたけど・・・・・。

そのおかげか、フェルミ推定的な思考法も得意な方だと思います。
大外れしない程度には推測できます。

一方で、子供の頃から数字に親しんできたので、「数に弱い」という人たちから
「どうやったら算数ができるようになるの?」と質問されても上手く答えられません。
大学生の時、アルバイトで個人指導の塾講師を短期間だけやってましたが、
算数に限らずどの教科も「できない」「わからない」という生徒に対して、
どうしたらできるようになるか、という指導が出来ず、すぐに辞めてしまいました。

自分自身、具体的な問題の解き方が思いつかずに「分からない」ということはありましたが
そもそも考え方の部分、例えば公式とか、定理とか自体が分からないということがなかったので、
分からない問題が出てきても、補助線をどう引けば良いかさえ教えてもらえたら
そこからは自分で解答に辿り着けることが多かったです。

しかし、公式自体が何言ってるか分からないとなると、教える術がないというか、
公式が分からないという状態が私には分からないという状態になり、お手上げでした。

例えば、本作内で、「17×18」を暗算するという話が出てきましたが、
「17×20-17×2」で暗算可能だと著者は書いています。
私も、同じような方法で暗算します。
17×18=17×(20-2)=17×20-17×2 ということなのですが、
たぶん、数に弱いという人は、学校で因数分解の公式は勉強しているはずですが、
それを暗算に適用するという考え方を持っていないのかなと思います。
そもそも因数分解が理解できないという人もいるかもしれませんが。

私自身は、算数・数学が好きだったので、今も日常生活で数字があると遊んでしまいます。
車の運転中に、前に居る車のナンバーを見て、「3で割り切れる」「7で割り切れる」とか考えたり
「4つの数字を四則演算して10にできるか」と考えたり。

最近思うのは、そういう風に数字で遊べる興味関心は、個性というか、遺伝というか、
先天的なモノなのではないかということ。
うちは祖父が数学大好きで、私自身、幼稚園から中学校までの期間、祖父に数学を
指導してもらってました。他の教科は独学で塾通いせず。
父も比較的数学は得意だったみたいだし、祖母や母は記録魔なので
家計簿から中元歳暮で誰から何をもらったとか旅行で誰にどの土産を買っていくらだったとか
ぜーんぶ記録して、後から参照できるようにしてます。
こういう家に生まれ育ったら、勉強は好きになるんじゃないかと思います。
逆に、そうではない環境に生まれ育つと、興味関心を持つきっかけって、得にくいよなーと。

本作を楽しんで読める人は、もともと数に強いというか、親しみを覚えている人が多いのではないかと。
もしくは自己評価が低くて「数に弱い」と思い込んでるけど世間平均からすると強い人だったり。
数に弱い人が興味関心をもてる内容なのか、そこは気になりますね。




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『小倉昌男の福祉革命』
- 2023/11/29(Wed) -
建野友保 『小倉昌男の福祉革命』(小学館文庫)、読了。

クロネコヤマト創業者による障害者の働く現場改革の本。

ブックオフでたまたま本作を見つけるまで、クロネコヤマトが財団まで作って
障害者支援事業をしているなんて知りませんでした。

そもそも障害者支援に取り組もうとしたきっかけについては明かされておらず、
小倉氏本人の談として「なんとなく、ハンディキャップを持っている人が気の毒だから、何とかしてあげたい」
という風に、特別なきっかけはなかったとされています。

しかし、お金を出すだけでなく、自ら全国の現場に足を運び、講演もして回り、
必要に応じて事業立ち上げの指導までする、ここまで熱意をもって取り組まれているからには
きっと具体的な、心動かされる出来事があったのではないかなと勘ぐってしまいます。
関係者の方への配慮で公言されていないだけで。

本作で一番印象に残ったのは、やはり、障害者と言えども労働をするのであれば
適切な労働対価を受けるべきだ、という考え方と、
そもそも消費者のニーズに合っていないものを「障害者が頑張って作ったから」という「付加価値」で
売っていこうとするやり方には限界があるだろうという冷静な目線です。

時々、地域のいろんな事業者さんが出店しているマルシェとかに行くと、
福祉団体さんとか、農福連携事業者さんとかが、クッキーを売ったり、野菜を売ったりしています。
そのとき、周囲の来場者への声掛けで、「美味しいクッキーですよ」「安心安全な野菜ですよ」と
謳うのは当たり前の商売活動であり、「どんなものを売ってるのかちょっと覗いてみようかな」と
立ち寄ることもありますが、反対に「障害者が作りました!」だけを連呼する団体さんも居て、
「少しでも自立できるように、もしくは働く喜びを感じるためにやっているはずなのに
障害者であることだけをプッシュするのは、逆に施しを受けたいとせがんでいるようだ」と
感じてしまいます。

本作では、特に、クロネコヤマト関係者が質実ともに支援しているパン屋の事業が紹介されていますが、
その「スワンベーカリー」は、障害者雇用の件を大々的に商品PRに活用しているわけではなく、
一般の消費者が「パンが美味しいから」「宅配してくれて便利だから」という理由で利用しているようです。
「障害者が働く店」としてではなく、「パン屋」として地域で認識されているわけで、
これが本来の商売のあるべき姿だと思います。

経営者側も、これだけ障害者を雇用すれば、これだけの支援が受けられるという思考ではなく、
これだけの従業員を雇うなら日商は少なくともこれだけ必要、というフツーの経営者目線で
物事を考えています。
たまたま雇っている従業員に障害者が多いというだけで、
このパン屋の経営者は、パン屋を経営している自覚のもとで活動しているんだろうなと思います。

そして、読み終わってからWikiで調べてみたら、
創業から25年経った今も、クロネコヤマト関係者が直接手掛けている直営店以外に、
全国に多くの店舗が広がっていて、何より、本作で紹介されている十条店や三原店が
今も存続しているということが素晴らしいと思います。

普通の新規創業のパン屋で、25年も続けられたら大成功だと思いますし、
25年も経てば店舗運営の中心人物たちは代替わりしていてもおかしくないので、
すでに、個人の思いではなく、組織として存続できる経営能力が備わっているのだと思います。

障害者雇用事業に関する小倉昌男氏の講演は、、障害者福祉に関わる仕事をしていない私でも、
自社の経営を見直すために、とても有意義な内容なのではないかと思い、聞いてみたいです。
ネット世界を調べたら、講演録とか動画とか出てくるかしら?




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『がなり説法』
- 2023/11/28(Tue) -
高橋がなり 『がなり説法』(インフォバーン)、読了。

時間つぶしに立ち寄った、昔ながらの古本屋のワゴンで100円で売られていたので
試しに購入してみました。

『マネーの虎』に出ていた社長というイメージしかなく、
しかも番組は1回も見たことがなかったので、勝手な印象で
「成金で、自信に満ち溢れ、足りない志願者が来ると怒鳴る人」と思ってました。

本作を読んでみて、印象が変わったので、読み終わってからYoutubeで
『マネーの虎』をちょっとつまみ食いしてみましたが、
著者は、とても冷静に話す人で、理路整然と迫ってくるので、
怒鳴られるより逆に怖いかも・・・・と思ってしまいました。
いずれにしても、番組内で話している内容や視点は、非常に興味深かったです。

本作では、著者自身の言葉(雑誌のエッセイ連載をまとめたもの)と、
対談とが収められていましたが、圧倒的に前者が面白かったです。

著者自身の経歴がそもそも面白く、佐川急便のセールスドライバーから
テリー伊藤氏の制作会社に転職し、そこで番組制作のノウハウを学んで
独立してAV制作会社を設立、一気に業界トップに躍り出るという唯一無二の実業家だと思います。

そして、自分自身を「負け犬」と位置づけ、負け犬がこの社会で生きていくための
生き方指南の本のようなイメージです。
帯にある「ビジネス指南」とは、ちょっと違うかな。

発想力・企画力と、それを実行してしまう行動力、そして躊躇しないためのスピード力、
さらには、自分たちが成功するために、ある種、周囲の関係者に無理をさせる強引力も
相当なものがあると思います。

シンプルな言葉の中に、この著者の人生観が噓なく織り込まれていると思うので、
その考え方には、賛成できるところ、できないところがありましたが、
読んでいて面白い言葉たちでした。

一方で、対談は、対談相手の話で著者の思考が膨らんでいくわけでもなく、
対立することで二つの考えが際立つわけでもなく、
対談相手の面白さを著者が引き出しているわけでもなく、
なんで対談なんていう企画を行ったんだろう?と疑問に思ってしまう中途半端さでした。

読み終わって、今はどんなことをやっているのかな?と思ってWikiを見てみたら、
なんとAV会社の社長は早々に辞めており、今は農業法人を経営しているんだとか。
また予想外の業界に行っちゃったんですね。

著者なりの考えがあっての異業種参入なんだろうとは思いますが、
他人事として眺めてみると、ちょっと躁鬱の幅が一般の人よりも広いのかなと思っちゃいます。
ガ―ッと入れ込める時期もあれば、何もかもが嫌になっちゃう時期もあるのかなと。
エネルギーを持て余している人は、大変ですね。




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『逆説の日本史13 近世展開編』
- 2023/11/27(Mon) -
井沢元彦 『逆説の日本史13 近世展開編』(小学館文庫)、読了。

第13巻のサブタイトルは「江戸文化と鎖国の謎」。
徳川幕府の政治の話とは少し外れる地味な巻なのかなと思ったら、
対キリスト教の鎖国政策と、武断政治から文治政治への転換のための儒教推進という、
政治と信仰の話が興味深かったです。

特に、儒教については、なんとなく「親孝行の教え」みたいなイメージしか持っていなかったのが、
「易姓革命」の「徳を持つ王が天下を治める」という考え方とリンクすると、
徳川初期には自らの正統性を訴える根拠となり、幕末になるとそれが大政奉還の根拠になるという
「あー、歴史って繋がってるんだな」と思わずにはいられない展開が面白かったです。

しかも、たぶん、儒教の本場の中国では、新興勢力が王朝をひっくり返して天下を奪った場合、
新たな王が全く違う王朝を打ち立てるので、前後の王朝の正統性の連続性なんて
全く意識していない、要は、徳があるから天下を治めるんだ、前の奴は徳がないから滅んだんだ、
という一言で終わらせてしまうんだろうなと推測します。

それが日本では、120代以上も続いている天皇家の正統性を基軸にしているので、
幕府が変わると、前後の正統性とのつじつま合わせも必要になってくるという複雑さが
日本独特の政治機構を生んだんだろうなと思います。

それと、靖国問題を例に挙げて、日本人と中国人の死生観の違いについての解説が
非常に勉強になりました。
そりゃ、殺し合いをした相手でも最後は手厚く葬るべきと考える怨霊を恐れる日本人と、
敵は死んでいてもさらに剣を突き刺してトドメ以上に怨念をぶつける中国人とでは
死者への印象は全く違いますわな。

なんとなく、アジアの国で、儒教の教えの影響を受け、
仏教の影響も受けていた(中国は文化大革命の時に仏教思想は破壊されているかもしれませんが)
国同士ということで、勝手に同じような死生観を持っているのではないかと思い込んでましたが、
これでは全然違いますね。

もうこれは、価値観の違いなので、話し合って折り合いがつくような問題ではないんだなと
信仰心の点からも改めて認識できました。




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『たけしの面白科学者図鑑 ヘンな生き物がいっぱい!』
- 2023/11/23(Thu) -
ビートたけし 『たけしの面白科学者図鑑 ヘンな生き物がいっぱい!』(新潮文庫)、読了。

今は無き月刊誌『新潮45』の連載企画のようです。
生物学者10人とビートたけし氏の対談

前に、自然科学者10人との対談本を読んで面白かったのですが、
それの続編と言うか、生物学版な感じです。

テーマである科学のジャンルが狭まったとは言っても、
生物学そのものは幅広く、研究対象は、ゴリラやカラスなどの誰もが知っている生き物から、
ダイオウイカやユスリカなど珍獣系、さらにはシロアリやダニなどの害虫系と
大きなものから小さなものまで登場してきて、バラエティ豊かでした。

そんな中で、個人的に一番気になったのは、生物の縞模様を研究しているという近藤滋先生。
シマウマの縞は「チューリング波の理論」に従いパターンを表現した方程式により
その出現がシミュレーションできるというもの。
実際に、タテジマキンチャクダイで観察と理論の計算が合致することを証明してみせたとのこと。

ダイビングをやっていて不思議に感じるものの一つが、幼魚と成魚で全く違う模様に変化する魚が
一定数存在していることです。
子どものときはドット柄だったのに、途中から網目模様みたいなものが現れて、
大人になるときれいな縞模様になったり。
なんでそんなに変化するの?という疑問とともに、なんでどの個体もきれいに同じような変化を遂げるのだろう?
という疑問も持っていました。
近藤先生の証明は、この後半の部分を方程式でばっちり解き明かすものとなり、
あー、生物としてのプログラミングに従ってるだけなんだなと納得。
一方、近藤先生の理論では、前半の謎には全く答えられないというのも面白いです。

気象も、空を眺めていると無秩序に雲が変化していくように見えますが、
ちゃんと理論的に詰めたら、方程式で変化が表現できるというのと
同じような世界観なのかなと思いました。

そして、もう一つ印象に残ったのは、研究者の多くが、今の専門分野に子供の頃から特別関心が
あったわけではなく、大学や院での研究時代に、指導教官から指示されたテーマを扱って、
少しずつ興味を持ち始めたり、何かに気づいた瞬間にのめり込んだりという経過を経ていること。

虫の世界は子供の頃からの虫好きがそのまま昆虫学者になっているけど、それ以外の生物は
研究テーマとして降ってきたものにたまたま興味が湧いて、その後大きな成果を得られたという
ケースが多いようです。
なんだかちょっとサラリーマン的で親近感(笑)。

このシリーズ、また見つけたら読んでいきたいです。




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