『歪曲報道』
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- 2021/01/18(Mon) -
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高山正之 『歪曲報道』(新潮文庫)、読了。
著者の辛口保守エッセイは、ちょっと私には毒が過ぎるのですが、 本作はタイトル通り「歪曲報道」に絞った話のようだったので、買ってみました。 「歪曲報道」と言いつつ、様々な指摘を受けているのは朝日新聞の記事が大半で、 ま、保守派論客によるいつもの朝日新聞バッシングでした。 著者は新聞記者出身ですから、一般的な保守論客とは違って、 記者の仕事の世界を分かったうえで朝日を批判しているので、そこは面白かったです。 ただ、批判している対象が、従軍慰安婦問題とか安部元首相のNHK圧力問題とか、 良く知られているものが多かったので、あんまり新鮮味がなかったという感じです。 でも、2021年の今は、「朝日新聞の報道姿勢」みたいなものが 広く一般に語られるようになってきたので、その批判を読むと食傷気味になってしまうのかもしれませんが、 発行時の2006年時点では、そこまで知られていなかったのかも。 そういう点では、保守派論客の功績なのかも知れませんね。 ところで、アメリカ大統領選挙に関して、不正選挙が行われただとか、 フェイクニュースが流されただとか、不正選挙についてきちんと報道されていないだとか、 報道というポイントについて喧々諤々の議論がなされており、興味深く見ていました。 しかし、最近の日本の保守派言論陣を見ていると、 「不正選挙で大統領が選ばれるなんて認められない、民主主義の正義を徹底的に主張しろ!」 という理念の主張はすごく共感できるのですが、その理念を飛び越えて 「トランプが大統領であるべきだ!」という願望が先走っていて、根拠不明のエールを送っているように 感じる場面も増えてきているように思え、ちょっと距離を置いて眺めています。 一部では保守内部で分裂のような喧嘩も勃発しているようですしね。 フェイクニュースについて解説してくれるのはありがたいのですが、 是非、ご自身の願望とは切り離して、事実での評価・分析をお願いしたいなと願い限りです。 まぁ、最後は、自分が情報の真偽を見極める能力を身に付けるしかないんですけどね。 ![]() |
『世田谷一家殺人事件』
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- 2021/01/15(Fri) -
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一橋文哉 『世田谷一家殺人事件』(角川文庫)、読了。
タイトルの事件は、八王子スーパーナンペイ事件と並んで、 未解決事件として有名ですよね。 ただ、事件発生時に私は大学生で、正直、あんまりこの手の事件に興味を持てなかったので、 一家4人が殺されたのは可哀そうだけど、なぜここまで何年たっても話題になるのかな・・・・と 疑問に思ってました。 スーパーの方は、「スーパー+拳銃+女子高校生」という組み合わせが衝撃的で、 こちらは世間が驚愕する理由はなんとなく納得できてました。 で、本作を見つけたので、読んでみました。 先日の年末で事件から20年だったんですね。 まず、事件そのものの発生状況が、一言で言ってしまうと気持ち悪い。 4人の殺害方法について、殺害するということ以外の目的(痛めつけるとか破壊するとか)が 見えてくるので純粋に怖いです。 そして、一家4人が全員亡くなっているので、この家庭の生活習慣を把握するのに手間取り、 家族の生活の痕跡なのか、犯人の犯行の痕跡なのかを見極めるのが大変だったという事実。 隣に実の姉と母親が住んでいても分からないものなのか、 人間の存在というのはそんなにも曖昧なものなのかと、 自分自身の存在の不確実性を思って怖くなりました。 著者は、独自の情報提供者をたどって犯人と思われる人物に迫っていきますが、 正直に思ったのは、「なんで著者はこんなに簡単に犯人と思える人に出会えるんだろう?」という疑問。 この事件だけを執念深く追っているのならともかく、著作リストを見ていると、 それなりに同時並行でいくつかの事件を追いかけているのではないかという気がしています。 なのに、犯人に出会えて、しかも話ができて、さらに事件の真相に迫る攻防をできてしまうことに うーん、どこまでが調査の結果で、どこからが創作が入ってるんだろう?と感じてしまいました。 前に読んだ本でも、真犯人と目される人に突撃してますしね。 途中から、事件の真相を知るというよりは、事件の真相をイメージした小説を読んでいるんだと 割り切ったら、読みものとして興味深く読めました。 韓国社会、軍人社会、宗教法人社会、様々な特殊な世界の文化が複雑に絡んでおり、 パズルのピースがはまっていく感覚があるので、「真相はこうなのかも!」と思えてきます。 動機についてもそれなりに腑に落ちるものが提起されていたので、 私は、本作に描かれたような社会に関係する人が犯人のような気がするけど、 本作で仮名によって描かれている人が本当に存在するのか、 それがそれぞれ1人の人間なのか、複数の人間の要素をまとめて描いたものなのか、 そこまでは判断できませんでした。 韓国に関わる宗教法人ということで、本作中には明言されていませんが、 ネットで検索すると、ずばっと書かれており、信仰の状況なども嘘かほんとか分かりませんが いろいろ書かれていました。 どの書き込みも、元ネタは本作のように思ったので、 本作が単独で唱えている説なのか、他のジャーナリストでもそう言っている人がいるのか そこまでは分かりませんでした。 いずれにしても、当時、捜査に関わった警察官の方々にとっては、 こんな本を出されてしまうのは忸怩たる思いでしょうね。 ![]() |
『漱石先生ぞな、もし』
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- 2021/01/13(Wed) -
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半藤一利 『漱石先生ぞな、もし』(文春文庫)、読了。
著者と漱石先生、なんとご親戚だそうで。 そういう身内の視点も絡めながらのユニークな漱石論です。 夏目漱石の作品は、結局、『吾輩は猫である』とか『坊ちゃん』とかユーモアのあるものを読んで、 重たい感じの作品は敬遠したまま今に至っています。 教科書で学んだ『こころ』が、私にはとてもヘビーに感じられて、 苦手意識を醸成してしまったような。 でも、日本一の文豪の作品は、日本人としていつかはきちんと読まないといけないですよね。 本作は、漱石の様々な作品の内容についても触れる機会が多いので もちろん作品をきちんと読み通していた方が楽しめるとは思いますが、 あまり知らなくても、ちゃんとあらすじや場面設定を解説しながら話を進めてくれるので 理解しながら読むことができます。 漱石作品を読み込んでの解説だけでなく、 漱石の日常を伝える本人の日記や周辺の人々の随筆などからも引用し、 漱石の作品と漱石本人とを重ね合わせるような分析も、立体的で面白かったです。 著者の義理の母が漱石の娘さんということで、 義母の口を通して語られる漱石像も興味深かったです。 引用された文章を読んでいるうちに、また『吾輩は猫である』を読みたくなっちゃったな。 ![]() |