『マカロンはマカロン』
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- 2023/06/09(Fri) -
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近藤史恵 『マカロンはマカロン』(創元推理文庫)、読了。
ビストロ・パ・マル・シリーズ第3弾。 ビストロにやって来るお客様が抱えている問題を シェフが一瞥して見抜いて、人生のヒントを与えてあげるという定番の展開です。 第1弾を読んだ頃は、食べに行った先のレストランのシェフに 突然、自分の人生の悩みを見抜かれて、そこに軽くではあるものの踏み込まれるという そんな体験は、私はしたくないなぁ・・・・・という拒否感も若干持ってました。 作中で描かれるように、素直に受け止めることができるかなぁ・・・・・と。 ・・・・・・私の根性が悪いのかも(苦笑)。 しかし、第3弾まで読んでくると、ちょっと印象が変わってきました。 このビストロに勤めるシェフ、スーシェフ、ソムリエ、ギャルソン、4人ともお客様のちょっとした行為に 意識を巡らせていて、「ちょっと変だな」と気づくのは早いけど、 とりあえず様子を見守るという姿勢を取り、変に介入していこうとしません。 この控えめな姿勢が、ビストロの料理や食事に対する誠実さに繋がっているようにも思え、 清々しい気持ちになりました。 日常の謎を展開していくには、主人公が首を突っ込みすぎるとか、誰かがお節介さん役をするような 役割配置が多いように思いますが、本作では、みんなプロ意識があるので お客様のプライバシーには必要以上に踏み込んでいかない。 そして真相に気づいても、必要最低限の介入というか、十分な配慮の上で口出しする、 そんな感じです。そこがお客様からの信頼を生むんでしょうね。 短編の中には、今現在やたら国会で揉めているLGBTのことも扱われていて、 10年近く前の作品なのに、時代を先取りしてますね。 ま、本作では基本心優しい人たちばかりが登場してくるので、 LGBTの問題も、お互いに気を遣い過ぎて・・・・・という感じの穏やかな世界でしたが。 現実社会は変なところで揉めてて嫌になっちゃいますね。 優しさがないというか、悪意が見える話も出てきますが、 若いのにその悪意・・・・・というか、若いから悪意がストレートなのか・・・・・ なんだか悲しい気持ちになる作品でした。 若さは残酷ですね。 ![]() |
『嗤う名医』
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- 2023/06/07(Wed) -
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久坂部羊 『嗤う名医』(集英社文庫)、読了。
久坂部作品は2冊目。 やっぱり読後感は不快なものが渦巻きます(苦笑)。 ジャンルとしては医療系社会派ブラックユーモアなのでしょうけれど、 私としては毒が強すぎて、医療社会というか、人間が嫌になっちゃいます。 最後に収録された「嘘はキライ」が、大学病院における教授ポストの争奪戦がテーマ。 ドロドロとした足の引っ張り合いの中で、教授候補のどちらの陣営にも属さない主人公は 自分なりの判断で行動し、ある種の悪を追い出すのですが、 この爽やかさのある作品が最後に置かれているおかげで全体の読後感は なんとなくいい感じで終わりますが、でも、その前5作品はグロすぎ(苦笑)。 患者は自分勝手だし、認知症は人間性を破壊するし、 医師は高慢で全能感に浸ってるし、純粋な生物学への興味は偏執的でもある。 どれも、人間の歪みみたいなものが、医療という命の限りと向き合わざるを得ない場で 極端に膨張して表出されるので、嫌な気持ちになっちゃいます。 そして、この人間性のグロい部分を誇張して書きたいがために、 ちょっとリアリティのない展開になっちゃってるのも気になりました。 「愛ドクロ」で、大学医学部の解剖学教室に勤務する技術員が、 身の回りに居る女性・幼女の中で頭蓋骨の形の良い人に偏執狂的に執着する話ですが、 多くの人間が住む社会の中で、この主人公のように極端な嗜好を持ち 行動にまで移してしまう人は、まぁ存在するかもしれません。 でも、その友人までもを巻き込んで、しかも一緒に「行き倒れの死体を見つけに行こう!」と 近所をウロウロするところで、「おいおい、友人よ、止めてやれよ、というか怖がれよ」。 え?なんでそんな行動を受け入れるの?という展開がところどころにあり、 そこは読んでいて気持ちが冷えちゃいました。 うーん、自分には合わない作家さんなのかな。 でも確かまだ積読になってるものがあったはず・・・・・・。 ![]() |
『歴史からの発想』
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- 2023/06/06(Tue) -
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堺屋太一 『歴史からの発想』(日経ビジネス人文庫)、読了。
堺屋太一氏の歴史解釈は面白いので好きです。 なので本作も期待値が上がってしまったのですが、 既読感のある文章が多くて、あんまり刺さってきませんでした。 『巨いなる企て』とか読んじゃったので、その面白さに触れてしまうと エッセンスだけ抜き取っても薄い印象を受けてしまうのかもしれませんね。 後半に入っていた『「切れ者」の人間学』の章がずば抜けて面白いと感じました。 「辣腕政治家」として岸信介総理大臣のエピソードから始まり、 国家組織体制とトップの関係を、現在のものと豊臣政権など歴史上のものとを比較し どこが革命的だったのか、どこが日本人的なのかということを端的に分析していて 興味深く読めました。 官僚組織の中にいた人ならではの視点だなと思います。 このテーマで、しっかりした著作を読んでみたいものですね。 ![]() |
『コーチ!はげまし屋・立花ことりのクライアントファイル』
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- 2023/06/01(Thu) -
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青木祐子 『コーチ!はげまし屋・立花ことりのクライアントファイル』(講談社文庫)、読了。
『これは経費で落ちません!』シリーズの著者の別のお仕事小説をブックオフで見つけたので 早速買ってみました。 やりたいこと、達成したい目標があるのに、自分の意志の弱さから ついついサボってしまったり後回しにしてしまったりする人々を 電話やオンライン画面対話でコーチングして満願に導くという仕事をする 怪しげな「楠木はげまし事務所」を舞台にした作品です。 主人公は25歳の女性コーチ。 同僚は先輩男性コーチと所長と事務スタッフの3人。 編集プロダクションでちょこっとライターの仕事をしてきたというレベルの25歳が 果たしてどこまでコーチングのスキルやノウハウを身につけられたのかという疑問は 若干残ってはしまうものの、ただ、自分の周囲にいた教育の上手い先輩を思うと、 中には天性のコーチングスキルを持っているかのような 生まれてから今までの全人生をかけて培ってきた人間性で他人を惹きつけるタイプの人は いちゃいますからねー、主人公もそういう人なのかも。 1時間5000円の料金を払って電話でコーチングを受けよとする人の思いは様々。 単にダイエットが長続きしないからと進捗管理と励ましの言葉を目的に毎日電話する人もいれば、 ワンオペ育児の愚痴を言いたいがために電話してくる人もいれば、 自分の洋菓子店を持ちたいとして店舗探しから資金繰りまでという専門的な相談をしてくる人もいて それを実質2人のコーチで回していくというのは、なかなかに過重労働な印象です。 第1話目を読んだときは、「ん?前のページで言ってたことと今の展開は矛盾してない??」と 読みづらさが先に立ってしまったのですが、1話目を読み通しtら理由が分かりました。 相談者で、自分の相談事を包み隠さず話す人はいない。 必ず、自分の都合の良いように端折って話したり、時には詳細を隠すために嘘をついたりする、 という岡田斗司夫氏の人生相談Youtube動画を思い出しちゃいました。 そう、人間って、とっても都合よく行動するんですよねー。 たぶん、すべてをオープンにしてしまうと、精神が持たないんだろうなと。 精神の安定を維持するには、隠し事とか嘘とかが必要悪としてあるんだろうとなと思います。 それを、本作では、日常的な悩みの解決を通しながら、鮮やかに見せてくれるので、 だんだんと読書の感覚がノッていくような楽しさがありました。 それと先輩コーチの言葉で、「小説を書く上で大事なのは、中身ではなく書き終わること。 スケジューリングをして書き終わらせることがコーチの仕事」という割り切りの言葉に、 確かに、どれだけ内容を練っても、書き終わらなければ小説作品として賞に応募すらできないわなと納得。 そして、それって、小説を書くという特殊なテーマに限った話ではなく、 「転職したい」「起業したい」「恋人と別れたい」という日常に溢れたテーマにおいても、 うだうだ悩む前にまず「求人に応募してみろ」「店舗候補を見つけろ」「別れ話を切り出せ」という 具体的な行動の第一歩を踏み出させることが一番大事だよなー、と思います。 うだうだ悩んで、その悩みを誰かに話すことで、悩んでいる自分に酔っちゃってる人って、 結局、悩むだけで行動しないこと多いですよね(苦笑)。 私自身脱サラして起業しましたけど、会社辞める前に何人か社内外の先輩に相談しましたが、 会社辞めてやりたいこと、その具体的な手を挙げる先、そのスケジュール、そして3年後までの計画を ぜーんぶ自分なりに詰めてから、「会社辞めようかと思ってるんですけど・・・・・」と 悩んでる風を装って先輩に相談しました。 どの先輩からも「もう全部先のこと決まってるじゃん、背中押してほしいだけでしょ」みたいな反応でした(爆)。 でも、それぐらい自分で詰める覚悟がないと、仮に一歩踏み出せたとしても その先で上手くいかなくなっちゃうと思います。 で、そういう詰めの作業が苦手な人にとっては、コーチングしてくれる人が大事なんでしょうね。 本作はシリーズ化はされてないのかな?これからなのかな? 続きが出るなら楽しみです。 ![]() |
『ローパフォーマー対応』
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- 2023/05/31(Wed) -
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秋本暢哉 『ローパフォーマー対応』(日本経済新聞出版社)、読了。
こちらも図書館本。 小室淑恵さんの超前向きなパフォーマンス向上策の本の次は、 ローパフォーマーをどのように再教育するかという守備的な本。 たまたまだけど、正しい順番で読めましたわ(苦笑)。 「ローパフォーマー」を、「業績が低く評価も低い人」と定義しています。 ただし、常識の通じないような問題児や、病気やメンタル面での問題を抱えて一時的に落ちている人は 対象に含まないという整理です。 つまりは、指導や教育、または環境を整えることで復活可能な人材という位置づけです。 前半の、そもそもローパフォーマーとは何か、どういうタイプに分類ができるのかという 整理考察のパートは興味深く読みました。 一方で、後半の「ではどうするか」については、具体性が乏しいというか、 まぁ、そこを担当することでお金を稼ぐ商売をしている人なのだから 「詳細は金払って雇ってね」という、この手の本にありがちな流れです(苦笑)。 まぁ、でも、ローパフォーマーの分類、および、どういう人をその定義内に入れて良いのか、 逆に入れてはいけないのかという前段整理を適切に行うことは、 この手の人事系課題に対処するには最も大事なプロセスだと思うので、勉強になりました。 ただ、結局、こういうローパフォーマーの復活のために金と時間をかけられる企業というのは 結局大企業でなければ難しいところであり、そういう対象者が一旦前線から外れても 業務を回せるだけの体力がある企業に限られちゃうのかなと。 中小企業で、部署にスタッフが5人しかいませんとか、そもそも全社員が5人しかいません、 みたいなサイズの企業だと、仕事を任せながら再教育していくというのは現実味がないかなぁと。 たぶん、ローパフォーマーには重要な仕事は任せず、他のスタッフで分担し合うとか、 その負担が一定ラインを越えちゃうと、周囲の過負荷なスタッフがローパフォーマーをいじめて 組織から追い出すような展開になっちゃうんじゃないかなと想像します。 人材育成っていうのは、ある程度、組織体制の余裕と、スタッフの心の余裕がないと 難しいですよねー。 ![]() |