『偽善系Ⅱ』
- 2018/06/23(Sat) -
日垣隆 『偽善系Ⅱ』(文藝春秋)、読了。

読みたい本リストにありました。
Ⅱしか記載してなかったので、1作目から読まなくて大丈夫かなぁと多少不安でしたが
ブックオフオンラインで購入。
論評とエッセイの詰め合わせだったので、全く問題なかったです。

さて、なんでこの本を読みたい本リストに入れたのだろうか?と思いながらの読書でしたが、
佐高信氏をズバズバ斬りまくる章に来て、あぁ、これを読みたかったのかな?と得心。
学生時代、ゼミの左がかった同級生は佐高信氏の本を乱読していましたが、
どうにも私にはピンとこず、批判の内容よりも、
ただ毒舌だけで人気を得ているのではなかろうかという気がしていました。

で、本作では、かなりのページ数を割いて佐高氏を批判していますが、
私自身、佐高氏の著作をあんまり読んでいないので
思い入れがないものを批判されても、批判自体もピンとこず、
結局、口の悪い者同士が罵り合っているだけの図のように見えてしまいました。

それよりも興味深かったのは、長野の冬季五輪招致にまつわるお金の疑惑と
長野県知事の長期政権がもたらした腐敗、そしてヤッシー登場の物語。
著者の本宅fが長野県にあるということで、地元民としての目線で斬り込んでいて
興味深かったです。

長野五輪の開催決定当時、私はまだ小学校6年生だか中学校1年生だかで、
当時の報道のことは全然記憶に残っていないのですが、
『ウッチャンナンチャンのやるならやらねば!』の中で
南原さんがサマランチ会長に扮して、金銭疑惑をネタにしたコントをやっていたのは
ヒジョーに記憶に残ってます。録画して何度も見返した記憶が。
当時は、政治ネタ、時事ネタも、露骨にコントで嗤える良い時代でしたよね~。

閑話休題。
私は、この長野県の章を、オリンピック誘致問題として見るのではなく、
県政における長期政権の弊害とはいかなるものかという糾弾レポートだと感じました。
長野県のお国柄みたいなものもあるのでしょうけれど、
行政が腐り、組織が腐る様が、冬季五輪という舞台で見事に露呈してしまったんだろうなと。

その状況を打破するために長野県民が選んだのがヤッシー知事だったわけですが、
その当時、大学生として遊んでいた私は、名刺事件とダム騒動ぐらいしか覚えてません。
結局、それらの騒動ってどうなったんでしたっけ?
彼の知事としての功績って、どういう評価なのでしょうかね?
一応、大学の先輩ではありますが、OB会での評判が芳しくなかったので、
当時もあまり情報が学生の間でも話題にならなかった印象が。

というわけで、本作では、いくつかのテーマに沿って
関係者をバサバサと斬っているわけですが、
なにぶん、時代が経ち過ぎていて、そのテーマに関心を呼び戻すのが大変でした。
著者による問題提起の内容は面白かったですけどね。

あと、後半のエッセイにおいて、
著者は買い物依存症ではないかと不安にあなってしまいました。
払うお金があるなら、経済底上げに寄与してると思うので、良いのですが・・・・・ちょっと怖い。


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日垣 隆

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『税金のしくみ』
- 2018/06/22(Fri) -
渡辺昌昭 『税金のしくみ』(日本実業出版社)、読了。

脱サラして、自分でいろいろ税務申告をしなければいけない身となり、
最初は申告書を見て「何をどうすればよいんだ~!?」と
チンプンカンプン状態でした。

が、節税するにはどうしたら良いかなどを考え始めたところ、
次第に、税制度の構造自体が面白いなと思うようになり、
ちょっと突っ込んで勉強してみようかなという気持ちになりました。

ただ、学生時代も、企業人時代も、
全くと言ってよいほど税務には関心がなかったので、
ゼロからのお勉強ということで、「入門の入門」という冠がついた
本作を手始めに読んでみました。

所得税から法人税、消費税、そして自動車税まで幅広に扱われています。
それぞれ、基本的なことだけに触れている広く浅く系ですが、
税務知識ゼロの私には、「なるほど、そういうことかぁ」と思う内容も多く、
非常に勉強になりました。

法人税と消費税は、ちゃんと勉強してみようという気持ちになりました。


入門の入門 税金のしくみ―見る・読む・わかる入門の入門 税金のしくみ―見る・読む・わかる
渡辺 昌昭

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『我が家の問題』
- 2018/06/21(Thu) -
奥田英朗 『我が家の問題』(集英社文庫)、読了。

様々な家庭に巻き起こった問題というか事件を描いた短編集。
主に、夫婦間の問題がテーマです。

どの作品も、比較的軽いタッチの文体なので、
「ど~んで~ん返し~」的なドタバタもあるのかな?と思ったのですが、
どれも物語は素直に進んでいきました。

そうなると、問題解決に重要なのは、当事者の心構え。
本作に登場する主人公は、みんな心がタフなんですよね。
問題に直面したり、問題の陰に気づいたときに、
多少の動揺はしますが、腹を括るまでが意外とスムーズなんです。
すぐに前向きに切り替えられるのが凄いなと。
女性の主人公が多かったですが、やっぱり女性は強いですね。

個人的に気になったのは「ハズバンド」。
夫の会社のソフトボール大会に参加してみたら、同僚に馬鹿にされている夫がいた。
これって、かなり衝撃の展開ですよね。
しかも、家に帰ってからフォローのしようがないという八方塞がりな事態。
こんな話を読んだことがなかったので新鮮だったのですが、
現実世界では、妻の前でだけ大きいこと言ってる旦那って居そうですね。

そういう八方塞がりな感じは「夫とUFO」もそう。
ある日、夫が「俺はUFOに守られている、交信もできている」なんて言い出した。
もう、イッちゃってます。
部屋の本棚にはUFO本ばかり。UFO研究会から郵便も届いてる。
帰宅時間に後を付けたら、河原で空に向かって手を広げてた。
こんなシチュエーションに直面したら、妻としてどうしたら良いか分からなくなっちゃいますよね。
追い込まれた妻の打開策が、解説者もAmazonのレビュワーさんも絶賛ですが、
私はあまり好みじゃなかったです。こちらもイッちゃってる感じで。
ある種、似たもの夫婦?

新婚夫婦が初めてのお盆休みに
夫の実家の札幌と妻の実家の名古屋に里帰りする顛末を描いた「里帰り」。
お互いの実家をディスり合うコメディにも出来たのに、
爽やか夫婦路線で行ったことが意外でしたが、面白かったです。
何より読後感が良かったです。
名古屋は、私の育った環境で最も大きい都会というか、
父は「名古屋はでかい田舎だ」と言いますが、名古屋文化の風刺も面白かったです。
さすが、岐阜出身の著者なだけあります。

どの物語も、人間の強さと前向きさを感じられる良い作品でした。


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『うちのネコが訴えられました』
- 2018/06/20(Wed) -
山田タロウ 『うちのネコが訴えられました』(角川書店)、読了。

Blogに掲載されたご近所さんトラブルを本にしたもの。
自分の高級車がお宅の飼いネコにより傷つけられたので修理代をよこせ・・・・という訴訟。
金額も100万円越えという、「いったいネコちゃん、何やっちゃったのよ~」というレベル。
事前に改善要請とかクレームの申し入れとかがなく、いきなり訴状郵送。
ちょっとヤバそうなご近所さん感が全開です。

しかも、著者曰く、「訴状の写真のネコは、うちのネコじゃない」ということ。
もう、何やってんだか分かりません。

原告の家が近所なので、話をつけに行ってくると息巻く家族を押しとどめ、
裁判所で決着つけることを決心したことで、このドタバタ劇がスタートします。

弁護士に相談したり、反論の書類を作ったりと、いろいろ準備して、
いざ裁判所に出頭してみると、相手は20代の若い男。

しかし、口頭弁論が始まると、相手の主張の無理筋感が露わに。
傷の原因がネコであることも、その猫が被告の飼いネコであることも立証できないような
推論ばかりを述べ立てて、裁判官と原告のやり取りが空転しています。

この原告ご本人登場で、「これは本当にヤバい人物なのではないか!?」と。
ご近所クレーマーだとか、訴訟オタクだとか、その手のヤバさではなくて、
常識的な考え方が通用しない、「どういう思考回路してるのかわからない系」の怖さ。
関わり合いたくない人物です。
近所にいたら避けて通りたい人物です。

前半は、「被告、こんなデタラメ裁判、蹴散らしてしまえ!」とワクワクしながら読んだのですが、
後半は、「こんな人を相手に本気で関わっちゃいけないよ・・・・」と引いてしまいました。

Blogをベースにしている本なので、すぐ読めてしまいますが、
読後感は、裁判でコテンパンにした爽快感よりも、
不気味な人間を目にしてしまったという、じとっとした感覚が残ってしまいました。

だって、被告完全勝訴の判決だったのに、「ボクの正当性は認められている」とのたまう原告。
この思考回路は怖いですよ。

どんな形であれ、関わってはいけない人物だと思います。

裁判費用とか、出廷の労力、裁判準備の労力など、
著者は無駄なコストを強いられることになりましたが、
Blogが読まれ、本も出せて、映画にもなって、
著者も案外、ウハウハなんじゃないですか(苦笑)。


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『魔女が語るグリム童話』
- 2018/06/19(Tue) -
池田香代子 『魔女が語るグリム童話』(宝島社文庫)、読了。

グリム童話のパロディ作品。
しかも、ただのパロディではなく、著者が結構前面に出てきて、
あーだこーだと毒のある解説や小ネタを挟んでいきます。
そのウィットが心地よいです。

グリム童話において、いじめられて可哀そうな主人公、
真面目に生きているのに報われない主人公など、
清純な人々がたくさん登場しますが、
実は、彼ら、彼女らの本音は・・・・・といったところが
毒々しく描かれていて面白かったです。

計算高かったり、演技をしていたり、
ある種、人間臭い主人公たちがたくさん登場してくるので
グリム童話よりも、本作の方が共感できるところもあります(笑)。

他にもこんな感じの本を出しているのかしら?と著者名で検索してみたら、
『世界がもし100人の村だったら』の著者だということで、
その作風の違いに驚きました。幅広い!

他の作品も要チェックですね。


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池田 香代子

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『ぼくのおじさん』
- 2018/06/17(Sun) -
北杜夫 『ぼくのおじさん』(新潮文庫)、読了。

児童文学なのかな?
9つの物語が収録されていますが、メインは表題作。

主人公のぼくの家に居候する30代独身のおじさん。
大学の先生ということですが、子供相手に適当なことを言ったり、
いたずらしたり、漫画を買うお金を出させたり、
まー、しょうもない男なんです(苦笑)。

ユーモアではあるのですが、あんまり親しみを持てないというか。
主人公の男の子が、文句を言いつつも意外と懐いているのが共感できず。
妹の冷たい態度の方が、はるかに分かりやすいです。

あとがきを読んだら、どうやら、著者自身が兄の家に居候していた時のことをベースに
この作品を編んだ模様。
その情報を事前に知ってたら、北杜夫さんをおじさん役にして頭の中で
シーンを描いたと思うので、もう少し笑って読めたかな。
残念。

ちょっと上手くノレない読書となってしまいました。


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『日光中宮祠事件』
- 2018/06/16(Sat) -
松本清張 『日光中宮祠事件』(角川書店)、読了。

短編集です。
殺人事件あり、歴史ものあり、日常生活を描いたものあり、
ちょっと雑多な感じがして読みづらかったです。

ただ、1つ1つの作品は、やっぱり、しっかりしてますね。

印象に残ったのは、「情死傍観」と「老春」。
どちらも、ある人物の日常を追った作品です。

「情死傍観」は、阿蘇の噴火口のそばで茶店を開く老人が主人公。
自殺のために訪れる人に声をかけ、思いとどめるように働きかけをしている人物。
今まで何百人という人を助けてきたのに、わざと見逃した男女がいた・・・・。

この作品は、短い中で、作中作、そしてその後日談という形で
ある手紙が開示されるという凝った作りになっていて、面白かったです。

「老春」は、介護が必要な高齢になったにもかかわらず、
身の回りの世話をしてくれる通いのお手伝いさんに気持ちが動くお爺さん。
お手伝いさんを独占したいのに、来客の部屋に入っていったとか、
隣家の工事のペンキ職人と仲良くしゃべっていたとか、とにかく嫉妬しまくり。

で、怒鳴り散らすだけなら良くある話かもしれませんが、
このご老人、老体に鞭打って、お手伝いさんの家に押しかけたり
相手の男のところに乗り込んでいったり、勇ましいんです。

そんな姿を、息子夫婦の醒めた視点で描いているのが
緩急のつけ方として面白かったです。
息子夫婦的には、かなり面倒になって放っている状態。
お爺ちゃんが事故にあったり、他人に危害を加えたり、家の恥になったり
するようなことさえしてくれなければ、放置しておこう・・・・・みたいな諦め。

他人から見れば、痴呆老人ということになるのでしょうけれど、
家族だからこそ、突き放すこともできず、でも時間を奪われ続けるのも困るという
難しい感覚が伝わってくる作品でした。

というわけで本作は、松本清張と聞いて思い浮かべるイメージとは
違ったところに惹かれました。


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『シューカツ!』
- 2018/06/15(Fri) -
石田衣良 『シューカツ!』(文春文庫)、読了。

大学生の就職活動を描いた作品。
主人公は高田馬場の鷲田大学に通う女子大生。
もろ早稲田ですね。

そして、彼女が仲間たちと狙うのは、マスコミへの就職。
もろ、早稲田ですね。

シューカツのノウハウもふんだんに盛り込んで、
ある種、ハウツーもの小説の王道のような展開でした。

マスコミ就職を目指す仲間7人でチームを作り、
試験の半年前からエントリーシート作成だのグループワーク訓練だのに
磨きをかけていきます。
このあたりの雰囲気も、非常に早稲田っぽい。
こういう実践的行動を、笑いながらも一生懸命やれてしまうところが
早稲田学生の強さかなという気がします。

肝心の面接や筆記試験については、
自分が就職活動をしていたころの記憶がリアルに蘇ってきました。
まだ、「シューカツ」なんで言葉はなかった時代ですが(苦笑)、
テレビ局の試験は私も受けました。
在京キー局はすぐにダメでしたが、在阪局は最終面接の1個前まで進みました。

それを思うと、この本に登場してくるチームメンバーは
みんな最初から数社しか受けない予定を組んでいて、
「えぅ、それだけしか受けないの!?」と驚いてしまいました。
私の周囲の「どうしてもテレビ局に行きたい!」という友人たちは、
東京、大阪、名古屋あたりまで受けに行ってましたし、
電博などの広告系も、制作会社も軒並み受けていた気がします。

最初から数社に絞ってるなんて、ちょっとリアリティないんじゃない?と思う一方、
早稲田のマスコミ志望の人っていうのは、ここまで絞り込むものなのかも・・・・とも
思えてしまい、何が本当の姿なのかわからなくなってきました。
ま、今となってはどうでもよいことなんですけどね。

シューカツ本としては何だかイマイチな気がしましたが、
主人公の女子大生の成長譚として読むなら面白かったです。
面接などの試験を通して、自分を見つめ直し、反省し、次に活かす、
失敗を引きずらない心のタフさは、見習わないとと思いました。

個人的に一番印象に残ったのは、
面接のシーンでも仲間たちと対策を講じるシーンでもなく、
ファミレスでのアルバイトのシーン。
問題児アルバイトが起こした顧客トラブルに際して、
パート従業員が見せた機転や、店長のフォローなど、勉強になるところが多かったです。

この女子大生を主人公にして、ファミレスのアルバイトを舞台にした方が
実は人生に役に立つお仕事小説ができたかも・・・・という気がします。


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『陸王』
- 2018/06/14(Thu) -
池井戸潤 『陸王』(集英社)、読了。

連続ドラマで放映してた時、両親が毎週一生懸命見てたので、
自分も実家に帰った時に3回ぐらい見ました。
なので、本作を読み始めた途端、役所広司さんや竹内涼真さんが頭の中で動き始めました。

ストーリーも、ところどころ、「あ、このシーン見た記憶がある」という感じで、
結構、原作に忠実に作られていたのかなという印象を受けました。

さて、本編ですが、さすがの池井戸作品ですね。
足袋メーカーという、誰がどう見ても斜陽産業真っただ中な業種において、
新規事業のランニングシューズ開発にかける物語。
従業員だけの内輪の話にとどまらず、
企業ランナー、ライバルシューズメーカー、メインバンク、素材メーカーなど
様々な利害関係者を巻き込んで物語が進んでいき、
非常にリアリティをもって読んでいくことができました。

機械化があまりできていない手作業主体の仕事とか、
ご高齢の従業員を束ねていく悩みとか、
仕入れ価格が即商品価格に跳ね返ってきてしまう原価構成とか、
歴史ばっかりあって強みが良く分からなくなってしまっている立ち位置とか、
自分自身の仕事環境と重なるところが多く、
宮沢社長の苦悩を存分に共有できてしまいました(苦笑)。

でも、こはぜ屋さん、人間関係に恵まれていますよね。
従業員の結束力の強さは素晴らしく、社内に問題児が居ません。
経理担当の専務がお金に厳しいことと、見習い中の社長の息子のやる気がイマイチなのは
ある種、織り込み済みというか、仕方がないよねーという感じです。

そして、銀行の担当者が熱意を持って支援しており、
社外にも協力者が集まってくるという幸運。
強力なライバルのアトランティス社は、嫌な奴勢ぞろいですが、
むしろ、それがチーム陸王の面々の打倒アトランティス!という
モチベーションアップに繋がっているような感じも受けます。

なので、現実世界で同じような境遇に置かれている社長さんにしてみたら、
「そんな上手くいくわけないじゃないか!」と言いたくなるのかもしれませんが、
でも、やっぱり、宮沢社長のハートの部分というは大事だなと思いました。
思いが道を開くんだろうなと。

思いという点では、時にその思いがブレてしまうところが、
逆にリアリティがあるように感じました。
初志貫徹で、とにかく陸王を完成させるんだ!の一点張りで突き進んでいたら
夢物語みたいで面白くなかっただろうなと思います。

そうではなく、宮沢社長は、「もうダメかもしれない」と逡巡したり、
時には「なぜ陸王を開発しているのか」という本質を見失ったり、
非常に人間臭い葛藤をしています。
そのあたりも、なんだか共感しちゃうんですよね。
時々、自分も、手段が目的化しちゃうときがあり、
「なんで、これを一生懸命やってるんだっけ?」と立ち止まってしまう時があります。

本作の舞台が、陸上の長距離という、
これまた人間臭い世界が舞台だったことも、
拍車をかけているように思いました。

ドラマでは最終回を見ていなかったので、
本作を読んで、スッキリしました。
陸王、ヒットするといいね、と祈ってしまう読後感でした。


陸王陸王
池井戸 潤

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『箱庭図書館』
- 2018/06/13(Wed) -
乙一 『箱庭図書館』(集英社文庫)、読了。

久々の乙一作品は、なんだか可愛らしいジャケット。
6つの作品が収録されていますが、
ところどころで、それぞれの作品の関連が語られ、
そして最後の「ホワイト・ステップ」で、見事に昇華!!

いやぁ、これは面白い短編集でした。
独立した作品としても「ホワイト・ステップ」は素晴らしい!

冒頭の「小説家の作り方」。
山里秀太が小説家になったのは、極度の活字中毒の姉の影響なのか、
それとも習作を毎回読んでくれた担任の先生のおかげなのか。
強烈なお姉ちゃんのキャラと、それに圧倒される弟という
微笑ましい展開だったのに、オチが乙一でした(苦笑)。

「コンビニ日和!」は、島中さんのキャラが良かったけど、
お話自体はコント過ぎててイマイチでした。

「青春絶縁体」、こちらも、小山先輩のキャラが秀逸。
ここまで活き活きした毒舌キャラは、なかなかお見掛けしません。
でも、それは文芸部の部室の中だけ。
教室に戻ると状況は一変して・・・・。
この冷酷な感じが乙一作品だと思いました。
でも、主人公、勇気あるなー。さすが、その後、出世するだけのことはあるわ。

「ワンダーランド」、これは、正直、きちんと読み通せなかったです。
電気の通っていない冷蔵庫に女性の死体を詰め込んで放置という
その状況自体があまり想像したくないという生理的嫌悪もありますが、
登場人物たちが、何を思って行動しているのかが共感できませんでした。
私の苦手な、精神がちょっとズレた人の世界。

「王国の旗」は、子供たちが大人に反旗を翻して、自分たちの世界を作ろうとする話。
でも、大々的に反抗するのではなく、夜中に家を忍び出て、夜明けごろには帰るという
隠密裏の行動です。
中学生の反抗物語はリアリティがあって大好きなのですが、
小学生の反抗物語は、やっぱりどこかファンタジーですね。
でも、物語が動いた終盤の彼らの判断は、大人びてて凄いなと思いました。

そしてそして、最後の「ホワイト・ステップ」です。
大雪が積もった正月。一人やることがない主人公が町をぶらぶらしていたら、
雪面に不思議な足跡を発見。
その足跡の持ち主の姿は見えず、どうやらパラレルワールドの住人の様子。
そして、足跡の持ち主と、雪面のメッセージを介した交流が始まる・・・・・。

まず設定が面白いな思ったのですが、
展開していく物語の内容にだんだんと引き込まれていきました。
片方の世界にいるのは大学院生独身彼女ナシの男、
もう片方の世界にいるのは片親だった母を交通事故で無くし祖父母に引き取られた女子高生。
この2人の交流を介して、別世界にいる自分の存在を意識するようになっていきます。
過去の一点において違う判断、違う行動をしたからこそ生じた「今」の違い。
これって、自分の身に置き換えて想像すると、結構、怖いことですよね。
「今の自分」として存在する可能性があった範囲の中で、
まさにこの自分はどこに位置づけられるのだろうかと。

雪が降り積もる日々は限られているわけで、
異世界との交流も、あと少し・・・・・そうなってからの展開が、さらにグッとくるものがあり、
切なくも、前向きになれる終わり方が、素敵でした。

これまでの5つの短編の中で残された謎というか
深く語られないままだったエピソードについても、この作品の中で真相がわかり、
全てが落ち着いていくような感覚になった作品でした。

いやぁ、面白かった!

あとがきで、著者が、これは読者からの小説作品の投稿を、著者が改作するという企画だったと
種明かしがありましたが、そんな企画を全く知らずに読んで、普通に楽しめました。
むしろ、企画のことを先に知らなくてよかったなと。
それを知ったら、技術的な面というか、どこが元ネタでどこが乙一氏の味付けなのか
そっちばっかり気になってただろうなと思います。

普通に読んで、素直に面白い作品でした。


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乙一

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